『ちゃんと自分で決断して、自分で固めた答えを否定だけはするなよ?』
『お前なら出来るはずだ』
無茶苦茶な難題だ。
あいつの言ってることは他人事。
空自身も開き直ってるって自覚はあったが、俺の気持ちをまるで考えてないが……。
実際、俺自身もどの道誰かを選ばなくちゃいけない。
手を近づければ、冷たい何かに触れた気がした。
目の前には……扉がある。
立ち上がった、立ち上がって俺は一つの連絡をあいつら二人に送りつけた。
『話がある、教室に来てくれ』
連絡を送るとき、決して軽い気持ちもんじゃなかったが……。
空がくれたたこ焼きのおかげだろうか、口に残ってるものがあったんだ。
『一つ食っていけよ』
差し出されたたこ焼きは……。
熱くも冷たくもなかった。たこ焼きなんてのは滅多に食べることはないが、それでも一番微妙な熱さだったのは確かだ。そんなものでも、俺は学園祭の味ってのが悪くないと思えたのはある意味ではあいつらのおかげだろう。
今にしてみれば、なんであいつらが。
パンケーキの店に居たのかはよく分からないが。
そんなことよりも……。
俺は向き合わなくちゃいけない。
あいつらのことで……。
この扉を開けば、全部が決まるんだからな……。
風太郎に伝えたいことは伝えきった。
この先どうになるにしても、私は自分の言葉で自分で言いたいことを話せた。
「そろそろだよね、四葉」
「そうだね、一花……」
指定された集合時間まではもうすぐ。
もしかしたら、扉の前に風太郎がもういるのかも。そう考える度に、私の心は徐々に離れていくような気がしてならない。
それでも、言えることがあるんだ。
「一花、風太郎が来る前に伝えておきたいんだ」
「戦ってくれてありがとう」
いつかは来る。
これから来るかもしれない。そういう未来の話をしていたら、本当にそういう日が来たんだ。
不安もある、恐怖もある。
「嬉しいんだ、こうやって一花がちゃんと立ってくれてること」
それでも私は……。
本当に落ち着けられてるのは今の状況があるから。
「四葉、私も嬉しいよ。こうやって」
「こうやって共に戦ってくれることを……」
一花も同じことを思っていてくれてた。
此処に来るまで、一花がどういう想いでどういう考えで立ってくれてるのか。指先で教室の机に触れても、一花の記憶は見れない。
だとしても、こうやってこの教室に来てくれた時点で。
もう決意は固まってたんだ。流石、一花だよ。
「決意、か……」
決意、覚悟。
きっとそれは……。
「風太郎も同じだよね、一花」
「きっともう扉の前には立っていてくれて自分がどうするべきか、ちゃんと悩んでくれてるんだよ」
「そうだね、私もそう信じたい」
みんなそうだよね。
三玖だって二乃だってそうだった。五月だって、自分の未来のことで悩んでた。そんななかで、風太郎もまた私達の前に来てくれようとしてくれてる。
扉の前を見て、私達が待っていると。
その扉が軽く動いたようだった。
「此処だな……」
「悪い、待たせたな」
扉に触れた。
扉を開ければ、大きな音が鳴る。
その扉の音の大きさが俺が来たと言う合図にも繋がってたんだ。
「悪いな、待たせたな」
「お前らに集まって貰ったのは他でもない」
「告白の件、確かに受け取った」
一言一句。
口が開かないなんてことは無かった。
「俺の気持ちは一花にも話した通り、過去で選ぶことはしない」
「俺にとって大事なのは過去じゃない、今どうあるべきかだからな」
空、お前は修学旅行のときどんな感情だった?
決して生半可なものじゃなかっただろ?
お前は俺と出会った頃、らいはがよく言ってたよ。
脇城さんを一人にしちゃダメだって……。らいはがあいつの何を知ってたのかを知らないが、子供ってのは純粋だから。お前が何を想って、何を考えてるのかなんて手に取れたのかもな。
そして、それは……。
こいつらのこともそうだ。
らいはができていたことを俺もできてしまう。
一花が何を想い、四葉が何を想ってるのか。
不安、焦燥感、苦しみそういうものが一斉に肌を通して感じてしまう。
あの爺さんが言っていた。
愛があれば見分けられるのってのはこういうことなんだろう。
愛があれば、か……。
「俺が選ぶのは……」
その愛に従うわけじゃない。
空が言ってたことを鵜呑みにするわけじゃない。前田に言われたから、じゃない。
目の前にいる二人が逃げなかったからじゃない。
重要なのは……。
「一花だ」
俺自身だ……。
何度も顔を覆いたくなる。
聞こえた答えに耳を疑いたくなる。
「……今、なんて言ったの?風太郎君」
「気のせい……だよね?」
嬉しいよ、キミが私を選んでくれること。
嬉しいはずなのに、やっぱり私は素直に喜ぶことができないんだ。
「気のせいなんかじゃない」
「俺が選ぶのは一花だと言ったんだ」
二度目の名指し……。
それが意味するのは勘違いじゃないということ。
「よかったね、一花……」
純粋じゃない。
絶対、純粋じゃない四葉の耳を通したくなかった。
「最低だ、私……」
その場に座り込みたくなる。
さっきのは 聞いちゃダメだ。
こういうのは復唱しちゃダメだったんだ。
「風太郎君、確認させて欲しい」
「どうして私なの……?」
これもよくない。
本当によくない。
私だけじゃない、四葉も。
風太郎君も自分の覚悟を濁してしまうことになるから、聞いちゃまずいと知ってたはずなのにどうしても質問したかった。性格が悪いことしかしてない、こんな自分をまた許せなくなって睨みたくなる。
「教えて」
憤りは何も与えてくれない。
ただ与えるだけ……。知ってるのに……。
「俺がお前を選ぶのは俺が家庭教師を始めた頃、お前は自分が長女だからなのか知らんが世話好きみたいなことを言い出したときからだ」
「揶揄っただけだよ、あれは……」
覚えてる、三玖がちょうどソラ君のことを気になり始めた頃。
質問したことがあった。フータロー君は恋愛とか興味ないのって?そしたら、彼はあのときは……。
『恋……?あれは学業から最もかけ離れた愚かな行為だ』
そう……答えてくれたじゃん。
『したい奴はすればいい。だが、した奴は負け組同然だ』
勉強と言う名の人生が終了するとか言ってたじゃん。
どうして、そのままで居てくれなかったんだろ。キミがそのままで居てくれたら、私もただ君のことをただの家庭教師だとしかなれなかったんだよ。
「違う、これじゃあフータロー君に擦り付けてるだけだ」
人は変わる。
私だって、自分の目標。女優になるという目標を持った。
それはただの願望じゃない。
なりたいからでもない。言ったじゃん、フータロー君に対して。
『私は長女として胸を張れるようになりたいんだ』
花火大会で答えたもの……。
『フータロー君や姉妹の皆が私のことを応援してくれるからだよ』
『一番嬉しかったのは姉妹の皆やフータロー君達が応援してくれたからだよ』
本格的に女優を目指すと誓った今年の夏。
簡単なもので、よくある話だけれどみんなもそうだけど……。
フータロー君が居てくれたから、私はもっと女優として頑張ろうってなれた。
今にしてみれば、あのとき過去は過去だと言われたのは女優として頑張ろうという気持ちすら否定されて、自分を黒く塗りつぶされた感覚があったからなんだ。
やっぱり、私はよくないなぁ……。
こういうことばっかりで……。
「一花、花火大会のとき返してなかったことがあったな?」
「俺が勉強を頑張ろうとなれたのは零奈との誓い、約束もあったからだ。此処は過去だ。だが、今あるものがあるとすれば……」
「誰かに何かを教えることは、自分の勉強でも新しい発見があった」
新しい発見……?
フータロー君ほど勉強ができるほどにいったいどんな発見があったんだろうか?そんなものあるはずがない。勉強においては彼は完璧なんだから。それは四葉だって、同じことを考えてるはず。
「それは思い出や日常なんかじゃない、お前ら五つ子みたいな馬鹿でも分かりやすく教える為には噛み砕いたやり方が必要だと知れることができた。結果的にそういうこともあってなのか知らんが、数学の公式の理解度も深まったこともあってな」
「……なんかフータロー君らしいね」
どんなことを言い出すのかと凄く彼らしい意見だった。
口を開いたのは随分かなり時間が経ったような気がしてたけれど、多分そんなには経ってなかった。早く通り過ぎて欲しいというより、もう少しフータロー君の話が聞いてみたかった。
「らしいかどうかは知らんが、これが俺の答えだ」
「お前の言葉で俺は自分がどうして今何故、勉強が好きなのかをはっきりと言える。お前が居たから、俺はここまで来れた。お前が一番問題児で一番頭を抱えることが多かった。だが、それと同時にお前は女優としても成長しようとしてた。その一面は知ってるからこそ、俺はお前に偽りなく自分を伝えることが出来た、いつだってな……」
覚えしかないよ、正直。
だって、最近だって事務所でキミと揉めたし。事務所で映画の撮影に関してキミは顔は出したくないとか言ってたし、出すならギャラを払えとか騒いでたのを知ってるよ。しかも、フータロー君こう言ってたよね。
『女優なら、あんまり男とワンツーマンで撮ってるとか分からないようにした方がいいんじゃないのか?』
驚いたんだよね、ちゃんと見てくれてたキミは……。
そういえば、花火大会のときも女優をやることには反対してたわけじゃない。どうせ続かないとか言ってた。私が女優に専念すると言ったときも、尊重はするが勉強はどうする?と言ってくれたよね。その上で、キミは後先考えず映画を撮るとか言ってた。
震えが止まってる。
いつの間にか……。
四葉の前で……。
「だからこそ、俺が選ぶのはお前だ、一花」
「そして……四葉」
「俺のことは恨んでくれても構わない。結果、俺はお前の好きという感情を踏みにじることになった。人の時間を潰して、人の人生を費やさせたのは俺の責任でもある。それを一生許されることじゃない。だから、俺を憎みたいならば……「そんなことないです!!」」
「そんなこと無いよ!風太郎!」
「私は後悔してない、風太郎に告白できたこと……!私はちゃんと好きって言えたから」
「四葉として……!」
四葉……。
戦ってくれてありがとう。
四葉がこうして戦ってくれたから私はこうして立ち続けることができてる。
本当にありがとう、そしてごめん四葉……。
フータロー君の気持ちを何処までちゃんと受け取ってあげたらいいのか。
何処まで自分がこの先、四葉が振ってしまったという現場を見てこの先それを忘れることはないよ。だとしても、私はやっぱり……。
四葉が強いと思うよ……。
制服がずっと体に染みついて離れない。
走ってるからだと思う。
教室を抜けた。
前が霞んでる。
『一花のことが好きだ』
風太郎……。
私は後悔してないよ、一花を好きだと言ってたこと。
それと変に言い訳しないでくれてありがとう。
一花が選ばれるのか、それとも私が選ばれるのか。
もし、自分じゃなくても……。
三玖のように、やったことがあると言い切れるかは言えないよ。
だとしても、言ったことに意味があるんだ。
それを納得するまでには時間が掛かるよ、きっと……。
忘れることはできないかもしれない。それでも、私は……。
キミに告白できてよかった。
一花ありがとう、隣に立ってくれて……。
そして……。
言いたかったんだ。ずっと教室の外で聞いてくれていたあの子に……。
「四葉……その頑張って「ありがとう!!三玖!!!」」
「私を妹だと、過去の私を認めてくれて……」
昇降口。
チャイムが鳴ったのと同時に……。
学園祭、初日が終わる。
時間の流れは……。
私の失恋を表しているみたいだったけれど。
乗り切れてよかった。
本当にそう言えるんだ……。