水に食ワレル   作:場理瑠都

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第10話

「なんとういうか、インパクトのあるファーストコンタクトを、しちゃったみたいですね」

「……その、天道先輩って、いつも、誰に対しても、あんな感じなんですか?」

「うん。でも、悪い人じゃないですよ? 自分の見方を、はっきり言っちゃう人ってだけですから。それに、あの人が他の人の作品について言ってくれる感想や評価って、すごく理屈がきちんとしていて、参考になるんですよ」

「……そういえば、あの人自身は、どんなものを書いてくるんですか?」

「なにも」

 小島さんは、首を振った。

「なにも?」

「私は、ここに来てから、あの人の書いた作品を、一度も見せてもらってない。先輩に聞きましたけど、入部してから、まだ一度も、天道先輩は作品を書いていないそうですよ」

「……なんか、それは、ちょっとずるいような。あんなに人には言っておいて」

「まあ、そう思っちゃいますよね」

「なんで、なんでしょう? プロとして、デビューした人なのに」

「そのプロとしての作品のことが、自分の作品のことが、嫌いみたいですからね」

 そのことが、俺にとってはあるいは、一番信じられなくてショッキングな出来事かもしれなかった。

 自分が書いた作品が、世の中でたくさん売れたのに、その作品を作者本人が嫌っていること。

 俺自身が、かつては大好きだったシリーズが、それを書いた当人によって「駄文」とまで言われたこと。

 そして俺は思い至った。何故「紅のソルジャー」が、未完結のままシリーズが途絶えているのか、その理由が。

「嫌いになったから、書くのをやめちゃったのでしょうか。紅のソルジャーを」

「そういうことだと思います。多分、それ以来、天道先輩は、何も書けないスランプに陥っている」

「スランプ……」

 プロになるほどの人でも、そんなことに、なってしまうことが、あるというのか。

 小説を書き続けるということは、そんなにも、難しいことだというのか。

「ちょっと、自信、失っちゃったかもしれません」

「天道先輩に、言われたことで、ですか?」

「それもありますけど」

 そう、もちろん、それもある。

 あの人が、俺の初めて書いた小説に対して下した評価は、適切だった。

 俺には、俺にしか書けないようなオリジナリティなんて、何もない。

 そんな自分が、小説を書き続けることなんて、出来るとは思えなかった。

「小島さんは、多分、俺のことを、高く評価しすぎなんだと思います」

「そう思いますか?」

「ええ」

 小島さんは、黙りこんだ。俺も、黙った。

 午後の光が、窓から差し込む、文芸部の部室で、俺と小島さんは、座って、無言でいた。

 しばらく、沈黙が流れて後に、小島さんは、言った。

「水のことを、書かれたらいかがでしょうか?」

「え?」

 思わぬ単語に、俺は耳を疑った。

「生君が、普段感じている、水に対する恐怖を、文章にしてみたらどうでしょうか。それなら、少なくとも、他の人には書けない、生君だけのオリジナリティが、あると思います。もちろん、」

 ちらりと、小島さんは、俺を心配そうに見た。

「生君にとって、嫌なことを書くわけですから、……すいません、やはり、ひどいですよね」

 俺は、考え込んだ。

 

 

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