「なんとういうか、インパクトのあるファーストコンタクトを、しちゃったみたいですね」
「……その、天道先輩って、いつも、誰に対しても、あんな感じなんですか?」
「うん。でも、悪い人じゃないですよ? 自分の見方を、はっきり言っちゃう人ってだけですから。それに、あの人が他の人の作品について言ってくれる感想や評価って、すごく理屈がきちんとしていて、参考になるんですよ」
「……そういえば、あの人自身は、どんなものを書いてくるんですか?」
「なにも」
小島さんは、首を振った。
「なにも?」
「私は、ここに来てから、あの人の書いた作品を、一度も見せてもらってない。先輩に聞きましたけど、入部してから、まだ一度も、天道先輩は作品を書いていないそうですよ」
「……なんか、それは、ちょっとずるいような。あんなに人には言っておいて」
「まあ、そう思っちゃいますよね」
「なんで、なんでしょう? プロとして、デビューした人なのに」
「そのプロとしての作品のことが、自分の作品のことが、嫌いみたいですからね」
そのことが、俺にとってはあるいは、一番信じられなくてショッキングな出来事かもしれなかった。
自分が書いた作品が、世の中でたくさん売れたのに、その作品を作者本人が嫌っていること。
俺自身が、かつては大好きだったシリーズが、それを書いた当人によって「駄文」とまで言われたこと。
そして俺は思い至った。何故「紅のソルジャー」が、未完結のままシリーズが途絶えているのか、その理由が。
「嫌いになったから、書くのをやめちゃったのでしょうか。紅のソルジャーを」
「そういうことだと思います。多分、それ以来、天道先輩は、何も書けないスランプに陥っている」
「スランプ……」
プロになるほどの人でも、そんなことに、なってしまうことが、あるというのか。
小説を書き続けるということは、そんなにも、難しいことだというのか。
「ちょっと、自信、失っちゃったかもしれません」
「天道先輩に、言われたことで、ですか?」
「それもありますけど」
そう、もちろん、それもある。
あの人が、俺の初めて書いた小説に対して下した評価は、適切だった。
俺には、俺にしか書けないようなオリジナリティなんて、何もない。
そんな自分が、小説を書き続けることなんて、出来るとは思えなかった。
「小島さんは、多分、俺のことを、高く評価しすぎなんだと思います」
「そう思いますか?」
「ええ」
小島さんは、黙りこんだ。俺も、黙った。
午後の光が、窓から差し込む、文芸部の部室で、俺と小島さんは、座って、無言でいた。
しばらく、沈黙が流れて後に、小島さんは、言った。
「水のことを、書かれたらいかがでしょうか?」
「え?」
思わぬ単語に、俺は耳を疑った。
「生君が、普段感じている、水に対する恐怖を、文章にしてみたらどうでしょうか。それなら、少なくとも、他の人には書けない、生君だけのオリジナリティが、あると思います。もちろん、」
ちらりと、小島さんは、俺を心配そうに見た。
「生君にとって、嫌なことを書くわけですから、……すいません、やはり、ひどいですよね」
俺は、考え込んだ。