五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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五女の気持ち

「五月、なんだそれ?」

 

 俺と五月は、勉強を終えてリビングに来ている。他の4人は部屋で色々寝る準備をしているようだ。上杉の奴は今更風呂に入っている。そして先ほど、外の自販機で五月がカレースープと言う訳分からん飲み物を買ったのを見て俺は首を思いっきり傾げながらもコーラを購入していた。

 

「知らないのですか?カレースープですよ、結構ピリッとしますが美味しいですよ」

 

 カレーは飲み物と言う言葉をよく聞くが、実際にそれを体現としているものがあるから何とも言えない。そして、こいつは恐らくカレーは飲み物とかなりの確率で思い込んでいる人間だ。俺はそんな人間を見ながら、困惑している。困惑以外この感情をどう表せばいいのか分からない。

 

「良かったら、今度飲んでみますか?」

 

「いや、いらん……」

 

 即答で返すと、五月は悲しそうな顔でこちらを見てきたため「気が向いたらな」と言うとすぐに元気を取り戻している。なんだこの五女……。凄い末っ子感半端ねえな。いや、末っ子だけど……。

 

 

 

 

「そういや、あのこと気にしてないだろうな?」

 

 ある程度コーラを飲み終えた俺が椅子に座りながら言う。

 

「脇城君がクビになることですか……?そのことなら、気にしてないので大丈夫です」

 

「気にしてない?それは嘘だろ。お前、俺がクビになるから今以上に頑張ろうとしているだろ」

 

 五月の顔色は青白くなり、下を向いて俺に表情を見せないようにしている。不安でしょうがないんだろうな……。

 

「正直に言いますと、そうなのかも知れません……。上杉君に続いて、脇城君のクビが掛かっていますから」

 

 上杉はともかく、俺のクビってそんなに五月にとって大事なのか……?いや、真面目な五月のことだ。そんなこと関係なしに俺のクビのことを聞いて気を重くしているのだろう。そうなるとしたら、やはり五月にあのことを教えてたのは悪手だったか……。いや、例え教えなかったとしても五月はあの後父親に聞いて真実を知る可能性もあっただろう。こればっかりは結果論だから何とも言えないが……。

 

「少ない間とは言え、脇城君には三玖を助けてもらった恩がありますから……。それに、姉妹がこうして一つのことで輪になれたのも久々ですから」

 

 一つのことで輪になれたか……。気になるところだが、今こいつの口からそのことについて聞くべきではないだろうな。なるほどな、確かに五月が俺に恩を感じるのも無理もねえってことか……。

 

「そうか。でも、あんまり背負いこむなよ。何か役に立てることがあれば、相談しろよ」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 とりあえず、これで五月の方は大丈夫と見ていいのだろうか……。少なくとも、俺との一件では……。俺は風呂から上がってきた上杉の存在に気づき、五月の方を一瞬だけ見た後上杉を見る。

 

 

 

 

「脇城君、今日はありがとうございました。私はこれで……」

 

 上杉に五月も気づいたのか、すぐに立ち上がり夜に出くわす猫のように逃げていくのであった。

 

「おい、待て!五月……お前のことを信頼していいんだな!」

 

 部屋に入ろうとする五月に大きな声で言う上杉。

 

「足手纏いになるつもりはありません」

 

 五月はそう言って、部屋に入って行くのであった……。五月が居なくなった部屋の前を上杉は眺めていた。

 

「空……。俺は明日、勝負に出る」

 

 勝負に出る……。

 上杉が言うその言葉の意味は俺にはすぐに理解できた。俺はすぐ返事をする。今の上杉になら大丈夫だなと思いながら俺は安心をしていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「黙って俺の言うことだけを聞いていればいいんだよ……!」

 

 上杉君が言っていた言葉は、衝動的に言っているように聞こえた。つい、カッとなってしまい大きな声で怒鳴り散らすように言ってしまったような感じではあった。

 

「所詮はお金の為ですか……」

 

 花火のあの日……。

聞いた話ではあるが、上杉君は一花を導く為に頑張ってくれたと聞いていた。だから、私の中で彼の印象は少し良くなっていたのは、事実だ。それだけじゃない、らいはちゃんといた時に言っていたあの言葉。

 

「あいつの望みは全て叶えてやりたいんだ」

 

 彼の家に一度上がらせてもらったとき、はっきり言って決して裕福な生活と言えるものではなかった。寧ろ、その逆でとても貧乏な生活だった。そんな生活の中でもらいはちゃんは笑顔を絶やさず頑張っていた。上杉君はそんなあの子の姿を見て、自分がしっかりして望みを叶えてあげたいと思っていたのだろう。

 

 

 

 

「貴方のこと少しは見直していたのですが……」

 

 私も彼に対して衝動的になっていた。少しだけ信頼していた私は彼のお金の為とも言える発言に若干イラッと来てしまい、彼に対してこう告げた。

 

 

「あなたからは絶対に教わりません!!」

 

「お前だけには絶対に教えねえ!!」

 

 お互いにそのまま衝突し合い、上杉君は怒ったような顔をしながらその日そのまま帰って行った……。

 私はそんな背を見ながら、これで良かったのだろうか……。と思っていたのだ。そして、その後私は上杉君の様子がおかしかったことにすぐに気づき、父に電話を入れるのであったが……。

 

 私は、すぐにあの言葉を返した言葉を後悔することになるのであった。私はその日、急いで家に帰った。急いで帰ったのは、きっと彼の足手まといにはなりたくなかったからだ。家に帰り、私は自分の部屋にすぐさま入り、椅子に座りペンを取り出し勉強を始める。

 しかし……。

 

 

 

 

「これでは……駄目です……。これでは……まだ赤点回避には……」

 

 ふと涙がプリントに零れ始める。

勉強し自己採点を始めた。自己採点をして、改めて分かったのはあまりにも私自身の知能がかなり低いと分かってしまったことだ……。この程度の点数ではどうやっても赤点を回避することなんて無理に等しかった……。

 

 どうすればいい……。どうすれば、この現状から抜け出せるのだろうか……。もどかしさと後悔に包まれた涙を拭きながら、私はそれでも勉強を再開する。此処で手を止めてしまってはいけないと……。

 

 そして、その一日後……。

 私は、あの日三玖と共に脇城君に勉強を教わるのであった。脇城君が言っていた、私達を信じていると言う言葉に私の腰は更に重くなりそうであった。でも、彼に信頼されている以上私は頑張らなくちゃいけないと思っていたのだ。それは紛れもなく彼を信頼していたから、なのかもしれない。

 

 だから、私は彼と共になら三玖を救えるとも思っていたのだ。その次の日、脇城君のクビもこの中間試験に掛かっていることがはっきりと分かった。そうなるとは考えていた。脇城君は私にあまり背負いこむなと言っていた。脇城君と話せたおかげでその気持ちは少しは軽くなった気がしていた。

 

 だが、その気持ちはすぐに重くなった。上杉君を見てしまったからだ。私は上杉君を見た瞬間すぐにその気持ちは重くなった。らいはちゃんの為に今以上に頑張らなくちゃいけないと心の中で思い始めていたのだ。その感情から逃げる為に私はあのときあの場から離れて行った。

 

 あのとき、素直に謝っておけばもしかしたらこんなにも重苦しい空気を吸うことは無かったのかもしれない。誰も居なくなった、リビングで私は一人勉強を……。いや、違う。そうだ、此処は夢の空間――。

 

 

 

 

「やっと見つけたぞ、三玖」

 

 私が起きるとそこに立っていたのは上杉君だった。

 

「自主勉しながらうたた寝か……。いい度胸だな、罰としてお前にはスパルタで教える!お前の嫌いな教科も問答無用でやるからな!」

 

 起きたと同時に私は「えっ?」と言う声を上げる。そう言えば、朝慌てて起きて来た三玖にヘッドホンを借りていたのを忘れていた。彼が私を三玖と見間違えるのも無理はないはず。

 

「私は三玖じゃ……!」

 

「そういや、五月の姿が見当たらねえな。今も部屋で勉強を頑張っているんだろうな。間違ってもうたた寝してる訳ないだろう」

 

 彼に何かを言おうとしたが、私の口から何故か言葉が出る事はなかった。まるで金縛りでもあったかのように口が動けずにいた。

 

「どうした三玖?」

 

 朝、一花に言われた「素直になればいいのに」と言う言葉や、脇城君に言われた言葉を私は思い出す。その言葉を一つ一つ噛み締めるように思い出していると、私の瞼から一滴の涙が零れ始めた。その涙を私は彼に隠しながら、首を振る。

 

「そうか、今は生物をやってるのか?分からないところはあるか?」

 

 私が「えっと……」と言い掛けると、彼は何か言いたい事があるのか私に言い始めて来た。

 

 

 

 

 

 

「この前は悪かった」

 

 その言葉に一瞬私の心が救われたような気がした。重りが重くかかっていたこの重さからようやく解放されたような気がしていたからだ。それは間違いなく気のせいではなく本当に思ったことであった。

 

「な、なんのこと?」

 

 あくまで自分が三玖であると言うことを崩さないようにする為に私は三玖を演じる。

 

「はははっ、三玖に何言ってんだか……」

 

 上杉君は下手な笑い方で誤魔化そうとしていたが私は彼の謝罪にすぐ反応する。

 

「私こそごめんね……」

 

 上杉君はあくまで私が三玖であると認識しながら話を続けようとする。

 

「そうだ、ここが分からないんだけど……」

 

 私の進み具合に関心しながら、彼は私にちゃんと向き合って勉強を教えてくれた。そして、彼はこう言ってくれた。

 

 

 

 

「一人でよく頑張ったな」

 

 その言葉に私は無言で頷きながら、そのまま勉強を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「おい、四葉お前本当に大丈夫か……?」

 

 四葉の勉強の出来がかなり悪いことに気づいた俺は頭を抱えそうになっている。

 

「えへへ、私三歩歩いたら忘れちゃうんです」

 

 てへぺろと言いたげに舌を出している四葉。

 いや、それ駄目だろ……。早く上杉来てくれと思う程、俺は疲れそうになっていた。二乃は機嫌が悪そうな顔で携帯を弄っている。一花は勉強にやる気を出している。三玖は今ちょっと訳あって話し辛い。そして、俺はこの時間上杉が来るまで勉強を教えてなくちゃいけないのである。

 

「二乃、勉強しろ」

 

 試験までもう数日しかないと言うのにこいつは何を考えているんだ。

 

「五月蠅いわね、このケダモノ。話しかけないでくれる」

 

 携帯を引き続き動かす二乃。駄目だ、今日の二乃はどうも手ごわい。いつも手ごわいが此処まで強情なことは……あったな。

 

「脇城さん、二乃に何かしたんですか?」

 

「何もしてねえ」

 

 一花も俺に似たようなことを聞いて来たが、俺は何もしてないと返すのであった。

 

 

 

 

「フン、あんた今日三玖と寝てたでしょ?」

 

 その瞬間、俺は硬直状態になってしまう。三玖を目だけで見ると、平然を装っていた三玖がそのことを言われて鏡を見れば一発で分かるぐらいに顔が真っ赤になっていた。

 

「三玖が起きるのが遅いのはいつものことだけど、あまりにも遅かったから見に行ったら……。まさか、あんた達が一緒に寝ていたとはねぇ」

 

 事の発端は今日の朝だ。元々、俺はソファーで寝てる予定だったが、三玖や四葉に止められてしまい三玖のベッドを借りることになったのだ。因みに、ドキドキし過ぎて眠れなかったのは置いておこう。女を意識していないとか言ってるけど、やっぱりこういうところはいつまで経っても変えられないんだろうな俺……。

 とまあ、そんな感じで結局寝たのはいいが夜中、ベッドに誰かが入って来たのは分かっていたがそれを知りたくなかった俺はそのまま寝てしまった。

 

「へぇ、三玖。消極的だと思っていたけどやるじゃん」

 

 一花が気を失いかけている三玖の体を揺さぶりながら言う。

 話を戻すが、最悪なことに俺と三玖が起きる時間が同時だったのである。これが最悪だったのである。そして、今こういう状況になっており俺と三玖は会話できない状態になっている。

 

「そ、添い寝したことは事実だけど、別に俺は何もしてねえよ……」

 

「う、うん……。わ、私が寝惚けて間違って寝ちゃっただけ。に、二乃が変な勘違いしてるだけ……」

 

 いや、それを世間一般では添い寝って言うんだ三玖。俺達してた側だから何も言えないけど……。

 

「フン、このまま私が意地張ってても仕方ないし今回だけは許してあげる。ただ、次はないわよ」

 

 二乃をこちらを睨みながら、ノートを開いてシャーペンを準備し始めている。それから、俺達は再び勉強を再開しようと思ったときであった。誰かが、俺達の後ろに立っていることに気づき振り向くとそこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勉強会と言うのに、随分と賑やかですね」

 

 後ろに立っていたのは五月と、上杉であった。

 先ほどメールで上杉にこっちにもうすぐ来ると連絡は来ていたが、上杉の奴……。五月と仲直りできたんだな。

 

「あっ、五月……!来たんだね!此処座りなよ!」

 

「い、一花!一人で座れます!」

 

 一花が四葉の前に座らせ、五月が一花に言うのであった。

 

「待たせたか、空」

 

「いや、そうでもねえよ……」

 

 ぶっちゃけ、仲直りするのが遅いって言いたいところだが言わなくてもいいだろうと思った俺はそのことについては何も言わずにいた。そして、上杉もこの一団の輪の中に入り、勉強を再開する。

 

 

「さて、お前ら試験日まで勉強死ぬ気でやるから覚悟しろ!」

 

 と上杉が言うと、いつものように五つ子が「えぇ!?」と言う声を揃えて言うのであった……。

 

 

 

 

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