「そうか、上杉は上杉で色々と問題があるんだな」
自販機で二つ飲み物を購入した俺は一つを上杉に渡していた。
俺たちは今互いの現状を話していた。何故今互いに現状を整理しているのかと問われれば、五つ子の部屋を出た後上杉が話をしたということでこうして今俺達は椅子に座っていた。
「ああ、五つ子の悩み相談解決窓口になってな……」
「俺もちょっと訳あって三玖の悩みを解決しようとしていたところだ」
五つ子の悩み相談解決……。
話していた感じどうやら五月の悩みを聞いたようだ。その上で五つ子の悩み相談を始めようとしているらしい。
「ああ、そうだ上杉……。此処に来るまで本物の五月と遭遇したか?」
「いや、多分会ってないな……。元々五月には父親の相手をしていてくれてと頼んでいたからな」
俺はある可能性のことを考えていた。
それは五月が三玖の変装をしていたんじゃないか?と言う過程の話をだ。何故なら偽五月の話は五月と三玖本人しか知らないはずだからだ。しかし、それは上杉が中野父の気を引くために五月に頼み込んだとあれば時間的に辻褄が合わない。それに三玖が他の五つ子に話した可能性もあり得る。
このままじゃ偽三玖を言い当てることが出来ずに終わる。
あの三玖はいったい誰だったんだ……?
「そういえばお前二乃の悩みが何かは知っているか?」
俺はとりあえず二乃の悩みを上杉に打ち明けると、「ふん!散々俺達の勉強を邪魔した罰だと思え!」と言うのであった。
まだそのこと気にしていたのか……。二乃には上杉は色々と苦しめられたみたいだしまだちょっと根に持っていて当然か……。
「空、俺は引き続き五つ子達の悩みを解決しようと思う。今は三人の悩みは聞けたことになるのか……。空は一花の悩みは知って……。ああ、そういうことか……」
何かに気づいたのか上杉が黙り込む。それもそのはずだ。
多分悩みの原因が自分だということに気づいたのだろう。何か助言をしてやってもいいが、どうして俺が知っているのかとなって説明するのも大変だ。
「……と、とりあえず一花は俺がなんとかする。空は三玖のことを頼むぞ」
「ああ、分かってる……」
一花のことと恋に関しては上杉自身がどうにかするべきことなのかもしれない。だから、あまり口出しをするべきじゃないのかもしれないな。
「脇城の倅、一歩でも孫の方に行ったら分かるな?」
相変わらず警戒心の強い爺さんだ。
でも、これが孫想いだってんならちょっとは分かるかもしれない。俺の爺ちゃんも孫想いの人だったから。
「聞いているのか?」
「はい、聞いていますよ」
「お前師匠に滅茶苦茶警戒されてるんだな……」
「色々あってな……」
俺達は海に来ていた。
爺さんが運転したバスで此処まで来ていた。というのも、五つ子たちが海に来たいという熱い要望に応えてだ。因みに父さんたちは来ていない。部屋でゆっくりしているとのことだ。
「あれが三玖……」
そして、たった今爺さんが五つ子たちを当てているが俺にはさっぱりだった。横にいる上杉も同じように「え?え?」という反応を示していた。
「なあ、上杉は別に五つ子を見分けられるようになる必要はないんじゃないのか?」
「俺はあいつらの変装に色々と騙されたからな!師匠の教えを乞うてあいつらの変装を見破りたいんだ」
あいつらにぎゃふんと言わせてやりたいってことか。
そういう気持ち分からないでもない。
「わぁ、たくさん釣れてますね!」
五つ子達が釣れた魚が入っているクーラーボックスを見ている。
上杉が色々と紹介しているうちに一人の五月が「どれも同じでは?」という顔をしていた。
「キスだな」
その言葉に一人の五月が反応して俺の方へと寄ろうとしてきた。
俺は一歩引いて逃げようとすると、もう一人の五月が「こっち来て」と呼んできた。誰だか分からないが少なくとも今は爺さんの目から離れたい。有難くその提案を頂戴するとしよう。
「どうしたの?さっきから私たちと一歩引いてるけど?」
「あー、色々あってな。あの爺さんに目を付けられてる」
「お爺ちゃんに目を付けられるなんてなにしたのソラ」
この物腰が柔らかい言い方は間違いない三玖……だと思う。
確証はないけどこの呼び方をするのは三玖か二乃ぐらいだろう。そして、さっき俺に急接近しようとしてきたのは多分二乃だ。香水の匂いが二乃っぽいものだったからだ。
「誤解を招くことしたからな……多分俺のせいだ」
「そうなんだ……。そうだ、さっき私が言ったソラのお嫁さんにって発言なんだけど……」
……おかしいぞ、あの三玖はどう見ても三玖じゃなかった。
なのに、なんで本物の三玖がこのことを知っているんだ。いや、まさかだとは思うがあれは本当の三玖だったのか……。だけど、あの奥手の三玖があんなド直球の発言が言えるなんて少し考えられない。
「忘れて欲しいの」
「……三玖がそれでいいなら俺は構わない」
「ありがとう、それだけだから……」
去っていく三玖の姿を見つめながら俺は考え事をしていた。
次の瞬間、誰かが突き落とされたような音が聞こえてきた。
「大丈夫か上杉」
「大丈夫じゃない……。くそっ、姉妹の誰かに突き落とされた」
突き落とされたような音の方まで行くと、どうやら誰かが上杉のことを突き落としたようだ。
このタイミングでどんどん不可思議なことが増えて行っている……。なんとかして三玖があのことを聞いてきた理由を突き止めなくちゃいけないってのに……。
この後、俺達はバスに乗って旅館に帰ることになった。
だが、帰るとき俺のスマホにはメールが送られてきていた。
『旅館の中庭で待っています』
送って来た相手は五月だった。
「五月だよな……」
中庭に来た俺だったが今目の前に五月が本物の五月なのかどうかすら分からなかった。汗の匂いは既に消えている。
仕方ない、此処はある方法を使うか……。
「ハンバーグに合うものは?」
今朝、本物の五月を見極めるための暗号のようなのを上杉から教えてもらった。何故こんな暗号なのかは分からないが、俺はその暗号の言葉を言った。
「デミグラス……」
「……やっぱ五月だったんだな」
俺はある確信をした。
あのとき感じた違和感は間違いなかった。俺があの五月の森の中で一人汗をかいている五月が一人見た。あの速さで五月達のところで戻るならかなり急がないとダメだ。五月は三玖よりは流石に足が速いがそれでも遅い方だ。
だから、長距離を走ればかなりの汗がかくに決まっている。
「いつから気づいていたのですか……?」
「なんとなくだよ……あの5つ子の森に居たとき一人だけ口数が少なくて肩から呼吸してる奴がいた。しかも、そいつはかなりの汗だくと来たもんだ。相当な距離を走ってきたんだろうな」
「つまり……匂いですか?……変態ですね、脇城君はそのようなことをしないと思っていたのですが……」
「変態って言うな……自分でも分かってるんだから……」
自分でも女子の匂いを嗅いでそれをヒントにするなんて変態だということを理解していた。
だが、それしか俺には分かる方法はなかった。
「……まず貴方を試すようなことをしてしまったことをお詫びさせてください」
深々と頭を下げる五月。
「……何故、試すようなことをしたのかは答えられるのか?」
「はい、これも三玖の作戦だったんです」
「三玖の作戦……?いったい何処から何処までが三玖の作戦だったんだ」
俺には何処から何処までが三玖の作戦なのか分からなかった。
俺に三玖のことを頼んだ時点で既に三玖の作戦とやらが始まっていたのかそれとも違うのか。
「それは……私が脇城君と分かれた後のことなんです」
◆◆◆◆◆◆
私が脇城君と分かれた後……。
私は三玖と遭遇しました。
「三玖、何故貴方は脇城君にあのようなことを?」
「……五月お願いがあるの。力を貸して」
「それは何故ですか?」
私には分かりませんでした。何故三玖が脇城君のことを騙してまで何かを試そうとしているのか……。
だって、三玖は恐らく脇城君のことが……。もしかしてですが、脇城君に関係のことを聞いたのは……。
「もしかして三玖は……」
それを言おうとした瞬間、私は三玖に言葉を遮られる。
三玖は口元で指を立てて「シッー」とやっていた。そういうことなのですね、三玖。でしたら、私も少し協力したいと思います。
「分かりました、脇城君騙し作戦私も手伝わせてもらいます」
◆◆◆◆◆◆
「私はあの後三玖に協力を持ちかけられて脇城君を騙すことにしたんです」
「お、俺のお嫁さんにって……話をして来たのが五月なんだな?」
「そ、その話はやめてください……。わ、私も言うのはかなり恥ずかしかったですから……」
これであのとき俺に直球の発言してきたのが五月だと言うことがわかった。そして、中野父の足止めをしに行ったのは三玖だったのだろう。
全く手の込んだことをしてくれる。
「それでどうして俺にそれを伝えようと思ったんだ?」
「そ、それは……流石に脇城君を騙したままなのは申し訳ないと思いまして……」
確かに真面目で正直な五月のことだ。
嘘をついたままにするということが出来なかったのだろう。
「そうか、分かった……。とりあえずそれだけ分かればいい……」
「何故三玖が脇城君のことを騙そうとしたのか聞かないのですか?」
「聞いてどうすんだ。それを考えるのが俺の役目って言ってたのは五月の方だろ?」
「そう……でしたね。脇城君、今回はすみませんでした」
「気にするな……」とだけ伝えて俺はその場を去ろうとしたときだった。
「関心しないね、男女二人がこんな夜遅くに話とは」
「お父さん!?」
俺たちの目の前に現れたのは中野父だった。
まさかこのタイミングで中野父に見つかるとは思わなかった。
「五月君、もう夜は遅い。早く部屋に戻りなさい」
その言葉を聞いて渋々五月は部屋の方へと帰り始めていた。
「脇城君、キミも早く部屋に戻りなさい」
俺は何も言わず部屋に帰ることを選んだ。
そういえば、あの人も五つ子達のことを見分けられていたな……。一花が言っていた「愛があれば」という言葉が正しいなら……。
そうか。俺はあの人のことを勘違いしてたみたいだ。あのとき、不遜な態度を取ってしまったがどうやら認識を改める必要があるみたいだ。
「脇城の倅、ワシの孫の区別はつくようになったか?」
部屋に戻る帰り道、俺は師匠と遭遇するのであった。
「……多少はつくようになったかもしれません。貴方の孫の長女が言ってましたよ、愛があれば分かるって……。でも、俺にあるのは親友としての愛なのかもしれません。だから、匂いや仕草でなんとなくですけど分かるようになってきたんです」
「……匂いとはあまり関心せん。だが、それもまた見分ける為には必要なことというわけか……」
「だが、お主に一つだけ問いたいことがある」
先ほどまで風が吹いていた廊下の中が風一つなくなっていた。
そして、空気も変わりまるで覚悟を問われている。そんな感じだった。
「もし、孫の中でお主のことを好きになる者が現れたとき、お主はどうする?」
「受け入れます。例え、そう言われようとも受け入れます。俺がその子を必ず幸せにしてみせます」
五つ子の中で俺のことが好きな奴がいることはなんとなくだが気づいているつもりだ。だから、もし告白でもされたのなら俺はそれを受け入れるつもりだ。