更新してなかった理由はモチベーションが完全に下がっていました。
この度は長らく更新をサボっていてすみませんでした
偽五女の問いと親友
家族旅行。
父さんと一緒に旅行に出かけるのはいつぶりだろうか……。父さんが田舎町の旅館に泊まりに行こうと言い出したのが事の発端だった。田舎と言っても何もないと言う訳ではない。観光スポットである『誓いの鐘』と呼ばれている場所や夏に行けば海水浴が出来る海もあるというプチ観光地だ。
「着いたねー!!」
背伸びをしてストレッチをする楓姉。
当然楓姉も着いて来ていた。待ち合わせの場所で父さんと少し話をしていると、他の観光客だろうか。船着き場の待ち合わせ場所で待っているのが見えた。
しかし、俺にはその待ち合わせしている家族に見覚えがあった。
「あれ……。なんで上杉達も来ているんだ?」
黒髪の植物のようなアホ毛が特徴的な男が話しかけて来る。
この特徴的なアホ毛に鋭い三白眼……。間違いない……。
「羽目を外せると思っていたんだが……」
「例えば、山の頂上でヤッホーとかしてみたりするってことか?」
「そんな子供みたいなことするわけないだろ」
いや、上杉って外車見て子供みたいに喜んだり人生ゲームで遊んでて普通に楽しんだりしてるからそういう一面もあるって知ってるんだが……。本人にこんなことを言ったら怒られるだろうけど。
「「やっほー!!!」」
偶然は更なる偶然へと重ね合わされる。
何処から聞いたことがあるような声が聞こえて来た為、確認しに行くとそこには五月……。いや、五つ子の姿があった。
そして、羽目を思いっきり外してテンションが高くなっている上杉。その高くなったテンションも徐々に下がっていってるのは目に見えて俺は少し鼻で笑ってしまう。
「あんた達も来てたのね」
「ああ、紹介するよ。後ろに居るのが俺の父さんと楓姉だ」
父さんが軽くお辞儀すると、「結構イケてるじゃない」と言いながらお辞儀を返していた。
軽く話をしているようだが、俺がいつもお世話になっています。という内容だった。
「脇城さん、ご無沙汰しております」
「五月さんか……。あのときの気持ちは今でも変わらないのかな?」
「はい……!」
どうやら、五月と父さんは知り合いだったようだ。
二人の視線を見る限り、何かあったような感じではあるが決して悪いことではないようだ。二人の会話を終えた後……。
「ご無沙汰しております、脇城先生……」
「久しぶりだね、マルオ君」
「先生……?」
後ろを振り返ると、そこには中野父が立っており俺の父さんと話していた。
そういえば、中野父は俺の父親のことを知っているようなことを前に言っていたな。先生と言うところを聞くにもしかして……。
「成長したね。今では病院の医院長をやっているとか?」
「いえ、私はまだ未熟なものです……。それでは、失礼させていただきます……」
お辞儀をした後中野父は去って行った。
あんなに畏まっている中野父を初めて見た気がする。
「父さん知っている人なの?」
「ああ、中野マルオ君……。僕が教師をしている頃に授業を受け持ったことがあってね」
「へえ、父さんがか……」
やっぱり教え子だったのか……。
あの敬意を表したような話し方的にそうだろうとは見ていたけど……。まさか、こんな思いがけない繋がりがあったなんてな……。もしかして、俺が五つ子の家庭教師を頼まれたのも父さんの子だからこそ信頼できると判断したのだろうか。
今にしてみれば何故俺が家庭教師に選ばれたのか不思議だな……。上杉に比べれば学力も低かった俺を何故家庭教師に……。
「あ、あの……脇城君」
考え事をしていると五月が俺に話しかけてくる。
「あ、ああ……。悪い、なんだ?」
「脇城君、後で話があります。構いませんか?」
「分かった……」
俺と五月は宿泊先の旅館で会うことを約束していると、ガイドの人が鐘についての説明をし始めていた。
観光スポットである誓いの鐘の話をしているとき上杉が……。
「は……はは……、何処かで聞いたことある伝説だ。そういうのは何処にでもあるんだな。コンビニか……」
上杉の発言に風が吹き荒れる。
数十秒の空白が響いた後、俺が上杉の背中を叩き「どうしたんだよ」と言うと上杉が俺に耳打ちをしてくる。
「……な、なあ、一花がお前に何か相談とかしていないのか?」
「どうした?別に何も相談されてないぞ」
「そ、そうか……。なら別にいいんだ」
一花と何かあったのだろうか……。
上杉の表情を見る限りは悪いことでは無さそうだが……。そういや、この前ちょっと意味深なことを上杉が聞いて来ていたな。確か知り合いが同級生に告白されたと言う話をしていた。あのときツッコミはしなかったが知り合いなんて俺と五つ子以外に居ないのに随分変な話だなと不思議に感じながら聞いていたが……。
「そういや知り合いの話どうだったんだ?」
「え?あっ……。そういや、そんな話していたな。わ、割と上手く行ってるみたいだぞ……!!」
……何処か怪しい雰囲気がある上杉に俺は怪訝そうに首を傾げていた。
誓いの鐘を後にして坂を下りた場所で俺達は昼食を済ませた。
その後、再び迎えのバスに乗って旅館を目指す。
「お化け屋敷みたいだね……」
楓姉は周りを見ながら俺の後ろに隠れていた。
老舗の旅館ということもあってかある程度老朽化はしているみたいだ。
「そういえば此処の温泉混浴あるらしいよ?一緒に入る?」
「誰が入るか……」
小学生のときはよく楓姉とお風呂に入ることが多かったけど、流石にこの歳で一緒に温泉に入るのは無理があるというもの。楓姉は残念そうにしていた。そこは残念そうにする場所じゃないだろ……。それに父さんも止めてくれよと少し溜め息を吐きながら中へと入って行った。
すると、五月から『午後12時に中庭に来て欲しい』と連絡が来る。その連絡を見た後、俺は「了解」とだけ送り、俺は携帯から視線を逸らし楓姉の話に付き合うことにした。
中に入ると、そこはザ・旅館と言ったところだろうか。
ロビーに行き、そこで手続きやら部屋の説明等を聞いていた。
「それじゃあ、部屋に行こうか」
父さんが鍵を受け取った後、部屋へと入って行った。
部屋に入ると和室の部屋が目に入り、旅館という感じの言葉がまさしく似合うような部屋だった。夕飯も温泉もまだだ。それに、五月との約束の時間までもかなりある。
「ちょっと外出歩いて来る」
「うん、いってらっしゃい!」
部屋を出て、気晴らしに特に理由も無く歩き始める。
少し歩いていると、庭園のようなものを見つけてそこの前に座り込みながら景色を見渡していた。
そう言えば、さっきのバスに僕たちと上杉達と五つ子以外は乗っていなかったな。団体の客は三名なのだろうか。まあ、こんなこと考えていても仕方ない。偶然にしては出来過ぎてる気はするけど、それより今は……。
立ち上がり、廊下を歩き出そうとしたとき向かい側からかなり年老いたお爺さんが前を通り過ぎろうとしていた。
「あ、あの……お爺さん大丈夫ですか?」
「……この程度どうってことはない」
荷物も持っていた為、運ぼうとしたが拒否される。
まるで俺の爺ちゃんみたいに痩せ我慢をする人だなと爺ちゃんのことを思い出しながら諦めず荷物を持とうとしていた。結局、お爺さんは諦めて俺に荷物を持たせていた。道中、何もお互いに喋らずただ荷物を運んでいた。
「此処で大丈夫ですか?」
「ああ、すまぬな。脇城の倅」
「えっ?」
ポツリと呟いた後、お爺さんは去ろうとする。
「俺のこと知っているんですか?」
去ろうとしていたお爺さんに声を掛けるも全くと言って反応がなかった。
あのお爺さん、何故俺のことを知っていたのだろうか。あの『脇城の倅』という言い方的に父さんのことを知っていると言うことなのだろうか。
次第に見えなくなっていく姿を見つめながらおでこに手を置いていた。どういうことだろうかと思考を研ぎ澄ませていたがあまり追い浮かばずその場を離れる。
時刻は午前零時を示そうとしていた。
あの後、部屋に戻って過ぎて行く時間を待ち続けていた。それからして、中庭に向かおうとしていたが道中で勇也に話しかけられて少し話をしていたら時間を過ぎてしまっていた。廊下を走っていると、スマホから着信音が鳴る。相手を見ると、中野五月と表示されているのを見てから通話に出る。
「悪い、ちょっと遅れそうだ」
「いえ、それは構いませんが……。出来れば、早めに来てください。父の目もありますので……」
高校生とは言え、娘が午前零時ともう遅い時間に歩き回っていた。
気にはなるか……。
「分かってる……。ん?」
急いでいた足を思わず止めてしまう。
その理由は、目の前に五月と瓜二つの見た目をしている人間が立っていたからだ。
「五月、一応確認するんだが……。今目の前に居る五月は五月か?」
「えっ?い、いえ、違いますが……。どうかしましたか?」
「いや……。ちょっとな」
可能性は一つしかない。
二乃が四葉に変装したときのように誰かが五月の変装をしている。
「念のため聞くけど五月じゃない……よな?」
「脇城君どうしたのですか?廊下は走ってはいけませんよ」
偽五月は五月を演じることを続けていた。恐らくだが今目の前にいる五月は俺が本物の五月と電話していることは気づいているはずだ。電話で俺が五月に確認していたのを聞いてるしな。
何故今目の前に五月を名乗る偽物がいるのかがわからない。四葉のとき同様誰かが五月を演じているのかもしれない。何のためにだ……?
いや、今はそんなことより五月と会うのが先決だ。
「悪い、五月……ちょっと通るぞ」
「脇城君、私たちの関係をどう思いますか?」
目の前を通り過ぎようとした瞬間偽五月は疑問を投げかけてきた。
「親友だろ」
俺たちは今まで困難を乗り越えてきた。
それは上杉や俺だけ乗り越えることはとても困難なものだった。五つ子が居たからこそ俺達は乗り越えることが出来た。
「五月が何と言おうと少なくとも俺は少なくとも親友だと思ってる。俺は五月達のおかげで変われたから……。それは五月が一番分かってるんじゃないのか?」
変われたという言葉に自分でも疑問を感じているがそれでも俺は自分を押し通した。俺の答えに対して黙り込んでいる偽五月。
表情を見ようにも俺の答えを聞く前に偽五月は俯いて顔を見せないようにしていたからだ。
「……そっか、ありがとうソラ」
俺目の前から去ろうとする偽五月。
声の特徴的に俺はすぐに三玖だということに気づき腕を掴む。
「……待ってくれ、三玖なんだろ?」
まるで今の三玖の心情を表すかのように廊下は薄暗くなっていた。
ただ暗くなっているというだけなのに俺はまるでそう錯覚させられていた。
「教えてくれ、なんで俺を試すようなことをしたんだ?」
下を俯いてただ黙り込む三玖。
少し俺は不安になっていた。三玖が中間試験のときのように何かをまた一人で抱え込んでいるのではないのか?と心配になっていたからだ。なにより、三玖は俺に表情を見せないようにしていた。それもあって、今三玖がどんな気持ちなのか察することが出来なかったのだ。
親友か……。先ほど自分が吐いた言葉を思い出して少し嫌になっていた。
「ごめんソラ……。それはまだ答えられない。だけど、ソラならきっと分かると思う……」
「答えられないってどういう……!?」
気配のようなものを感じ取り、後ろを振り返るとそこには先ほどの爺さんが立っていた。
そして、俺を腕と腹当たりの袖を力強く掴んでそのまま……。
「脇城の倅……、ワシの孫に次手を出したら殺すぞ」
背中が床へと激突していた。
さっきの爺さんがどうして此処に……?というか今ワシの孫って言ったか……?
多少痛む背中を押さえながら俺は立ち上がろうとするが、あまりの痛みに膝をついてしまう。少し困惑しながらも三玖は俺の前へから去って行こうとする。
「三玖、なにがあったのか知らないけど……。あのときみたいに俺に隠し事なんて出来ると思うなよ。絶対三玖が何で悩んでるのか暴いてやるからな」
「……うん、期待してるからソラ。後、今度は私のことちゃんと当てて見せてね」
帰る際、後ろを向いて少し笑みを浮かべていた三玖。
去っていく三玖の姿を安堵しつつ見つめていた。