コロッケ事件から丸二日が経ち、今日も今日とて学校は始まる。そう言えば、いつの間にか月曜日という日が憂鬱になっていなかった。はたして、これが良いことなのかは分からない。
しかし、バイトの次の日の朝というのは起きるのが辛いものだ。やけに肩が凝ってやがる。
そんなことを思いながらも、鞄を肩辺りに当てながら今日も今日とて学校は始まる。確か、今日は家庭教師の日ではなかったはずだ。となると、自主的に教えることになるかもしくは、向こうが教えてほしいと言われれば教えるとするか。
林間学校も近頃あることだしそれぞれやることはあるだろう。忙しくもなるだろうからやらなくても良いかもなと思いながら、学校の前へと着くとニ乃と五月がいたのである。
あの二人だけか、珍しいな。
「ニ乃と五月か、どうした?上杉に因縁でも付けにきたのか?」
なんて軽い冗談を言ってみる。様子から見るにどう考えても俺に用事があるといった様子だ。
「あいつに用なんかないわよ。あんたがそろそろ登校する時間だろうから待ってたのよ」
それはそれで上杉の奴がなんか可哀想になってくるな。でも、ニ乃が上杉に話すことなんてほぼないだろう。この感じじゃ、まだ上杉のことは認めてないような感じだしな。
「それはどうも。五月も俺のこと待ってたのか?」
「そんなところです。ところで、今日は上杉くんと登校してこなかったのですか?」
校門前で今日も今日とて肉まんを美味しそうに口の中に頬張る五月。よく太らないな、いや口には出さないけど他の五つ子とかに比べれば五月が一番お腹出てるけどな。なんだかんだ言ってニ乃は一番痩せてそうだし。
「上杉か。今日は先に行くとメールが来ていたから一緒に登校はしてないぞ」
「伝えたいことがあるなら、直接上杉に連絡しとけ」
「いえ、特に連絡することはないのですがいつもお二人は一緒に登校してると思っていましたので」
と口の中に肉まんを入れながら喋る五女、五月。食べた後に喋ってるからまだ許すけど。そこは石油王の娘らしく上品だよな。
「ふーん?あんた、ほんとにそれだけなの?言っておくけど上杉なんかに絆されるんじゃないわよ?」
五月が上杉に絆されるか。既にそんな感じはしているのだがな。
「べ、別にそういうわけではありません!」
怒ったようにムスッとした表情で、顔から蒸気が出てそうな勢いで五月がニ乃に抗議する。
「はいはい、それにしてもあんたいつまで肉まん食べてるのよ。こいつのコーラ病と同じじゃないの」
そういや、コーラ飲んでないなと思いながら鞄からコーラを取り出し飲み始めると、ニ乃が呆れたように俺のことを指しながら言う。
「そんなんじゃいつまで経ってもモテないわよー。それにあんた、その肉まん350kcalあるわよ?」
ニ乃から350kcalもあると言う話を聞いた五月。表情がまるで日向から日陰のように変わりつつあり、思わずその顔を見て笑ってしまいそうになった。
「う、運動すればプラマイゼロですよね!脇城くん!?」
「ま、まぁ……そうだな」
いったい、五月は肉まんをいくつ食べたんだ?あの様子だと2つ、3つじゃないのは間違い無い。
「そ、そうですよね!はぁ、良かったです」
心の底から息を吐いていた五月。いや、良くはねえだろ。
「ふーん、そう簡単に痩せるのかしら?」
「さぁな、実際やってみないと分からんだろ」
と、あくまで五月には聞こえない範囲内の声で二乃と俺は会話をする。確か、水泳だと平泳ぎを大体1時間半ぐらいやらないといけないぐらいだからそれを陸上だと考えると、かなりキツイものになるな。でもまぁ、別にそんなに気にしなくてもいいと思うんだがな……。
「あんまり気にしなくてもいいんじゃないのか?五月は五月で可愛いと思うし」
馬鹿が余計な発言をした瞬間である。いや、ほんとに馬鹿だな俺。心の中で思った事を言う奴ほど、馬鹿はほんとにいない。
「なっ!?か、可愛いですか……!?」
五月が顔を赤くしながら、かなりの動揺を見せていた。
「あんたねぇ……」
当然かのように、俺の事を呆れた様子で見つめてくる二乃。言葉に出してしまった以上、仕方ない。だが、こういうのはどうも言ってて恥ずかしくなる。こんなことを一花辺りに聞かれてみろ。絶対冷やかされるに決まっている。
「いやぁ、聞いちゃったよ。ソラくん」
そして、まさかの聞かれていた。一花の方を振り向くと、顔の近くに手をやり「聞いちゃった」と何度も言っていた。
「おはようございます、脇城さん!」
いつも通り通常運転な四葉。
「ああ、おはよう四葉」
そして、その後ろにいるのは餌を咥えたリスのように口を膨らませている三玖。
「ねぇ、ソラ。タラシって言われたことない?」
「悪いが一度もないぞ」
今まで女を好きになったことは一度しかないし、その一度で致命的な傷を負わされてしまったから特にない。と心の中で思っていた。
「三玖ちゃんだけには飽き足らず五月ちゃんに手を出すんだぁ……そのうちお姉さんもやられちゃうのかな?」
一花が頭が痛くなりそうな言葉を吐いてくる。勘弁してくれ、只でさえ自分のことで精いっぱいなのに他人のことまで考えてる暇がない。
「そう言えば、三玖ちゃんとは部屋で一緒に寝た以来、進展してるのかな?」
思わず、口にガムテープを貼りたくなりそうなぐらい一花は喋っていた。
「お前いい加減にしないと、張り倒すぞ」
「押し倒すってこと?それはちょっと困るなぁ」
この女は……!
思わず、舌を噛み締めそうなぐらいイライラしそうになっていた。
「一花もこいつを揶揄うのはそこまでにしときなさいよ」
俺を揶揄う一花を二乃が制止していた。
「はいはい、分かってるよー。揶揄ってごめんね?」
ウィンクしながら俺の肩をポンと叩き、一花は昇降口へと行くのであった。その姿を見ながら、俺は溜め息を吐く。
「そういえば、皆さん時間の方かなりヤバいですよ?」
と言いながら、四葉がスマホの時間を確認しながら俺達に見せてきた。すると、登校時間はかなり近くまで迫っていた。ヤバいと思った俺達は、急いで昇降口に入り教室に向かうのであった。
「ねぇ、此処少し聞いてもいいかしら」
授業も4限目まで終わり、昼休みに入った後いつもみたいに悪巧みでも考えてそうな顔をせず、二乃は至って真面目に俺に今日やった授業の内容の分からないところについて聞いてくる。二乃からノートを受け取り、見せてもらう。なるほど、此処か。
「ああ、これはだな。ここの単語さえ使えばわかると思うぞ」
「そう、ありがとう」
二乃は真面目に問題に取り組んでいた。そして、書き終わり俺に見せる。
「ああ、合ってるぞ」
それにしても、英語の小テスト10点だった奴がまさか英語のテスト50点も取れるなんてな……。
でも、英語ができるなら他の教科だってわかるんじゃねえかと思うけど、まあ日本語と英語とじゃ根本的に違うしなぁと思いながら二乃のノートを見るのであった。
「なによ、急に笑い出して気持ち悪い」
ノートを俺から取り上げるようにして持ち、俺のことを若干引きながら見る二乃。
そして、気持ち悪いと言われ一瞬俺が曇ったように見えたが気にしないでくれ。
「いや、英語の小テスト10点だったやつが実は得意だったのかなんて思ってな」
怒りの導火線に火でもついたのか俺のことを睨む。
おお、怖い怖い。
「悪かった、冗談だ。そんな猫のように睨むな」
まるで夜にいきなり出会った猫に睨まれているような感覚だった。
「でも、此処まで成長して素直に凄いと思ったっていうところもある」
これは本当に思っていたことだ。最初こそこいつに勉強を教えたとき本当に大丈夫かと、頭痛が起きそうなぐらいだった。それからかなり進歩している。
「……ほ、褒めても何もでないわよ!」
両手を上下に動かしながら、案の定テンプレ通りの反応を見せる二乃。
「わかってるよ。飯行くか?二乃」
財布を持ち、椅子から立ち上がりながら言う。
「ええ、丁度お腹も空いていたところだし行くわ。……って、なんであんたと食べる前提になってるのよ」
二乃も立ち上がり、財布を持って行こうとしていたが俺と一緒に食べるということに気づいて、一瞬拒絶する。
別に、飯一緒に食べるぐらいだからいいだろ。と思う俺である。
「別にいいだろ。お前、友達そんないないし」
本当は女友達が多いことを知っているのに俺が言った。こいつ、外面は滅茶苦茶良い奴だしな。
「痛っ!お前な……」
余計なことを考えていたせいか、顔にでも書いてあったのか背中を叩かれる。
二乃は背中を摩る俺を見ながら、腕を組みながらご立腹の様子。
「余計なこと考えているからよ、それ以上考えてるとあんたの奢りにするわよ」
余計なことを考え過ぎたか……。
「それは勘弁してくれ。今日はあんまり金を持ち合わせてはいないんだ」
バイト代はいつも銀行に置いてある。大体、月1万半ぐらい引き落としして生活しているのはいつものことだ。
「そういえば、あんた私と飯盒炊飯一緒だったわね」
飯盒炊飯か……。あまりやったことがないから、自信は無いが大丈夫だろう。
「そうだったな」
食券の列に並びながら言った。
「あんたのことだから失敗なんてしないだろうけど、ちゃんと作りなさいよ?私はちゃんとしたカレーを作る予定だから」
二乃がヘルシー定食の食券を押しながら言っていた。
寧ろ、ちゃんとしたものを作ってもらわないと困る。変なものを作られた日には多分腹を壊す。
「任せろ。てか、お前それだけでいいのか?」
かつ丼のボタンを押しながら言い、二乃の方を見ながら言う。こいつのことだからどうせヘルシーなものしか食べたくないんだろう。もっと食べるべきな奴がいるのにな……。
「私は肉まんお化けの五月と違ってこれだけで十分よ」
二乃がおぼんと箸を持ちながら言う。そして、その俺が思い浮かべていた人物の名前が登場する。
あの真面目馬鹿、もうちょっと食べる量抑えればいいのにと多少は思う。まあ、いっぱい食べてるところが好きな男子とかいるから一概には言えないが……。
「そうかよ……。てか、肉まんお化けって言い過ぎじゃないか?」
俺もおぼんを持ち、箸を置きかつ丼の食券を食堂のおばちゃんに渡すのである。
そのおばちゃんは「はいよ」と元気よく、受け取りザ・食堂のおばちゃんと言った感じの人であった。
「事実を言ったまでよ。あんたこそ、なんでかつ丼なのよ?」
別に深い理由はなくかつ丼を選んだが……。
あっ、そうだ。いいことを思いついた……。
「カツ丼だろ。勉強に、カツ。と言う訳だ」
「さむっ!あんたのせいで日本中が氷河期になったらどうするのよ!」
二乃がヘルシー定食を受け取りながら言い、寒そうに体全体を震わせていた。
自分でも分かっていたが、やはりオヤジギャグにしかなっていなかったか。
「あっ、どうも。そりゃあ、かき氷食べ放題でさぞいいだろうな」
カツ丼と漬け物を受け取りお礼を言う。
そして、わざとボケてみる。正直言ってあれをかき氷にってのは無理があるが……。てか、これなんか四葉辺りがいいそうな言葉だな。
「あんたねぇ……。此処でいいわよね?」
二乃がキツネのように細目で俺を呆れながら見て、二人席を作りおぼんを置きながら言う。
俺も前の席に座り、お互いに向かい合うようにして食べる。これ俺達の関係知らなかったら、ただの彼氏彼女にしか見えないよな。
「ところで俺のことは認めると言ってたが、上杉のことはまだ認めてないのか?」
「はぁ?そんなの当たり前じゃない。私がまさかあいつのこと認めてるとでも思ったの?」
ですよね……。
そうだろうとは思っていた。
二乃が溜め息を吐きながらヘルシー定食を食べ始める。ヘルシー定食だけあって、チキンと、色とりどりの野菜。そして、そこにお味噌汁とご飯である。これだけみれば普通にヘルシー定食なのは間違いない。
「いや、色々あったんだから認めてもらえてると思ったんだがな」
かつ丼の器を片手で持ち、箸で器用に切り取りご飯と共に食べる。うん、美味い。
「フン、そんな簡単にあいつのことは認めないわ」
二乃が口の中に入っていたチキンとサラダを飲み込んでから言う。
「ええ、マジかよ」
棒読み気味で言うと、二乃が味噌汁を飲んだ後に、
「って、あんたいつの間に座ってんのよ」
味噌汁が熱かったのか、水を飲んだ後に二乃が言った。
机をくっつけた三玖が二乃の隣に座っていた。三玖は、抹茶ソーダとサンドイッチのみであった。足りるのか、それで……。
「一応二人には確認した。でも、二人が喋りに集中してたから、私の声が聞こえなかっただけ」
そう言えば、さっき三玖っぽい声が微かにだが聞こえていたな。
「あんたはあんたで随分と少ないわね。いったい、どうやって栄養を取ってるのよ」
「お昼はこれだけで充分。二乃が食べ過ぎてるだけ」
「あっ、そう……。私はこれでバランス取れてるし別にいいわよ」
三玖の発言を軽くスルーする二乃。
「そういえば、三玖は林間学校何か役職とかあるのか?」
「私はないかな。でも、四葉がさっき会ったとき役職あるとか言ってた」
四葉はか……。
四葉のことだから、人助けって感じで手伝っているのだろう。俺もやる気はあったんだが、すぐに埋まってしまって外されてしまった。
「ソラはあるの?」
「いや、多分ないと思う」
ないよな……。と思いながら、二乃に確認すると「無いわよ」と答えていた。なんだかんだいって、こいつ俺の役職のことも見てんだな。
「そっか……、良かった。それじゃあ、また放課後」
と言い、まさかの速度で食べ終え三玖は帰るのであった。俺達もその後、昼飯を食べ終え教室に戻るのであった。
5限目、6限目と授業は続きそれらも終わり放課後となり二乃はなにやら教師に林間学校についてまた呼ばれて向かったようだ。さて、俺はどうしたものか……。暇だから図書室でも行くか……。
しかし、図書室に向かっている途中奇妙な現場を目撃するのであった。