あれからあいつらの勉強を教えるので四苦八苦だったのだ。でも、上杉からして見れば誰も味方がいない四面楚歌の状態に比べれば今はかなり良い状態になっているのは間違いないだろう。ただ、今この状況を考えなければだが……。
「どうしてこうなった……」
激しい頭痛がするほど、思わず頭痛が痛いと言う意味が分からないことを言いそうなぐらい頭がおかしくなりそうな状況にいる。何故、そんな状態になっているのかと言うと……。今朝のことをまず話すべきだろうか。そんな暇ねえだろうけど……。
「……ふぁああ、朝か」
目を擦り滅茶苦茶弾力あるソファーから起き上がり、ストレッチを行っていた。いよいよ、中間試験当日か……。俺達はやれることはやってきたつもりだ。それに、こいつらもやれるだけのことはやったはずだ。泣いても笑っても今日全てが決まるだろう。
「こいつらも頑張ったんだ、俺も頑張らなくちゃな……」
俺も上杉や楓姉に勉強を教えてもらったんだ。高1の頃の実力まで戻っているはずだ。もしくは、それ以上か……。起き上がり、余裕を持ってコーラを取りに行こうとしたときであった。
「おはようございます、コーラ此処に置いておきますね」
起きていた五月が俺にコーラを差し出してきた気が利いており、温いコーラになっているのは有難いことだ。俺はお礼を言いながら、缶コーラの栓を開けると、上杉の声が聞こえ始める。
「いや、100点はないか」
五つ子が100点を取る夢でも見ていたのか、大きな声で起き上がる。「流石にそれはないな」と思いながら、コーラを一気に飲み缶捨てに捨てた。五月はそんな姿を見て笑っていた。しかし、起き上がった上杉はすぐに時計を見て固まる。いったい、どうしたのだろうかと思いながら、俺も時計を見る……。
「な、なぁ空、五月……確認だがいいか?」
上杉は今汗が顔からダラダラと出ているだろう。恐らく、冷静ではいないのは間違いない。
マズい、これはマズい……。何がマズいかと言うと、今絶体絶命の危機に立たされている。このタイミングで思わず胃が痛くなりそうなぐらいだ。
「うちの学校は八時半登校だったよな?」
「そうですね、そのはずで……!?」
時計の針は神の悪戯のように残酷に示す。
これは夢で逢って欲しいと願いたいが……。
「空、頼みがある。俺の頬をつねってくれ」
上杉はこれは夢だろと言う仮説を作り、俺に頬をつねることを提案する。
お望みとあらば、と言わんばかりに俺は上杉の頬を抓ると上杉はすぐに「痛い、痛い」と奇声に近い声をあげる。
「痛い痛い……!馬鹿、やり過ぎだ!」
上杉の頬を滅茶苦茶抓ると、上杉に頭を叩かれる。まるで頭に祭りの神輿が落ちてきたような感覚だ。いってぇ……、俺が悪いからしょうがねえけど。ただ、これでお互いに気づいたことがある。そう、それは……。
「「「夢じゃねえ!!!」」
俺と上杉は顔を合わせて言う。上杉は五月に渡された水を一気飲みした後に、寝ている五つ子達を群れた鴉の声のような大きな声で起こし始める。因みに、計の針は既に8時15分を示していたのである。つまり、残り15分で学校に着かなければならないのだ。学校に近ければいいが、此処から学校は割と距離がある。
つまり、どういうことかと言うと……。
ヤバいのである。
「起きろ!お前ら!!」
一回目で起きなかった為、二度目の大声。
隣の部屋までに聞こえそうなぐらいの大声で上杉が叫ぶと、二乃、四葉、三玖、一花の順で起き出す。そして、上杉が時計を指すとそれぞれが悲鳴を上げていた。
「五月蠅いわね……は!?もうこんな時間じゃない!?なんで誰も起こさなかったのよ!」
上杉が指している時計を見た後、二乃が携帯で時間を再確認する。そして、取り乱しながらも顔のメイクをしなくちゃと言うのであった。もうすっぴんでもいいだろ……。
「皆、寝ちゃったからね……」
まるで余裕があるかのように、食パンに苺ジャムを塗り食べ始める四葉。朝食は大事だし、お前足速いから良いんだけどせめて急いでくれ。頼むからと俺は心の中で思っていた。
「ソラ、おはよう」
「おはよう、三玖。挨拶大事だけど今は急いでくれ」
「そうだね……」と言いながら、着替える為に自分の部屋で行く三玖。それを見て、四葉は急いで自分の部屋に戻る。此処で脱いじゃ駄目だって気づいたんだな、四葉。えらいぞ……。
「眠いなぁ……今何時?」
さっきお前も時間確認していただろうが、一花……!また二度寝しようとするな。それから、三つ子はそれぞれ部屋で着替えに行ったのである。俺達は、元々制服だったから関係ないけど。
「みんな遅いよー!」
俺とほぼ同じ速さで走っている四葉が、手を挙げながら後ろを向いて走っていた。くそ、まさかこんなことになるとは思いもよらなかった。前日の勉強し過ぎたせいか。だが、前日の勉強は大切だからな。俺はどっちかと言うと朝ぶち込んだ方が頭に入るけど。
「脇城さんも頑張りましょう!」
四葉が「エイエイエイ、オー!」と言いながら俺を応援する。駄目だ、体がかなり本調子じゃない。あんまり寝ていないと言うこともあってか睡魔が襲って来るのだ。なんとか、手元にあるコーラを飲みながら走り続け睡魔をどうにか遠ざけようとしていた。
しかし、飲み物と言うものは途中でなくなってしまうものだ。これは、どうやっても変えることができないことである。そのため、俺は……。
「クソッ、飲みたくはねえが買ってくるか。わりぃ!四葉ちょっとコーヒー買ってくる!」
と言い、四葉と別れ俺は急いでコンビニに入り自分が嫌いなブラックコーヒーと、コッペパン二つを買いまるで飛び立つ鳥のようにして店内を出るのであった。俺は因みに、ブラックコーヒーが嫌いだ。
「四葉、パン食べるか!!」
「はい!食べます!」
コーヒーを飲みながら、四葉に追いつきパンを差し出す俺。四葉は走りながらコッペパンの袋を開けて口の中に入れて少しずつ食べていく……。
「わ、脇城さん少し聞いても宜しいでしょうか!?」
「何だ、試験のことか?」
「はい!」
こんな土壇場で聞いてくることなんて試験のこと以外ないだろう。と思った俺はすぐに試験のことか?と返すのであった。
「このまま行ったら、私達は間に合うと思うんですけど。一花達は間に合わないですよね!」
確かに四葉の言う通り、このまま行けば俺達は間に合うのは間違いない。だが、一花達は間に合わない可能性が高いだろう。既に後ろを振り返っても姿が見えないからな。
「そうだな、でも今はあいつらを信じるしかない。それは試験でも同じだ、俺はお前も五つ子も信じる、だからお前も全力で頑張れよ!」
「信じる……。分かりました、上杉さんや脇城さんに教わったことを活かしてかならず合格点を目指して見せます!」
四葉はガッツポーズを一瞬だけ見せ、凄く気持ちのこもった声で俺に言う。
「その意気だ!さてと、四葉後どれぐらいで着きそうだ!」
「分かりませーん!脇城さんは後何キロだと思いますかぁ!」
四葉はパンを口に咥えて両手で数を数え始めるが目がぐるぐると回り始め、混乱している様子だった。
「俺もわからん!でも、後もうすぐな気がするぞ!多分だがなぁ!」
なんで聞いたか、と言われそうなぐらいの意味の分からない解答を出す俺であった。
「じゃあ、なんで聞いたんですかー!」
思わず、そんなツッコミが入って来る。至極真っ当な意見である。
「テストの緊張を和らぐためだとでも思っとけ!」
くだらない会話をしていると、学校が見えて来た。四葉を見ると、既にパンは食べ終えており水で流し込んでいた。俺もコーヒーを飲み終えて、偶々通りかかった自販機の横にある缶捨てに捨てた。
「もうそろそろですよ!脇城さん!」
校門が見えてきて、四葉は校門を指で指しながら目の前にある校門を通過する。
「はぁ……はぁ……、もう二度と走りたくねえ距離だった」
そのまま昇降口に着いた俺はタオルで汗を拭きつつ、買ったばっかのポカリを飲み始める。
「中々いい運動になりました……!」
四葉はまだ走れるのか、笑顔で俺に言ってきた。
「他の奴らはどうしてるんだ?」
「今ちょっと連絡してみますね!」
四葉が携帯を取りだし、五つ子の誰かに電話を掛けているようだ。でも、聞こえる声的に五月だろうか。
「え!?今、コンビニ!?」
何してんだあいつら……。俺が校門の方をポカリを飲みながら見つめていたが、来る気配も無かったのはこういうことだったのか。
「わ、分かりました!」
と言い、四葉は電話を切る。
「上杉さん達、今コンビニに居るらしいです。……もう5分しかないんですけどね」
四葉の言う通り、もうタイムリミットまで5分しかないのである。上杉の奴、仮に遅刻のときはどうするんだ。流石に、あの父親に遅刻でテスト受けられませんでした。なんて伝えられるわけがない。今はただ上杉を信じるしか他に手は無いか。
「お前達!そこで何をボサッとしている!もうすぐチャイムが鳴るぞ!」
よりによってこの先生か……。時間も時間だし、これ以上は待てないな。俺も四葉も教室へと走り始めた。とりあえず、上杉の奴頑張れよ……。
「四葉……!最後まで諦めんじゃねえぞ!」
教室に入る前に俺は四葉にそう言う……。四葉は走りながら後ろを向きながら声を出していた。
「はい!脇城さんや、上杉さんの為に頑張りますよ!」
その四葉の言動には未だかつてないほどの自信で満ち溢れていた。この様子なら大丈夫かもしれない。俺はそう思いながら教室に入るのであった。その後、二乃が33分過ぎてから到着するのであった。
「一時はどうなるかと思ったが、どうやら無事に終わったようだな」
既に朝のホームルームが始まってるため、俺は二乃に小声で話しかける。二乃は俺の声が聞こえたのか、独り言かのように俺に言葉を返す。
「約一名、無事に済んでないのがいるけどね。言っておくけど、私はパパにそのままの事実を報告するから」
「わかってるさ、お前も身構えず頑張れよ。ところで、無事に済んでない奴って誰だ?」
「上杉、今頃生徒指導の先生に怒られてるんじゃないの?」
上杉か、なんでこいつらが無事に済んでアイツだけ無事じゃなかったんだ?と言う疑問はあったが、まあアイツの場合成績も優秀だしなんかあっても大丈夫かと思いながら俺も準備を始める。
「以上だ。それでは、この後15分後試験を行う」
これで全てがわかることになるだろう。朝も言ったが、泣いても笑ってもこれで全てが決まる。
それから、テストが開始された。それぞれの結果だけ言うと、上杉のように特段飛び抜けた点数って可能性は低いと思うが悪くはない無難な点数を取れたような気がする。要は良い点数ってところかな。
「終了だ。解答用紙を一番後ろの奴は集めろ」
俺は一番後ろの奴に解答用紙を渡した。全部集まったのを確認し、数を数え終えた後担任が帰りのホームルームが始めるのであった。
「テストの返却は後日行われる。また、近々林間学校もある。以上だ、起立!」
「礼!」
担任の合図が終わり、礼をする。礼を終えた後、それぞれ帰ったりテストの成績はどうだった?とか言う日常的な会話をしていた。俺も二乃に聞いてみるか。
「おい、二乃テストの成績……」
二乃にテストの成績どうだったと聞こうとしたが、二乃は何も言わず俺の言葉が聞こえなかったのか、ただ黙々と俺の前を歩いて行ったのだ。俺はそのとき、察していたのだ。
ああ……。そういうことか……。
こういうときに限って、いつも視界がぼやけて見えてくる。こういうときに限って、理解力が高くなる。二乃が俺の前を通過するとき暗い顔をしていた。なんでそんな顔をしていたのかは、俺にはすぐ理解できたのだ。
携帯に通知音が鳴る。俺はその通知音を何も思わず確認する。
その通知は二乃からだった。屋上に来てほしいと言う内容だった。
普通の人間なら、こんなときあいつらにも会えなくなるとか、悲しい気持ちになるのだろう。だが、俺はやはり普通の人間とは違うようだ。そんな感情なんてものはすでにあのときに落としたら簡単に割れてしまうグラスのように割れてしまっていたのかもしれない。
そう、俺の心の奥底ではもう二度とアイツらに会わなくて済むんだ。
そんな悪魔の囁きが聞こえつつあったのだ。そして、その声は次第に大きくなりつつあった。まるで、最近時々見る悪夢のように主張が大きくなっていくのであった……。そして、そんな気持ちを否定したい俺は……。自分自身すら否定しまいそうなぐらいの強い憤りを感じていたのだ。