五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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笑顔の一日

「俺の大切な……友達だ!」

 

 人混みを少なくなった横断歩道を渡ろうとした三玖の手の掴み、俺はそのまま力で三玖を抱く。その言葉を言うと、辺り一帯は暗くなる。

 

「友達……?なら、彼女から聞いてるのではないのかね!」

 

 焦っているのか、髭のおっさんが早口で言う。

 やっぱり、三玖を一花と見間違えているようだ。無理もないか、顔そっくりだしな。

 

「もう時間がないんだ。一花ちゃんをこちらに渡して貰おうか!」

 

 時間がない。それが意味することが分からねえが、此処で三玖を渡す訳にはいかない。三玖の体を必死に抱きながら、髭のおっさんの方を見ると驚くべきことを言い出す。

 

 

 

 

 

 

「その子は、うちの大切な若手女優なんだ!早く放しなさい!」

 

 その言葉に一瞬言葉が出なくなる。

 女優?誰が……?え?まさか、一花が……?

 

「え?カメラで撮る仕事ってそっち……?」

 

 後ろを確認すると、上杉の後ろに一花が来ていたようで顔を隠しながら、恥ずかしそうにしている。

 

「……ああ、三玖。すまん、あのおっさんなんて言ってた?」

 

「一花が若手女優」

 

 聞き間違えだろうかと思った俺が、三玖に確認するとすぐに返答が返って来る。

 

「すいません、社長……!実は私五つ子だったんです」

 

 社長のところに駆け寄ってきた一花。

 ……え?あの髭のおっさんあの見た目で社長なの……!?俺の中で色々な情報が流れ始め、困惑し始める。

 

「一花ちゃんが五つ子!?」

 

 五つ子と言う言葉に口を大きく開けて、驚く髭社長。

 流石にこれには驚くよな。

 

 

 

 

 

 

「どうやら、人違いをしてしまったようだね。申し訳なかった。だけど、一花ちゃんにはこれから大事なオーディションがあるんだ」

 

 大事なオーディションか。だから、一花の奴今日は花火見れないって言ったのか……?うん?自分の夢の為だろうし、仕方ねえか。……そう言えば、花火と言えば四葉の奴、らいはちゃんに確か……。上杉が髭社長となにやら話しているみたいだけど、何を言っているのかは大体理解している。

 

「おい、上杉」

 

 走り出す一花達の姿を見ながら、俺は上杉に話しかける。

 上杉は時計台を見ながら、時間を見て焦っている。

 

「悪いが、一花を頼む」

 

「それは構わないが、もう花火終了まで10分しかないぞ」

 

 祭り終了まで後10分か……。確かに無理だな。

 だけど、花火に関してはまだ幾らでもやりようがあるな……。

 

「ああ、分かっている。だけど、まだ策はある」

 

「策……?そうか、そういうことか!じゃあ、俺は一花を追う!」

 

 上杉は俺の考えていることに気づいたのか、一花を走って追いかけ始める。

 さて、こっちも策を講じるとしますか……。とりあえず、最初にらいはちゃんと一緒にいると思われる四葉に三玖に電話を掛けてもらおう。

 

 

 

 

 

「三玖、四葉に電話してもらっ……!?」

 

 三玖の方を見て、話そうとしたとき俺はあることに気づく……。

 そう、俺と三玖はまだ抱き合っていることに気づいた。

 

「す、すまん……」

 

「だ、大丈夫……」

 

 僅かながら三玖の鼓動が滅茶苦茶早くなっていることに気づいた俺はすぐに放すと、三玖は赤面している様子でどう声を掛ければいいのか分からず俺に電話をそのまま渡してきた。無意識とは言え、自分でも気づかないうちにこんなことをしていたとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、四葉か。ちょっと頼みたい事があって電話したんだが……」

 

 三玖の方をチラチラと確認しながら、俺は頬を掻き三玖に顔を見られないように後ろを向く。四葉に電話をすると、四葉の元気な声が聞こえてくる。

 

「分かった……。それで頼む。五月とは合流してるんだろ」

 

 五月の声が聞こえてくる。どうやら、四葉とは合流できたようだ。方向音痴だから、多少は不安ではあったが大丈夫だったようだ。

 

「ね、ねぇ……ソラ」

 

 四葉との電話を終えて、三玖に携帯を返す為振り向くと、三玖の顔には恥じらいの色のようなものが出ている。

 

「さっきのはその……」

 

「い、いや……!あれは……。お前をあの髭社長から守る為に必死だった訳で。だからその……」

 

 必死に誤魔化そうとするが、言葉が上手くでずへにゃへにゃで喋ってしまう。

 

「うん、分かってるよ。だけど、その……さっきのソラかっこよかった」

 

 三玖の言葉に思わず、動揺を隠せずバケツを持って頭から水を浴びたいような感覚で体が熱くなっている。お、俺がカッコよかっ……いや、こんなところで惚けている場合か。

 

「あ、ありがとう……。て、てか二乃の奴にも電話しないとな……」

 

 三玖から二乃の番号に掛けてもらい、電話が繋がると「もしもし」と俺が言った瞬間、いきなり一発でスピーカーすら破壊しそうな大声が聞こえてくる。

 

 

「アンタ、今何処よ!?」

 

 その声には片目を塞いで、「うるせえ」と心の中で思いながら、今回は俺が悪いから仕方ねえか。反省していた。

 

「今は……此処が何処か分からんな」

 

 周りを確認したが、目印となるものが無かった。

 

「なに冷静にしてんのよ。あんた、今迷子なのよ……」

 

 迷子を捜していた人間が、迷子なんてミイラ取りがミイラになる、だな。ことわざを使いながら、心の中で乾いた笑みで笑う。

 

「一花達とは合流できたんでしょうね?」

 

「一度あったが、一花は訳あって上杉に任せているが三玖には合流できてる。後、四葉達には公園に向かわせた」

 

「アイツで大丈夫なの?」

 

 二乃は上杉では不安なのか、聞いてくる。

 今日の上杉なら余計なことを言う心配もないだろうし、大丈夫だろう。

 

「ああ、アイツにしか頼めない」

 

「そう。ところで、公園に集めてどうするつもりなのよ?」

 

 俺は、二乃に公園に集まる理由を簡単に説明する。

 四葉達を公園に集めたのは、らいはちゃんが持っているあれを使う為だ。

 

「分かったわ、じゃあ私も公園に行けばいいのね」

 

「頼む」

 

 と言い電話を切り三玖に携帯を返却する。

 

「三玖歩けそうか?」

 

 三玖が足を引き摺っているように見えた為、俺が聞くと……。

 

「大丈夫って言いたいけど、我がまま言ってもいいならソラにおんぶして欲しい」

 

 俺におんぶ……?構わないが、滅茶苦茶恥ずかしいな。

 俺は、三玖をおんぶし歩き始める。俺達は、恥ずかしいのか何も話せなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、三玖何か話さないか?」

 

 無言でいるのもキツく、人通りは減ってきたがそれでも人の視線が気になった俺は気を紛らわせるために三玖に話を振る。

 

「……ねぇ、ソラ。花火の歴史って知ってる?」

 

 暫く三玖は沈黙を続け、暫く考えていた後「んー」と犬のように唸りながら話をする。

 

「花火の歴史か……ちょっとだけ興味があるな」

 

 後ろを振り返ると、戦国武将が大好きな三玖が目を輝かせている。

 どうやら、話したくてしょうがないようだ。俺はその姿を見て、自分でも分かるぐらいの笑みを浮かべ前を向く。

 

「私も調べただけだからあんまり知らないけど、日本で花火を初めて見たのは、徳川家康って呼ばれているんだって」

 

 へぇ、あの狸親父が初めて花火を見たのかちょっと意外だな。もうちょっと明治とか江戸中期ぐらいの人間かと思っていた……。

 

「でも、もう一つ説があってそれ以前に伊達政宗が米沢城で当時の明の人が献上したのが花火で政宗が初めて見た説もあるんだって」

 

 三玖は知識を自慢げに言っている。なるほど、日本の花火の歴史って言うのは案外随分前から存在していたのか。

 

「それで花火が実際に打ちあがったのは日本で最も有名とも言える隅田川花火大会の前身である両国花火。徳川8代将軍吉宗の時代に疫病による多数の死者の慰霊とかの為に行うようになったんだって……」

 

「なるほどな、じゃあ元々花火大会ってのは魔除けのために行われていたってことか」

 

 徳川吉宗は、確か幕府財政の再建ともなったと言える享保の改革を行った人物であったはずだ。自分の中では、とあるドラマの印象が強すぎるが……。今は置いておこう。

 

「うん、その後は川開きの日とかによくやるようになったんだって」

 

「へぇ、そうだったのか。それにしても凄いな、三玖」

 

 三玖に「偉い」と言うと、若干子ども扱いなのに不満そうな顔をしていたがどことなく嬉しげな表情を見せる。

 

「ソラや、フータローが知らないことを知ろうとして色んな歴史の本に手をつけてみたの。中でも、江戸時代初期はまだ戦国武将が生きていた時代だから覚えることができたの」

 

 なるほど、江戸初期は伊達政宗、真田信之、立花宗茂と言った人物がまだいたからな。まあ、大阪の陣・冬自体が、一六一四年だからまだ有力な武将自体はいたのは事実だ。

 

「それでも凄いと思うぞ、そんな豆知識まで知ってるんだからな」

 

 まさか三玖の奴が花火の歴史と言う豆知識まで知っているとは思わなかった。元々戦国武将が出てくる歴史が好きとは言え少しでも成長を見せてくれればいいやと思っていたが、此処までの知識を身につけるとはな……。こりゃあ、俺もいつか三玖に歴史だけ抜かされる可能性が出てくるかもな。

 

 

 

 

 

 

「アンタ達、お祭りの日になんて話してんのよ……。てか、なんであんた三玖のことおんぶしてるわけ?」

 

 三玖と話していると、どうやら公園前に着いたようで二乃の目が笑ってなく表情は硬くなり真顔になっていた。

 

「三玖が足怪我して歩けなくなったから、俺がおんぶしてるだけだ。変に勘違いすんな」

 

 三玖が「もう大丈夫」と言った為、俺は三玖を下ろしながら言う。

 若干だが、俺の中で三玖をまだおんぶしていたかったと言う変な感情が湧くが、すぐにそういう感情を追い払う。これ以上はどういう意味でとかは言わん。俺が変態になる。

 

「ふーん?鼻は随分と伸ばしてたみたいだけど」

 

 ……割と事実だから言い返すことができない。

 

「悪かったな」

 

 二乃に軽い気持ちで謝罪する。

 男のサガと言うつもりはない。そんなこと言ったら、ぶん殴られる。

 

「四葉、手はず通りやっててくれているか?」

 

「はい!今準備中です!」

 

 

 四葉がダッシュで家から持ってきたバケツに水を入れて公園の真ん中あたりに置いていた。らいはちゃんはそんな四葉を見てタオルを貸してあげている。

 

「よし、ならそのまま続けてくれ!俺は一旦上杉の野郎に電話を掛ける」

 

 自分の携帯で上杉の携帯に電話を素早く掛けた。

 

「上杉!俺だ、今どこにいる?」

 

 どうやら、上杉はオーディション会場の前で待っているようだ。そろそろオーディションの方も終わるんじゃないかと言っていた。

 

「そうか、分かった。オーディションが終わったらまた後で連絡してくれ」

 

 と言い、電話を切ると二乃が俺に近づいてきた。

 三玖と五月はと言うと、五月は三玖をベンチに座らせ足の怪我を見ているようだ。

 

「悪かったわね、あんたばっかに任せて」

 

「気にすんな。俺こそ、全員連れて来るって言ったのにこの有り様だったしな」

 

 と言い四葉の下に駆け寄り、四葉の手伝いを行っていた。あそこまで、素直なニ乃を初めて見た気がする。さてと、俺も座るか……。と思い三玖や五月が座っているベンチに座る。準備を終えた四葉と二乃はらいはちゃんの為に鬼ごっこをしてあげていた。

 鬼はどうやらニ乃のようだ。二乃が鬼か、面白いな。割と小馬鹿にしながら鬼ごっこを観戦する。

 

 

 

 

「今日はお疲れ様でした。随分とお疲れなんじゃないですか?」

 

 と言い五月が俺に差し入れしてきたのは、温くないコーラだった。

 コーラか、糖質控えるつもりだったけどこの際もういいか。一度決めたことを守らない駄目人間のようなことを考えながら、俺は栓を開ける。

 

「悪いな、いただく」

 

 うっめぇ……!毎日のように飲酒していて訳あって禁酒してたけど我慢できなくって飲酒しているような気分だ。最高だ……!

 

「空さん達も一緒に、鬼ごっこしませんか?」

 

 コーラの味に久々に感動をしていると、らいはちゃんが俺のところに来る。五月は「えぇ!参加させていただきます!」と準備万端な様子であった。三玖は足を怪我しているため、パスし俺はなりゆきで参加することになった。どうやら、鬼はまだ二乃だけらしい。あいつ、らいはちゃん相手にどんだけ手こずってるんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇぜぇ……アンタ足が速すぎるわよ!」

 

 絶賛、二乃に追われ中。と言うのも俺が挑発したせいだけど。そのせいもあってか、五月はこっそりと滑り台の後ろに隠れており四葉はひたすら周りを走っている。四葉は、隠れろ。走っていてもいいけど。

 

「お前が遅すぎるだけだ、鬼二乃」

 

「誰が鬼ですって!!」

 

 鬼と言う言葉が癪に触れたのか……。そう意味で言ったんじゃないんだけど……。

 二乃は猛スピードで俺に追いつこうとするが、それは無理と言うものだ。何故なら、陸上経験者と経験者じゃ無い奴とでは差がある。しかし、此処で思わぬアクシデントが起きる。

 

「らいはちゃん!?なんで此処に!?」

 

 公園にあるアーチスタンドの前にらいはちゃんが立っており、俺はそこを曲がって再び遊具の方に行こうとしていたがらいはちゃんがいることに気づき俺はらいはちゃんを逃がそうと声を出そうとした瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

「空お兄さん……!」

 

 天使のような包容力に俺は負けそうになる……。

 いや、実際負けた。俺の足は一瞬止まる。

 

「はい!捕まえた!」

 

 後ろから近づいて来ていた二乃が俺の袖を掴み、もう片手で俺の背中をタッチしてきた。

 

「なぁ、らいはちゃん一つ聞いていい?」

 

 あっ、これってもしかして……。ああ、そういうことか。

 

 

 

 

「もしかして鬼……?」

 

「はい……!」

 

 純粋無垢な天使が、笑顔で答えてきた。そんな天使を汚した二乃に俺は……。

 

「二乃、なにらいはちゃんの教育に悪いことを教えてんだ!」

 

「フン、ゲームなんて所詮勝てばいいのよ!」

 

 くっ、この畜生め……。

 だが、割と言っていることも正しい……。

 

「……お前、なんで出てきた」

 

 隠れていたはずの五月がらいはちゃんの目の前に現れ、「五月お姉さん捕まえた!」と言って喜んでおりそんならいはちゃんの頭を二乃が撫でている。

 

 

 

「し、仕方ないじゃないですか!私も言われてみたかったんです!」

 

 まあ、その気持ちは分からんでもない。その後、四葉を五月、二乃、らいはちゃんが追いかけるが四葉の足の速さに全員敗北。あいつ、あんなに足速かったのか。面白い、これは良い勝負ができそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、四葉俺と競ってみないか?どっちが早いか」

 

 選手時代だった自分の血が騒ぎ始め、俺の全身が絶対に勝つと言う意志を見せてくる。

 

「望むところですよ!」

 

 良い返事だ。すぐに捕まえてやる。

 四葉は走り始める。出来る限り、障害物遊具が無い場所を走り続けていた。遊具のところを通りながら動いていたら追いつかれるのがわかっているからであろう。

 

 コーラも飲んだことだ。この勝負は俺がもらう。

 と意気込みだけは良かったのだが、残り一分が来る前にすぐに終わると思っていたが、どうやら俺の検討違いだったようだ。

 

「認めるぜ、四葉……。お前の走り本物だ!」

 

「脇城さんだって、凄いですよ!私に追いつけるなんて!」

 

 江場の野郎には、俺は短距離しか行けないと何度も言っていたが、確かに奴の言う通り今の体力なら中距離も行けるかも知れない。なんだかんだ言って、走ることだけは止めてないからな。

 

 一旦走るのを止めて、バックから非常時ようのコーラを体内中に流す。

 やべえ、温いコーラ最高……!コーラ中毒者に戻りそう……!

 

「コーラを飲んでどうするんですか!?脇城さん!」

 

「バーカ!コーラは俺の動力源なんだよ!」

 

 言わば、エンジンそのものだ。昔、俺が陸上をやっていた頃人々は俺のことを口々にこう言っていた。コーラの化身とな……。ウサギのように軽やかに足を動かし、腕を鳥の羽のように細かく動かす。そして、俺は四葉に近づくことに成功。それを見た四葉は驚きのあまり目が今にも飛び出そうになっていた。

 

「す、すごいですよ!脇城さん!流石です!」

 

「喋ってる場合か!?もう追いついちまうぜ!」

 

 四葉がにこやかな笑顔でこっちを見てきた。

 なるほどな、こういう奴を何人かは見たことがあるが……。こいつは間違いない本気で走りを楽しんでやがるって奴の顔だ。

 

「楽しいんです!脇城さんと走るのが……!」

 

「……俺もだ!俺も此処まで楽しいのは初めてだ!」

 

 恐らく此処が勝負に出るにふさわしい場所だろう。付近に遊具も何もない。障害物となるものは何もない。元々俺が得意とするのは直線だ。カーブは少し苦手だからどちらかと言うと俺は短距離の人間だった。だから、得意の直線で勝つしかねえ。

 それに時間的にもこれが最後のチャンスだろう。

 

「行くぞ、四葉……!俺は此処で勝負に出る!」

 

「ええ、いいですよ!」

 

 此処で勝負に出なきゃもうこいつに勝てる見込みはない。やるしかない。覚悟を決め、唇を緩め息を整えフォームを崩さずただ走る。ただ、走る。未来にある、勝利の為に……。

 公園は既に暗くなっていた。公園前にある照明がついておりその照明は既にどちらかが勝つことを理解しているかのように照らしていた。そして、チャンスは舞い降りた。

 

 

 

 

「届けぇぇぇぇ!」

 

 四葉の背に手を伸ばし、鬼を増やそうとする……。結果は……。

 

 

 

 

 

 

「勝負ありです!勝利は、四葉です!」

 

 届いたはずの手は四葉のもう一段階の力により敗北。あのときの四葉はまるでチーターのような速さを持っていたかもしれない。

 

「はぁ……はぁ……やるじゃねえか。まさか、俺が負けるとはな」

 

 走り過ぎて脇腹が痛くなり、抑えながら地面に背中をつけて倒れている。ちゃんと準備運動してから、走るべきだった。

 

「そ、そうでもないですよ……。わ、私なんてまだまだ……」

 

 こいつ、これだけ速いのにまだ速くなろうってか……。

 面白い、上等じゃねえか……。久々に燃えた試合だった……。

 

 

 

 

「はい、ソラ。抹茶ソーダ」

 

「わりぃ、ありがと……」

 

 抹茶ソーダか……。偶にはいいか……。

 

「はい、四葉。メロンソーダです」

 

 メロンソーダを受け取り、お礼の言葉を言ってから一気に飲んでぷはぁ!と言っていた。

 

「四葉、俺はお前に負けた。だけど、もし次があるなら俺はお前に負けねえ」

 

「いいですよ、但しそのときも私が勝ちますよ」

 

 上等だ、絶対に負かせてやる……。

 立ち上がるとそこには上杉と一花が立っている。

 

 

 

 

「……いやぁ、凄い熱い試合だったね二人共」

 

 最初から見ていたのか、一花がそう言った。

 

「お前ら何してんだ?」

 

「らいはちゃんと鬼ごっこしてたらこうなった」

 

 いや、どうやったらこうなるんだよと言いたそうにしている上杉。

 

「さて、アンタ達!鬼ごっこは終了よ!」

 

 仕切り始めた二乃が言い、「じゃあ始めましょう!」と言う四葉……。

 

 

 

 

 

 

『花火大会!』

 

 俺と四つ子、らいはちゃんが口を揃えて言った。

 四つ子達はさっそく線香花火を取り出し、俺がチャッカマンでろうそくを燃やし四つ子と、らいはちゃんが線香花火を燃やし始める。あっつ……、火花飛んだんだけど……。

 

「そういえばキミ!五月置いて何処か行ってたらしいじゃない。この子半べそだったらしいわよ!」

 

「してませんよ!断じてしてませんから!」

 

 五月が首を振りながら、違う違う!と言っている。

 この反応の仕方、どうやら本当に半べそかいていたようだな。

 

「後、アンタに一言言わないと気が済まないわ!」

 

 なんだろうか、殴られたりするのか上杉の奴……。

 

「お・つ・か・れ!」

 

 と言い四つ子達の方に戻って行った。

 五月が三玖に花火を一花に渡すように言うと、三玖は一花に線香花火を渡そうとしていたが、一花は頭を深く下げたのだ。

 

 

 

 

「ごめん、みんな……!私の勝手でこんなことになっちゃって本当にごめんね……!」

 

 一花は謝っていた。みんなの前で深く頭を下げている。一花が今回の原因を作った一人なのは間違いないのかもしれない。だけど、今回の件に限って言えば、俺も含めて全員それぞれ責任があるような気もする。なにより、一花は自分の将来のことをしっかりと考えている。それを攻めるつもりなんて俺達には全くない。

 

「全くよ」

 

 最初に口を開けたのは二乃だった。いつも通りの感じかと思っていたが、どうやら違うようだ。

 

「今回の原因の一端はアンタにもあるわ」

 

 しかし、二乃はそっぽを向きながらこう言うのであった。

 

「あと、場所を教えてなかった私も悪い」

 

 そんな一花を慰める言葉に一花は何処か心打たれている様子であった。

 

「私は自分の方向音痴に嫌気がさしました」

 

 寧ろ、四葉達と合流できただけよくやってくれたよ五月……。

 

「私も失敗ばかり」

 

 三玖も三玖で足が痛いなか、よくあれだけ歩いてくれた。

 

「私も屋台ばかり見てしまっていて……」

 

 今回ばっかは四葉が居てくれたからこれが出来たんだ。今日は四葉のお手柄だ。

 

「俺ももっとしっかりするべきだった……」

 

 五月や、二乃に迷惑掛けてばっかだったしな今日の俺は……。でも、俺は今日学んだ。

 

「俺は、もっとみんなのことを見てやるべきだった」

 

 それぞれが口々に今日の反省点を話す。

 

「みんな……」

 

 ただ一人として一花だけ悪いと言う奴はこの場にいるはずもなかった。だって、五つ子にとって姉妹だ。

 

「はい、これアンタの分」

 

 三玖から二乃が受け取り、一花に渡され「うん、ありがとう」と笑顔で答えていた。なんだ、アイツの笑顔って滅茶苦茶綺麗じゃねえか……。

 

「お母さんがよく言ってましたね。誰かの失敗は五人で乗り越えること」

 

「誰かの幸せは五人で分かち合うこと」

 

 いい言葉だな……。

 思わず感傷的になりそうだ……。

 

「喜びも」

 

「悲しみも」

 

「怒りも」

 

「慈しみも」

 

 

 

 

 

「私達全員で五等分ですから……!」

 

 五つの花火は一つとなり、鮮やかな色合いを生み出す。

 まるで個性豊かな五人の五つ子を表すように……。

 

「おい、お前ら写真撮ってもいいか?」

 

 俺がそう言うと、みんながそれぞれに笑いながらピースをし始めた。一花は大きく、二乃は顔の前ぐらいに、三玖は若干控えめに、四葉も大きく、五月も顔の前ぐらいに……。

 

 なんていい画だ。思わず額縁にでも飾りたくなる。

 このとき俺は思っていたんだ。やっぱり、この五つ子は笑顔がぴったりだと……。

 

 

 

 

「ソラも上杉も入りなさいよ」

 

 

 と言い、二乃が半分無理矢理俺達を混ぜ、そしてらいはちゃんも混ぜて写真を撮りだした。

 

「はい、チーズ!」

 

 そして、その写真を見せてもらうと上杉はぎこちなく笑っておりらいはちゃんは満開の笑顔で、そして俺は心の底から笑っているような感じだった。こんな笑顔をしたのはいつ振りだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……飲むか、上杉?」

 

 俺は上杉が座っているベンチに座った。らいはちゃんは上杉の隣で気持ちよさそうに寝ている。

 

「ああ、冷えてるよな?それ?」

 

「冷えてるぞ」

 

 上杉が「冷たっ……」と言いながら、コーラを受け取る。

 

「なぁ、上杉俺は思ったんだよ……。毛利元就の逸話じゃねえけど、一人で折れても二人なら、いや五人なら、いや、七人でなら乗り越えて行けるんじゃねえかってな……」

 

「確かに、そうかもしれないな……。アイツらを見ていたら俺もそんな気がする」

 

 それぞれ違う表情を見せながら、花火を楽しんでいるようだ。先ほど、俺は打ち上げ花火をやって二乃に怒られた為、座るよう命じられている。因みに、怒られた理由は俺が導線に火が回ってないと勘違いした結果、俺と二乃は危ない目に遭いそうになったのだ。因みに、これは二乃に土下座して謝った。

 

「なぁ、俺達もこれからも頑張って行こうぜ。上杉……」

 

「そうだな、ところで空。聞きたいんだが……」

 

 上杉は深刻そうな表情で俺に聞く、何か言いたいことでもあるのだろうかと思い聞いてみると、

 

「俺これ帰ってもいいよな?」

 

「お前空気読めないって言われたことないか」

 

 素直な俺の言葉が上杉に飛び交った。

 

「いや、考えてみろ。まだ時間はある。今から勉強すれ……!」

 

 

 

 

「行くよ~!」

 

 四葉の掛け声と共に打ち上げ花火が打ちあがって花火は爆裂し色を出していた。

 

「しょっぼい花火……」

 

「でも、いいんじゃねえか……」

 

 アイツらの顔を見ながら俺は思っていた。

 みんな、それぞれに笑いあってる。大きな花火を全員で見せてやることはできなかったけど……。けれど、アイツ等は今日と言う日を楽しそうに笑っている。それを見れるだけで俺は今日は幸せだ。

 

「……だな。もう少しだけいるか」

 

 と言い、上杉は三玖達のことを見ていた。

 それからして、上杉がコーラを飲もうとしていたとき、俺は頬を緩ませていたと思うがコーラを上杉の方に向けて上杉が何をやるのか理解したのか、笑いながら互いにこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「乾杯……!」」

 

 今日の笑顔を祝して……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 私達の楽しかった花火大会も終わりを告げた。二乃に言われて、私はバケツに入っている線香花火を持って公園の水道を見つけて私はその近くで片付けを始める。

 

 

 

 

「また来年……」

 

 来年もまた皆で来たいな……。一花、二乃、私、四葉、五月に……。

 それと、フータローとらいはちゃんに……ソラ。でも、私少しだけソラと二人っきりで来たいと思っているところもある。友達だから……かな。

 

 そうだよね、多分友達だから二人っきりで行きたいと思っているんだよね……。

 私は心の中で一安心しながら、片付けを再開する。すると、後ろから足音が聞こえ振り向くと……。

 

 

 

 

 

 

「三玖、何か手伝えることあるか?」

 

 後ろから来ていたのは、ソラだった。

 なんだ、ソラか……。

 

「ビックリした……ソラだったんだ」

 

 不審者でも私の後ろに立っているのかと思ってしまった……。

 

「悪い悪い、驚かせるつもりはなかったんだがな」

 

 ソラは袋に花火を入れるのを手伝いながら、私は話を始める。

 

「今日はありがとうね、ソラ」

 

「おんぶのことか?全然大丈夫だぞ」

 

 おんぶのこともそうだけど、私が一花と間違わられたときにソラが助けてくれたこともだ……。

 でも、きっとソラのことだから当たり前のことをしたと思っているのかな。

 

「ありがとう。ソラは今日楽しかった?」

 

「楽しかったよ。人生で一番最高の花火だったかもな」

 

 ソラが優しく笑っている。

 

「私もそんな気がする」

 

 お母さんと一緒に見に行った花火も楽しかったけど、今回の花火は更に楽しかった気がする。色々大変だったけど、大変だったからこそ楽しかったと感じるのかな。

 

「こんなところかな……」

 

 バケツに入っていた線香花火の残骸を片付け終え、私は立ち上がる。

 

「よし、戻るか」

 

 ソラが首を左右に何度も傾け、腰をかなり曲げながら体を慣らしている。

 そんなソラの姿を見ながら、私はある言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「女の子が髪型を変えたならまず褒めてあげなきゃ」

 

 一花が、フータローに対して言ってた言葉。なんでこの言葉を今思い出したのか、分からなかったけど……。多分、私がソラに可愛いと思ってもらいたかったからに決まっている。そうじゃなければ、この言葉を今思い出すわけがない。

 

「ねぇ、ソラちょっと待ってくれる?」

 

 ソラは不思議そうにしながら、返事をする。いつも首に掛けているヘッドホンを置き、リボンで髪を結ぶ……。この髪型、ソラは可愛いと言ってくるかな。そんな期待をしながらも、私は髪型を変え終える。

 

 

 

 

 

 

「ソラ……こっち向いてくれる?」

 

 その言葉と同時に、ソラは私の方を見る。私は、ソラに何度か変えた髪型を分かるように見せつける。こういうことするの恥ずかしいけど、偶にはいいよね……。折角、覚悟を決めてやってるんだから。

 

「どうかな?」

 

 ソラに変わった髪型の感想を聞く……。

 

 

 

 

 

 

「可愛いと思う。似合ってる」

 

 暗くなっているはずの公園が一気に真昼のように明るくなり、私の心に桜のようなものが咲いたような気がした。ソラに可愛い、似合っていると言われて嬉しくなっている自分がいた。嬉しかった、本当にそう言われて……。

 

 だから、ソラに私はこの言葉を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

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