突き付けられた条件
上杉、ヤンキー疑惑から一日が経った今日……。
「上杉、生徒手帳だ」
今は放課後。上杉に頼まれて出来れば人目につかないところがいいと言われて、俺は屋上に来ている。
昨日、上杉に生徒手帳を返そうと思っていたのだが、完全に忘れてしまっていたのに気づいて結局渡したのが今日になってしまったのだ。
「写真見られたって本当か?」
上杉には此処に来る前に生徒手帳に入っていた写真を見られてしまったと言う事実を包み隠さずに話した。話をしたとき、上杉の顔は青ざめていたが見られたのが二乃だったため、最悪だったのだろう。俺も逆の立場だったらそうなるだろうし……。
「二乃の奴は、上杉の知り合いって勘違いしてるみたいだし……その……」
上杉の顔を伺いながら俺は言おうとしていたが、完全に見られてしまったと言う上杉の表情は絶望感に包まれている。これはそうだな……。
「ああ、その……本当にすまん」
謝るべきだな、と思った俺は素直に謝ることにした。此処で下手に言い訳したら、怒られる気がしたからだ。
「俺の昔の写真を見られただけまだ良かったとするか……。違う写真は見られていないんだろ?」
「違う写真……?ああ、見られてないが」
そういえば、確かに生徒手帳を見たときもう一つ写真のようなものが入っていたな。見るのは流石にマズいかと思って俺は写真を見なかったけど……。
「そうか、なら構わない」
上杉が違う写真を見られていていないことに、安心したのか息を吐いている。
「俺がなんであんな姿だったのか、聞かないのか?」
上杉に写真を話した時、上杉からあの写真は昔の自分だと言う事実を言われた。てっきり、俺も二乃と同じように上杉の知り合いだと思っていたから聞いたときは、驚きながらも必死に笑いを堪えていた。確かに、気にはなる。なんで上杉があんな姿だったのか……。
だが……。
「興味ねえな」
その言葉に上杉はまるで俺から出る言葉じゃないよう感じで驚いている。そこまで驚くことかねぇ……。俺は基本的、他人が話したそうにしてない限り、本人の過去なんて聞こうとは思わねえ。
「確かになんであんな姿だったのか、気にはなるが……。お前自身は話したくなさそうだし、俺は聞かねえよ。もう一つの写真のこともな」
俺はそう言いながら、屋上を降りるドアへと近づく……。
「そうか……。ありがとう、空」
「気にすんな。それより、俺達が今気にするべきは家庭教師のことだ」
そろそろ高校生活で毎年恒例の地獄の行事がやって来る。そう、悪魔より恐ろしい地獄の行事が……。
「中間試験のことか……。俺もどうにかしないといけないと思っているんだが……」
そう、そろそろ始まる地獄の行事、中間試験。恐らく、此処で俺達の実力が試されるはずだ。俺達の家庭教師としての実力。
「五月はどうしてる?今日、職員室行くところ見かけたぞ」
先ほど五月が教科書とノートを持って、職員室に行くところを見かけたのだ。おー、ちゃんと勉強してるんだなと思っているのだがやはり何処か不安な部分が俺にはあった。
「アイツか……。褒めて伸ばして勉強会に一緒に行こうと言おうと思っていたが、何故か失敗した」
あの上杉が褒めて伸ばそうとしただと……!?いや、失敗したと言っている時点で上杉が余計なことを言ったことを分かりきっている。
「なんだお前その信用できないみたいな顔」
「いや、事実だろ……」
五月のことは上杉に任せていたところだが……。出来る限り、俺も上杉のサポートを務めるべきだな。だが、もう一人のとんでもねえ爆弾女は俺がなんとかしないといけないな。
「とりあえず五月のことは基本的にお前に任せる。俺は二乃と言う爆弾女をどうにかしないといけないからな」
とお互いに今後のことを話し合い、3つ子達が揃ってるだろうと思う図書室に向かうのであった。二乃に一応連絡を入れたのだが、行きたくないと言われたので素直に諦めた。
「問題です!今日の私は一味違いますよ!」
「お前ら!もうすぐ何があるのか分かってるよな!?」
上杉が図書室の机を大きな音で叩きながら言うと、図書委員が目を光らせ始める。四葉は上杉の周りをフラフラと歩きながら、注目をしてもらおうとしている。四葉の奴、リボン変えたのか……。どうでもいいが……。
「確か、林間学校だったよな。それにしても、上杉の奴気合入ってんな。あんな大きな声出して」
わざとボケて見せると、上杉の顔に怒りの二文字が見始める。うわっ、怖っ……。
「あっ、そっか!林間学校か!楽しみだねー!」
一花が俺の発言に乗ると、更に上杉の顔にイラつきマークが増える。
「おい、お前ら。試験は眼中にないってか?それは頼もしいことだな」
俺の襟元を掴みながら、上杉がまるでボロ雑巾でも絞るかのように俺の袖を掴む。それを見て一花は「分かってるよ」と乾いた笑みで笑ってみせていた。
「正解は、「リボンの柄がいつもと違う」でした!今チェックがトレンドだと教えてもらいました!」
「そうか、それはいい情報を得た。じゃあ、お前のこの答案用紙も最先端と言うわけだな」
俺の襟元を雑に放し、上杉が四葉の全部チェックの答案用紙を見せながらキレキレなツッコミが炸裂する。それを見て、一花と俺が笑う。
「お前らも笑ってる場合じゃないぞ、四葉はやる気があるだけマシだ!」
「このままじゃ、林間学校なんて夢のまた夢だ!」
四葉のテスト用紙を見ながら、カンカンに怒りながら上杉は言う。
「中間試験のためにこれから一週間徹底的に対策していくぞ!そして、空!お前は最近勉強をしているようだが、全然まだ駄目だと聞いている!今回もお前にはサポートしてもらうが、俺の授業も受けてもらうから覚悟しておけ!」
「えぇ!?」
確かに此処最近勉強しているのは事実だ。だが、その事実をいったい何処から知ったのだ。アイツは……。
「お前のお姉さんが悲しんでたぞ!勉強しているのに全然まだ駄目だってな!」
「楓姉かよ!!」
確かに俺は楓姉に成績がうーんって感じになっているという事実を前に少し伝えたが……アレか!?まさか、俺の部屋にこっそり入って確認したのか……!?
「そして、三玖も実力が伴ってきているが得意な日本史以外を……!?」
今まで何も喋っていなかった三玖の方を見ると、三玖は黙々と勉強を続けている。しかし、勉強をしているのなら今までとなんなら変わりない。注目すべきは……。
「三、三玖が英語を勉強している……だと!?」
「あっ!?ソラ君が倒れた!?」
このままだと確実にマズい。成長の早い三玖のことだ。世界史のようにすぐ理解してしまうに違いない。中間テストは負ける可能性が低いだろうが……。この後の期末テストで抜かされる可能性がこのままじゃ高い。どうすれば、どうすればいいんだ……。仕方ない、俺も重たい腰を下げる時が来たか。
「そ、空も英語を……!?二人共、熱があるのか!?」
このまま五つ子に負けるのはなんか腹立つ。此処らで俺の実力とやらを見せてやる。
と意気込みを入れたのはいいものの……。
ヤバい、分からない……。まさか、自分が此処まで英語が苦手だとは思っていなかった。しかも、自分がまさか楓姉の助力がないと此処まで駄目なのかと、自分の無力さに嘆いてしまうレベル。
「ソラ、私も協力するから一緒にがんばろ?」
救世主、此処に誕生する。三玖の頑張りもあり、俺は少しだけだが英語の勉強を理解できたような気がする。本当に少しだけな気がするが……。
「空、どう思う?このままアイツらが中間テストで赤点を回避できると思うか?」
勉強を終えて、昇降口に着いた俺に上杉は考えていたことを明かしてきた。
「……はっきり言って無理だ。お前のペースならなんとかなるかも知れないが、お前のペース配分であいつらがついて行けるわけがない」
上杉のペース配分は、深夜も朝も飯食ってる時も勉強する。普通の人間なら耐えられない所業だ。一回俺も試してみたが、一日で辞めた。
「やっぱりか……ひぃぃぃっ!」
深く考えている上杉に一花は耳に息を吹きかける。上杉は、情けない声を出しながら一花の方を見る。
「そんなに根詰めなくてもいいんじゃない?中間試験で退学になる訳じゃないんだよ?」
「私達も勉強頑張るからさ。じっくり付き合ってよ」
と言われ上杉は一度深呼吸をする。心の中で「そんなに焦る必要もないか」と思っていたのかもしれない。確かに、一花の言うことにも一理ある。だが、なんだろうかこの胸の騒ぎは……。まるで何か悪い予感を感じさせるようなこの異質感……。
当たらなければいいが……。
「ご褒美くれるならもっと頑張れるんだけどね」
褒美と言われ、四葉と三玖がパフェを食べたいと言い出すのであった。その後、みんなを誘ってパフェに食べに行こうと話になるのであった。
「上杉さん!脇城さん、早くしないと置いて行きますよ!」
パフェか……。
偶にはいいかもな……。四葉達の後を追おうとしたとき……。
「空、俺は帰るぞ」
「……は?お前あいつらの話聞いていたか?」
四葉達はどう考えても俺達を誘ってパフェを食べに行くと言ったような感じである。それなのに上杉は……。
「聞いていたぞ。俺は行くとは言ってないからな。それに、この後家に帰って勉強しなきゃいけないからな。お前も遊んでるのは勝手だけど。勉強しろよな」
上杉は、帰り始めようとする。
最後の言葉は一言余計だな……。と思いながら、それだから五月とも仲直りできないんだろと思っていた。
「フータローは?」
見失いそうになった三玖達になんとか追いついた俺。
汗は若干出ているが、すぐにタオルで拭きとる。
「家で帰って勉強するってよ。あいつ割と空気読めないからな」
あの流れなら普通来るとは思うんだけどなぁ……。まあ、そういうところ流石上杉さんと言ったところか。一花は「流石フータロー君だなぁ」と言いながら、笑っている。俺も含めてパフェを食べに行こうとしているとき……。
俺の携帯に電話が鳴る。
『すまん、空。すぐに俺の家の近くの公園まで来てくれるか?』
電話に出ると上杉の声は何処か切羽詰まったような声をしている。これは何かあったっぽそうだと思い、俺はすぐに返事をして電話を切る。
「悪い、三人共。ちょっと上杉に呼ばれたから行ってくる!」
「え?上杉さんがですか……!?じゃあ、私も……!」
四葉は俺に着いて行こうとしていたが……。
「いや、お前らは優雅にパフェ食べててくれ。戻れそうだったら、戻って来るから」
「分かったよ、ソラ君。フータロー君を頼んだよ~!」
一花は俺にそう言い、四葉は何処か心配そうな表情をしていたのを見ながら俺はすぐに公園へと向かうのであった。
◆◆◆◆◆◆
「すまん、待ったか?上杉」
公園に辿り着き、ベンチに座っている上杉の隣に座る空。
「いや、俺も今来たばっかだ」
空は上杉の手に持っていたペットボトルの水を見ていた。ペットボトルは既に半分以上は飲んでおり、先ほど買ったのか、水滴がペットボトルにはついていた。空は既に只事ではなさそうだと、気づいていた。
「さっきアイツらの親から電話が来たんだ」
上杉は帰る途中、五月に携帯を渡され彼女達の父親から連絡を受けていたのだ……。
そして、その恐るべき内容に驚愕していたのだ。
「内容は、一週間後の中間試験。もし、五つ子のうち誰か一人でも赤点を取ったら俺には家庭教師を辞めてもらう。だそうだ」
淡々と上杉は喋っていたが、そのあまりにも重圧のかかる条件には流石の上杉も震えていた。
「……嘘ってことはないんだよな」
「ああ、あの口調っぷり嘘のわけがない」
このとき、空は今日思っていた嫌な予感が的中してしまったか……。と思っていた。できれば、当たってほしくなかったが……。と心の中で思いながらも、それを若干表情に見せていた。
「お前はどうするつもりなんだ?」
「……分からない。だけど、五月とも喧嘩しちまったしハードルはかなり高くなっちまった……」
上杉は、電話を終えて五月と少し話をしていたが、その時余計なことを言ってしまい五月と彼の間に更に溝が出来てしまっていたのだ。
「はぁ、全くお前は……。五月にはちゃんと謝れよ。俺も中間試験あいつらが赤点取らないように頑張るからよ。それにこれは俺達の為でもあって、らいはちゃんの為にでもあって、あの五つ子の為にでもあるんだからな」
「悪いな、いつもいつも……。じゃあ、俺は明日からどうするのかを考えておく。じゃあな、空」
上杉の背中を見送った後、空は一息ついたかのようにコーラを飲む。それからして、空は一花達のところに戻るのであった。
「ソラやフータローがクビになる……?」
誰も居なかったはずの彼らの後ろの茂みからそんな声が聞こえる。
「なんとか……しなくちゃ……」
そう、彼らの後ろにいたのは……。
中野三玖。