バンドリカレンダー企画! ~みんなで繋ごう、ガルパの一年を~ 作:大里野上
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代表作: BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -(https://syosetu.org/novel/193530/)
私、
ええと、1年生の時に出会ったみんなと
それから、それから…
「…姉ちゃん、何変顔してんの?」
「うぇ!?…えっ、あ、凪くん??いつからいたの??」
「いつからって…「今日お出かけね!」って勝手に決めたの姉ちゃんでしょ?」
「……あ、あー!そうだったそうだったぁ!うん!!」
…いつから見られていたんだろう?
そういえば今日は
へへ、私も来年には受験とかしなきゃいけないわけだし、いつまで姉弟一緒に居られるかなんて分かんないもんね!!…本当は妹の
そんな訳で、弟の
凪くんに言ったらきっとまた笑われちゃうけど、それでも楽しいことはどんどん経験していかないとね。…人生は一度きりなんだし、面白いことも新しい発見も早く捕まえないと逃げちゃうかも知れないし…。
「…またボーッとして…。姉ちゃん、時間なくなっちゃうよ?」
「はっ!……ご、ごめんごめんー。すぐ出かけるから待ってて?ね?」
「もう…しょうがないな姉ちゃんは…。」
えへへ、何だかんだ言いつつも結局はちゃんと待っててくれる優しい弟。その長くも短くもない髪をサラサラっと撫で、もう一度今日の服装をチェックする。
……うん、バッチリだね。鞄の中身も昨日あっちゃんにチェックしてもらったし大丈夫でしょう!
「行こ!凪くん!!」
「はいはい……あ、待って鍵かけるから…。」
すっかり梅雨も明けて、この前までのジメジメした空気が嘘のよう!!七月の空は今日もカラッと晴れて、何だかそれだけでウキウキしてきちゃうよね。
思い返してみると、毎年私の誕生日は天気に恵まれていた気がする。今日みたいに空は何処までも青く、風は仄かに青緑色の香りで。
「あ、姉ちゃん!モールに行くんでしょ?そっちじゃなくて、こっちだってば。」
「えっへへ~そうでしたぁ。」
「ったく……で?何が見たいの??」
「えっとねぇ、雑貨屋さんでしょ?それに楽器屋さんと服屋さんと……あっ、フードコートも行かなきゃ!!」
「そのペースで全部挙げる気?……にしてもあっついな…。」
行きたいところも見て回りたいところも山ほどあるんだ。だって、凪くんが「明日の誕生日プレゼント何がいい?」なんて訊いてきたのって初めてなんだもん。
すっごく嬉しくって、一晩寝ずに色々考えたんだけど…結局、物なんか思いつかなかった。だから――
「いっぱい見て回ろうね!」
「……あー、うん。どこだって付き合うよ。…それが姉ちゃんのお願いなんでしょ?」
「うんっ!デートだよデート!」
「姉弟でデートって……まあいいか。」
――凪くんと一緒に過ごす時間をお願いしたんだ。
玄関を出た瞬間から始まっている素敵な"プレゼント"の前に、肌を焼く暑さなんて全然気にならなかった。
手を離さないようにしっかり繋ぎ、歩くこと40分弱。途中で何度もバスやタクシーに乗りたがる凪くんを差し置いて、ヘトヘトになりながらもショッピングモールに到着!
…ごめんね凪くん、帰りは楽に帰ろうね。…と心の中でだけ謝っておいて、早速入り口近くにあるペットショップから見て回ることにしたんだ。
「相変わらず無駄に元気だね姉ちゃん…。」
「えへへ、時間は有限っ!なんだよ。凪くん。」
文句を言うときはハッキリ言うけど、私のお願いには結局応えてくれる凪くんが…大好きなんだ。
…あっちゃんは、「ダメなものはダメ!」って怒るタイプだからなぁ。
「ふぁ~!生き返るぅ~!!」
「ごめんねぇ、いっぱい連れ回しちゃって…。」
お昼を少し過ぎたあたりのフードコートは人もまばらで、ゆっくり休憩するには持ってこいだった。すぐそこにあるスイーツの専門店で二人分のタピオカドリンクとクレープを買って、丸ーいテーブルで一休み。凪くんったら余程お腹が空いてたのか、あっという間に食べ終わっちゃったよ。
「これはこれで楽しいからいいよ。……うん、中々美味しかった。」
「凪くんはどれにしたんだっけ。」
「ええと…あれだ、バナナとチョコと、何かクリーム入ってるヤツ。」
「ふふっ、クリームは分かるなぁ。…ほっぺたにつけちゃってぇ。」
「え"…マジ??」
「はいはい、動かないでぇー。」
一気にかぶりつくからだよー…とは言わなかったけど、付いてきたおしぼりで口の周りを拭いてあげる。格好つけたり、大人ぶったりする子だけど、こういうところは可愛いんだから!
暫くそのまま拭かれていた凪くんだったけど、少しして照れ臭くなったのか私に質問をしてきた。
「姉ちゃんさ…本当に、一緒に見て回るだけでいいの?欲しいものとか、叶えたいこととか…ないの?」
「んー?……よし、綺麗になったね。……ええとね、楽しい時間とか嬉しい時間は大事な人と共有したいなって。」
「…。」
「だって、毎日毎週、毎月毎年!いっぱいいっぱいキラキラするようなことがあっても、それが一人きりだと寂しいでしょ?
私は…今日の、"誕生日"っていう特別な日を凪くんと一緒に過ごしたかったんだ。」
「そっか……。…家じゃ毎日会ってるのに、何だか変な感じだね。」
そう言って私の弟は小さく笑った。
「毎日…確かにそうだけどほら、お出かけとかは一緒じゃなかったでしょ??今月の最初の頃、海開きのときだってポピパの皆と海に行っただけだし、七夕のお祭りだってあっちゃんと二人だったし…あれ?」
あれ。どーしてだろ。
今の自分の言葉に引っ掛かりを覚える。…こんなに大好きな凪くんなのに、どうして今日まで、一つも思い出が無いんだろう。
どうしてこんなにも、"一緒に居たい"って強く思っちゃうんだろう。
「ねえ、凪くん…?私、今月さ」
「姉ちゃん!…もしかして、クレープだけでお腹いっぱいになっちゃった??」
「…えっ、あ。」
考え事をしながらも体は正直だったみたい。気付けば味わう暇もなく、右手に持っていたクレープは紙の筒だけとなり、左手のドリンクも氷水だけになっていて。…カララン…と涼しげな音を立てるプラスチック製の容器に、完食したことを教えてもらった気分になった。
目の前の弟に視線を戻すと、そわそわと落ち着きなく目を動かしながらも時々こっちに上目遣いを投げる。…そっか、育ち盛りに食べ盛りだもんねぇ。
「ご、ごめんね~。私、ちょっと考え事しちゃってたみたい~。」
「ねね、折角色んなお店があるんだしさ、食べ歩き…なんてどうかな??どーせ姉ちゃんいっぱい食べるでしょ?ねっ?」
私は馬鹿だ。目の前にこんなに可愛い君が居るのに…目の前にこんなに素敵な時間が流れているのに、考え事で時間を使うなんてもったいない!
今は大好きなこの子と一緒に、思い返してもドキドキしちゃうような思い出を作るのが一番だ。
「………。」
「…い、嫌だった??やっぱりお腹いっぱい??」
「えへへへへへ。凪くんは可愛いねぇ。」
「わ!…な、なんだよ急に…」
「なんでもなーい。揶揄っただけだよぉーだ!」
今を、楽しまなきゃ。
「食べ歩きもいいけど、こんなのはどうかな??私が右のお店から順に一品ずつ好きな物を注文して行くから、凪くんは左から同じようにしてー…」
「…それはまた、凄い量になりそうだけどね…。」
今日しかない、この時を。
「じゃあれっつごー!!」
「お、おー?」
今しかない、一瞬を。
「うへぇ…まだお腹が重いよ…。」
「姉ちゃん、僕の分まで食べてたしね…。」
「残すとか勿体無い事言うからでしょー!」
「あの後散々歩き回ったはずなのに全然消化できてないよ…」
「わたしもだぁ……えへへへ、でもほら、あっちゃんへのお土産も買ったし!!」
右手に提げてた買い物袋から、セットで買った髪飾りと櫛を出して見せる。星がいっぱい散りばめられている上に、豪華にラメを纏わせたキラキラのデザイン!…あげちゃうのが少し勿体無いくらい可愛いけど、だからこそあっちゃんに使ってもらいたいって思って。
一目見て「これだ!!」って決めちゃったんだよね。ラッピングのセットも自分でやる為に買ってきたし……うふふふふ、あっちゃんの反応が今から気になりますなぁ。
「…ほんっと、星好きだよね。」
「えっへへ~、大好きだよ~。凪くんとおんなじくらい好き~。」
すっかり日も落ちた満天の星空の下を、姉弟二人で苦しいお腹を引きずりながら歩く…。見ようによっては絵になる光景かもしれないね。
「……そりゃ光栄…なのかなぁ?」
「…??」
ポケットから軽快なメロディが鳴り響く。…あぁ、何かと思えば電話がかかってきてるんだ。…ディスプレイに表示された名前は、
「…さーやから??」
それは、ポピパのメンバーでドラム担当の
「姉ちゃん、出なよ。急ぎの用事だよきっと。」
「え?凪くん急にどうし」
「早く!!」
まるで豹変でもしてしまったかのように大声を出す凪くんに、若干怖さを感じつつも鳴り続けている着信音を止める。
「…あ、さーや?」
『香澄!!今、どこで何してんのっ!?』
電話の向こうから聴こえて来たのも焦ったような、それでいて切羽詰ったような沙綾の声。少し怒っているようにも聞こえるその声は、普段聞いたことないくらい冷静さを欠いていて。
つい驚いちゃって凪くんの方を見たけど、凪くんも凪くんで何だか怖い顔のまま考え事をしているようで…さっきまでとの空気の差に恐ろしくなった私はそのまま沙綾の話に耳を傾ける。
「い…今……お買い物で、外にいて…」
『早く!まずは家に…じゃない、病院に?…あでもお母さんもいるから…』
病院?……沙綾は何を言っているんだろう。私はどこも悪くないし、病院になんか用事ないよ??凪くんもここにいるし…
『香澄っ!!』
「……ッ!!」
急な展開に現実逃避を始めていた脳を、沙綾の一声が揺さぶった。同時にクリアになる視界と頭の中。
『明日香ちゃんが、事故に遭ったのっ!!!すぐに、○○病院に…』
夏の…満天の夜空。真っ黒なキャンバスにスパンコールを撒いたような幻想的な景色が印象に残る夜だった。
こんな時じゃなければ、皆で星を指していっぱいお喋り出来たかもしれないのに。「あれがデネブ…あれがベガ…あれが…」…なんて、最近覚えたての星の名前なんか披露してみたりして。…こんな時じゃなければ。
「どうしようどうしようどうしようどうしよう…あっちゃんが、事故?嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。だってそんな、朝は先輩と部活の用事って、でも用事の中で事故に、それで病院…病院、お母さんにすぐ電話、でも沙綾があっちゃんが…」
「……ごめん、姉ちゃん。」
どうしよう。あっちゃんがいなくなっちゃう。
私にとってたった一人の妹なのに。大切な家族なのに。
一人パニックになりながら蹲るしかできない私の耳に、弟の呟く声は届いていなかった。
「あっちゃん!!!!!」
どこをどう走ったのか。気づけば伝えられた病院、皆が集まっている待合室のようなところに辿り着いた。廊下を走ったこと、大声を出したこと、ドアを乱暴に扱ったことで注意は受けたけどそんなことはどうでもいい。
集まっていたのは沙綾と
…やめてよ皆、「心配ないよ」って言ってよ…気を付けないとって笑ってよ…。
「…香澄。」
「お母さん…あっちゃんは…」
力なく呼びかける声にお母さんを見ると頬に何本もの濡れた筋を付けたまま、震える指で向かいの大きなガラス窓を指した。早く安否が知りたい気持ちと、見たくない、知りたくないという気持ちが心の中でぶつかり合う中…私の足は勝手に前を目指しやがてその大きな窓の前に立ってしまった。
「―――ッ」
ドクン、ドクン。自分の心臓の音がやけにはっきりと聞こえてきて、肩が、胸が苦しくなる。冷たい汗が背中を濡らして、膝はガクガクと震えだし、目も喉も口の中も全てが乾いていくような感覚を覚えた。
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。…そう信じたかった。
それでも、私は見てしまった。真っ白な空間の中、物々しい機械や管に繋がれてピクリとも動かずに横たわる
「ぁ………ぁあ……ッ!」
…崩れ落ちる体を、何か柔らかいものが支えた。同時にふわりと香る甘い匂いと暖かさ。
「…香澄、その…私らは香澄の母さんに行き先を知らないか訊かれて…それで、沙綾と私二人であちこち探し回って……それで…」
「ねぇ有咲。……どうして、こんなことになっちゃったの。」
抱えてくれた有咲に訊いたところでどうもならないことは分かっていた。それでも、その温もりをただ受け続けるだけじゃ泣いてしまいそうで、壊れてしまいそうで…。
「あの……明日香ちゃんは、部活の先輩方と買い物に行っていたみたいで…。」
「買い…物?」
「えと………その、戸山さん、今日……誕生日、なんですよね…?」
近づいてきたロックが、真っ青な手で渡してくれた土に汚れた小さな紙袋。…元はきっと綺麗で優しい手触りの紙袋だったと思う、けど…それは確かに、乱雑に投げ出されたことを物語るように汚れてしまっていた。
私への…プレゼントなんか、買いに行かなければ…私が誕生日じゃなければ…
「……ぁ。」
紙袋から転がり出てきたのはどこかで見たことあるような……髪飾りと櫛のセット。星がいっぱい散りばめられてて、ラメをあしらった素敵な…
「ぅぅぅうう……あっ…ちゃん……ッ!」
紙袋を渡してくれたロックも泣いている。見渡せば沙綾も、有咲も泣いていた。
……あっちゃん、どうか早く元気に…。
「……香澄。」
「……ぅ?」
でも、神様なんかきっと居なくて。
「………さっき、お医者様からお話があってね。」
ただひとり、泣いていないお母さんからの言葉は低く静かで、染み入る様に。
「……明日香ね、もう目を覚まさないかもしれないって。」
私は、私が生まれてきたことを、呪った。
…お母さんの話だと、明日香達が乗っていたバスに真正面から飲酒運転の2トントラックがぶつかって、窓から投げ出された形になったって。
ただ奇跡的に土の上に投げ出されたおかげで目立った外傷はなくて、頭を強く打っただけだって。…そのせいで、もう目が覚めないか、覚めても重い障害が残るらしくて。
それだけでもどうしていいかわからないのに、それを淡々と無表情のまま話すお母さんが怖くなって…気付いたら病院を飛び出していた。飛び出して駐車場を駆け抜けてそれで…
…病院の敷地の隅、庭のように草花が生い茂っている辺りに、彼は立っていた。
「……姉ちゃん。」
「……ずっとどこに行ってたの。あっちゃんが大変なんだよっ!?」
「知ってるよ。」
彼は空を、星を見上げたまま続ける。
「…知ってる…って?」
「言葉通りの意味。……今日明日香ちゃんが事故に遭うことも、目を覚まさなくなることも全部知ってたんだ。…だからさっき一応謝ったんだけど…聞こえてなかった?」
「…何…それ…。」
知ってたってどういうこと。全部知っていたなら、朝あっちゃんを引き止めるとか、私に教えてくれるとか、もっと出来る事もあったはずじゃん…。
それをどうして見て見ぬふりをするような真似を…
「…姉ちゃんの考えてること、わかるよ。」
「ならどうして」
「ダメなんだ。…僕がどんな手を使おうと、必ず起きるとされている事象は回避できない。…それがこの宇宙の
「意味わかんない…宇宙?ことわり??それがあっちゃんにどう関係するの?」
彼はまだ空を見上げたままだ。
「姉ちゃん、僕の名前、わかるよね。」
「当たり前でしょ…っていうか、話そらさないでっ!」
「逸らしてないさ。…わかるんなら言ってみてよ、名前。」
「名前………あれ?」
当たり前のようにさっきまで呼んでいた名前。大好きだったはずの弟の……
「あれ?私、弟……あれれ??」
「…やっぱり、そうだよね。病院の中について行かなかったのにはこういう理由もあってね。」
やっと顔をこちらに向けた彼は、「もう僕の姿は誰にも見えないから」と寂しそうに笑って続けた。私に弟は
「あなたは…何者なの??」
今日のことを知ってると言ったり姿が見えないと言ったり、絶対普通の人じゃないと思う。
あっちゃんのこともあって、半ばヤケクソになりながら彼の正体を探ることにした。
「んー……そうだね、ここまで来たら隠す必要はないかな。」
「…??」
「僕との一番古い記憶は?」
「えと……海開きで民宿に泊まった時は居なかったし、七夕祭りにも一緒じゃなかったよね…。七夕祭りで彦星様が急に見えなくなったって話もポピパのみんなにしかしてないし……あ、あれ??でも10日の山開きのニュースを見てた時は、「山なんか行かないじゃんか…」って馬鹿にしてきたよね!?」
そうだ…。ちょっとだけ思い出した気がする。
今日まで色んな経験をしてきた私だけど、どの思い出にも彼は
「…ん、中々の記憶力だね。…そう、僕が君に初めて接触したのは七夕の夜で、
「そんな…でも急に家族が増えたんじゃ、あっちゃんもお母さんもおかしいなって思うんじゃないの?」
「そこはまあ、僕らって何でもありだから…。」
肩を竦めて薄く笑う姿に、心なしかちょっとイラっとした。…あっちゃんが大変だっていうのに、なんで笑えるんだろう。仮にも、一時とは言え、家族だった筈なのに。
「…ああごめん、明日香ちゃんが大変な時に…。…でも、姉ちゃんは気持ちが全部顔に出るから、僕も素直になりすぎちゃうんだよなぁ。」
「……どーゆー意味。」
「素直で大好きってことさ。…僕もね、人間として過ごしたのは初めてだったけど、姉ちゃんの弟になれて本当に良かったと思ってる。…短い間だったけど、毎日純粋に幸せで…ずっと
「人間……って、じゃああなたは」
「大好きな姉ちゃんに、どうしても渡したいプレゼントがあるんだ。…物、ではないけれど、大切な姉ちゃんの為に、渡したい。」
さっきとは打って変わって俯いてしまった彼はそう言いながら両手を擦り合わせる…と、少しずつだけど、彼の体が薄ぼんやりと光りだすのがわかった。よくよく目を凝らして見てみると足も地面から離れているように見えるし…。
それでも、遠くの街灯しか明かりのない暗い土の上でぼんやり光る姿は、まるでお星様みたいで、ついつい目が離せなくなるようで。
「誕生日プレゼントは一緒に過ごすことだって…いったでしょ…?」
「…んーん。ごめんね姉ちゃん…僕にはそれを叶えてあげることはできない。…だって、」
一瞬の出来事だった。彼が顔を上げたかと思うと辺り一面を物凄く眩しい光と甲高い音が包んだ。キラキラとかそういう次元じゃなくて、ビカビカ!ギンギン!って感じの。
目も開けられず、立っていることもできなくて思わず尻餅を着いた私に…声が、聞こえた気がした。
「……な……ぎ…くん…」
「なぎ……くん……っ」
「凪く…ん…!!」
「…な…凪くんっ!!」
耳元で囁かれたのか、頭の中に直接響いたのか。ひどい耳鳴りのような音の中でもはっきりと聞こえた声を頼りに、大好きな
あの時より少しキツくなった気がする、暑い日差し。真夏の訪れがすぐそこまで迫っていることを予感させるような陽光がアスファルトと私たち姉妹を照りつける。
あっちゃんが事故に遭ったあの日、耐え切れず飛び出した病院の庭で何だか不思議な経験をした気がするんだ。多分泣き疲れて眠っちゃったんだと思うんだけど、凄く懐かしくて、凄く悲しい夢を見た…ような。…うん、もう全然思い出せないけど。
「…お姉ちゃん?考え事?」
「…えっ?…あ、ううん。ちょっと…ね。」
「ふーん、変なの。」
車椅子に座るあっちゃんは相変わらず素っ気無い態度だけど、それでもこの夏の空気が嬉しいんだろう。気のせいか、口角?がいつもより上がってる気がする。
真っ白なワンピースに白い麦わら帽がすっごく可愛くって、病室を出る前にも出たあとにもいっぱい写真を撮っちゃった。それに、お揃いでつけている星柄の髪飾りもとってもゴキゲンだし、車椅子を押す手にもついつい力が入っちゃうってもんです!
「わわっ…!…ちょっとお姉ちゃん、危ないよー。」
「えっへへ~、ごめんごめーん。何だか嬉しくなっちゃって~。」
「もー…気をつけてよねー。」
あの夜、皆が外まで私を探しに出てきてくれたのはあっちゃんが急に目を覚ましたからで、それを聞いたときは土だらけのまま大泣きしちゃったっけ。心配されていた後遺症や障害も残ることはなくて、お医者さんも奇跡だって驚いてた。
その後も順調に体力が戻ってきて、丁度海の日の辺りには退院出来そうだって!昨日からこうして敷地内を車椅子で動き回る許可ももらえたし、…奇跡もそうだけど、あっちゃんの元気も中々のもんだよね。
「えへへ。…ねえ、あっちゃん。私凄く引っかかってることがあるんだけどね。」
「んー…?…あ、朝顔だ。…入院してる子の鉢かなぁ。」
「ホントだねぇ。…私たちって、二人姉妹だよね?ずっと。」
「当たり前でしょー?…お姉ちゃんも頭ぶつけたの?」
「ぶつけてないよっ!……ただ、何となくね。…覚えがあるっていうか。」
「ふーん……?…変なお姉ちゃん。…あ、変といえば、朝のニュースでやってたんだけどさ?…なんか、"夏の大三角形"が"夏の一直線"になったとかで…」
ピンクと紫の朝顔。その花びらを優しくなぞりながら、今日の朝に見たらしいニュースについて楽しそうに話し出すあっちゃん。
…一方私は、何か大切なものを見失ってしまったような…在るはずのものを忘れてしまっているような、そんなモヤモヤした気持ちがずっと晴れなくって。あの日から、何か物足りない毎日を過ごしていたんだけど、それが何なのか全然わからない。
「…え?」
私たちの後ろ、花壇と花壇の間にジョウロを持って一生懸命に立っている…薄い青緑の長くも短くもない髪の男の子。私たちがイタズラしてると思ったのかな。一生懸命に勇気を振り絞って声をかけたのか、顔は真剣そのものだけど足はぷるぷる震えている。
その様子が何だかひどく懐かしくて、とても愛しく思えて…くすっと笑いがこぼれてきちゃう。
「ふふっ、ごめんね。…別にイタズラしてたわけじゃないから安心してね?」
「…ほんと?」
「ほんとだよ。綺麗な朝顔だな~って、ついつい撫でたくなっちゃっただけなの。」
気持ちが伝わったのか、おずおずと近づいてくる男の子。それほど大きくないジョウロには半分位の水が注がれていて、この子があんまり丈夫じゃないことが窺い知れた。「手伝う?」って訊いたけど、「僕がやる」…だって。可愛いんだぁ。
「…朝顔、好きなの?」
「そーゆー訳じゃないけど…学校の宿題なんだ。夏休みの。」
「え…まだ早くない?」
「僕、入院することになっちゃったからさ。…少し早く宿題始めてんの。」
「…ぁ………そっか。偉いねぇ…えっと」
暫く朝顔のお世話を見ながらおしゃべりしてたっていうのに、そういえば名前を聞いてないことに気づいた。「君」とか「ねえ」なんて呼んでたから不自由はなかったけど、もしかしたらあっちゃんの退院までに何度か会うかも知れないしね。
「あ、名前はね…」
「あっ…!」
庭の入口、駐車場との境の辺りから恐らくこの子を呼びに来たんだろう人は、私もよく知る人だった。視線が合って、思わず間抜けな声が出ちゃったけど、その人は不思議そうな顔で近づいてきた。
「…戸山さん??…何故
「あ、ええと、私は、妹が入院しているので。」
「…は、はじめまして。私、戸山明日香といいます。…いつも姉が、お世話になってます。」
「これはどうもご丁寧に。私は氷川紗夜…そしてこの子は
「わかったよ紗夜ねぇ。…ええと、氷川凪です。お姉ちゃん達いっぱいおしゃべりしてくれてありがとう!」
「…凪……くん?」
何だろう、その名前は聞き覚えがある。それもすごく近くで聞いたような…胸が切なくざわつく名前。
そしてなにより…
「紗夜さん、弟さんが居たんですか??」
「??…ええ、紹介はしていなかったけれどね。…少し体が弱いせいで、度々検査入院しなくちゃいけないのよ。」
紗夜さんと言えば、双子の妹さんが居るのは知っていたけど、それ以外に弟妹がいるなんて聞いたことがない。もう結構長い付き合いだと思ったけど、どうして今まで…。
「…………。」
「戸山さん?…どうしたのかしら、そんなに怖い顔して。」
「…いえ、大丈夫です。……それじゃ、凪君?お姉ちゃんと仲良くね?…ばいばい!」
あれれ。どうして『仲良く』なんて言ったんだろう。言うまでもなく仲良さそうな姉弟なのに、その関係に
よくわからないけど、可愛い子だったな。素直で、元気で、一生懸命で。…すっごくいい子。
「うんっ!姉ちゃんたちも、仲良くね!!…ばいばい!!!」
「――ッ…」
凪君と紗夜さんは仲良く庭を去っていく。しっかりと離れないように手を繋いで、楽しそうに同じ時間を歩いていく。
…微かな感覚だけど、その後ろ姿に思い出すものがあった。
私にも確かにその時があった。「姉ちゃん」って、あの子みたいに元気に呼んでくれる子が在った。同じ時間を、同じ地面を歩いていく彼が或った。
例えそれが夢だとしても、例え世界が忘れても。大好きな、弟があった。
「………凪…くん…っ。」
いつの間にか濡れた頬を撫でる風はあの日と同じ青緑色の香りで、空は何処までも青く澄んでいた。
「……お姉ちゃん。これから、もっと暑くなるよね。」
「……うん。」
「……夏休みだもんね。…二人でお出かけとか、しよっか。」
「……うん。」
「……お買い物とか、星を見に行くのもいいよね。」
「……うん。」
「……お姉ちゃん。…ずっと、一緒に居るからね。」
「…………う…ぐすっ……うん…。」
私がいたのはきっと、一つの不思議な夢の中。
あったかもしれない、確かな可能性の中。
とっても優しくて、とってもとっても切ない、
――私たちの夏はここから始まる。