「わー、本当に働いてる」
今日はクリスマスイブ。子供がサンタとか言う不法侵入者からプレゼントを貰って喜ぶ日だ。そんな喜ばしい日に俺はバイトのシフトを入れて働いていたんだが、厄日とでも言いたくなるような奴らが俺の目の前には立っていた。
「なんでお前らがいるんだ……」
「なんでって……。私達お客さんで来てるんだよ?」
それを言われてご尤もだと思ってしまう俺。何処で俺が此処で働いているんだと聞いたんだこいつらはと思いながら、俺はバイトを続けていた。
「そうよ、私は客。アンタは店員よ。分かったなら、さっさとケーキ持ってきなさいよ」
二乃のクソみたいなわがままに俺はイライラしそうになるが、他にもお客さんが居るのを思い出し俺はそのまま返事をした。くそっ、客が居なけりゃ今頃反論してやっていたがこんなところで反論している場合じゃねえ。
「客の邪魔にならないうちにとっとと帰れよ」
とだけ言い残し帰ろうとしたときであった……。
「すいません、注文いいですか?」
「はーい」と言いながら、駆け寄って行くとそこに居たのは……。
空だった……。
◆
上杉が働いているケーキ屋に行く数時間前。
「いらっしゃいませ、ケーキはいかがですかー?」
スーパーの入口に入ったすぐ傍で俺達はケーキを売っていた。と言うのもそう、今日は12月24日。子供達にとってプレゼントを貰える喜ばしい日であるクリスマスイブである。
「ふぅ、もう疲れて来たわ。代わりの分まで頑張ってくれないか?」
「断る」
と声を掛けて来たのは俺と同じ学校に通っている生徒であり、俺のクラスメートである橘川 真也である。因みに、こいつは陸上部に入っている。陸上部の手伝いに入る前からこいつとは絡むことが多かったが、陸上の手伝いをするようになってからは更にこいつと話す機会が増えた。
「こうも男が二人で寂しくクリスマスイブでケーキの購入催促してるのはなんかこう来るもんがあるな」
「言うな、それは……」
確かに男が二人でこんな格好でクリスマスイブで「ケーキを買いませんか?」と言っているんだ、そう言われるとこっちがそんな気分になってくると思っていた。
「それにしても思ったよりこのコス暑苦しいわ。サンタのおっさんもこんな格好で暑苦しくないんかね」
「お前その歳でサンタなんか信じてるのか?笑われないうちに止めておけよ」
サンタなんて居る訳ないだろと俺は心の中で思っていた。何も別にサンタの正体を知っているからではない。ただ単に小学生の頃欲しい物を頼んだのに違うものを寄こしたからサンタにはもう期待していないだけだ。と言うか、この歳でプレゼント貰える訳ないだろうし……。
「お前は夢も希望もないことを言うんやな。ワイの弟や妹たちが聞いたら泣いてしまうぞ」
そういや、こいつの家って大家族なんだったか……。なるほど、ならサンタを信じていると言うより信じてあげてると言う言葉に変えた方がいいかと俺は思っていた。
「ところで真也、この作業やってから何時間が経った?」
「そうやな、ざっと2時間ぐらいやろ」
俺はその言葉を聞いて、時計を確認する。確かに二時間ぐらい経っているかも知れないと思いながら、俺は重たい腰をあげるかの如く、動き出す。
「ならこの一時間でケーキを売り切れにする勢いでやるぞ。そうすれば、店長がチップくれるかも知れないからな」
「おっ、派手に動くんか?ええな!やったろうぜ!」
先ほどまでのテンションの下がり具合から一転して俺と同じように重たい腰を上げるようにして、ニコニコな笑顔でケーキを売り始める。俺達はケーキを売り始め、早数時間が経っていた。店の方も閉店時間となり、俺と真也は片付けを始めていた。
「あっ、ソラ君だ。やっぱり此処で働いてるんだ」
まるで俺が此処で働ているのを誰かから聞いたかのような声でやっほーと挨拶をしてきたのは一花であった。一花か、こんなところで一花と出会うとは思ってもいなかった。しかし、相変わらずこいつは元気そうだなと思いながら俺は一花に言葉を返す。
「それとお久しぶり、連絡ぐらいしてくれれば良かったのに」
連絡か……。確かにしても良かったが、近づくなと言われている以上近づかない方がいいだろうと思っていたんだがな……。
「一花か、もうケーキは売れ切れたからないぞ」
「え!?もう売れ切れたんだ!早いねー!」
先ほどまで山のようにあったケーキを売り切ったのは少しウザい手法を取ったからである。まあ、よくティッシュ配りがやるような行動を取っていたと言えば分かりやすいかも知れない。
「それとその衣装よく似合ってるよ」
「そりゃ、どうも……」
俺が今着ているのはサンタのコスプレ衣装だ。正直言って、着てて辛いと思っているが俺は何も言わずにただ黙って来ていた。
「なんやこの女、空知り合いか?よく見たらウチのクラスにいる二乃って奴にそっくりやな」
よく見なくても髪型以外はこいつら結構似ているんだよな……。と思いながら、俺は真也の声を聞いていた。
「二乃知ってるんだ。二乃と私達は姉妹なんだよ」
「へぇ、双子言う奴か……。珍しいこっちゃな……。ん?達?」
一花が言っていた私達と言う言葉に対して、真也は「どういうことだ?」とみたいな顔をしながら、真剣に考えている。
「アハハ、ややこしいこと言っちゃったかな。私達五つ子なんだ」
「五つ子……。はぁ、五つ子なんか……。はぁ!?五つ子!?」
指で五人と言う数字を数えながら、驚いている真也。俺もそれを聞いたとき、驚いていたなと思っていた。多分、上杉も同じことを聞いて驚いていたに違いない。
「それじゃあ、私そろそろ行くね!」
一花は俺に手を振りながら、去って行くのであった……。
「不思議なこともあるもんやなぁ……」
去って行く一花の姿を見ながら、真也はそう言うのであった……。
「真也、そろそろ行くぞ。店長に全部売り切れたことを報告しなくちゃいけねえんだから」
「そうやな。店長に言ってまだ余ってるかも知れないケーキを貰わんとな」
ケーキか……。そう言えば、上杉の奴ってケーキ屋で働いているんだっけ。帰りに少し冷やかしにでも行こうかなと思いながらも俺は報告を終えて、作業を終えると「帰っていい」と許しを得て俺は帰りに上杉が働いているケーキ屋に行くのであった。楓姉と食べるケーキでも決めるかと思いながら、歩いているうちにケーキ屋の前に辿り着くのであった。
「あんた達、よくも私達に何も言わずただ黙って消えたわね」
そして、今はその数時間後。今は外。上杉があいつらの家までケーキを配達することになったのだ。そして、俺はそれについていっている。黙って消えたことについては正直悪いと思っている。だからそのことについては何も言わず、俺はただ謝罪をするだけであった。
「黙って消えたことは悪かったと思っている。だけど俺はもう家庭教師には……」
と言い切る前に五月が新しい家庭教師の履歴書を見せてきた。その履歴書を見る限り、プロの家庭教師であることには間違いないようだ。
「あんた達はこのまま私達のことを見捨てるつもりなの?」
「俺はチャンスを貰っておいて二度も何の成果も得られなかったんだ。だったら……」
そうだ、俺達はチャンスを貰っておいて何の成果も得られず二度のチャンスを失った。二度目のチャンスはもしかしたら赤点を回避できたかもしれないと言うのに……。
「勝手ね。だから、プロの家庭教師に任せた方がいいって言う訳……?」
「今までアンタ達は、身勝手に私達を教えて来た。なら、最後まで身勝手のままで居なさいよ!」
二乃のその言葉に俺は心を動かされつつあった。決めたことだ、曲げたくはないが二乃の言い分も間違っていないのだ。
「俺は辞めたんだ。もうお前らの家に入ることさえ……」
そう言うと、五つ子達は止まる。止まった場所を見ると、何処かのアパートのような場所であった。何故、こんなところの前であいつらは止まっているんだ……?不思議に思いながら、俺は五つ子達の声を待っていた。
「此処が私達の家、さっきフータロー君はこう言ったよね。私達の家には入れないって……」
「これなら障害はないよね」
その言葉の意味に俺達はただ息を呑み込む程度ぐらいのことしかできなくなっていた。上杉は「今すぐ戻れ」と言うが、五つ子達は固い決意を胸に刻んでいる様子であった。
「言いましたよね、大切なのは何処に居るかではなく五人で居ることって」
そう言いながら、マンションのカードキーを投げ込む五つ子達。その行為に俺達は更に困惑をし始めていた。そして、そのカードキーに気を取られていた俺と上杉は足を滑らせるのであった。
あいつらはあんなにも強い覚悟を決めて立っていると言うのに……。俺は未だに中途半端な気持ちで此処で立っていたのかもしれないと考えると、俺は自分が情けなく感じていたのである。それから、川の中に入って行った俺達を助けるべく一花達は川に飛び込むのであった。
「ソラ、身勝手でもなんでもいい。私達の傍に居て欲しいの」
「……三玖」
その言葉に救われた気がしていた。かつての自分はきっと「甘い」と言葉を出して、怒るかも知れないが今の俺にとって充分救いになる言葉だったのだ。言葉に浸っていると、二乃が居ない事に気づき、俺はすぐに体が沈むそうになっている二乃を掴む。
「大丈夫か、二乃?」
「あ、ありがとう……ソラ」
二乃は俺の体を掴み、二乃を一番先に川から上がらせ、次に三玖を上がらせてから俺は上がる。上がった後に、俺と上杉は互いを見つめてから笑うのである。こいつらに配慮なんてものは必要なかったんだ。最初から……。そう思うと今まで自分達がやろうとしていたことが馬鹿らしく思えて来て笑うしかないと思っていたのだ。
「ったく、お前らは本当正真正銘の馬鹿だな。いいぜ、こうなったらとことんやってやる!ついて来れなくなっても、知らねえからな」
上杉はそう笑いながら言うのであった。その声を聞いて、俺も上杉と同じ気持ちでこれから先やって行こうと考えたのである。