中間試験まで残り六日間。現状、無理に近く絶望的な状況と言うのは言うまでもないだろう。
それが物語っているように二乃は、未だに勉強をしてくれているような感じではない。俺が後もう少し踏ん張れば、勉強してくれる気もするのだがそのような機会が中々来ないと言うのがかなり辛いところだ。五月は、上杉と喧嘩してしまったようだし勉強を教えるのはかなり難しいだろう。俺が教えると言えば、了承してくれるかもしれないが……。
「空、問題の方間違えなかったか?」
上杉が俺の家に来てコピーする前に俺に確認を求めて来た。上杉も自分で最後の確認をしていたようだ。
「ああ、大丈夫だ。お前これ全部手描きで書いてるんだな……」
「パソコンなんて高価なものは買えないからな。それに手描きの方が分かりやすい」
問題用紙を見ると、きっちりとした字で書かれている。上杉の家庭教師としての本気度が伺える。
学校でもパソコンを使えるが、こいつの場合機械音痴っぽそうだし……。無理もないか。俺が問題を考えてもいいが、こういうのは上杉に任せた方がいいに決まっている。馬鹿にしているように聞こえるが、四葉が理解できるような内容だからな。
それから、コピーの方を終えて上杉が問題用紙を鞄の中に入れて俺と共に学校に向かうのであった。
「私、結婚しました!ご祝儀ください!」
四葉の元気な声が聞こえてくる。
学校も終わり、五つ子の家で俺と上杉は勉強会を先ほどまで行っていた。行っていたのだが、流石に勉強のやり過ぎだろうと言うことになり、一度人〇ゲームを挟んでいる。
「おっ、おめでとうー!四葉!」
一花がおもちゃのお金を渡しながら、上杉は渋々渡している。
「おめでとう……って、お前らエンジョイしてる場合か!休憩は終わりだ!」
自分の紙幣を俺の顔の前辺りまで飛ばし、俺はその紙幣の数を数えながら現実でもゲームでもほぼ金無しの上杉に泣きそうになる。
「えぇ?もう今日充分勉強したよ?」
今までの家庭教師の量に比べたら、確かにかなり今日は勉強したに違いないだろう。だから、今日は良いんじゃねえのかと言うのは分かる。上杉は自分のクビが掛かっているから、それを考えて焦っているのも分かるが……。これ以上やっても、ただの苦にしかならないだろう。
「そうですよ。上杉さん今日はいつもより焦っていませんか?」
そんなことを言われて上杉は俺に目を合わせてくる。こいつらにも言うべきか、言わないべきか迷っているのだろう。
「その実は……」
上杉は言い出そうとしていたが、二階から誰かが降りて来る。俺はどちらかと言うと、言うべきじゃないと思っている。こいつらにプレッシャーを与えるだけだし、二乃に聞かれたらこいつは喜んで勉強をしない。
「なんだ、勉強してるかと思ったらサボってるんじゃない」
二階からリビングにやって来た、二乃がゲームをしているのに気づいた。
「私も混ぜなさいよ。ってアンタなんでこんなにお金あるのよ」
俺のお金を数えながら二乃は言う。幾らあったっけ?数えるのめんどくさくてやめたわ。
「あんた達も混ざる?」
二乃は後ろを見ながら、五月と三玖を見る。俺が来た時に、まだ三玖は家にいなかった。学校にいたとき、今日の三玖の様子は何処かおかしいような気がしていた。声を掛けても、なんとなくだが少し反応が鈍かったからだ。
「混ざらない。二乃も勉強すればいいのに」
買ってきた抹茶ソーダを自分の手に取り、もう一つ手に持っていたカレースープを五月に渡しながら答える。
「しないわよ、五月は?」
「五月は私と少し用事があるから駄目」
テーブルの上に置いてあった勉強道具を手に持ち、三玖は俺の方をチラッと見る。何か言いたい事でもあったのだろうか。今日、三玖と話していたとき何かあったような感じではあったが……。
「……っそ、てかあんた達もうカテキョ終わりでしょ。帰った、帰った……!」
二乃が俺と上杉のことを押しながらこの部屋の玄関まで押そうとしたときであった。思わぬ助け船が登場するのであった……。
「あれ二人共、約束が違うじゃん。今日は泊まりで勉強を教えてくれるって話でしょ?」
一花が上杉の様子を見て何かに気づいたのか、助け船を出してくる。あいつ、気づいて……。いや、それはないはずだ。二乃と上杉は大きな声を出し始める。
「は?はぁ!!?どういうことよ、それ!?」
二乃は一花が言い出した言葉が隣の部屋まで聞こえそうなぐらいの大きな声で動揺する。四葉はまるで、そうだったんですかー!?と言いたそうな驚いた表情をしており、三玖は何処かホッとしたように息を吐いている。五月は下を向いているため、表情は見えない。
一花はというと、俺の方を見て、人差し指を立てながら……。
「貸し一つだからね?ソラ君」
俺は軽く返事をすると、一花はにっこりと笑う。
それから、二乃はあーだこーだ言いながらも自分の部屋に戻る。四葉と一花の勉強を再開しようとしたとき、俺は三玖に話しかけられる。
「ソラ、頼みがあるの」
「頼み……?」
どんな頼みだろうか……。一対一で勉強を教えて欲しいと言う内容なら大丈夫だが……。
「私と五月に勉強を教えてほしいの」
五月と三玖の勉強をか……。それは全然構わないことだ。寧ろ、五月がどの程度出来るのかを確認できる絶好のチャンスだ。そのチャンスを無駄にしない方がいいだろう。上杉に無言で目を合わせると、「頼む」と言っているように聞こえた。
「分かった」
「じゃあ、お願いするねソラ」
三玖はやる気満々のようだが、五月は迷っているのか周りをキョロキョロしている。
「わ、私はまだやるとは……」
「一人より、皆でやった方が楽しいと思う。だから、行こう?五月」
三玖が五月の手を取り、三玖は自分の部屋に入れる。
「頼んだぞ、空」
俺は「ああ……」とだけ返す。
◆◆◆◆◆◆
「一人より、皆でやった方が楽しいと思う。だから、行こう?五月」
私がかつて四葉に言われた言葉を言うと、四葉はこっちを見て笑っていた。五月は、その言葉を言われて少し迷っていたが、私は構わず五月の腕を握り私の部屋に連れ込んでいた。
「す、少し強引じゃ……?」
「こうでもしないと、五月が来ないから」
私の部屋に入れて、五月の腕を放すとそう言われる。
多少無理があっても、五月の心はあの言葉を聞いて揺らいでいたから、問題はないと思う。
「それに、二人だけでも無理なことでも三人ならどうにかなるよ。五月だって、本当は一人で勉強することに限界を感じているんでしょ?」
「それは……そうですが……」
やっぱり、「二人では無理」と言っていたから一人での勉強に限界を感じていたのは間違いなかった。五月のことだし、一人で頑張っていたと思う。
「迷っている暇なんてないと思う。先生も丁度来たみたいだしね……」
私の部屋の扉が開いた音を聞きながら、ソラが入って来るのを待っていた。
◆◆◆◆◆◆
俺が来るまでに少し話をしていたのか、部屋に入ると俺の方を見ながら待ちわびていたかのように見ている。
「待たせた……か。さて、始めるぞ……」
そういえば、俺は三玖の部屋に入るのは初めてだ。そもそも、五つ子の部屋に入ることすらなかったしな……。三玖の部屋は、和そのものと言うのが相応しいだろう。俺は小声で「三玖らしいな……」と言う。俺は畳の方にあがり、五月と三玖の勉強を見始める。
「二人共分からないところがあったら聞けよ」
三玖は勉強を始め、そんな三玖の姿を見て五月は渋々勉強を始めている。俺は、三玖と五月の勉強を見ながら三玖と五月が勉強で分からないところがあれば教えてあげていた。
勉強を始めて、1時間は経った辺りで五月は俺に勉強を教えてもらった後ある質問をした。
「脇城君、一つ聞きたいことがあるんです。このまま行けば私達は赤点回避をできると思いますか?」
五月の言葉は淡々としていた。何故、そのようなことを聞いてきたのか分からなかったが多少なりとも自分の点数を気にしているのだからだろうと考えていた。だが、俺の心の中では少しだけ何か引っかかっていた。
「ああ、このまま行けば……」
こいつらを不安にさせない為に敢えて嘘をつこうとするが……。
「はっきりと言ってください」
五月の真剣な表情に俺は再び考え込みながら、目を瞑る。此処で、余計なことを言ってしまったら二人のやる気にも関わると思っていたが、言うべきだったか……。仕方ない。
「正直言って、無理だ。後一週間で赤点回避なんてことはできねえ」
その言葉に三玖と五月は言葉を詰まらせながら、拳を強く握り締める……。
「でも、俺はお前らを信じている。お前らなら赤点を回避できるとな」
皆、勉強を頑張ってくれている。五月の勉強を見る限り、まだ程遠いが勉強していると言うのが分かった。他の三つ子も勉強しているから一花が言ってくれたように何度か泊まり込みで教えれば赤点回避は出来る可能性は高い。
「そんな単純な言葉で……」
「ああ、俺もそう思う。信じるなんて言葉は口では幾らでも言える。でも、お前らの勉強の出来を見ている限り俺は信じるに値すると思った。それだけだ」
「見たところ、五月も勉強を頑張ってくれているみたいだしな。それと、お前と上杉の間に何があったのかは俺は知らないけど。あいつは悪い奴じゃない。それだけは分かってやってくれないか」
俺が言うべき言葉でもないが……。上杉と和解するときのことも考えて、一応フォローは入れておいてやるか。
「分かっています。彼はお金の為ではなく、らいはちゃんや私達の為に教えてくれていることは……」
「分かっているならいいんだ……」
それから、再び五月と三玖は勉強を再開し始め、あれから更に一時間近く勉強しただろうか……。ある程度、二人は勉強を理解し始めている。でも、俺の実力だけじゃやっぱり足りない。上杉の勉強をなんとか教えることもできれば有難いが……。五月に関しては、基本的に上杉に任せたいところだ。
勉強をある程度終わらせて、休憩時間を設けた。五月は一階に降りて行き、三玖も一階に行こうとしていたが、ドアノブに触れようとしていた手を下ろした。
「ソラ、私達大丈夫かな?」
三玖の心配な声が聞こえる。
大丈夫……。テストのことだろうと、俺はすぐに理解する。
「心配すんな、俺達が頑張ってお前らの赤点回避をしてやるから」
そう言うが三玖の表情に未だに霧が掛かっているように見える。
「うん、だよね……」
落ち着きがない小さな声で三玖は弱々しく言う。三玖の後ろ姿は何処か、悲しくまるで何かを思い出したかのようなものを感じさせている。そんな三玖が部屋から出る姿を見ながら、俺は三玖に何かあったんじゃないかと考えていた。
三玖のことを考えていると、携帯にメールの着信音が鳴る。確認すると、上杉からだった。家にいるんだから、三玖の部屋に来て言いに来ればいいだろうと思いながらも、メールを確認するとそこにはあんまり考えたくもないことが書かれていた。
その内容は――。
二乃に中野の父との条件がバレたとのことだった……。
だが、俺の中では二乃のことより三玖のことが気になって仕方なかった。まるで、三玖に何か悟られてしまっているような気がしていたからだ。俺は考えているうちに体が勝手に動き始め、すぐに扉を開けて三玖を追った。