「探したぞ、一花……」
今は夜中……。
必要最低限の照明がついている中、一花を待っていたのは上杉であった。
一花は上杉の姿を見て、すぐに逃げようとするが……。
「待てって……!」
一花の浴衣の袖を掴んで上杉が逃げようとする一花を捕まえていた。
一花は上杉に顔を見えないように必死に逸らそうとしていた。
「お前から好きだって告白してきたんだ……。だから、俺の答えを聞いてもらうぞ」
上杉は覚悟を決めたのか、真っ直ぐな視線で顔を逸らし続けている一花のことを見つめていた。
「いや、その前にこれだけは聞かせてもらうぞ……。一花の悩みは……俺のことが好きってことだよな?」
その言葉を聞いて一花は何も言えずに居た。
それは紛れもなく事実なのだから。だからこそ、黙り込むことしかできなかったのだ。
「俺の……答えは……俺の答えは……!」
「いいよ、フータロー君!答えてなくて!!」
先ほどまで黙り込んでいた一花は大きな声を張り上げて上杉のことを制止する。
一花はこのとき思っていた。確かにあのとき腹を決めて上杉に告白をしたはずだった。だけど、果たしてこれで良かったんだろうかと気持ちが強かったのだ。一花は分かっていた。上杉が好きな子はもう一人居ると……。
その子の幸せを踏みにじるような真似をしていいのだろうか、と……。だからこそ、先ほどまでずっと喋べろうともしなかったのだ。
そう、つまり一花の悩みというのは上杉が好きということではなく、"四葉"から上杉を奪い取るようなことをしていいのだろうかと気持ちが強かったのだ。
「フータロー君、あの日の言葉……忘れて……無かったことにして……」
「待て……一花……!俺は……まだ何も……!」
本当なら好きな人には一途でありたいという気持ちが強かった。誰にも負けない愛という気持ちで上杉のことを好きで居たいという気持ちが強かったのだ。だけど、今はその気持ちに正直になれないというより罪悪感が勝っているのだ。
その場から逃げようとする一花に戸惑いながらも彼は追いかけようとしたが……。
「上杉君、こんな夜遅くにキミはなにをしているのかな?」
目の前に立っていたのは腕組みをしている中野マルオであった。
夜遅くに出歩いている自分の娘達を探していた中野家の父親と鉢合わせしてしまったのだ。
「すいません……そこを通して貰えませんか?」
「悪いがそれは出来ないね……さっき通ったのは私の娘の一花だ。男女二人がこんな夜遅くに居るのは危ないとは思わないかい?」
マルオは此処を通す気はないようだ。
上杉はどうしてももう一度一花に真実を聞きたかったのだが、此処は食い下がるしかないと思い引き返すことにしたのだが……。彼は引き返す前にマルオにこんな発言をするのであった。
「一花に会ったら伝えておいてください……。俺は待っていると……」
「!?……待ちたまえ、上杉君」
何かに気づいたのかマルオは上杉のことを呼び止めようとしていたが既に上杉の姿はそこにはなかった。
その頃、上杉の目の前から逃げた一花の目の前には今一番会いたくない四葉が目の前に居た。
「わああっ!?ビックリした一花か……」
目の前にいきなり走って来た人影を見て四葉は驚きを隠せず大声を出していたのだ。
「一花……どうしたの?」
優しい四葉の言葉を聞いて一花は逃げようとしていた足を止めてしまう。
そして、ゆっくりと四葉の方へと行き彼女の胸の中で涙は少し流すのであった……。
「色々あったんだね……一花」
自分の胸の中で泣き出した一花を慰めていた。
「らいはちゃん、旅行はどうだった?楽しかった?」
次の日、旅行最終日の朝。
五つ子達は上杉らいはと空の姉である楓を誘って温泉に来ている。
「凄く楽しかったよー!昨日はお父さんとたくさん遊びに行ったんだー!」
らいはは自分の父親である勇也との思い出を語っていた。その中で兄が居なかったことが残念だったと語っているが、らいははそんな思い出を楽しそうに話していた。そんならいはを見ていた楓は……。
「はぁ~!らいはちゃんはやっぱり可愛いなー!今からでも私の妹にならない!?らいはちゃんなら大歓迎だよー!」
楓はらいはに抱きつき頬ずりをしていた。そんな馬鹿らしい光景をみていた五月は「この人、本当に脇城君のお姉さんなのでしょうか?」と少し目を疑っていた。
「そ、そういえば四葉さんと一花さんは何処?」
「一花はまだ来てないみたいですね……。四葉はそこのサウナに入ってますよ……。少し長い気もしますが……」
男湯……。空と上杉はたった今絶妙な空気の中にいる。なにより、上杉は今すぐにでも此処から抜け出したいそんな気分になっていた。何故なら、マルオが先ほどから上杉に何か言いたそうにしているのだから。だが、ただ抜け出すにもかなりの力を使いそうな感じがしていた。
「こうして直接会うのは久しぶりだね、マルオ君」
「明彦先生と会うのは結婚式以来でしょうか……」
五つ子の父親であるマルオは少し腰を低くしながら明彦にお辞儀をしていた。
「ぷっはぁ……!やっぱ、温泉での酒は美味いなぁ!お前らも一杯どうだマルオ、明彦先生!」
「僕は遠慮しておくよ。お酒はあんまり得意じゃないからね……」
「上杉、僕を名前で呼ばないでくれ。それに酒は苦手だ。特別な日にだけと決めている」
酒を勧める勇也であったが、二人共飲もうとはせず「なんだよ、つれねぇな」と言いながら、もう一杯飲んでいた。
「ったく、先生たちは相変わらずですね。そういや、実は仲居さんから不思議な話を聞いたんだが……」
「止めてくれ、世間話をする間柄でもないだろう」
温泉から出ようとしていた空と上杉であったが二人は勇成の不思議な話というのに興味を持ち、二人は耳を傾けていた。
「まぁ、聞けって。知っての通り、この旅行はウチの息子とお前んとこの娘さんが偶然当てたもんだ。そんなことあると思うか?五組限定だぜ?そこで仲居さんに質問したんだ。この旅行券で当たった客は何組来ましたかって。驚いたね、俺らより先に既に四組も来てたんだとさ」
「明彦先生の方は確か、封筒から送られてきていた招待状で此処まで来たんでしたよね?」
明彦は「ああ、そうだよ」と言った後何かに気づいたのかマルオの方を見ていた。マルオは「不思議な話もあったものだね」と誤魔化していた。その話を聞いた上杉と空はお互いに顔を見合い、温泉から出るのであった……。
「あのー師匠……」
空は上杉から少し事情を聴いて、中野家の祖父が居るところまでやって来ていた。その事情というのは、祖父はもう既に長くなく、残された時間を過ごす為にこの旅行を提案したという……。そして、空達が誘われたのは恐らく明彦が関係者だったからであろう。
「実は昨夜の話を聞いていたんですが……」
中野家の祖父から返事はなく、ただただ黙り込んでいた。そんな様子を見て、二人はヒソヒソ話をしていた。「この爺さんもう死んでいるんじゃないのか?」とか「失礼だろ」と注意する空。そんな中野家の祖父の姿を見て二人は……。
「「お世話になりました」」
二人は頭を深々と頭を下げていた。
「……孫たちはわしの最後の希望だ。零奈を喪った今となってはな……。孫たちに伝えてくれ」
「自分らしくあれと」
「あいつらは……。きっとあなたの死も乗り越えます。短い付き合いですがそれは保証します」
今まで様々な困難を乗り越えて来た五つ子達。その五つ子達を見ていたからこそ出た発言だろう。その発言に対して、中野家の祖父は何も言わずただ黙り込んでいた。空と上杉はその場を去り、それぞれ帰りの準備をしに行くのであった。
そして、帰り時五つ子達を見送る為か祖父は外に出ていた。五つ子達がそれぞれ騒いでいる中、上杉と空は祖父の隣で彼女達のことを見ていた。
「また来ます。あなたとの思い出を作りに……」
「そのときは五人の顔くらいは分けられるようになっているんだな……。脇城の倅……いや、脇城空よ」
「お主は孫たちを見分けられるようにはなったようだが、それでもまだ半人前。お主に伝えた覚悟のことも忘れるでないぞ?」
「……分かっています。短い間ですが、ありがとうございました」
見送ってくれた祖父に対して、上杉と空は手だけを挙げて彼女達の輪の中に入って行くのであった。その後、彼女達と記念写真を一緒に写真を撮り、帰って行くのであった……。
「お世話になりました」
旅行最終日、旅館を出る際上杉と空は五つ子の祖父に頭を下げていた。
様々なことを教わった二人は師匠である彼に対して感謝の気持ちを伝えていたのだ。
「……孫たちはわしの最後の希望だ。零奈を喪った今となってはな……。孫たちに伝えてくれ」
「自分らしくあれと」
「あいつらは……。きっとあなたの死も乗り越えます。短い付き合いですがそれは保証します」
今まで様々な困難を乗り越えて来た五つ子達。その五つ子達を見ていたからこそ出た発言だろう。その発言に対して、中野家の祖父は何も言わずただ黙り込んでいた。空と上杉はその場を去り、それぞれ帰りの準備をしに行くのであった。
帰り……。
船で隣同士になった五月と空は話をしていた。
「な、なるほど……勘違い変態男ですか……」
「俺もさすがにそれは酷くないか……。と思うんだけどな」
五月の方から三玖の悩みの件で話を聞かれた空はあった出来事について答えていた。
体型で見抜いたということは五月には伝えず……。
「ともかく無事三玖の悩みを解決できたのでしたら、良かったです」
「あれは解決出来ているのか?」
「出来ていますよ、それは今の三玖を見れば分かるんじゃないんですか」
空は少し席を立って三玖の方を見上げると、嬉しそうに笑いながら眠っている三玖の姿を見ていた。