長女の思い
「なんだよ、こんなところで呼び出して」
放課後の誰もいない教室に呼び出された俺。
「えっとね、空にどうしても言いたいことがあるんだ」
「空ってさ、私のこと好き?」
そして、そんなことを言われた俺は初めてアイツが好きなんだと言う実感が湧いた。
「多分、そうだと思う……」
情けない言い方で返したのは俺だった。
俺はアイツを守りたい存在だと認識していたつもりだったが、きっとあの時の俺にとって守りたい存在でもあり好きな相手だったんだろう。
だけど……。
俺はあいつに裏切られた。どういう経緯でそうなったのかは知らないが……。あの感じだと、最初からあいつは俺のことを騙そうとしていたのかもしれないと俺は思っていた。
「ごめんね……。キミって、優しすぎるんだよ。だから気づかなかったんだと思う」
心の中でふざけんなと言う気持ちがいっぱい、いっぱいだった……。俺はあのとき初めてこいつが俺のことを裏切ったというのを理解できたのだ。
俺はアイツに対して色々と言いたい事はあったのだ。だけど、その日の俺はもう出る言葉がなかったんだ。俺はそのままその日泣きながら家に帰った。そして、その日のうちに俺はもう彼女なんか作りたくないと思ってしまったんだ。
もう二度と騙されたくない。裏切られたくない。その気持ちが強くなったんだ。あいつらと出会うまでは……。
「あ、あの大丈夫ですか!?」
俺がこの町に来てからあまり人を信じないようにしていた。それは過去のように裏切られるのが怖いからというのが強かっただろう。だけど、熱を出して倒れたあの日……。俺は久々に人の優しさというものに触れた。らいはちゃんと上杉に助けられたことにより、甘っちょろい俺は少しだけなら人を信じてもいいかもしれないと思うようになったのだ。
そんな夢を見ていた俺は携帯電話がずっと鳴っているのに気づいて俺は携帯電話を取る。
『もしもし、一花なんだけど……。ごめんね、朝早く……』
俺に電話をかけてきた相手は一花だった。
五つ子か……。そんなことを思いながら、俺は電話に出続ける。
『体の方はもう大丈夫?』
「ああ……大丈夫だ」
『そっか、なら良かった。ところでさ……』
一花は安心したのか息を吐いた後に言う。
『二乃と五月が喧嘩したっていうことは知っている?』
二乃と五月が喧嘩した……。
その件は上杉が何度か連絡をよこしていたから、俺は知っていた。でも、俺はそれに対して返していいのだろうかと思いつつ、俺はあいつらの家庭教師として失格な人間だと思っていたからこそ連絡はしなかったのである。
「知っている……」
『そっか、フータロー君も結構頑張ってくれてるみたいだからさ。もし、良ければソラ君も力を貸して欲しいの……』
俺にこいつらの家庭教師を名乗る資格があるのだろうか。そんなことばかり考えている俺は、遂に一花にそのことを言う。
「俺はお前らの家庭教師として不出来な人間だ。俺にお前らの家庭教師を名乗る資格はない」
『そんなことはないと思うよ』
俺は一花のその言葉に声を詰まらせる。
そんなことはないと思う……。どういうことだろうかと思いながら、一花の話を聞き続ける。
『ソラ君は現に私達五つ子を再び繋いでくれたでしょ』
俺が五つ子を再び繋いだ……?
そう言えば、五月にもそんな事を言われたのを思い出した。
「姉妹がこうして一つのことで輪になれたのも久々ですから」
そう三玖の本音を聞けたあの日、俺が五月に言われたあの言葉だ……。
結局俺はあの言葉の意味を五月に聞くことは無かったが俺はあの言葉の意味が分からなかった。結局のところあいつらが一つの輪になれたのは俺のおかげではなく、あいつらがそう望んだからだろうと俺は思っていたのだ。
「俺は何もしていない……」
『ソラ君はそう思っているのかもしれない。だけど、三玖を助けられたのはソラ君のおかげなのは間違いないよ』
俺が三玖を助けた……。
確かにそうかもしれない。でも、俺は怖いんだ。もし、これ以上五つ子と関わってしまえばあいつのことを今以上に思い出してしまうかもしれない。何より、俺の中で女なんか信用できないと思っていた自分を偽りたくないと思っていたのだ。
『ソラ君が何で悩んでいるのかは分からない。でも、私達は力になれることぐらいのことはできるよ』
力になれることぐらいのことはできる……。
俺はその言葉に悩んでいた。もしかしたら、過去の自分を捨てて新しい自分を作るときが来たのかもしれないと思っていたからだ。そして、俺の本音が一花に対して漏れる。
「俺は……」
「俺は人を信用できないんだ。怖いんだ、かつてのように裏切られると思ってしまって……」
俺は今思っている本音を一花にぶつけた。一花は俺の言葉に何も言わずそっと答えてくれた。
『そっか……。でも、ソラ君は人を信じられてると思うよ。きっとソラ君が一番それを分かってると思う』
俺が人を信じられる……。
そんな訳ないと思っていると……。だが、俺はあることを思い出した。
そう、それは……。俺は五つ子と居るとき、こういうのも悪くないと思っているときの方が多かったのだ。俺は心の底では五つ子という人間を信頼していたのだ。俺はそれに今気づいてしまったのだ。そして、俺は一花にこう告げる。
「一花、ありがとう……」
俺はそう言い、電話を切る。
◆◆◆◆◆◆
「四葉、お前試験週間に入ったら陸上辞めるんじゃなかったのか!?」
朝偶々見かけた四葉のリボンを俺は掴みながら四葉に言う。
「す、すみませんー!上杉さん!で、ですが頼まれたことですので!」
「待て、まだ話は終わってねえぞ!」
俺は追いかけようとするが……。追いつけず、息を荒げながら消えゆく四葉の姿を見つめることしかできなかったのである。それから、立ち上がろうとしたとき誰かが俺の頭を触る。
「よぉ……上杉」
何処かで聞き覚えがある声が聞こえた俺が後ろを振り返ると、そこに立っていたのは……。
「久しぶりでいいのか……。こういう場合は……」
……空だった。