思いを込めて、何かを作る。
それは目に見えて、実感が込み上げるもんだ。
口にすれば、味がする。
口にすれば、感情が溢れる。料理ってのはそういうものが含まれているもんだ。
『いいか、空よ料理とはどれだけ見た目が悪くても、どれだけ味が悪くても』
『そこに込められているものが重要なのじゃ』
じいちゃんがよく言ってたことを思い出す。
鍋の上に置かれてあるおたまを大きく音を立てながらも言ってたのを。油跳ねるから止めろよと思ってけど……。
今となっては、そんなことが窓際に手を触れたくなるほど懐かしい感情が沸き上がってくる。
多分、あいつにもパンケーキに関しては似たようなものがあるから譲れなかったんだろう。
三玖に対しても、自分に対しても……。
それが何かまでは具体的に言うことはできない。
とはいえ、あいつは直接的に言っても遠回しに言っても無理なもんは無理だ。行動で示さないとな。
「人のこと言えないな、風太郎のことを……」
風太郎は選び取った。
あいつは一花を選んだ。
『誰かを蹴落として誰かを捨てる』
なんてことも言ったのは俺だ。
それが更新されるときが来ても、また反復するときが来るかもしれねえ。
この発言をできたのは、俺が過去の自分を得てというのもあるが……。
『空、学園祭行くね』
ある一つの連絡、優莉の奴が学園祭に来るという一言があった。
もう未来永劫更新されることはないなんて、思ってたわけじゃない。
あいつには……正直連絡を躊躇ってたんだ。
一度京都まで会いに行って、高一のときの真相を聴けたとはいえ、昔みたいな連絡を取りあう関係というわけにはいかない。気まずいってわけでもない。ただ、どう返せばいいのか分からなくてあいつから送ってくれるということが多かった。
なんともまあ、アホらしいことだろうか。
「二乃の奴が居たら、呆れてたこと間違いないだろうな……」
この場にあいつが居ないことを感謝したくなる。
もし、あいつがこの場に居たりでもしたら俺はパンケーキや三玖のこと以上、優莉と連絡していたことも加算されてあいつの機嫌を取らなくちゃいけなくなっていたところだろう。
「そろそろ、移動するか……」
休憩所となってた空き教室、全然使われている様子がない。
そもそも、休憩所と認識されているのかも知らないがそんなことよりも、ここから立ち去ることの方が先決だ。
「あれ?脇城さんここに居たんですね!」
軽い声がしてくる、四葉の声だ。外から声が聞こえてくる。
立ち上がる前に、座ったまま俺が四葉の方へと振り向く……。
「四葉か、どうしたんだ?」
「どうしたんだ?じゃないですよ、脇城さんのこと探してたんですよ!」
「……俺を探してた?」
あまりにも唐突過ぎる。
俺を探してたと聞こえたが、なんでだ?学級委員長だし、何か俺に伝えたかったことでもあるのか?
「あ、うーん。なんだ?何があったんだ?」
言葉が途切れ途切れになりながらも、俺は聞いてみることにする。
「実は脇城さんを探してるという人がいまして」
「俺を探してる人?誰だ?」
「それはもう多分、見て貰えれば分かると言われたのですが……」
余計、頭の中に不思議マークが浮かんでしまう。
皆目見当もつかず目を細めて、四葉の方を見つめていると……。
「久しぶりだね、空」
息が漏れたんだ。それはすぐに消えた。
空中に浮いたのは「え?」という声。
来るのは知っていた。だが、こうも早く着くとは想定もしていなかったのだ。
俺の視線の先にいたのは……。
あの頃の優莉と同じ、何処か小さく笑みを浮かべている彼女の姿だった。
変わらないな、お前は……。
◆◆◆◆◆◆
あの連絡を送ったのには意味があった。
学園祭、本当は行く予定がなかった。今更、空に直接会いに行ったところで私には合わせる顔がない。あのとき、裏切ったことを空は許してくれた。
それでも、私も合わせる顔がないと思ってた。空には……。
それでも、この学校に来たのは。
会いに行かなかったら、後悔するかもしれない。そんな個人的な理由。
もう一つあるとすれば、二乃との関係が何処まで進んだのかを聞きたかった。
流石に、二乃との関係を連絡で聴くことなんてできなかったし。
直接見に行った方が早いし、ちょっと二人の関係が羨ましいし面白いから。そういう単純な理由も含めて、此処に来て二乃さんの姉妹である四葉さんに案内してもらうことになった。
『もしかして、迷子ですか!?』
学園祭のあちこちを行ったり来たりしてた私に声を掛けてくれたのが四葉さん。
瞼は赤く腫れていた。泣いたような痕があった。泣いてた……のかな。
『脇城さんって昔はどういう人だったんですか?』
『空は、そうだね。結構優しくて、意外と涙脆くて情に熱かったよ』
『今とあまり変わらないんですね!』
四葉さんは私の話に乗っかってくれていた。
先に聴いてくれたのは彼女の方だった。空が今何処にいるのか教えて欲しいと言ったら、先を歩いて案内しようとしてくれた。空のことを知ってるんですか?と聞かれて、こういう形の会話が続いてた。
『そうだね、今と変わらないのかも。偶に子供っぽくなるところもあってね』
『そうなんですか!?少し意外ですね、あっでも二乃と話しているときなんかは特にそうかもしれませんね!!?』
二乃の名前が出て、思わず私は小さく笑ってしまいそうだった。
『それで空は二乃と同じテントの方に居るんだっけ?』
『はい、確かこちらのテントですね……!二乃のパンケーキは脇城さんも唸るほどなんですよ!二乃はちょっと納得がいってないみたいですけどね』
『仲良いんだね』
やっぱり、二人は言い合う関係でもあって仲が悪く見えそうでも、ちゃんと仲がいい関係なんだ。それだけで、私はもう何処か満たされてた。
でも……。
『二乃、脇城さんが何処に行ったのか分かりますか?』
『……知らないわよ』
たった一言だった。
四葉さんがあの後、聞こうとしても知らないの一点張りだった。二乃はそれ以上何か答えようとはしていなかった。お客さんが増えて来たのを見て、四葉さんと私は出店の方から離れようとしたときだった。
『あの……多分空君教室の方に行ったと思う。ほら、休憩室の』
『本当ですか!ありがとうございます!!』
同じテント内の生徒の人が教えてくれた。
その人曰く、向かった方向的にそっちの方だと言ってくれたんだ。私達は大きくお辞儀をしながらも、教室の方へと向かうことにした。
『二乃、何かあったのかな……』
空気と共にそんな声が流れていた。
四葉さんの声だ。
二乃、辛そうだった。
空の名前を出したとき、肩が一瞬だけ動いていた。本当に何もないなら、微動だにもしない。
微妙に声も震えてた。
何処かあのときと同じような気がしてならなかったけれど、多分違う。
だって……。
目の前にいる空は諦めてる目をしてない。
私が傷つけてしまった頃と同じ目をしていない。空の瞳は……。
燃えてる、輝き続けてるから……。
◆◆◆◆◆◆
「ったく、お前は心の準備をさせてくれねえな」
「する必要ある?空」
「ねえよ、俺は別にな……」
したかったなんてのはバレてはいるだろうな。
俺から先に連絡を送るなんてことはあまりしていなかったからな。
机の上を指先で軽く擦らせてから、立ち上がる。実感を感じ取るために。
「あ、あの……脇城さん大丈夫ですかね?」
「ああ、大丈夫だぞ……それと一つだけいいか?四葉」
「はい、なんでしょうか!脇城さん!!」
伝えようか、伝えないか迷ってたことだ。
これを言ってしまうのは結果的に慰めてしまうことになるが……。
それでも……。
「お前は、お前なりにやれることをやったんだ」
どうしても、言いたかった。
言っても変わらない。言ったところで、慰めにもならないしあるのは現実だけだ。
風太郎に振られたという事実、一花が選ばれたという目に見えるものだけがあるってのにそれをまた蒸し返してる。
「悔いるなよ」
「今は思う存分悔いても」
例え、そうだとしても……。
俺は何かを言わざるを得なかった。後になって、訂正したなんて馬鹿みたいなことを言い出しそうな気持ちを抱えながらも……。
ただ、はっきりとしていることもあった。
あいつは……。
「はい!私はやれることだけをやりましたから!!」
そこにあるのは確かに今にも泣きそうな四葉の姿……。
そうか、やっぱりそうだな。
お前達、五つ子は強いな……。