「一花、これ食べるか?」
「これってクレープだよね?フータロー君も食べるの?」
「俺か?俺は……」
躊躇ってる。
彼がこういうものを食べるようなところを全く見たことがない。
甘いものとかが好きとかも聞いたことない。基本的にちゃんと栄養がつくならなんでもいいとかそういうことを言い出しそうなタイプだから。
「そうだな……」
「悪い、このチョコの奴二つ貰えるか?」
フータロー君が指差してる。
お店の人も固まってる。当然だと思う。
「お、おいなんでそんな驚いてるんだ?」
「あっ、ご、ごめん!上杉君、二つだよね!」
私に驚いてるってより、フータロー君って悪い意味で有名だから。
こういうものに対して目がないなんて知らなくて当然。私もその一人……だけど。
「ほらよ、一花……」
「なんであんな驚かれたんだろうな」
「当たり前じゃないかな……」
どうしてこんなことになったのかもまるで理解してないフータロー君。
恋愛に関してはようやく鈍感レベルを脱出したかと思ったら、今度は日常レベルはそこまで脱したわけじゃなかったみたい。
「食べないのか?」
「ううん、食べるよ」
一口食べれば、いつものクレープの味がしない。
それがどうしてなのかは知ってる。彼と食べてるからだ。
こうして、自分が選ばれたなんて実感は全くない。
あんまり、じゃない。0に近い数字。
「こういうことをフータロー君に言ったら、怒るだろ「聞こえてるぞ一花」」
「ご、ごめんねフータロー君……」
思わず、口元を手で押さえてしまう。
唇に触れれば、僅かながらにクレープのクリームがあった。
「うん、美味しいね」
親指の指先で軽くそのクレープを拭う。
それから、自分の口の中に入れれば直接生クリームという味が広がる。
生クリームというものを直接実感するというのは嫌いじゃないけれど……。
「体型維持大変だなぁ……」
社長からは特に注意されたことはない。
体型に関しては私もかなり気を付けていた方だから、社長もそこに関しては言ってくれることはなかった。こういう甘いものを取り過ぎると、やっぱり体重とか増えちゃうよね。ちょっと、気を付けないと……。
「あれ?」
自分の体重のことを気にしていると、ずっと見られてるような気がしてならない。
何処から来てる視線なんだろうか?気になって周りを確認してみると、それが凄く近くにあったような……。
もしかして、この視線を向けているのって……。
「フータロー君どうしたの?」
「い、いや……」
ひたすら感じていたものが急に消える。
間違いない、あれはフータロー君のだ。こんな近くであったのに、直前になるまで気づかないなんてちょっとおかしいのかもしれない。
「まさか、フータロー君がねぇ」
「やめろ、そういうことじゃない」
本当に意外かも。
フータロー君がこうやって、意識してくれてる。
恥ずかしそうにしながらも、目元を押さえてる。
あまりにも分かりやす過ぎて、彼のワイシャツを掴みたくなるのを堪えようとしてみたけど。
「フータロー君もやっぱり年頃の男の子なんだねー」
「だから、違うと言ってるだろ」
「そういえば、初めて家に来たときは私の裸を見たことがあったもんね」
「誰が聞いてるのか分からないんだから、そういうこと言い出すのやめてくれないか?」
「刺されたら困るもんね、フータロー君も」
「勘弁してくれ」という声が彼から漏れていた。
しかも、彼は周りを気にしてた。誰に聞かれているのかも分からないし、当たり前だけれど彼が挙動不審になっている様子が本当に面白くてお腹を抱えて笑いそう。
「フータロー君って意外とそういうところあるよね?」
「意外ってのはなんだ?」
「ほら、ギャップ萌えって奴?」
「ギャ、ギャップ萌え?」
「あれ?もしかして、知らないんだ?ギャップ萌えって言葉?」
「年寄りを見るような目で見てくるな……」
いやぁ、もうギャップ萌えって言葉を知らない時点で年寄りだよフータロー君。
なんてことは言葉にしなかった。言いたかったのは山々だけれど、揶揄い過ぎるとちょっと拗ねる彼が想像できるところもあったから。そういうところは年相応の男の子なんだよね、彼は。
「おい、なにを笑ってる?」
「あーごめんね、ちょっとだけ思ったんだ」
瞼から零れそうになったものを自分の指先で拭き取る。
こんなことで泣きそうになるなんてあまりにも弱すぎる感情を抱えてしまってる。
なのに、それを受け止めることができない。本当にダメだね、四葉。
だけど、彼と話していて思うんだ。
「意外と悪くないって……」
四葉……。
絶対にフータロー君のことを幸せにするって誓うよ。
これから先彼と一緒に歩み出す。
お互い言い合うことがあったりするよね。
だとしても、私は誓えるよ。
こうやって何気ない会話が楽しくてしょうがないし、さっきも言ったけれど……。
こういう意外性を感じることをもっと知ってみたいんだ。
彼のことで……。なによりも……。
「ねぇ、フータロー君?私のことは興味ないの?」
「興味ってなんのだよ?」
「これから、奥さんになるんだよ?気にならないの?」
「そうだな……気にはなるとはなるが……」
ようやく目を合わせてくれる。
数分ぶりの彼の瞳には自信たっぷりのように見えて、もしかして……?
「今更、お前のことで知ることもないだろ」
明らかに勝ち誇った目。
彼らしいとは言えば、彼らしいもの……。
「えー?それは酷くない?あれだけ間を空けておいて、それってさ」
「別にいいだろ、姉妹以上にとまでは言わないがな」
「お前のことは分かっているつもりだ、一花」
さりげなくそういうことを言ってくる。
そういうところ、そういうところなんだよな。
私がフータロー君に惹かれるようになったのは……。
本当に……。
不思議な感覚だ。
自分が誰かと付き合うなんて考えたこともなかった。
親父には何度も孫の顔を見せる気があるなんて言われたこともあったが。
俺はそれをノイズだと感じていたからな。
「よお、風太郎」
一花と別れた後。
俺はどうして空に話して起きたかった。報告も兼ねて。
『一花と居た方がいいんじゃないのか?」
なんてあいつは連絡で送って来ていたが。
あいつもあいつなりに空気を読んでくれてるんだろう。
「空、悪かったな」
一花との学園祭は一幕終わりを迎えることができた。
四葉の奴はどうしてるだろうか?今、俺があいつの後を追いかけてもそれは一花への裏切り行為になる。ましてや、自分で傷つけたことには変わりないと言った以上あいつの追いかけるのはダメに決まってる。
「何がだ?」
「何がって、お前な」
首の裏に手を当てて、実感する。
「自分で決めることできたんだろ?なら……それでいいだろ」
その淡々とした口調。
この何処か懐かしい感じを……。見覚えのある光景だ。
『悪いな、助けて貰って』
『……?何のことだ?』
『おい、もう忘れたのかよ』
らいはに頼まれて、あいつのことを助けた次の日。
そっけなく返したときのことだ。勉強であいつの話なんてどうでもよかったから、助けてやった恩義とかですら本当にどうでもよかったんだ。らいはの奴がいたら、怒られていただろうな。ちゃんと受け取れって……。
「お前、そんな細かいことを覚えてたんだな」
「なんだ、風太郎もちゃんと覚えてるんじゃないか?そんな意外か?」
「いや……」
「意外ではないな、空なら」
脇城空がこういう奴だということをよく知ってる。
口は確かに悪いが、らいはが言っていたように何かに傷ついて何かを背負って今生きてる。
そして、今では……。
二乃の尻に敷かれてるんだからな。