五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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自分で選ぶということ

『フータロー君が好き』

 

 一花の告白……。

 

『これが私の想いだよ、風太郎!』

 

 四葉の告白……。

 あいつらの告白が何度も自分の中で往復して、記憶から掘り起こされる。

 

 埋め直しても、あいつらの声が聞こえなくなることはなかった。

 現実逃避がしたかったわけじゃない。

 

 どう受け取るべきか、どう選ぶべきか見当つかないものを提示されてしまってる。

 

 元々、俺は学生は勉強が基本。

 なのに勉強も大事だが、あいつらのことも大事だとなったのは家庭教師を長くやってからのことだ。なによりも、俺はあの二人からの選択肢から逃れることはできない。

 

 

 

 

「四葉、それがお前の気持ちなのか?」

 

 過去じゃなくて、今が大事。

 あいつも俺と似たようなことを言っていた。それだけで、あいつが何を語り何を本当は言おうとしていたのかも触れたような気がしてならなかった。

 

「はい!これが私の気持ちです!」

 

「風太郎と共にこれからや今のこと、これまでのことを二人で語り合いたいんです!」

 

 それはまさしく告白そのもの。

 誰かと隣を歩いていたという願い。

 

 純粋な想いは四葉の笑顔と共に一言一言噛み締めされそうになる。

 

「私は伝えたよ、風太郎」

 

「だから、待ってる。風太郎が一花を選ぶのか、それとも私を選んでくれるのかを」

 

 

 

 

 

「それじゃあね、風太郎」

 

 去って行く……。

 吹き荒れる風のように衝撃の一言を残して行った四葉。

 

 そんなあいつは……。

 

 

 

 吹っ切れたような顔をしてる。

 その姿にこれまで通りの四葉の姿を重ねてしまいそうだった。

 

「全く……」

 

 

 

 

「分からないもんだな……」

 

 一人取り残され、靴の裏すら動かない。

 疲れ切った身体が動くこともできない。

 

 

 

 

 

 ただ事態が起きたことを知らせるような感じだ……。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

『使えないわね、皿二枚って言ったんだけど』

 

『もういいわよ、休憩していいから。暫く頭冷やして来なさいよ』

 

 店から実質的に放り投げられた俺はただ一人歩いている。

 あんな感じのやり取りが店の中ではずっと続いていた。この現状を作り上げて来たのは俺でしかないからとっとと謝ればよかったのかもしれないが。二乃の場合、謝罪をしただけで許してくれるとは限らない。寧ろ、拗れるだけだろう。

 

 

「「全く……だな」」

 

 重なり合う。

 こんなちょうどいいタイミングで誰と一緒に?という好機心があったのか、俺は言葉が聞こえて来た方向を向けば……。

 

「お前、学級委員の仕事どうしたんだよ?」

 

 奇妙なハモリ相手は俺が知ってる奴、風太郎だった。

 屋台を追い出されて、少しばかりこうして焼きそばをベンチで食う。

 そんな変な時間の中で会うことになるなんて想像もしていなかった。

 

「風太郎?」

 

 うんともスンとも言わない。

 頭の中で思考をしながらも、勉強でもしてるのか?それとも、一花のことでまた悩んでいるのか?

 

「どうしたんだよ?お前らしくもないだろ」

 

「あんなに学園祭をエンジョイしてやろうぜって雰囲気出してクラスの奴等からドン引きされてただろお前?」

 

 しかし、風太郎は銅像となったまんま。

 何も返すことはない。いつもの勉強モードの風太郎を相手しているみたいで、こうなったら話しかけるのは難しい。今日は、学園祭初日だ。急がず、焦らず聞き出せばいいか。もしくは、後でらいはちゃんを呼んで一緒に聞き出すか。

 

 

 

 とりあえず、一旦出直すか。

 食べ終わった焼きそばの皿を持って、俺はその場を離れる。

 

 

 

 

「キミらしくもないじゃないか?上杉」

 

「僕のライバルが不甲斐ない。三学年が始まった頃は僕にあんなにも息巻いてたじゃないか?」

 

 凄い鼻につく喋り方、武田の声。

 

「げっ、上杉じゃねえか……なんでお前が此処に」

 

「お前、一花さんのことちゃんと見て「おい、馬鹿やめろ」」

 

 ベンチから離れていたはずなのに、俺のケツは再び密接状態になる。

 前田が余計なことを言い出そうとしていたのを見て、俺は思わずその口を塞いでしまう。あぶねえ、此処から離れなくて正解だった。

 

「は、離せよ脇城!!」

「お前が余計なことを言おうとしてたからだよ」

 

「は?余計なことって俺は……」

「まだ一花が伝えてなかったらどうするんだよ?」

「げっ、それは……そうだな」

 

 一花の奴はまだ恐らく風太郎に好きだとは伝えてないはず。

 抵抗されて普通に身体の節々が痛かったが、こんな場所で貰い事故が起きるよりはマシだ。

 

「騒がしいと思ったら、お前らか」

 

「その実はだな……ちょっと悩みがあってだな」

 

「キミが悩み?ライバルとして悩みの一つや二つ聞いてあげよう?それでどんな悩みなんだい?」

 

 若干上から目線の発言をしながらも、武田は歯を輝かせてる。

 前田の方は興味ねえと声に出していたが、俺は少しばかり違和感を覚えていた。 

 

「風太郎、それって結構デカいことなのか?」

「そうだな、人生における問題ではあるな」

 

「……そうか」

「は?なに納得してるんだよ?お前ら」

 

 もし、風太郎の反応がさっきから曖昧だった。

 その理由が大きなことであれば、それはアレでしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

「あいつらに告白された」

 

 

 

 

 

 

「……はぁぁぁぁぁ!!?」

 

 前田の悲鳴だけがその場に残される。

 分からなくもないが……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てよ!上杉!お前それは人としてどうなんだよ!?」

 

 言うつもりはなかった。

 言うつもりはなかったと言うより、此処で話しても問題自体が解決するわけじゃない。

 寧ろ、気分的には悪循環を抱えるだけでしかない。

 

 実際、空に声を掛けられていたことには気づいてた。

 俺が何も言わなかったのは、言うべきか言わないべきか悩んでいたからだ。

 

 貧乏ゆすりがまるで止まらん。

 

「落ち着け、前田」

 

「馬鹿!落ち着いてられるかよ、上杉!お前、一花さんという者がありながら他の女にも手出したのか!?」

 

「いや、手出したとは言ってないだろ!?」

 

 その結果がこれだから余計言わなければよかった。

 空が前田を立ち上がらないよう、止めようとしてくれるがその光景が余計恥ずかしくなる。

 

「俺はいったい、なにで悩んでるんだろうな」

 

 自分のことで悩んでた。

 告白されたことをどうするべきか?を本気で考えたというのに、こいつらのせいで余計自分が煩悩まみれになってることを第三者視点に立たされた気分だ。

 

「上杉、キミはどうしたいんだい?」

「どうしたいってのは?」

 

「キミはあの五つ子たちと関わるようになってからかなり風貌も性格も変わった。成績は少し落ちることもあったとかね?」

「おい、最後のはなかったぞ」

 

 どうしても、自分が上だと言いたいのか。

 武田は自信を崩そうとしない。寧ろ、それを弱みとでも認識してるのか、笑ってるすらいる。

 なんで、こいつは笑ってるんだ……?

 

「僕には恋愛なんてのは学生としては理解できないことではあるがキミは告白された」

 

「その上で、どうするのかを聞いてるんだ」

 

 至極真っ当な正論だ。

 武田の言うことは事実でしかない。

 

 自分の言葉や行動が呪いなんて言うつもりはない。

 呪いなんてのはこの世には存在しない。非科学的なものだからな。

 

 だが、実際俺はその思考を終えている。

 一度だけ……。

 

 

 

 

「あれは空のことを言ってるつもりだったんだがな……」

 

「……俺のことを?」

 

 前田を宥め終わった空。

 そんなあいつが俺の発言に首を傾げていた。

 そうか、あいつは知らなかったな。

 

「修学旅行のとき、四葉に言ったことがあってな」

 

「あいつは全員が幸せになれる未来はなんてのはあるのかと聞いて来たんだ」

 

 修学旅行は誰もが必死だった。

 五つ子も、空も俺含めて全員が……。

 

 最終的にあれは最悪な結果に終わらずに済んだが……。

 

「キミはなんて答えたんだい?上杉?」

 

「誰かの幸せによって別の誰かの不幸が生まれるなんて、珍しくもない。いつかは決着をつけないといけない日が来る、そんなことを答えた」

 

「はぁ!?じゃあ、お前一花さんが傷ついても……!「落ち着け、前田……。ここで感情的にもなっていても仕方ねえだろ」」

 

「だ、だけどよ……」

 

 前田の言葉が胸に響く。

 今更、こんなことで悩む。

 

 あいつらの進路を決めて、そこに向かう姿勢。

 今度は俺もあいつらを見習うべきだと頷けるようになった。

 

 それが、今じゃあいつらの想いにどう向き合えばいいのか。

 

 

 

 

 本気で思考を巡ってしまう。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 風太郎は今自分がどちらを選ぶべきか本気で苦しんでる。

 勿論、あいつはそういう表情を見せることすらないが本気でぶつけられた感情をどう向きあえばいいのか、掴めないでいるんだ。

 

 そりゃあ、当然だ。

 俺だってそうだった。

 

 三玖に告白されて、二乃に告白されて。

 どちらを優先させて、どちらを切り捨てることが怖くなったなんて言えるわけがない。

 修学旅行が終わった後の三玖への態度がそうだったんだからな。

 

 だけど、もっと根源的なことが言える。

 自らこのことを口にすることなんて考えられなかった。俺はずっとこれに封をしてきたつもりだ。誰かに言うということは、あまりしてこなかったつもりだ。知られた二乃達以外には……。

 

「風太郎、誰かを蹴落として誰かを捨てる」

 

「これは傷になる、一生もんだ。例え、癒えたとしても痛みが完全に消えてなくなることはない」

 

「それがよかった、悪かったなんてのは後にならないと更新できねえ。現実なんてのはそんなもんだ」

 

 三人からの視線を感じる。

 自分の背中が何かと密着したかのような実感を覚える。

 それは重みでもあり、軽みでもあった。

 

「後手に回るなんて言い方をすれば、雑かもしねれえが結局そうにしかならねえ。あのとき、あのこと(中学時代)でちゃんと聞いておけばああならなかったとか、手を掴んで踊っておけば(三玖)よかったなんて言っても過去なんだよ、変えられないんだ」

 

「そのせいで苦しむことがなかった(二乃)もいるはずなんだ」

 

「こう聞くと、何も意味はないように聞こえる。だけど、重要なのは……」

 

 

 

 

 

「自分がどうしたい、かじゃねえのか?」

 

 はっきりと言うこともできない。

 自分から口を開いたというのに、完全に封を切ることもできない。

 

 とはいえ、こうやって話せることに意味があるんだろう。

 あるんだ、と俺は思いたい。

 

「お前が今悩んでるのは恋愛事。それなら、自分が何を優先したいのか、何を選びたいのかちゃんと決めればいい。それこそ、爺さんが言ってた愛の力とかそういう奴でもいいのかもしれねえ」

 

 

 

「だけどな風太郎……」

 

 

 

 

「ちゃんと自分で決断して、自分で固めた答えを否定だけはするなよ?」

 

 

 

 

「お前なら、出来るはずだ」

 

 他人の力を借りることができるのは自分で行動するまで。

 そこから先は自分で動くことしかできない。

 

「他人事みたいに言ってくれるな」

 

「実際、他人事だろ?だけど、お前が助けてくれた俺のことを」

 

「あの雨の日の中、助けてくれたから俺は自分の力だけで……立ち上がることができた」

 

 あの日のことを忘れることはない。

 これから先も。いつか風太郎が自分の夢を到達して、そこで離れることになっても。

 

『空、勉強の方はどうだったんだ?俺か?やめろ、見るな!!』

 

『らいはが家に来て欲しいと五月蠅くてな、悪いが来てくれないか?』

 

『空、少し手伝って欲しいことがあるんだ』

 

 俺のこともあって。

 らいはちゃんが五月蠅かったから、俺を自分の家で見てくれただけなんだろうお前は。

 らいはちゃんが仲良くしてやって欲しいと目の前で俺に言ってたから、最初こそは仕方なく話しかけていた。

 

 そういう側面もあるだろうが。

 俺はお前に頼られたり、お前が話しかけてくれるだけで俺は……。

 

 

 

「手を握ってくれたお前なら、自分で立ち上がることぐらい造作もないはずだろ?」

 

「行けよ、風太郎。どちらを選ぶにしても、最後まであの馬鹿共の面倒」

 

 

 

 

 

 

 

「見てやれよ」

 

 

 

 

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