水に食ワレル   作:場理瑠都

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第6話

 死を想え                        火宅遊

 

 学校からの帰り道に、人がたくさん集まっている光景に、遭遇した。

 車の上に乗って、拡声器を手に持って、何かを叫んで訴えている男性の周りに、人が大勢、集まっていた。

 選挙運動だろうか。最初、私はそう思った。

 でも、この街で選挙が行われるなんて、私は聞いてなかった。

 好奇心に駆られて、私はその声に耳を傾け、その人を囲む人の輪に引き寄せられていった。

 私のような高校生。

 小学生。

 お年寄り。

 サラリーマン、OL。

 買い物帰りと思しき人。

 いろんな人たちが、彼の周りに立っていた。

「皆さん!」

 男性は、拡声器を通して、声を張り上げた。

「私はこれから、皆さんに対して、重大な、恐るべき真実を、告げようとしています! どうか皆さん、よく聞いてください! 私たちは、死ぬのです! みんな、死ぬのです!」

 叫んで疲れたのか、男性は、息をぜいぜいと切らした。

 男性が途切れたのと入れ替えに。

 あたりに、どっ、と、嘲笑が、沸き上がった。

 みんな、笑っていた。

 小学生も。

 お年寄りも。

 サラリーマンも、OLも。

 買い物帰りと思しき人も。

 私以外、みんな、笑っていた。

「どうして、みんな、笑っているですか!」

 男性はまた、叫んでいた。

「私の言ったことが、よくわかっていないのですか? だったら、大事なことなので、もう一度繰り返します! 私たちは、死ぬのです! あなたもわたしも、死ぬのです! この場に立っている全ての人は、いつかみんな、死ぬのです!」

 当たり前だろ。サラリーマンらしきおじさんが、そうヤジを飛ばした。

 知っているよ。小学生の女の子が、笑っていった。

「そうですか! 知っていましたか! でも、だったらなんで皆さんは、笑っていられるのですか!」

 男性は、泣きながら、絶叫した。

「怖くないのですか!? 死ぬんですよ! いくら今を一生懸命頑張ったって、いつかは必ず、死ぬのですよ! どうして、怖がらないのですか! 泣きわめいて救いを求めないのですか! 私は、死ぬのが怖い! その次に怖いのが、あなたたちだ! 自分が死ぬということを知っていながら、そのことをまるでないものであるかのように振舞って、今日を平気な顔をして生き続けるあなたたちだ! お願いです! 怖がってください! 泣いてください! あなたたちが、血の通った普通の人間だっていうことを、どうか私に対してお示しください!」

 なんでお前に指図されなきゃいけないんだよ。

 頭の病院に行け。

 お前、仕事なにしているんだ。

 男性の懇願に対して、返ってきたのは、そんな言葉ばかりだった。

 その時、私のポケットにあったスマートフォンが、鳴った。

 ぴろりん。

 画面を開くと、母からのLINEが届いていた。

『買い物してくれない?』

 と、書かれていた。

 私は『いいよ』と、返信を書き込んでから、その場を離れた。

 男性の演説や、ヤジの声が、背後で段々と小さくなっていった。

 あの男の人と、彼の周りの人たちと、本当に頭がおかしいのは、どっちなんだろう。

 そんなことを、心の片隅で思いながら、私は、歩いて行った。     

                                    <了>

 

 それが、小島さんの書いた、小説だった。

「読み終わりました」

 俺は言った。

「どうですか?」

 小島さんは、俺に聞いた。

「すごいです」

 俺には、そんなことをいうしか、出来なかった。

「よくわからないけど、すごいです」

「ありがとうございます。生君にそういってもらうと、嬉しいです」

 俺は、部誌を閉じて、置いた。

 何かを、言いたかった。

 でも、なんていうべきか、何を言いたいのか、わからなかった。

「小島さんは、どうして、こういう小説が、書けたのですか?」

 やっと言えたのは、そんな言葉だった。

 

 

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