五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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三女の願いと自身のクビ

「あんた、此処教えなさいよ」

 

 三玖の一件も終わり、あの後俺は三玖達の家に戻って来た。心配していた一花や上杉には三玖の事は話して置いた。一花には赤点のことは話していない。上杉のことだ、あの様子なら多分あの二人に話すだろう。今は二乃、三玖、五月の勉強を俺が教えている。三人の勉強を同時に見るなんてことはかなり難しいが音を上げている場合じゃない。

 

「そこか、文章をよく読んで翻訳して行けば分かると思うぞ」

 

 二乃が英語が一番得意だと言うのには少し驚いていた。確かに、二乃の小テストを見たとき姉妹の中で一番英語が高かったがあまり良い点数ではなかったからな。

 

「脇城君、すいません。此処を教えてもらってもいいでしょうか?」

 

 五月が見せてきたのは化学の内容だ。物理や化学にも言えたことだが、こっちの分野は嫌いではないが得意でもない。まぁまぁと言ったところか……。ただ、物理はかなり苦手だ。正直言ってなんでそうなると思うところがあり過ぎる……。

 五月も小テストの内容を見たとき、化学の内容は解けていた方だ。良い点数ではないが……。とりあえず、二人共まずは長所を伸ばすところから俺は始めている。三玖に関しては依然として社会全般が突き抜けている以外平均的になってきている。英語は俺の力不足もあるだろうから、若干危ういが……。

 

 五月にアドバイスをした後、俺は三玖の勉強の様子を見る。

 

「大丈夫か?」

 

 不意にそんな声を掛ける。見る限り大丈夫そうだが、声は掛けておいた方がいいだろうと思っていた俺が声を掛けた。

 

「うん。ソラやフータローに教えてもらったから英語の方は分かってきた気がする」

 

 なら、良かったと言ったところか……。勉強しているところを見るに今のところ間違っていないようだし……。

 

「そういえば、三玖。こいつに言ったの?」

 

「まだ言ってない……」

 

 二乃が三玖に俺に何かを言おうとしていたのを知っていたのか三玖に言う。

 なんのことだろうか……?俺と五月は首を傾げる。

 

「どうせ自分の口で言うつもりないんだろうし、言っちゃうわよ。三玖が昨日のこと悪かったって思ってたって。三玖は全然悪くないのに考え過ぎよ」

 

 そのことか……。

 三玖が悪い訳がない。俺が三玖のことに気づけたはずなのに気づけずにいた俺が悪いんだ。

 

「二乃の言う通りだ。三玖は悪くない」

 

「ほら、こいつも言ってるじゃない。あんたが気にすることなんてこれぽっちも無いんだし、過ぎたことで一々ウジウジしない!」

 

 そう言われた三玖は二乃に励まされたのか、「ありがとう」と言い勉強を続けていた。どうやら三玖の蟠りは解けたようだ。二乃の奴はよく姉妹のことを見ているな。姉妹を大切にしているだけのことはあるか……。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ソラ。ちょっといい?」

 

 次の日、学校が終わった後すぐに二乃に家に来るように言われ俺は二乃の家に来ていた。そして、俺は二乃の部屋へと二乃に案内された。綺麗に片付けてあり、女子っぽい感じがする部屋だなと思っていた。

 

「何か用か?」

 

 二乃の部屋の壁に寄りかかりながら、欠伸を隠して待っていると二乃が収納ケースからピアッサーを取り出す。耳開ける気か、まあどうでもいいが……。

 

「耳開けて」

 

 穴開け機を俺に渡し、覚悟を決めたかのように水を飲み終える二乃。

 

「因みに聞くがなんでだ?」

 

 ピアス開けるのは自由だが、失敗をすればかなりの痛みが伴う。俺の場合余所見をしていたせいもあるが……。

 

「深い理由なんてないわ。一花だって開けてるし、私も開けてみようかなって思ったの」

 

 ああ、よくある周りもしてるから私もしたいって言う奴か……。と思いつつ俺はピアッサーを勝手に動かしていた。

 

「言っておくがかなり痛いぞ。一回やったことあるから分かるが暫く血が出るかも知れんぞ」

 

 あのときは他のことに気を取られていたということもあったのは事実だが……。まあ結局のところ余所見をしていると痛みが伴うってことだ。

 

「あんたやっぱ耳開けてたんだ。なら、やり方分かるでしょ」

 

 二乃にピアスを開けたい理由を聞いていたが、俺もそう言えばこいつと似たような理由だったか……。周りがしているからちょっとしてみようかなぁって思ったって感じだったな。

 

「それじゃあ、行くぞ。3……2……1……」

 

 脅迫めいた声を出しながら言うと、二乃は体を震わせる。やっぱりこいつ怖いんだろ、耳開けるの……。

 

「待って!ちょっと待って!」

 

 大きな声でストップをかける二乃。仕方なく、ピアッサーを近づけるのを止める。

 

「なんだ怖いのか?なら、やめておいた方がいいぞ」

 

 此処でこいつらに日頃の恨みを晴らそうと思っていたが怖いと思うことを無理矢理やるほど鬼ではない。上杉だったらやっていただろうけど……。

 

「は?こ、怖い!?ち、違うわよ!心の準備ってものがあるでしょ!」

 

 怖いと言う言葉にかなり反応を示す二乃。

 ……その反応に俺はすぐに思う。こいつ無理して開けようとしているなと……。

 

「心の準備ってなんだよ、怖いなら止めといた方がいいぞ。マジで」

 

「だから怖いんじゃなくて、心の準備が足りなかっただけ!」

 

 ゆっくりと深呼吸をする二乃。そんなに怖かったのなら止めておけよ……。

 

「あんただって耳開けたとき怖くなかったの!?」

 

 耳開けたときのことか……。痛かった記憶しかないから全然覚えてねえ。

 

「いや、全然。ただ滅茶苦茶血が耳からポタポタと垂れたぞ」

 

 逆に耳を開けるのが怖くなることを言いながら再度耳にピアッサーを当てようとする。

 

 

 

 

「やっぱまだ私に早いわ!」

 

 ベッドから立ち上がり、二乃がまたゆっくりと深呼吸をする。

 

「アンタの話を聞いていたら開けるの怖くなったわ」

 

 なんだ、やっぱり怖いのかと思いつつ、俺は二乃と共にリビングに戻るのであったが、俺の口から余計な言葉が出そうになったので俺は自分の頬を叩く。危ない、口滑って五月に言ったことを言いそうになった。俺達はその後当然部屋に戻って勉強を始める。

 

 

 

 

 勉強を始めて、あれから何時間ぐらいが経っただろうか。

 もう覚えてないがかなり時間が経ったのは間違いない。目を手で見えなくして情けない声を出して俺は一旦落ち着かせる。その声に二乃と五月が少し笑うが、俺は構わずあいつらの勉強を見る。

 

「ソラ、一つお願いがあるの」

 

 情けない声を出した後、平然としていた三玖が俺に話しかけてくる。

 

「なんだ……?」

 

 お願い……?

 いったい、なんだろうか……。

 

「もし私が5教科全部赤点回避できたら……」

 

 

 

 

 

 

「私とキャンプファイヤーを踊って欲しい」

 

 三玖が恥じらいながら言う。

 キャンプファイヤー……。確か林間学校でそんな行事があったな……。キャンプファイヤーぐらいなら踊ってもいいか……。その方が三玖の勉強の出来具合も変わって来るだろうしな。

 

「俺なんかでいいのか?」

 

 三玖に一応、確認する。三玖は頷き、

 

「うん、ソラとじゃなきゃヤダ」

 

 三玖は俺に対して眩しいぐらいの笑顔を俺に見せつけてくる。

 その顔を若干見た後、俺は視線を逸らす。

 

「分かった、三玖がそこまで言うならいいよ」

 

 嬉しそうにする三玖。

 その顔を見て俺は、顔には出していなかったが嬉しかったのかもしれない。それから、少しの間だけ休憩時間を入れることにした。休憩と言うと、二乃は疲れたのかテーブルにうつ伏せになり、携帯を弄っている。五月はというと、欠伸をしていたが俺に見られていたことに気づいて少し恥ずかしそうにしていた。三玖はうたた寝をしながら何度か起きて勉強を続けようとしていた。

 俺も休憩するかと思っていると、携帯から通知音が流れる。

 

 

 

 

「少しベランダに来てもらってもいい?」

 

 相手は一花からだった。何か言いたいことでもあるのだろうか……。とりあえず行くか……。俺は二乃達に少し部屋から出るということを伝えておいて俺は三玖の部屋から出る。三玖の部屋から出ると、犬のように唸っている四葉の声が聞こえる。そして、四葉の勉強をクマの如く見ているのは上杉。この感じ、他の五つ子が逃げようとした瞬間、導火線が一気に爆発しそうだな。

 そんなことを思いながら、俺は階段を使って一階に下りて行くと、四葉が俺に気づく。

 

「あっ、脇城さん!お疲れ様です!」

 

 上杉から逃げてくる四葉。若干半泣きになっている気がするが気のせいだよな。

 

「おつ。結構スパルタでやられてんな四葉」

 

「そうなんですよ!上杉さん、問題間違えるごとに怒って来るんですよ!」

 

 いや、多分上杉は怒ってないと思うぞ。四葉の出来なさに頭を痛めているだけだと思う。

 

「お前の出来なさに頭が痛くなっているだけだ……」

 

 上杉が頭を抱えながら、四葉の問題を見ている。

 あの感じだと、ありゃあほとんど間違えているという顔だな。四葉は図星を突かれたのか、何も言えずにいた。

 

「そっちは大丈夫なのか?」

 

「ああ、こっちは大丈夫だ。一花の方はどうなんだ?」

 

「あいつは妥協点といったところだな」

 

 良くもなく、悪くもなくって感じか……。

 

「そうか」

 

 俺はそう言い、ベランダへと行くのであった。

 しかし、一花の奴話ってなんだ……?また何かあったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「あっ、来てくれたんだ。ソラ君」

 

「そりゃあ、呼ばれたんだから来るだろ」

 

 ベランダの鉄格子に腕を組み寄りかかりながら若干猫背の体勢で俺は息を吐く。

 今日、寒いな。

 

「それもそうだね。三人共、勉強の方は大丈夫そう?」

 

「今のところは大丈夫だと思う。ただこの先教えるとすれば、やはり上杉の力が必要不可欠なのは間違いないな」

 

 凍え始めている手をズボンのポケットの中に入れて温め始める。

 

「五月ちゃんもフータロー君と仲直りすればいいのにね」

 

 こいつ上杉と五月が仲が悪くなっていたのに気づいていたのか……。一花のことだし、ああいうことには気づきやすいだろうとは思っていたが……。

 

「でもあの二人似た者同士だから難しいんだろうね」

 

「似た者同士……あいつらがか?」

 

 親友のことを悪く言うつもりはないが、上杉の方が割と酷い奴だと思うぞ。

 と最初の頃に色々言われたことを思い出していた。

 

「うん。よく観察して見れば分かると思うよ。ほら、二人共割と意地っ張りじゃない?」

 

 ……少しだけ確かにと思ってしまった自分がいた。

 それにしても、一花の奴結構姉妹のことを見ているんだな……。

 

「確かにな……」

 

「でしょ。だから難しいかも知れないけど、きっとすぐに仲直りできると思うよ。それとさ、フータロー君から聞いたんだ」

 

 恐らく、赤点回避のことを聞いたんだろうと思っているとベランダに入って来る音が聞こえる。

 

 

 

 

「す、すいません、二人共……。父が脇城君に電話を繋いで欲しいと……」

 

「電話……まさか……」

 

 一花は気づいたのか俺を見る。

 そういうことだろう。このタイミングで俺に電話ということは……。俺は五月から携帯を受け取り、軽めに耳に当て、「……もしもし」と言う。

 

「キミが脇城空君だね」

 

 ……なるほど、上杉がああなるのも分かる声だ。声の主からはまるで威圧かのようなものを感じさせる。只者ではないというのがすぐに分かった。今にも、プレス機で自分自身が押し潰されそうな勢いだ。

 

「はい、そうです。僭越ながら貴方の娘達の家庭教師をやらせてもらっています」

 

「そこまで畏まらなくてもいい。キミの話は聞いている。家庭教師である上杉君と共に娘達に勉強を教えてくれていたそうじゃないか?」

 

 この人、多分俺のことを調べているな……。と言うか、家庭教師をやっている人間のことを調べないはずがないからな。何処まで調べているかは知らないが、経歴を調べているのは間違いないだろう。

 

「その通りです……。それで何か御用でしょうか?」

 

 どんな用件かなんてものは、分かっているつもりだ。

 

 

 

 

「長く話すのは嫌いでね。単刀直入に言おう。今回の中間試験、もし5人全員赤点回避させることができたらキミを上杉君と同様、家庭教師として迎え入れよう」

 

 ……悪くはない話だ。だが、良い話ばかりじゃないのは分かっている。

 

「合格させることができなかったら?」

 

「話が速くて助かる。合格させることが出来なかった場合」

 

 

 

 

 

 

「今後一切、娘達には関わらないでくれ」

 

 そう来るよな……。俺だけ何も無しってのはないだろう。分かりきっていたことだが……。

 

「わかりました……」

 

「良い返事だ。では、健闘を祈る」

 

 電話を切り、一息吐くかのように空を見上げ息を吐く……。

 それから、五月に携帯を返すと二人共あまり良い表情をしていなかった。当然か……。

 

「家庭教師のことについてですか……?」

 

 二人が此処にいる以上、誤魔化す訳にもいかないか。五月の方は俺も辞める可能性が高いと言っていたし……。

 

「……俺も上杉と同じ条件ってことだ」

 

 二人はただ黙り込む。

 

「言っておくが、他の奴らには教えるな。余計なことを背負うことになるからな……。こうなったら、意地でも赤点回避しなくちゃいけないからな。お前らの為にも、上杉の為にもな」

 

 五月は納得していないようだったが、中に戻って行った。あの顔を見る限り、あんまり気にしているようでもないから大丈夫だろうとは思うが、真面目なあいつのことだ。一応、後でフォローを入れておいてやるか。

 

「と、とんでもないことになっちゃったね、ソラ君……。フータロー君に続いてソラ君も……」

 

 上杉に続いてか……。

 この言い方的にやはり上杉の奴は言ったんだな。赤点回避ができなければと言うことを……。

 

「ああ、それでさっきの続きなんだけど。もし私達が赤点を回避できなかったらフータロー君は家庭教師を辞めることになっているんでしょ?」

 

「初めて聞いたときは驚いたけど。四葉も私も二人共の為に頑張ろうって決めたんだ。四葉はあんな感じだけどね」

 

 中の方を見ると、四葉はまた上杉に怒られているようだ。ただ、四葉の方は笑顔を浮かべているようにも見えていたが……。

 

「そう言ってくれて嬉しいぞ。ありがとうな、一花」

 

「うん。こっちこそ昨日のことはね」

 

 一花が笑みを浮かべながら言ってくる。俺はそれに対して少し返事をした後その顔をチラッと見て、目を逸らすとそれに何か不満があったのか……。

 

「ソラ君って割と女の子の目を見て話せないよね。もしかして、お姉さんのこと意識してる?」

 

「な訳ねえだろ、頭叩くぞ。てか寒いし、話それだけなら中に戻るぞ」

 

 ベランダの扉を開けて、中に一旦入った時「あったか……」と言う心の声が漏れる。

 

「こんなに可愛いお姉さんと付き合えることないよ?今なら四人の姉妹付きだよ」

 

「誰が付き合うか……。くだらねえこと言ってねえでとっとと勉強再開しろ」

 

「アハハ、そうだね。それじゃあ、フータロー君やソラ君の為に頑張りますかね!」

 

 一花はそう言って、やる気を見せる。

 そして、中に入ると鬼の形相をしている上杉に狙われるのであった。俺はそれを知らんぷりしながら三玖の部屋へと戻るのであった。これで俺のクビが掛かったことになるが、俺はそんなことよりも自分の為じゃなく五つ子や上杉の為に頑張ろうと心の中で思っていたのであった。

 

 

 

 

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