「私、貴方が好きなの」
ありきたりな告白に反吐が出るほど、俺はどうでも良かった。大体、こんな番組興味ないがでは何故そのテレビを見ているのかと言うと、楓姉が見ているからである。どうでもいいけど、楓姉は京都に行く準備をしているのだろうか。
「大胆な告白だねぇ。空もそう思わない?」
「思わねえよ、てか早く京都に行く準備をしておけよ楓姉」
ソファーに横になっている俺がそう言うと、「ちぇ~」と言いながら京都に行く準備を始めていた。何故、今京都に行くのかと言うと俺は自分の家のことをケリつけようと思っていたからだ。
楓姉は京都に行く準備を進め始めたようだ。俺も準備大丈夫か確認しに行くかと思いながら、自分の部屋に戻るのであった……。
今は駅。俺と楓姉は駅にやって来ていた。俺達は駅から電車に乗って京都まで目指すのであった。
「うぅ~。外寒いね、空」
厚めのコートを着ている楓姉がそう言う。一月とは言え、結構な寒さだ。雪も降って居るし、向こうに行けば雪は降ってないだろうけど寒さは変わらないだろうな。寒さのことを気にしていると、新幹線が来て俺達はその新幹線に乗り込んだ。乗り込んだ後、指定されている席に座り俺が通路側の方で座ったのである。
帰ったら爺ちゃんになんて言おうかと思いながら、俺は新幹線に乗って行った。そして、なにより父さんになんて声を掛けようとも思っていたのだ。
「家に帰るの久しぶりだね」
確かに久しぶりだ。前に帰ったのは去年の秋ごろに一度顔を出したぐらいだろうか。そのときは結局父さんには何も言わず帰ってたけど、今回は違う。今回は父さんと話すつもりだ。
「なぁ楓姉、俺父さんと仲直りできるかな」
楓姉にも分からないことを俺は聞く……。仲直りなんて言葉で表せる程のことじゃないけど、俺は父さんと仲直りしたいと思っていたんだ。いつも実家に電話するときは祖父が父さんの代わりに出ていた。そして、俺はいつも「父さんに伝えておいて」と言って電話を切っていった。だから、今日こそは俺はちゃんと父さんと話したいと思っていた。
「できるなんて気楽なことは言えないけど、ちゃんと話せばお父さんも理解してくれるよ」
その言葉を聞いて、俺は強く拳を握り締め覚悟を決めていた。ちゃんと話せばか……。確かにそうかも知れないなと思いながら、俺はその話を聞いていた。それから新幹線の中で揺られながら俺と楓姉は京都向かうのであった。
それから京都に着き、爺ちゃんがやっている和食屋まで辿り着くのであった……。駐車場を見ると、平日だと言うのに賑わっているようで何よりだ。でもまあ、正月だから当然かと俺は思いながら、ゆっくりと店を開け中へと入る。
「いらっしゃい」
爺ちゃんの声が聞こえてきて、こちらに一瞬気づきこちらを見ていた。何を思っていたのか分からないけど、俺と楓姉はそのままテーブル席に座った。それから爺ちゃんがこちらに近づいてきた。
「二人共……。今日はどうしたんだ?」
爺ちゃんは水を渡しながら言ってくる。ただ何かを理解していたのか俺の方を見て何か言いたそうにしていたのは伝わっていた。
「今日は父さんに会いに来た。父さんいる?」
その言葉を言うと、爺ちゃんは「外で待ってろ」と言う言葉だけ残して父さんを呼びに行ったのか、厨房の方へと行った。俺はその言葉を聞いて立ち上がり、楓姉に「行ってくる」とだけ言って俺は外に出るのであった。
外に出ると、冬の寒さを感じて俺はその寒さを感じながら父さんが来るのを待っていた。すると、裏口の方から誰かが出て来たような音が聞こえ、俺はそれが父さんだと言うのに気づき俺は深呼吸をしながら待っていた。
そして、待っていると足音が聞こえ頭髪が白い髪の男性がこちらを見ながら歩いて来ていた。俺はその人物がすぐに父さんだと気づいた。俺は父さんの目を見て話そうと思い、目を見ていたいが父さんは目を逸らしてきた。その姿はまるでかつての自分を見ているようにも見えていた。
誰も信じられなくなっていたあの頃の自分……。あのときの自分を思い出していると、父さんは足を止めて俺より下を向いていた。
「久しぶりだね、父さん……」
最初に言おうと思っていた言葉を出す俺。最初の言葉は謝罪にしようか迷っていたが、すぐに謝罪をしても困惑するだけだろうと俺は思っていた。
「今日はさ、父さんに言いたいことがあって此処に来たんだ……」
ゆっくりと息を吸いながら一つ一つの言葉に重みを載せながら俺は言う。でも、その言葉に悲しみはなかった。俺は父さんを楽にしてあげたかった。
「少し場所を移そうか」
と言いながら、俺と父さんは店から離れた場所に移動し誰にも見られないような場所に行くのであった。
「空が話を……?あのときのことは本当に申し訳なかったと思っている。詫びて欲しいなら幾らでも詫びよう」
場所を移した後、すぐに父さんはそう言ってきた。父さんが俺に詫びようとしているのはかつての謝罪だ。俺を救うことが出来なかったと言う謝罪だ。京都に居た頃、俺はある奴を庇ったせいでいじめの対象へとなった。父さんはそれを知っていた。痣だらけで帰って来た俺を見て父さんは俺のことを救いたいと思っていたのだ。
「違うんだ、父さん」
父さんは教師だったんだ。かつては人を正しく導く人だったんだ。自分の地位を忘れててでも息子を助けたいと思う気持ちは強かった。だけど、結局上手く行かずいじめは隠されたままで終わってしまった。父さんも楓姉も爺ちゃんも力になりたかったと言う気持ちが強かっただろう。そして、その気持ちが一番強かったのは他でもなく父さんだ。
「俺はそんなことを言いに来たんじゃないんだ」
父さんは俺を救えるはずだと思っていたんだ。でも結果的には救えず、俺は心を閉ざし人間を信じることを止めてしまった。そんな俺を見て父さんはずっと罪悪感を感じることになってしまったのだろう。俺はその罪悪感から父さんを解放したくて今日は此処まで来たんだ。
「俺は父さんに感謝してるよ。父さんはやれるだけのことはやった。だからもうそんなに自分を責めないで欲しい」
俺は言いたいことを言った。父さんに今まで言おうと思っていたこの言葉……。だけど、俺は今まで言うことができなかった。それは、俺に勇気がなかったからだ。俺は思い詰めた父さんを見て何を言えばいいのか分からなかったのもある。だけど、今は違う。二乃が四葉に言っていたあの言葉を思い出す。
「あんたも変わりなさい。辛いけどいいこともあるわ」
あの言葉を聞いたとき、俺は俺も変われるのかもしれないと思った。だからこそ、自分を変えようと思って俺は今此処に立っているんだ。そして、罪悪感に塗れている父さんを変えてあげたいと……。
「俺はそんなに辛そうにしている父さんを見たくないんだ……。それに俺のことならもう大丈夫だよ」
「俺は今人生で一番楽しいから」
一番言いたい事を言えた俺は涙が目から溢れ出ていた。泣かないつもりで来たのにこれじゃあ意味ねえなと思いながらも俺は、その涙を隠すことなく俺は流していた。そんな姿を見た父さんは俺を見て何を思ったのか、目を瞑っていた……。
そして、目から涙を溢れさせていた。
「そうか……。そうなんだな……」
「良い友達と出会えたんだね……」
俺にとっての友……。上杉や五つ子……。あいつらと出会えたから、俺は自分を変えようと思えた。あいつらと出会わなければこんなにも強くなることはできなかっただろう。人を信じることはできなかっただろう。あいつらとの出会いが俺の全てを変えた。
「良かった……。本当に良かった……」
父さんは俺のことを抱きしめながら子供のように涙を流していた。そんな父さんを見ながら俺は宥めていた。それから数分が経ち、泣き止んだ父さんを見ていると隠れていたのか爺ちゃんが現れる。
「明彦よ、良かったな。そうじゃ、どうせならこのまま空達が住んでいる家に住めばよかろう」
いきなり現れてそんなことを言い出すのは爺ちゃん……。俺達が住んでいる家に父さんが住む……?悪い話ではないけど、いきなりすぎないか?と思っていた。
「お爺ちゃん、いいね!その話!私は賛成だよ」
といきなり現れた楓姉が言い始める。やっぱ、二人共話聞いていたんだと思いながら俺は二人のことを見ていた。
「そんなことをいきなり言われてもな……。空はどう思う?僕と暮らすの嫌かい?」
「そんなことないよ……。俺も父さんと暮らしたい」
その言葉に嘘偽りなく答える俺。そう言われると父さんはまた涙を流しそうになっていたが、その涙を堪えて「ありがとう」とだけ言い、俺に笑顔で笑いかけるのであった。それから、爺ちゃんがやっている和食屋に戻って行った。
「こちら天ぷら定食」
和食に戻って来た俺達は昼食を済ませることにしたのであった。俺は来た天ぷら定食を少し見てから天ぷらを天つゆに入れて食べ始める。楓姉はと言うと、SNSに投稿する為か、スマホで写真を撮っていた。
「空、私ね。改めて言いたい事があるんだ」
楓姉が俺に改めて言いたい事……。いったい、なんだろうかと思いながらそのことを一旦箸を置いて待つのであった。
「私はあのとき空を助けることができなかった。私はあのことを今も後悔しているんだ」
楓姉は色々の事情で爺ちゃんの家に暮らしていたんだ。高校生になって一人暮らししたいという理由が多分多かったと思うけど、そんな無理難題を爺ちゃんは仕方なく引き受けて楓姉はあの実家に暮らしていたのだ。だから、俺が京都で廃人のようになっているのを知らなかったのである。知ったのは、俺がそんな姿になったのを偶々実家に帰って来て見たからだろう。
あのときの楓姉は今でも覚えている。「また力になれなくてごめんね」と泣かれたのを今でも覚えている。
「でも今の空は楽しそうにしている。それはよく分かるんだ。だから……」
今の俺が楽しそうにしているか……。確かにそうだなと思いながら、俺はその話を聞いていた。
「空がこんなにも逞しくなって嬉しいよ」
と言いながら、滅茶苦茶に頭を撫でてくる楓姉。いつもの悪い癖が出たなと思いながらも俺は黙って撫でられていた。でも、悪い気分じゃなかった……。今日は父さんとも楓姉とも話せた。爺ちゃんとはそんなに話せなかったけど、厨房でのあの感じを見る限り今の俺を見て喜んでいるのがなんとなくだけど伝わって来るかな。俺はそんなことを思いながら、昼食を終えそろそろ帰る時間となり俺と楓姉は爺ちゃんと一旦父さんにも別れを告げる。
「それじゃあ、また今度ねお爺ちゃん。それまで元気でいてよね?」
「フン、ぬかせ。ワシはいつでもピンピンしておるわい」
お爺ちゃんは筋肉を見せつけるかの如く、体を見せつけてくるそんな姿を見て俺達は笑っていた。
「それじゃあ、父さん。また家で会おうね」
「そうだな、また家で会おう」
と別れを告げて俺達は去って行く……。楓姉は二人に手を振りながら別れて行くのであった。俺は今日父さんと話せてとても良かったと思っている。父さんを心から解放できた気がしていたのだ。俺はそんな達成感にも近い感情を持ち合わせながら京都を去って行くのであった……。
それから数日が経った日。
「おかえり……」
荷物を持った父さんを俺と楓姉が迎えに来た。
「ただいま……」