「いけない」
天道先輩は、断言した。
「小説であれ、他のどんな創作物であれ、--作られるために作られたものなんてものは、作品なんて呼べるものじゃない。そんなものは、作ってはいけない。作り手の情熱すらないものなんて、読んでも時間が浪費されるだけだ」
「でも、生君は、それがはじめての作品だったんですよ」
部室に入ってきた小島さんは、靴を脱いで畳にあがり、俺たちの傍らに座った。
「最初から、伝えたいものがあって小説を書ける人なんて、いないと思いますよ。今は他人の真似であっても、とにかく書くことに慣れていって、生君にしか書けないものを探していけば、いいだけなんじゃないですか?」
天道先輩は、頭を振った。
「もし今、書きたいものがないのだとしたら、それは水野君にとって、今が書き始めるべき時じゃないってことだけだ。昔、ある高名な小説家が『25歳になるまで、人は小説を書くべきじゃない』と言った。書くべき主題なんてものは、どうしたってある程度の年齢と、人生経験がないと見つからないのだよ。技術なんてものは、それを見つけてから身に着けたって遅くはない。それがないうちから小説なんか書いたって、その分人生経験を積む機会が減るだけだ。何も良いことがない」
「でもそういう先輩は、中学生の時にプロ作家としてデビューしているじゃないですか」
「え!?」
思わず、俺は、声を上げた。
小島さんと天道先輩は、口を止めて、じ、と、俺を見た。
「すいません、あまりに驚いたもので……。先輩は、プロなんですか?」
「ああ」
天道先輩は、頷いた。
「さっきまで、君が夢中になって読んでいたその駄文の作者だよ。俺は」
彼女は、本棚を指さした。
『紅のソルジャー』を、指さした。
「え?」
すぐに、理解することが、出来なかった。彼女が何を言っているのか。
「作者って……。え?」
「紅のソルジャーは、俺が書いて、書き続けた小説だ」
「……ご冗談でしょう」
「真実だ」
「だってこれ、5年とかそのくらい前から、始まったシリーズですよ」
「だから、中学生の時にデビューしたと、さっき小島君が言っただろう。中学二年のころに、その第一作目を書き上げて、投稿して、作家デビューしたんだよ。俺は」
俺は、絶句した。
今、自分が置かれている状況が、ちょっと言葉ではできないくらいにものすごくて、何を言ったらいいか、わからなかった。
高校時代、俺が読みふけった小説を書いた人が、今目に前にいて、言葉を俺と交わしている・・・・・・。
「俺が君に小説を書くなというのは、その経験があるからだよ。中学生の時に小説を書き始めてプロなんてものになった俺は、そんな駄文をこの世に生み出してしまった。そんなものを書くために、俺は青春をささげた。おかげで今の俺には、書くべきものがなにもない」
天道先輩は、立ち上がった。
「悪いことは言わない。お前が書かなければいけないなにかがみつからないうちは、小説なんか書くな。俺はもう帰る」
そんな言葉を残して、先輩は部室を出て行った。
あとに、俺と、小島さんを、残して。