五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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偽三女の悪戯と五つ子ゲーム

「ふぅ……こんなもんか……」

 

 今はお風呂場……。

 お風呂場と言っても混浴のお風呂場だ。楓姉が言っていたけど、まさか本当に混浴のお風呂場があるなんてな……。一息つくかのように息を吐くと誰かが混浴の風呂場に入ってきた。

 

「すいません、今掃除……」

 

 掃除中と言いかけたところで、俺は喉に言葉を詰まらせてしまう。

 それもそのはずだ、目の前に居るのは五つ子の誰かだということを認識したからだ。

 

「誰だ……?悪いが、今掃除中だから帰ってくれ……」

 

 こんなところで五つ子の誰かに出会うなんて間が悪すぎる。

 こりゃお祓い行ってきた方がいいかもしれない、と少し余裕ぶっていると……近づいて来る。

 

「そういえばこの時間は確かに掃除中だったわね……」

 

 この少し匂いが強めの香水……。

 もしかして、二乃なのか……。まだ完全に把握できたわけではないが、この香水の匂いは割と覚えていたのだ。なるほど、一花が言っていたことってのはこういうことなのかもしれないな。

 

「なんで二乃が此処に居るんだよ……」

 

「へぇ、あんた私が二乃だって気づいたのね……。案外やるじゃない」

 

 俺が二乃だということに気づいたことを素直に褒めてくれる二乃。

 近づいて来る二乃に対して俺は後退りながら逃げようとする。

 

「なんで逃げようとするのよ」

 

「は、話でもあるのか……?」

 

 そりゃこんな状況で男女が二人なんてところを誰かに見られたら終わりに決まっている。

 だから、俺は今すぐにでもこの場から立ち去ろうとしていたが二乃がそれでも近づいて来る。

 

「全く……春休みの間全然来ないし……私が悪い事でもしたのかとちょっと反省していたのに……」

 

「……それは悪かったよ。でもバイトとかで忙しかったし仕方ない……だろ」

 

「な、なら……その……連絡ぐらい寄越しなさいよ……」

 

 もしかして二乃の悩みって俺達が春休みの間来なかったことなのか……。

 春休みの間、俺の場合は違うバイトで忙しかったのだ。連絡ぐらいしてやればよかったかもしれないな……。

 

「本当に悪かった……。何かの形で……罰は受けるから許してくれないか?」

 

「罰……?そうね、じゃあ……」

 

 

 

 

「背中流してあげるから脱ぎなさいよ」

 

「なっ!?」

 

 二乃の発言に動揺を隠すことが出来ず俺は固まってしまう。

 何度も何度も逃げようとしても、近づいて来るから嫌な予感はしていた。気づいていたのなら入って来た瞬間に逃げるべきだった。

 

「な、なにか反応しなさいよ!」

 

 恥じらう二乃であるが、それ以上に俺は頭がパンクしている。

 二乃の言っている意味が分からず、体すら動かすことが出来ないでいた。二乃が何を考えているのかそれすら理解不能だ。

 

「も、もういいわよ、私帰るから……!折角勇気振り絞って此処まで来たのに……!!」

 

 赤面しながらも怒り始めては俺の持っていたデッキブラシを床に打ち付けてから脱衣所へと帰って行く二乃の姿を見て、俺は二乃に「待て」と言うが、「待たないわよ!」と再び怒られてしまうが俺が二乃の腕を掴むと、顔をりんごのように赤くさせていた。

 

「な、なによ……!今更洗ってあげないわよ……!」

 

「ち、違うって……。あー、もうなんでこんなことになるんだ……!」

 

 俺は二乃の腕を放して、二乃も気づかぬ一瞬のうちに俺は脱衣場に戻ると、そこには背が低めのお爺さんが立っていた。

 

 

 

 

「脇城の倅……孫となにをしていた?」

 

「あー、いや……。なにもして……はいるのか、一応」

 

 一難去ってまた一難というのはこのことだろう。

 俺の目の前には師匠である中野家の爺さんが立っていた。この鋭い眼光、間違いない俺はこれから殺される。そんな殺気だった目に俺は抵抗や遺言すら言い残すことが出来ないと言った感じだった。

 

「言い残すことはあるか?」

 

「……ちょ、ちょっと……待って…ください!!」

 

 勢いよく背負い投げされて俺は床に背中を激突させていた。

 意識が若干朦朧としていたが、なんとか立ち上がると耳元で「破門だ」と伝えられ俺の弟子として生活は終わりを告げることになってしまった。

 

 

 

 

「爺さん、目がマジだったな……」

 

「だ、大丈夫……ソラ?」

 

「すげえいってぇな……」

 

「あんたが私に余計なことを言うからよ」

 

「今回に関しては……確かにその通りだな……」

 

 よく考えればいきなり好きだなんてことを聞くなんてどうかしていたのは間違いないだろう。

 だけど、まさか師匠に聞かれていたなんてな……。

 

「そうだ、二乃……。三玖のことを何か聞いているか?」

 

 俺は思い出したように三玖のことを聞き出そうとしていた。

 三玖の悩み相談を兼ねて早めに三玖の悩みを知りたかったからだ。

 

「なにをよ?」

 

「いや、最近悩みがあるとかって……」

 

 二乃と三玖は五つ子の中でも特段仲良く見えていた。

 言い合いしているときこそあったが、それはお互いに遠慮をしていないからこそだからだろうと俺は考えている。だからこそ、二乃なら何か聞いていないかと思ったのだ。

 

「聞いてないわよ。あの子最近あんたにチョコ渡せて上機嫌だったじゃない」

 

「そうだったんだが何かあったみたいでな……」

 

 確かにチョコを渡してそれを美味しかったと言ったときは、かなり上機嫌の様子であった。

 「また作るね」と言ってくれるほどだったのだから。

 

「まさかだとは思うけどまた余計なこと言ったんじゃないでしょうね?」

 

 余計なこと……。それは間違いなく何も言ってないはずだ。

 

「言ってねえよ……。三玖があんな行動を取ってきたのはかなり急だったしここのところバイト忙しかったから三玖とも会ってなかったしな……」

 

「案外その会ってなかった原因なんじゃないの?というか顔ぐらい見せなさいよ……」

 

「二乃と同じ理由ってことか……?」

 

「別に私はあんたに会えなくて寂しかったなんて感じてないわよ……」

 

 溜め息を吐きながら二乃は「その質問はしないでよ」と言いたそうにしていた。

 どうやら本当に二乃の悩みは俺達が来て居なかったことらしい……。それを証拠に、顔が少し赤い。

 

「とにかく……あの子のことはなんとかしなさいよ?前にも言ったけど、泣かせたらただじゃおかないって言ったの覚えてるわよね?」

 

「分かってるよ……。先に混浴出ろよ……お互い恥ずかしいだろうし……」

 

「わ、わかってるわよ……」

 

 

 

 

 

 

「さてどうしたもんか……」

 

 一旦旅館の外に出て空気を吸いに来ている。弟子を破門にされ、二乃からも情報を得られなかった。

 直接、本陣(三玖)に乗り込むってのも悪くはなさそうだが出来る限りそれは最後の手段に取っておきたい。

 

 

 

 

「ソラもう降参?」

 

 俺にそんな言葉を投げかけて来たのは五月……いやこの若干穏やかな口調は間違いない三玖だ。

 

「まだ降参はしない。ただどうにも俺には三玖が何で悩んでいるのか分からなくてな……。教えてくれって言っても教えてはくれないんだろ?」

 

「うん、それを考えるのがソラの役目だから」

 

「だよな……」

 

 結局本陣に乗り込んでも意味はないか……。

 いや、案外引いて駄目なら押してみろ作戦でやってみるのも悪くない。

 

「三玖、そういえばこの前のチョコありがとうな。すっげえ美味かったよ」

 

「ううん、私が……作りたかっただけだから全然いいよ。それに……ソラには日頃お世話になっているから」

 

「そんなことない。三玖の手料理も最近は凄い美味いしな」

 

「昔はマズかったって言いたいんだ」

 

「……悪かった」

 

 いつものように頬を膨らませどう見ても怒ってないような顔をしながら俺のことを見つめてくる。

 

 

 

 

「いいよ、本当のことだから……。でも、そ、ソラのお嫁さんに……ふ、相応しいぐらいの料理は作れるように……な、なったかな?」

 

 三玖が恥じらうようにしてそんな発言をしてきた。

 でも三玖にしては幾ら何でも攻めすぎではないのか?と不思議に思っていて俺は鎌をかけてみる。

 

「……本当に三玖か?」

 

「なんでそんな質問するの?私は三玖だよ」

 

 汗一つもない表情で……いや汗はかいている。

 それもかなりの量をだ。見ていてこっちが暑くなるレベルの汗の量をかいている。

 

「誰だが知らないがなんでこんなことしてきた?」

 

「……そっか、ソラにはやっぱりバレちゃうか。じゃあね」

 

「お、おい待て……!」

 

 俺は急いで偽三玖のことを追いかけようとしたがすぐに逃げられてしまう。

 この旅館はそこまで大きくはないが、逃げようと思えば逃げることも出来るだろう。それこそ外や女湯に逃げられてしまえば分からないものだ。どうしたものかと困り果てていると、俺のスマホに着信音が鳴り響く……。

 

「空か……!助けてくれ、五つ子のドッペルゲンガーが出た!!」

 

 電話の相手は上杉。

 電話はすぐに切れた。なにやらかなり困惑していた様子であった為、俺はすぐに五つ子達の部屋へと向かった。

 

 

 

 

「空、来てくれたか……」

 

 五つ子達の部屋に来れば、そこに存在していたのは四つ子の森であった。

 

「さっきぶりね、ソラ」

 

 この言い方的に多分二乃だ。

 そういえば、俺は三玖のことを口調で判断していたが二乃は言葉に若干棘がある言い方をするのと、もう一つの方はあんまりこういうことは言わない方がいいか……。俺は口を堅くして何も言わずにいた。

 これも一花が言っていた愛の力って奴のおかげなんだろうか……。そう考えるとなんか恥ずかしくなってくる。

 

「それで俺を呼んだ理由はなんだ、一花」

 

「フータロー君たちにはあるゲームに参加して欲しいの」

 

「あるゲーム?」

 

 疑問の言葉を先に投げかけたのは上杉だった。

 

「五つ子ゲームです……!」

 

「五つ子ゲーム……なんだそれ?」

 

 初めてその名前を聞いた俺は二乃に確認する。

 

「前のときあんたは居なかったわね。ルールは簡単よ、私達五つ子が誰か当てるゲームをしてもらうわ」

 

「待てよ、五つ子ゲームって言っても今この場には四つ子しか居なくないか?」

 

 確かに上杉の言う通りだ。今この場にいるのは四つ子しか居ない。

 恐らくこの場に居るのは一花と二乃と三玖ということは分かる。もう一人は誰だ……。緊張しているのか若干萎縮している様子だが……。

 

「それもそうね……。じゃあ今この場に居る四人の中で当ててもらうわ」

 

 目を離している隙に四人はそれぞれに散っていた。

 先ほどまで俺の目の前で座っていたの一花の姿もなく、四人は立ち上がっていた。上杉の提案の下、それぞれ五月の自己紹介を始めるがどうにも誰がだれであるのか理解することが出来なかった。

 

「上杉君どうですか?」

 

「さっきまで誰がだれなのか分かっていたはずなんだが……」

 

 どうやら俺と同じような状況になっている。

 

「脇城君は……駄目そうですね」

 

 ……この五月。

 若干だけど汗をかいている。まるでさっき走って来たかのような感じだ。ん?さっき走って来た感じ……?俺の中で何かが引っ掛かっていた。でも、さっきのは三玖じゃ……なそうだったしな。

 

「ソラ君は見分けられると思ってたんだけどな、ガッカリ……」

 

「そもそもなんでお前たち全員が五月に変装しているんだ?」

 

 上杉が畳の上に座りくつろぎ始めた。それを見て俺も隣に座り込めば、三つ子たちがこたつの中に座り始める。

 

「えっと……。昔から私たちはそっくり五つ子で、自他ともに認める仲良しさんだったのです。おじいちゃんもそれを見て喜んでくれました」

 

「しかし、ある日私がみんなと違う恰好をしてみたんです」

 

「ふーん、それはどんな格好なんだ?」

 

「それは今と同じウサちゃんリボ……あ!あーっと危ない!誘導尋問とは卑怯ですよ上杉さん!」

 

 四葉だということに気づいた上杉は四葉に問い詰めていたが、四葉は誤魔化そうとしていたが誤魔化しきれていない状況だった。

 

「そ、それじゃあ話の続きをしますね。五人同じじゃない私たちを見て、おじいちゃんは物凄く心配しちゃって……。仲が悪くなったんじゃないかと……。しまいには倒れてしまったのです」

 

 孫好きな爺さんだ……。

 でもそれはそうと他人に簡単に殺すぞと言うのは色々とマズいと思うけど……。

 

「それ以来、おじいちゃんの前ではそっくりな姿でいると決めました。話し合いの結果、五月ということになりまして……。だから春休みに入り、この旅行が決まってからちゃんと変装できるか不安で不安で……」

 

「それをずっと悩んでいたのか?」

 

「あはは……。みんなは楽しそうだったので言い出しづらかったのですが……」

 

 四葉らしい悩みだな。あの爺さん思いで人一倍今回の変装に対する意気込みは強かったんだろう。

 自分が変装が不得意だということを理解しながらも……。

 

「あんな怖い爺さんのためにお前ら偉いな」

 

「いいえ、とっても優しい人ですよ。私大好きです!」

 

 上杉はその言葉を聞いて、それ以上言うことはなかった。

 

 

 

 

「さて一通り話して見分けられましたか?」

 

 四葉との話を終えた後、五つ子ゲームを再開する五つ子。

 上杉の方を見ると、どうやら四葉すら分からなくなってきたようだ。因みに、俺はまだ四葉が何処にいるのか分かっている。

 

「どれが四人目の五月だ……?さっきはわかったのに……」

 

 指を差しながら上杉は四葉を探し始めていたが、同じ顔をしている五つ子を見て分からなくなっていた。

 

「その様子だと上杉君は駄目みたいですね。脇城君はどうですか?」

 

「悪いが分からない……。ギブアップだ」

 

「ガッカリ……やっぱり駄目みたいね」

 

 上杉は再度のチャンスを貰おうとしていたが、五つ子の雰囲気的にそれを与えてくれるチャンスもなさそうだ。これ以上、他の四つ子を当てられそうにもない。仕方ないが、諦めるしかない。

 

 すると、誰かが戸を叩く音が聞こえてくる。マズい、このタイミングで父親でも帰って来たかと思い、俺は急いでタンスの中に隠れる。タンス越しにあいつらの声が聞こえてくる。

 

「此処に脇城の倅は来なかったか?」

 

「脇城さん、来てないよ?」

 

「そうか……、お前たちもあの不埒な男に気を付けるのだぞ」

 

 俺に対する警戒心が強すぎるな……。

 いくらなんでも起きたことが俺が悪い案件ばかりだから仕方ないとは言えもう少し警戒心埋めてくれてもいいんじゃないだろうか……。

 でも、俺の対応を見る限り四葉が言っていた通り孫想いの爺さんってのは事実なんだろう。そう思うと、さっきまでちょっと面倒な爺さんだと思っていた印象が何処かへと消えた気がする。

 

 

 それこそ俺が孫想いの爺さんを知っているからなんだろう。

 

 

 

 

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