バンドリカレンダー企画! ~みんなで繋ごう、ガルパの一年を~ 作:大里野上
代表作品は、紗夜のBはBitchのB!(https://syosetu.org/novel/193470/)でしょうか。
多くの代表作品がある作家さんですね。
春の訪れを今か今かと待ち望む日、春休み中の戸山香澄は愛用のギター、ランダムスターを背負って、市ヶ谷家の中にある蔵に向かっていた。
坂を上る瞬間が、門を潜る瞬間が、いつまでたっても香澄の鼓動を速めていた。
「香澄ー、おせーぞ」
「ごめんごめん」
「これでみんな揃ったね、んー、めっちゃおいしー」
「えーなにそれなにそれ!」
「コンビニの新作スイーツのメガ盛りチョコパフェ」
「メガ盛り……!」
「香澄ちゃん食べる?」
「食べる食べる~」
蔵の地下は音響設備も整った彼女たち専用の練習場となっており、同時に五人の、Poppin’Partyの憩いの場となっていた。
好物のチョコに舌鼓を打つ牛込りみ、それを優しく見守る山吹沙綾。
アンプには繋げずに椅子に座ってギターを弾く花園たえ、そしてこの部屋を提供している主である市ヶ谷有咲。
季節が変わり、学年が変わろうと変わらない、五人の絆がそこにはあった。
「……あ、そうだ」
「どーしたのおたえ」
「私、ポピパ辞める」
「ん?」
「は?」
「へ?」
「え?」
そしてその絆はあっという間に、たえのたった一言によって崩壊の危機に向かっていた。
──わけではなく、有咲がああそういうことかと納得の顔をした。続いて沙綾がほっと息を吐いて、びっくりしたぁと笑う。
「えええええ、どーして? どーしておたえ~!」
「おたえちゃ~ん、いやや、いかんといて~!」
だが全く気付く様子のない香澄とりみ、味をしめたようにアンプに繋いだ青いギターを鳴らし、まるで語りのように演奏しながら事情を語り始めていく。まぁまだ午前中だしな、と有咲は放置することを決め、沙綾を連れてお菓子とお茶を取りに上に上がっていった。
「この間街を歩いていたらさ、プロのヒトにスカウトされたんだ。花園たえさんですよねって」
「ええ!」
「すごいおたえちゃん!」
気付かない二人と鼻を天狗にしたたえだけを残して、話は進んでいく。
香澄は純粋にこれからデビューするであろうプロのギタリスト花園たえという想像図に思いを馳せていた。
「おたえはやっぱりすごいもんねぇ」
「でもでも、ポピパ、やめちゃうの?」
「あ、それだよ! 忘れてた!」
「うん。やっぱりアマチュアに所属してるのはまずいから」
いつもと変わらないトーンで会話をするたえに、りみは少しの寂しさを抱きながら聞いていた。春は新しい出会いの季節であると共に、別れの季節でもある。大好きだった姉がいない部屋には未だに慣れない中、りみはやっぱり嫌だなと素直な気持ちを伝えた。
「りみ」
「あっ、あのね、別におたえちゃんがプロになるのが嫌なわけじゃなくて、なんて言ったらいいのかな……上手く言えないんだけど」
「急だよ!」
「そう、急だから……あんまり気持ちの整理がつかなくて」
寂しそうに下を向いたりみに香澄が抱き着いた。引っ込み思案だったのに勇気を出してポピパに入ってくれたりみ。自分の気持ちを上手く言葉にすることのできない彼女の素直な気持ちに、香澄は感動したようで、瞳を潤ませた。
「そうだよね! 急すぎるもん!」
「かすみちゃん……」
「だからせめて、せめてお別れライブしよ? そうしたらりみりんも、私も……っ、やっぱ無理かも~」
丁度そこで、有咲と沙綾がお茶とジュースとお菓子を持って戻ってきた。有咲は入った瞬間にまだやってたのかと苦い顔をし、沙綾はいつも通りの笑顔で三人を、そこに呆れる有咲を含め四人を見守っていた。
「ライブ、いつにしよう? 早めにしないと」
「そうだよね、場所とか、決めないと」
「大丈夫、そんなに焦らなくても」
「ホント? どうして?」
「だって今日は四月一日だから」
「……ん?」
「……ふえ?」
たえの目線に釣られるように、蔵の壁に貼ってあったカレンダーにりみと香澄の視線が集まった。四月一日、そこに書かれているエイプリルフール、という言葉を二人は徐々に理解していき、まず最初に香澄が理解した。
「あー、なるほど~、エイプリルフールかぁ」
「そっか~」
「うん」
「ってウソなんだねっ!?」
「うん」
「最初から!?」
「もちろん」
たえは香澄だけでなくりみも鋭いツッコミをしたことに半ば感嘆し手を叩いていたが、香澄とりみに詰め寄られついにその表情を笑顔に崩した。
だから有咲と沙綾はちょっとリアクションが薄かったのかということに気づいた香澄は沙綾に抗議するために移動した。
「ゆってよー!」
「おたえ楽しそうだったし」
「ひどい! 私とりみりんは本気で信じたんだよ?」
「つか、エイプリルフール忘れてる方が信じらんねーし」
「ありさぁ~」
「ちょ、おま! 急に抱き着くなっつうの! やめろ!」
「あれもエイプリルフール?」
「いや、あれは照れてるだけでしょ」
「照れてねー!」
有咲の猛抗議を受け、ようやく香澄の機嫌が直ったらしく、よーしと気を改める。イベント事に出遅れてしまった香澄だったが、折角だから乗っかろうという算段を察した有咲が露骨に溜息をついた。今更何言われても驚かねーっつうのと立ち上がり、沙綾に手渡された緑茶を口につけた。
「実は──カレシができました!」
「ぶっ──! おま、マジか!?」
有咲、汚いとたえに文句を言われたが、そんなことよりコイツの問題発言の方が先だろと有咲は沙綾に詰め寄った。
だが見守る係でありながら時に悪乗りをしがちなカノジョは余裕ぶってた割に慌てる彼女に対して、求められたものとは逆の返事をした。
「そうそう、この間会ってちょっと話したよね」
「うん!」
「は?」
「感じのいいお兄さんだったなぁ」
小さな声の沙綾ちゃんちょっと願望入ってない? というりみのツッコミは完全に聴こえないフリをして、沙綾は香澄の嘘に悪乗りをする。
信じられないとでも言いたげに口を開けたり閉じたりする有咲を面白がりながら沙綾は香澄と即興のセッションを組んでいく。
「それがね~、楽器屋さんが初めての出逢いなんだ~」
「バンドやってる人なんだ。ああ、それっぽいかも?」
「うんうん、ギターも時々教えてもらってるんだ~」
そんな架空の惚気話にたえはあまり興味を惹かれないように、りみは少し呆れ気味に笑っていた。顔を赤くしたり青くしたり、めまぐるしく変わる有咲の顔を見ながら、沙綾の悪乗りはそこで終わりを告げた。
「……とまぁ、嘘なんだけど」
「はぁ!? ま、まぁわかってたけどなっ!」
「ホントに~?」
「だいたい香澄にそんなカレシとかできるわけねーしな!」
「でもこの間香澄ちゃんナンパされたよね」
「されたされたー! びっくりしたよね!」
「はぁ!? ナンパ?」
と、これは本当のことだったようで、たえも確かにと頷く。独りで徘徊してることも多い彼女も偶に声を掛けられることがあるようで、沙綾がさすがに心配そうにそれって大丈夫だったの? とリアクションをした。
「付き合ってるので! って言ってごまかしてきた!」
「りみりんと?」
「そう!」
おおーとたえが感心の声を上げ、よく相手も引き下がったね~と沙綾がほっとしたように微笑んだ。
そんなエイプリルフールではないナンパされたトークが始まってしまったところで、有咲が立ち上がった。
「さー練習練習っと」
「あー有咲ー?」
「お前らそんなダラダラしてると今度のライブでミスっても知らねーからなっ」
明らかに不機嫌になってしまった有咲を宥めるように、香澄が再び有咲に抱き着き、たえの有咲は外でないからナンパとかされないもんね、という発言を聴かれないようにりみと沙綾が手で口を抑えながら、また和やかになった雰囲気にほっと息を吐いた。
「ったく、お前なあ」
「ごめんごめん、有咲~」
「あはは、それじゃあ練習しよっか」
「今日は何からするの? 香澄ちゃん」
「私、クリスマスの歌」
「季節感!」
「エイプリルフールだよ」
「うっざ!」
「そういえばさ、エイプリルフールについた嘘ってその年中には叶わないらしいよ」
「えっ」
「え」
ここは市ヶ谷家の蔵の地下。今日も彼女たち五人組は、和やかに仲良く、そしていつもと変わらない日々を過ごしていくのだった。