「ソラ、私達大丈夫かな?」
俺はあの時から三玖に対して何かしらの違和感を感じていた。だが、あのとき一瞬でも俺はそれを気のせいだろうと振り払ってしまった。それが間違いだったんだ。案の定、三玖の背中は何処か悲しそうな感じがしていたのに俺はすぐに気づいたんだ。
今日、学校で話しかけたときも何処か反応が鈍いような感じだった。だから少しいつもと違うような気がしていたいのにはすぐに気づいていたんだ。
「……脇城君」
三玖の部屋を出るとすぐ前に五月が立っていた。五月の顔色に元気は無かった。下の階の様子を見ると、上杉達がまだ勉強を続けているようだ。二乃は居ないようだが……。上杉にも二乃の件のことを聞きたいがそれは後だ。今は三玖のことだ。
「外で話せるか?」
上杉達が下の階に居る以上、此処で話すのはあまり良くないだろうと思った俺は五月に外に行くことを提案する。
「分かりました」
俺と五月は二階を階段を使って下りると、俺が下りてきたのに気づいた上杉が俺の方を見る。
「何かあったのか?」
五月と三玖が話しているところを見ていたのか、三玖に何かあったのかを気づいていたのか上杉が俺に確認してくる。
「上杉は気にしなくていい。これは俺が蒔いた種だ、俺が何とかする」
上杉はそれでも納得していない様子であった。
「お前にはあの二人の勉強を見ていて欲しい。それに、これは俺にしか出来ないことだから」
そう言うと、上杉は四葉と一花の方を見る。二人の姿を見て、俺が二人に勉強を教えなくちゃな……。とでも思ったのか、「お前に任せる」と言って二人のところに戻って行った。上杉を少し見てから、俺は五月と共に家を出てオートロックの扉の前に行くのであった。それから、数分経った後五月の方から喋り始める。
「脇城君は、どうあっても三玖に会いに行きたいんですね」
「当たり前だ。俺はあいつの後ろ姿を見たとき、気づいたんだ。あいつの影に悲しみがあったってことを……」
じゃないと、あんな悲しそうな後ろ姿を見せる訳がない。
「あの悲しみが何なのかは俺には分からねえ。だけど、俺は友達が苦しんでるのを黙って見ている程、冷酷な人間でもねえ。お前だって姉妹だろ?苦しんでる姉の姿を見ていて黙ってられるのかよ」
「確かに貴方の言う通りです……。分かりました、ただ三玖を探すのは私も手伝います。妹としての責任もありますから」
五月はそう言い、俺と三玖を探すのを手伝ってくれるようだ。
「そうか、ありがとう。ところで三玖が何処に行ったか心辺りがあるか?」
三玖が行きそうなところを思いつかなかった俺は五月に聞いてみる。
「そうですね……。図書館はもうこの時間空いてないので、一度公園を見に行ってみますか?」
「分かった」
俺と五月は公園を目指しながら歩き始める。時間帯は既に夜になっており、大体20時ぐらいだろうか。かなり辺りも暗くなっているし、街灯だけを頼りに歩くしかないな。そんなことを思っていると、俺の携帯に着信音が鳴る。誰だろうかと確認すると、一花だった。
何の用だろうか……?俺は電話に出ながら走り始める。
「何か用か?一花」
一花の電話口から風の音が聞こえて外にいるのが伝わって来る。上杉達に気づかれないようにする為に外に出ているのだろうか。
『今、三玖のことを探しているんでしょ?』
その言葉に一旦俺は止まるが、気づいていたのかと思って再び走り始めながら俺は一花に返事をする。
『やっぱりそうなんだ。それで、三玖のことでちょっと気になっててさ』
三玖のこと……。
一花も三玖の様子が少しおかしかったことに気づいていたのか。
『昨日さ、三玖がちょっと用事あるって言って帰って来た後に少し様子がおかしかったのに気づいていたんだ……。それで、考えていたんだけど……』
『もしかしたら、三玖はソラ君の後を追いかけていたんじゃないかなって思ったの……』
俺の後を追いかけていた……?と言うことはまさか……?
『多分だけど、そこで三玖は聞いちゃいけないことを聞いてそれで思い悩んでいるんだと思う』
聞いちゃいけないこと……。
間違いなく、あのことだ。三玖は俺達が話していた中野父からの条件の話を聞いていたんだ。その話を聞いた三玖がどうなるかなんてことは目に見えて分かる。くそっ、俺が三玖のことを気にかけてもっと早く声を掛けてやるべきだった。
『私の勘違いだったらごめん。でも、少し気になってさ』
「いや、勘違いじゃないと思う。ありがとうな、一花」
俺は拳を血管が浮き出るほど握り締めながらもっと早くに声を掛けてやるべきだと思っていた自分に後悔をしながら、電話を続ける。
『うん。三玖のこと頼むね。それと、三玖の行った先だけど多分……』
一花はそう言って、俺に三玖が行った先を教えてくれた。俺は再び一花にお礼を言ってポケットに携帯を入れる。
「今の電話、一花からですか?」
「ああ、一花の奴三玖の何処に居るのか検討があるようだ。その場所に行こう」
俺は五月に三玖が行った先、甘味処のことを言った。
五月は「分かりました」と言って、公園とは反対方向へと向かう。俺もそれに続いて反対方向へと向かう。
「五月、少し聞きたい事がある。三玖がああなった原因、俺と上杉にあるんじゃないのか?」
「……少し当たっています。三玖は上杉君が赤点を回避できなかったら辞めさせられることを知っていたんです。もしかしたら、そのせいで深く考え込んでしまったのかも知れません」
一花が言っていた通り、三玖は上杉が辞めさせられると言うことを知っていたのか。
「それに私が余計なことを言ってしまったのもあります。もし、上杉君が辞めることになれば脇城君も辞めさせられることになると考えていたからです」
俺の存在はとっくの前に中野父に気づかれているだろう。となると、俺も赤点回避をできなければ、確実に家庭教師を辞めさせられることに間違いない。
「その考え、当たっているだろうな……」
三玖がそのことを聞いて二人を辞めさせたくないと思ったのは間違いないはず。ただ、その後三玖が何を思ったのかが俺にとっては重要だと思っている。それだけなら、あんなにも悲しい後ろ姿は見えないだろうから。
「もう一ついいか?三玖は家を出る前お前に何か言っていたか……?」
「……力になれなくてごめん。と言っていました」
力になれなくてごめん……か。
その言葉にどういう意味が込められているのか。考えていると、三玖が居ると思われる目的地に着いた。
「……五月、此処まで来てもらって悪いが此処で待っててくれないか。二人で話をしたいんだ」
「分かりました。此処で待っています」
俺は五月の返事を聞いてから、甘味処の扉をゆっくりと開ける。扉をゆっくりと開けている間に三玖になんて声を掛けようかと悩んでいたが、そんなことを考えていたら扉はすぐに開いてしまった。気づいた店員さんが「いらっしゃいませ」と言いながら、厨房に戻っている。
周りを見ると外は木々があり、自然豊かな甘味処となっているようだ。耳と目で周りを確かめながら、今度はお客さんの方に目を向ける三玖が居ないかを確認すると、ヘッドホンを付けた女子を見つける。髪型を見ると、すぐに俺はその人物が三玖だと気づいた。
三玖はこちらに気づいておらず、お客さんが来たぐらい感覚なのかもしれない。三玖に気づかれないようにする為に、俺は音を立ててず歩きながら三玖が座っている席のところに行く。
三玖はまだこちらに気づいていなかった。なんて声を掛けようかと悩んでいたが、そんなことを考えている暇はないと思い俺は三玖に声を掛ける。
「……よぉ、三玖」
この場の空気に合わないような声の掛け方をしてしまったような気がする。しかし、最初から重苦しい雰囲気で声を掛ける必要もないか。と思いながら俺は三玖の方を見る。
「……ソラ」
三玖は俺の方を見ず、下を向きながらテーブルに置いてあったノートをしまう。
勉強していたんだな……。
「なんで……此処にいるの?」
三玖からして見れば、なんで此処にいるのかは分からないも当たり前か。
「休憩しようと思ったんだが、偶々良い店を見つけたから来ただけだ」
「そんなの嘘だよ……。私が此処にいるって聞いたんでしょ」
三玖の声は何処か震えている。
「……一花から聞いたんだ。三玖が此処に居るかもしれないって……。それと、お前が気になって追いかけて来た」
外の景色を見ると、曇り始めて来てまるで三玖の心情を表しているかのようだった。此処で誤魔化してもさっきみたいになるだけだな。
「私は大丈夫……」
「じゃあ、あのとき見せた寂しそうな感じも大丈夫だったって言うのか……?」
そのことを言われた三玖はハッとしたような顔をして、一瞬だけ俺の顔を見るがすぐに下を向く。まるで、俺と三玖の立場が変わった感じだな。俺は三玖の目を見ることがあんまりできなかった。けど、今は違う。こいつのことを助けたいと思っているからこそ、俺はこいつを信じてこいつをちゃんと見ている。
それに対して、三玖は割と俺の目を見て話している。だが、今日は違う。完全に俺と目を合わせてようとはしていなかった。
「あのとき、お前が何を思っていたのかは分からない。でも、そんなにも声を震わせていて今にも泣きそうな奴に大丈夫って言われて、帰られる訳がない」
俺の心が何度も何度も「違う」と刺激してきているが、俺は無視する。心の中では、俺はまだ女子と関わりなんてものは持ちたくないと思っている。だが、今はそんなことを思っている場合じゃない。俺は三玖を助けたいんだから。
「心配性で悪いな。だけど、俺はお前が何か隠していると思ったんだ……」
結局、三玖が何を考えているのかなんて分からなかった。分からなかったから聞くしなかった。情けない話だが、こうするしか手はなかった。
「……ソラは鋭いね。じゃあ、一つソラに聞くね」
「もし、私達五つ子の中で誰かが赤点を取ったらソラはどうする?」
そういう流れに来るか……。
五月が言っていた通り、あのことで気にしているのだろうか。
「……そのときは俺達の力量不足ってことで諦める。だが、そうならない為にも俺達が万全の体制でテストに挑めるようにしてやる」
そう言うと、三玖は目から一滴の涙が零れている。その涙はまるで水滴のように一気に落ちて行った。
「そんなの無理だよ。……皆の足を引っ張ることになる」
「だって、五つ子の中で私が一番落ちこぼれなんだから」
――俺の拳に怒りが混み上げる。
勿論、三玖に対してじゃない。俺自身に対してだ。俺は三玖に自信が無いことに気づける時があったはずだ。そうだ、あのときだ。
「少しでも多く勉強しようと思ったの……。ソラを驚かせたかったから」
あのとき、三玖は俺を驚かせたくて勉強を頑張っていたと俺は勝手に勘違いしていた。だが、あれは三玖の心の奥底では自分が落ちこぼれだと言うことを理解していていたんだ。だから、あんな熱心にも勉強をしていたんだ。
あのときに気づけって言う方が無理だろうとは思われるかも知れない。俺は家庭教師なんだ。こいつがあんなにも必死に勉強をしているときに聞くべきだったんだ。なんでそんなに勉強を頑張っているのかと……。あのとき、聞いていたらこんなにも遅く気づくことは無かったのかもしれない。
「だから、きっと私はテストで赤点を取ると思う。今更になってごめん、ソラ。……他の皆にも迷惑が掛かるよね」
三玖は一度顔を上げた後、深々と頭を下げてくる。俺はその姿を見て更に自分に対して苛立ち始めていた。ずっと三玖に後悔の念を言わせて俺は何も言わずただ黙っていることに対して……。三玖の様子をおかしいと思ってすぐに声を掛けなかったこと。そして、先ほど言った通りのこと……。
俺はその苛立ちを深呼吸をしながら抑え、心の中の領域に一旦入る。
「気づいてやれなくてすまなかった……」
心を落ち着かせた後、苛立ちが消えたのは見計らって俺は三玖に謝罪をする。謝罪をされた三玖は体の動きが止まり驚いている。怒られると思っていたんだろう。
「俺はお前が自分に自信がないことを気づいてやれなかった。本当にすまなかった……」
俺は三玖のことを上面でしか見ていなかったのかもしれない。こうやって三玖のことを悲しませている時点でそうだろう。だから、俺から三玖に言う言葉なんてこれ以外考えられなかった。
「怒らないの……ソラ」
三玖は少しずつ零れ落ちてきている涙を拭きながら言う。
「当たり前だろ、三玖に対して怒るところなんて何一つない」
「ソラが無くても他の皆は……きっと」
それでも自分の否定をしてくる三玖。仮に此処に上杉が居ても怒る訳がないだろうな……。
俺は一旦周りを見る。とある奴が俺と三玖のことを心配して店に来ているんじゃないかと思ったからだ。案の定、そいつは来ていた。俺に気づかれたのを見て、こっそりメニュー表で顔を隠す。
ただ、ちょっと予想外の奴もそこには居たが……。
「なら、他の皆にも聞いてみろよ」
三玖が「え……?」と言いながら、顔を上げて俺が向いた方向を見る。
そこにいたのは、二乃と五月だった。三玖は二人を見て何を話せばいいのか迷っているのか、口篭らせている。そんな姿を見兼ねた二乃が溜め息を吐きながら三玖に近づきテーブルを軽く叩く。
「……赤点を回避できなかったら上杉は辞める。良いことを聞いたと思ったわ」
悪巧みを考えているときの二乃とは違い、眼差しは真っ直ぐそのもので三玖の顎を掴み、目を合わせようとしない三玖に対して更に溜め息を吐く……。
「あんたの悲しそうな顔を見て、そうも言ってられないと思った」
「嫌だけど私も勉強に参加するわ。三玖のあんな顔は見たくないし」
三玖の顔を見て二乃はそう言う。
姉妹を一番に考えている二乃だからこそ出て来た言葉なのだろう。
「に、二乃が勉強しても私は……」
「あー!もう!あんたのそういうところ苦手なのよ!赤点になったら何よ!?そんなことはなった後に考えなさいよ!今こうしてウジウジ考えていたって何も変わらない!それと、あんたに怒ることなんて何一つ無いわよ!私はこいつらが辞めてくれるって聞いてたから、清々してたぐらいだし!」
二乃は言いたい事を言い切った後満足したかのように、「フン」と言いながら自分の席に戻り、飲み物をゆっくりと飲み始めて一息ついたかのように、深呼吸する。
「私も二乃と同じで、三玖に怒ることなんてありません。勿論、一花達だって三玖のことを怒る訳がありません。私も赤点を回避できなければ上杉君に辞めてもらうと言われた時、絶対に無理だと思っていました。恐らく、今も思っています。ですが、全力を出し切れば必ず結果は付いてくるはずです……」
「そうですよね?脇城君」
二乃に引き続き、五月が三玖に言葉を掛けた後、俺に最後を任せてくる。
「当たり前だ、そのために俺達がいるんだからな。三玖が心の底からもう大丈夫だと思えるぐらい勉強を教えてやるから覚悟しろ。それとあんまり一人で背負いこむな。一人でそういう感情背負いこむの辛いだろ」
背負いこむか……。
その言葉はまるで自分に鏡が当たられたような気がしていたが俺は無視する。その言葉に三玖は「ありがとう」と言いながら、涙を必死に拭いている。俺はそっとハンカチを差し出す。五月はホッとしたかのように、席に戻り口の中に一気にケーキを入れる。
二乃はと言うと、落ち着いたのか飲み物を飲んでいた。三玖を再度見ると、涙は拭き終わっており、俺にまた「ありがとう」と言ってきた。俺はそれに対して「気にすんな」と言って返すのであった。
その後、ある程度食事を終えて会計をした後、一応店内で騒いでいたかもしれないと思って謝罪をしておいていたが、「気にしなくていいですよ」と笑顔で言われる。悪いことをしたかもなと思いながら出る。
「お前やっぱり中まで入ってきたんだな」
三玖が出るのを待ちながら、俺は五月に話しかける。
「し、仕方ないじゃないですか……。此処まで来たのに脇城君だけに任せるのも少しおかしいような気がしていたので……」
確かに五月とは此処まで一緒に来ていたし三玖絡みで今回お世話になったから中まで来てもらってよかったかもな。
「かもな。ところで、なんでお前いたんだ?」
二乃を見ながら、言う。
「……部屋に戻ろうとした時に三玖の顔を見たの。凄い暗い表情だった。最初は見なかったことにしようと思ったんだけど、忘れられなくて三玖が居そうなところ片っ端から探していたらようやく見つけたらあんた達がいたのよ」
そういうことか……。
……二乃の奴も知っていたということか。
「そうか……、ありがとうな二人共。今回二人が居なかったら多分俺は三玖を説得できなかったと思う。だから、二人には感謝している」
「正直言って見ていて、凄く焦れったかったわ。あんたは思ったより頼りなかったし」
五月が「いえ、大丈夫です」と言っている横で、声を遮るように大きな声で二乃は呆れたように言うが、その声に棘は無かった。
「次はちゃんとしなさいよ?それと言っておくけど、赤点回避できたら私アンタ達の勉強もう受けないからね。……もう必要ないだろうし」
確かに、赤点回避を出来れば必要もない……のか。いや、今回ちゃんとしてくれると言うだけまだいいか。
「分かったよ。五月はどうする?上杉のこともまだあるし……」
「……悠長なことを言っていられないのは分かっていますがやはりまだ上杉君の勉強を受ける気にはなれません。ですが、脇城君が教えてくれると言うのでしたら構いません」
あればっかりは上杉と五月の問題だし、あんまり言うべきでもないだろう。此処で言って関係を拗らせたら面倒なことになるだろうしな……。その言葉を聞いた後、俺は「分かった」と言う。店の方を見ると、そろそろ三玖が出て来そうだ。
すると、二乃がそれに気づいたのか……。
「それじゃあ、私達先に帰るわ。ほら、行くわよ五月!」
五月は「え?待ってください二乃!」と困惑しながら、走って二乃を追いかけるのであった。二乃の奴、気を遣って俺と三玖を二人っきりにしたのか……。まあ、そこは女子らしく気を遣ったとみて有難いと感謝するべきか。
「三玖、もう大丈夫なのか?」
店から出て来た三玖に話しかける。
「うん、大丈夫だよ。二人は帰っちゃったの……?」
三玖が二乃と五月が居ない事に気づく……。
「ああ、さっきまではいたんだがな」
因みに、三玖が来るのが遅かったのは俺と同様一応騒いでいたのは間違いないのでお店の方に謝りを入れていたようだ。俺は三玖が持っている袋に気づきそれを見ているのに気づいたのか、三玖が言う。
「これ、お店の人がおまんじゅうって……。常連さんだから気にしないでくださいって言われた」
なるほど、いいお店だな……。三玖が「帰ったら、皆で食べよう」と言っていた。
俺と三玖は歩き始め、三玖の家へと戻るのであった。そして、歩き始めてから少し経った後三玖が俺に話しかける。
「待って、ソラ」
歩いていた俺は足を止めて、後ろを向いて三玖の方を見ると三玖は俺に何か言いたそうにしている。
「ありがとうね、ソラ……」
心の底からの声が聞こえたような気がする。三玖の顔を見た後、チラッと恥ずかしくなった気がして目を逸らすとそこにあったのは綺麗な星空だった。こんなことを言うのは恥ずかしいが、多分三玖の笑顔はきっと星座や夜空にすら負けない笑顔だったような気がする。
俺にとって眩しかったのかもしれない。だけど、今はこう返してやるべきだよな。
「どういたしまして」