楓姉に勉強を教えてもらうことになり、あれから数時間が経った。元々、英語がかなり苦手な俺は楓姉から英語を中心的に教わっていた。勿論、他の教科も教えてもらっていたが英語だけはぶっちぎりでヤバい為教えてもらっていたのだ。
「えっと、空。簡単な英語だけど、Canって、基本的には~できるって言うときに使うでしょ。だから、日本語訳のときとかは出来る限り最後の文に注目した方がいいよ」
「それは流石に分かる」
とは言え、楓姉の言う通りだ。大体の英文は最後の方の文を見ればわかりやすくなる。最も、その英語を覚えていればの話だがな……。
「空は基本的に基礎がちょっと疎かだからねぇ……。もうちょっとやる?」
「やるよ」
その後何故か中学生レベルの英語からちょっとやり直しをさせられた。しかし、その甲斐もあってか基礎はしっかり覚えることに成功した。
「空、Will you marry me?って何?」
この姉絶対わざと言わせてる気がするんだけど……。殴ってもいいかな。
「結婚してくれませんか?って意味だろ。絶対わざと言わせただろ」
そんなことを言われて勝手にはしゃぎ出す、姉……。
なんなんだ、この姉……。
「え?でも、空中学生の頃お姉ちゃんと結婚するんだって騒いでたじゃん」
「騒いでねえ!」
ほんと、成績は優秀だけどこういうところだよな……。それからして、こんな感じに俺は姉に振り回されながらも勉強を続けるのであった。
「昨日のメール見たか、上杉」
時は既に朝となり、俺は今汗だくでダラダラ汗を垂らしている上杉と一緒に走りながら登校している。昨日、勉強したことは頭の中に入っている。楓姉は頭も良いから、勉強の教え方も分かりやすい。
「ああ、見たぞ。ありがとうな、空。それにしても、自分の勉強と家庭教師の両立が此処まで難しいとはな」
先ほどまで歩きながら参考書を読んでいた上杉。しかし、時間がヤバいことに気づき俺と上杉は追い詰められた動物のように走り続けていた。結果的に、上杉はYシャツが臭くなるほどには汗を掻いていた。
「上杉、Yシャツかなり匂ってるぞ」
ファブリーズを貸してやると、「そうか」と言いながらかけていた。
「お前もしかして、朝まで勉強していたのか?」
この様子だと確実にそうだ。俺も夜遅くまで勉強はしていたが、楓姉に体に毒だから止めた方がいいと言われてしまい、夜の12時にはやめた。高校生の睡眠時間は、大体8~7時間とは言うしな。
「ああ、勉強しないと流石にマズいからな」
上杉は、何故そこまで勉強に拘るのだろうか。偶に気になるときはあるが、聞いたこと自体は無かった。
「そうか、でもあんまり夜更かしし過ぎるなよ?じゃないと、勉強しても頭が機能しなくて勉強した内容無意味になるからな」
「わかってる」
本当に分かってるのか、上杉……。言われても絶対にするだろ。
それから暫くして、俺達は無言のまま走り俺は偶にコーラを飲みながら走っていた。
「ギリギリセーフ……!二度と走りたくないぞ」
「ったく、お前どんだけ体力ないんだよ」
途中、何度も何度も上杉は息を切らしていた。俺が背中を押しながらなんとか走らせることで間に合うことに成功したのだ。最近、生徒指導の教師が立っていると言う話も聞くし危ないところだった。
「しょうがねえだろ」
と言いつつ、汗を拭いていると高そうな外車が物凄いスピードで走って来たのである。法定速度余裕で越えてそうな走り方してんな。一般道の法定速度って確か、60kmだっけ。
「あの車かっこいいな。きっと100万円はするんだろうな」
上杉が珍しくヒーローショーを見る子供のような目で外車に憧れの目を向けていた。上杉ってこういうのあんまり興味無さそうだったけど、案外興味あるもんなんだな。まあ、男でこういうかっこいい車嫌いな奴あんまり居ないだろうけど。
上杉が憧れの目を向けてくると、誰かが降りてくるのか車のドアが開いた。此処の学校の生徒か?随分と似合わない学校通ってんな。
「なっ!?貴方は……!?」
降りてきたのは、中野姉妹であった。
なるほど、やっぱり石油王の娘か。きっと、海外の高級マンションとか購入しているような男が父親なんだろうな。
「お前らだったのか、お前ら!昨日はよくも逃げて……!」
上杉の話の途中で中野姉妹は逃げ出すのである。まるで、上杉のことを勉強を教えてくる悪魔か何かと思っているような感じだな。
「待て!よく見ろ!俺は手ぶらだ!害はない!」
先ほどまで持っていた参考書は既に鞄の中に入れてある。見た目通り、手ぶらである。
「騙されねーぞ、この勉強妖怪!」
「テスト用紙とか隠してない?」
「隙を見せたら勉強を教えてくるかも」
しかし、信用できないのか四葉と五月以外の三つ子達が色々言い出す。散々な言われようだな。上杉、マジで何をしたんだ。だが、何だろうか。確かに上杉なら隙を見せたら勉強を教えてくる気がする。
「それで五月。うちのことだが……」
どうやら、五月は上杉の家庭事情を知っているようだ。なんで、知っているんだ……?
「分かっています。口外はしません。私達の力不足なのは認めましょう。ですが、自分の問題ぐらいは自分で解決します」
「それができねえから……」
と言おうとした瞬間、上杉に口を塞がれてしまい上杉が一歩前に出る。
「そうか、じゃあちゃんと昨日のテストの復習はちゃんとしているんだろうな」
「まさか、してないなんて言うわけ……」
と更に追い詰めると五月の口が歪み、目から何故か涙が零れ始めており震えていた。ああ、こりゃあ駄目そうな感じだな。
「空、問題を一つ出してやってくれ」
ええ、この状況で更に追い込むのかよ。鬼だろ、お前。
「問題か……」
上杉のテスト範囲から出された奴の方がいいよなと思いながら考える。そして、俺が一番得意とする歴史の範囲にしようと決めるのであった。
「問一、厳島の戦いで毛利元就が破った武将を答えよ」
割と簡単だろうと思いながら聞くと、更に五月の表情が悪化し今にも泣きそうになっていた。
「なんかすまん」
と思わず謝ってしまう。しかし、その謝罪が更に効いたのか体を更にプルプルと震えている。なんだお前、電源入れたら震え出すおもちゃか。
「あ、謝られた方が傷つきます!」
デスヨネー。
学校に入り廊下を歩き始める。そして、俺も嫌われたのかかなり距離を離されている。なんでだ、少なくとも五月以外は嫌われる要素まだ皆無だろ。二乃は分からんでもないが……。上杉は険しい顔をしながらテストの解答ノートを開いていた。なんで開いているんだと思いながら見ると、先ほどの解答を見る。
「三玖の奴、さっきの問題正解しているな」
四葉達に聞こえないぐらいの声で俺は上杉に話しかける。最も、大体10mぐらいは離れているからあんまり聞こえないとは思うが……。
「そう言えば、そうだな。でも、なんでさっき答えなかったんだ?」
確かに答えられるのなら答えるはずだ。それをなんで答えなかったんだろうか。何か訳でもあるのだろうか。と思いながら歩いていると、教室に着いたため俺は此処で上杉と別れる。それからして、授業が始まる。
授業をしている途中、何度も何度も二乃は頭を抱えている様子であった。流石に見ていてヤバいなと思った俺は、所々でノートを見せたり教えたりしていた。本人の表情を見る限り要らないお節介だと思われているのは間違いないだろう。だが、そこまで悩んでいるところを見ると流石にこちらが辛くなると言うものだ。
「授業中はありがとう。でも、言っておくけどこんなことをしたからって私が家庭教師を受ける気になるとは思わない事ね」
なんで、俺が家庭教師やるってこと知ってるんだ……?ああ、四葉からとかから聞いたんだろうな。きっと……。
「別にそれでもいい。授業中は俺がやりたくて好きにやっただけだからな」
そういえば、もう昼休みの時間か。
丁度腹も減ったことだし、学食にでも行ってくるか……。と思いながら、立つと二乃が何かを言いたそうにしながらこちらを見てくる。
「飯一緒に食べに行くか」
昨日の四葉の件もあってある程度は女子とは話せるようになった。いや、なったと言うより四葉の距離感が近すぎてこのぐらいなら慣れてしまった。
「あ、あんたと……!?」
俺と飯を食べるのがかなり嫌なのか声を荒げてそう言った。そんな嫌か、俺と食べるの。
「俺と嫌なら姉妹誘ってもいいが……」
「そうね、そうさせてもらうわ」
それ遠回しに俺のこと嫌いって言ってるよな。俺マジでメンタル低いから凹むぞ。と俺のメンタルがかなり追い込まれながら、学食へ行くと……。
「あれ、三玖じゃん。なんでこんな陰キャといるのよ」
相変わらず当たりキツイな、こいつ……。
そこにいたのは、三玖と上杉。
それにしても、抹茶……ソーダ。なんでこんなもん飲んでるんだ。炭酸ならコーラ一択だろ。それはともかく、俺は三玖に聞きたい事があるんだった。
「なぁ、三玖……一つ聞いてもいいか?」
「え?なに?」
三玖が何か隠そうしているのか、おぼんを慌てて持ち直していた。昼飯、サンドイッチだけか。もっと食べればいいのに……。しかし、俺が三玖から話を聞こうとした瞬間。
「上杉さーん!一緒にお昼食べませんかー!」
大きな声を張り上げて、周りの学生を驚かせていたのは四葉。三玖が何か言おうとしていたが、四葉の声で遮られてしまい聞こえなかった。
「なんだ?四葉か……」
どうやら、四葉は上杉にテストの成績を見せに来たようだ。いや、だからそんな堂々と見せるなよ。
「あんた、まさかだとは思うけど三玖を狙ってるんじゃないでしょうね?」
「安心しろ。俺は女苦手だから」
これ余計誤解生みそうな言葉だよな。そして、一花がやってきて何やら話していた。
「恋……?あれは学業から最もかけ離れた愚かな行為だ」
一花と上杉が話していると、恋愛の話になり上杉の体から炎が燃え上がっていた。
特に理由のなき暴力が俺を襲って来る。そして、俺はその言葉に眩暈すら感じていた。
「したい奴はすればいい。だが、した奴は負け組同然だ。そこで勉強と言う人生が終了するのだからな」
一花は「こりゃあ拗らせてるね」と言いながら、引いていた。そして、俺は頭を抱えながら上杉の一言、一言がかなり刺さっている状況になっている。
「そう言うお前はどうなんだ。人に恋愛、恋愛と押し付けてくるが……」
「アハハ、手厳しいね。フータロー君」
どうやら、一花も相手はいない様子だ。そして、四葉も居ないのか、頭の後ろを触って苦笑いしている。
「三玖ちゃんはどうなの?好きな人とかいる?」
そんな一花の言葉に、一瞬動揺を見せる三玖。
「い、いないよ……!」
俺は一瞬、三玖の表情が変わったことに気づくのであった。まさかな……。と思いながら、好物のカツ丼を受け取る。
「あの様子、姉妹の私には分かります!三玖には好きな人がいます!」
四葉が自信満々でそう答える。三玖に好きな人か……。いったい、誰なんだろうね……。と思いながらかつ丼を食べ始める。しかし、このとき俺はあることに気づきすらしていなかったのだ。まさかそんなことはないだろうと思っていたからだ。
「……なんだこれ」
机の中から授業の道具を取り出そうとしたときであった。机の中から紙が出てきたのだ。
内容はこうだった。
「放課後、屋上に来て」
この手紙を送ってきた相手は誰だろうかと思ってると、三玖であった。まさかだとは思うけどな……。はぁ、なんでこんなことにと思いながら俺は寝るのであった。