バンドリカレンダー企画! ~みんなで繋ごう、ガルパの一年を~ 作:大里野上
この作品が初めてということです!
真夏の夜空に一発の花火が上がり、この町で珍しい中規模の花火大会が始まった。
夜空を彩る刹那の花、そんな暗闇の中に一番最初に咲いたのは、目を細めてしまうほど眩しい光の大輪だった。
打ち上げ会場から離れているマンションのベランダにいても、その明るさと身体の芯に響く音はしっかりと重く響いてくる。
夜になっても残ったままの蒸し暑さを、情けのように吹いている風が和らげていた。
だけどその風向きの具合で、火薬の匂いが鼻につくのが少しだけ切なかった。
息をすると喉が焼けるように痛くなって、少しだけ視界のピントが合わなくなってしまった。
たまにの休息を挟みながらも、鮮やかな大輪の花火は次々打ち上がっていく。
赤、青、黄、緑、紫。
様々な色で彩られた大小様々な花や、ユニークな模様。
単発だったり、連続だったり、観客を喜ばせる絶妙なタイミングで空を何度も何度も明るく照らし叫ぶ音。
だけど、どの光も、所詮はすぐに散っていった。
当たり前だけど、あの綺麗な花なんて一時の楽しみでしかない。
今さっき見たものとまったく同じものなんて、きっと夜空には上がらないのだろう。
どれだけ花火職人が精密に同じものを作って打ち上げたとしても、それは別物でしかない。
その瞬間に見たものは、一度きりの一つでしかないのだから。
でも、だからこそ人は惹かれるのだろう。
儚さに秘められた魅力というのは、恐ろしいほど人の心に残り、揺さぶってくるものだ。
アタシの心も、確実に揺さぶられていた気がした……あの頃の夏。
今にも散ってしまいそうな儚く遠い記憶に、触れてしまいたくなる。
大事に守って、自分の中に残しておきたくなる。
こんなにも愛しさで満ちてるんだから。
でも、もうそんなのは無意味なことだった。
これ以上先の見えない未来のために、縋りつく意味なんてない。
すべてを捧げたのに何一つ変えられなかった日々を、やり直せるわけでもないのだから。
守ろうとするたび、捨てようとするたび、アタシはただ、苦しくなる。
だから、揺らがないで……決意したこと。
5階立てのマンションの周りには視界を邪魔するような高い建物などもなく、最上階の部屋からは打ち上がる花火を存分に味わうことが出来た。
ベランダに出ていれば色も音も匂いもはっきりと感じられるので、臨場感が溢れている。
それでも、やっぱり打ち上げ会場の近くで見たかった。
間近で見る迫力満点の花火に歓声を上げながら、キミが隣にいることを幸せだと感じて笑いたかった。
屋台で買った食べ物を二人で分けあって、堂々と手を繋いで歩きたかった。
こんな、今では幻のような願望も去年は確かに実現していたのにね。
キミがアタシと過ごすことを唯一優先してくれた、夢のような夏の日の記憶。
今ではもう、触れたら苦しくなる儚い思い出。
あのとき、キミは夢を見せてくれた。
全てを捨ててもいいと誓ったアタシには、もったいないぐらいの幸せだった。
キミの奏でるギターの音は紗夜と違ってデタラメだったけど、なんかいいなって思えたんだ。
キミのその無邪気な笑顔はあこには負けるけど、それでもたまらなく好きだったんだ。
キミのくれたお守りは燐子のように綺麗に作られてはいないけど、気持ちは伝わってきたよ。
キミが傍にいることは、友希那とはまた違う居心地の良さをくれたんだよ。
だけど、無残な時の流れを知ってしまった今なら思う。
あんな些細で中途半端な夢なんて、見せてくれなくてよかった。
先のないような関係のアタシ達に、一時の幸せも夢なんていらない。
得られるはずのないものをわがままで望んでしまうから、心を揺さぶるものなんて残してほしくなかった。
それがある限り、アタシはすべてをキミに捧げようとしてしまうから……
花火を見始めて、どのくらいの時間が経ったのだろう、手元に時計が無いから分からない。
たくさんの花火を見たから結構経ったような気もするけど、本当に時間は進んでいるのかもしれない。
だって、この部屋に入った時から握り締めたままの鍵が、すっかり手の中で温かくなっているぐらいだから。