五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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第8章 五つ子と三学年
五つ子との三学期と新たな試練


 てんぷらの起源は安土・桃屋時代とされている。

 "長崎てんぷら"と呼ばれているものが、ポルトガル人が伝えられた言われているそうだ。

 

 ただその頃の日本は油は貴重なものだった為、庶民の口に入ることは滅多になかったそうだ。

 そして、江戸時代初期に入れば油の生産量が増えて天ぷらは庶民の味として徐々に広まっていったのであった。また、文献に「天ぷら」が登場するのも江戸時代が初めてらしい。

 

 これは全部俺が爺ちゃんから教わったものだ。

 いつも天ぷらを揚げるのを手伝うときはこの雑学を聞かされていた。そして、今も天ぷらを揚げているときに爺ちゃんのドヤ顔を思い出しながら衣を纏って行く魚や野菜たちを見つめていた。

 

 

 

 

「お疲れ、悪いね。お店手伝ってもらって」

 

 営業を終えると、父さんが俺にコーラを持って来てくれる。

 俺はそれを勢いよく飲み干す。

 

「別にいいよ、父さん」

 

 スーパーのバイトは受験で忙しくなるかもしれないから辞めた。

 ……本当のことを言うと、時給が若干低いのが気になって辞めた。そして、ちょうどスーパーのバイトを辞めた頃、父さんに店を手伝ってみないか?と誘われて俺は店の手伝いをしている。

 

「そういえば、今日は二人ほど面接に来るらしいんだ」

 

 バイトの面接……。

 そういえば、二日前ぐらいにバイトをしたいという子が連絡してきたというのを父さんが言っていた気がする。

 

「そうなのか?あれ、でも募集してた定員って一人でしょ?」

 

 募集していた定員は一人。

 元々、従業員は足りている方だが本店、つまり爺ちゃんの店の方が紹介されたことによりお客さんが増えているらしい。そのため、一人ほどバイトを募集していたところらしい。

 

「そうなんだよね……。ああ、そうそう空もよく知っている子達だと思うよ」

 

「俺も……?」

 

 俺もよく知っている人物って誰なんだ……。

 まさか五つ子なんてことはないよな……?

 

「失礼いたします、バイトの面接に参りました」

 

 営業を終えた店の中、俺達以外誰もいない店の中でただ一人の少女が入って来た。

 服装を見ると、学校の制服……。あれ、俺と同じ学校の子だな。顔を見ると……。

 

「三玖……?」

 

「ほら、水出してあげなさい空」

 

「あ、ああ……」

 

 トレードマークの青色のヘッドホンがなかったから見分けることが出来なかった。

 それに俺はまだ三玖のことを完全に見分けることは出来ていないのだから。だからこそ、俺は最初に三玖だと気づくのが難しかった。

 

「失礼いたします、バイトの面接に参りま……」

 

 二乃が言葉を最後までハキハキとして言おうとしていたが、三玖の姿を見て言葉が止まっていた。

 もしかして三玖が此処で面接を受けること知らなかったのか……?

 

「なんで三玖が此処に居るのよ……」

 

 その予感は的中した。

 どうやら二乃は三玖が此処に来るとは知らなかったようだ。二乃も俺からお茶を貰い少し飲んでから父さんは話を始めた。

 

「二人共知っての通り、此処は定員を一人だけ募集しているつもりだったんだけど……。まあ、空のお友達だし二人一気に採用でもいいかな」

 

「えっ……、いいんですか?」

 

「ああ、定員は募集一人なんて行ってたけど元々二人来たら採用するぐらいには懐はあるからね。だから、大丈夫だよ」

 

「よ、よかったじゃない三玖……」

 

「私は二乃と違って純粋に天ぷらに興味があったから応募しただけ」

 

「その割にアンタ今日浮ついてたじゃない?行く前だって何処行くのよ?って聞いたら上の空だったし」

 

「ち、ちがうから……」

 

 二人が言い合いしてる間に父さんと俺はお互いに顔を見合っていた。

 それにしても定員は一人だったのに二人を一気に採用なんて良かったのだろう?

 なんか後で俺の懐が寂しくなる予感しかしないんだが……。俺の懐事情を心配していると、父さんの私用のスマホから電話が掛かって来たのが目に入って来た。

 

「ああ、空……。二人と話しててくれて構わないよ」

 

「え?あ、ああ……」

 

 父さんは店を出て、外で電話をし始めていた。

 それからどうせ暇だし二乃達にある程度お店の話をし始めた。三玖は厨房に立たせるのはまずいと理解していた為、最初から接客をお願いしようとしていたのを気づいていたのか……。

 

「ソラ、私は厨房に立つからね。てんぷらの歴史もばっちり覚えて来たし任せて」

 

「えっ?あ……ああ……」

 

 三玖に厨房を任せるのは嫌な予感しかしない。

 絶対になにかとんでもないことをしてしまう気がする。

 

「アンタに任せられるわけないでしょ!」

 

 二乃も俺と同じ考えのようで三玖を厨房に立たせたくないようだ。

 それにしても、これからどうなっていくかと思うと色々と不安が募るばかりだ。楓姉が店を手伝うこともあるだろうから、色々と大変だ。

 

 

 

 

 

「まさか全員同じクラスだとはな……」

 

 校内で張り紙されているクラス表を確認していた俺は驚きを隠せないでいた。

 それもそのはず、何故なら俺達のクラスは五つ子と上杉と俺が全員揃っているのだから。

 

 偶然にしては出来過ぎな気もするけど、あまり気にし過ぎるのも良くないだろう。

 

「全員同じクラスなんてビックリだねソラ」

 

「そうだな……。これなら色々と楽でいいな」

 

 俺と一緒に登校してきていた三玖が隣でそう言う。

 今まで他クラスの生徒に気を遣いながら三玖のことを呼んだりしていたが、これからは気を遣わずに勉強を教えることが出来る。そう思うと楽でいいな、とちょっとは思う。

 

 

 

 

 

 

「まさか空だけじゃなく五つ子とも一緒だとはな……」

 

 教室に行くと、上杉が席に座っていつも通りに勉強をしている姿があったが、俺が来たことを理解したのか参考書を閉じていた。

 

「当の五つ子達は大変そうだけどな……」

 

 五つ子ということもあって、クラスの生徒からは質問攻めを受けているようだ。

 特に三玖なんかは少し困っている様子であった。仕方ない、ちょっと助けてやるか……。

 

 

 

 

「キミ達、この子達が困ってるじゃないか……。気になるのも分かるけど一人ずつ、ね?」

 

 俺が助けに行こうとする前に金髪の男子生徒が他の生徒たちを咎めていた。それを聞いてか、他の生徒たちも納得して散り散りになって質問をしていた。

 あれは確か……武田とかいう名前だっけ。成績優秀でテストも常に上位だったはずだ。

 

 

 

 

 

「先生……私はこのクラスの学級委員長に立候補します!!」

 

 高らかに挙手したのは四葉であった。

 まだ決めると言ってもないのにこの元気はつらつの言葉。まさしく四葉って感じだな。

 

「他にやりたい奴……居なそうだからいいぞ」

 

 と、こうも簡単に学級委員長が決まるとは思わなかったが進行が早くなるのはいいことだ。

 四葉が学級委員長で決まったことにより、他の委員会等も決まることになるのであった。

 

 俺は体育委員に立候補して楽な姿勢でいた。

 

 

 

 

「そういえばもう一人の学級委員が決まっていなかったですね……先生!私は上杉風太郎君を推薦します!!」

 

 推薦されたのが上杉だということもあって、クラス全体がマジかという空気になっている。

 そういえば長らく五つ子達と居ることが多くて忘れていたが上杉は結構浮いている存在だということを忘れていた。

 

「まあ……他にやりたそうにしている奴も居ないしいいんじゃないのか?」

 

 すると、武田が少し不満そうな表情で挙手するのであった。

 

「先生……此処はやる気がある僕の方が賢明じゃないでしょう……か?」

 

「先生!私が上杉がいいと……思います!!」

 

「うーん……上杉で……!」

 

 四葉のもう一押しに押されて担任の許可も下りたようで上杉学級委員長が決まるのであった。

 

 

 

 

「まさかあの上杉が学級長とはな……」

 

 四葉からの推薦とは言え、こんな事態になるとは思わなかった。

 四葉も四葉なりの考えがあってああやって上杉のことを推薦したのだろう。

 

「初めましてだね、脇城空君」

 

「武田か……、何の用だ?」

 

 前のクラスのとき武田と話すことはほんとどなかった。

 クラスではかなり目立つ奴だったとは言え、単純に話すことがなかったのだ。

 

「キミは……上杉君のことを少し腑抜けたとは思わないのかい?」

 

 少し真面目なトーンで話をしてくる。上杉のことを知りたいってことか……?

 何故、知りたいのかは分からない。だけど、聞いてどうするつもりって訳でもなさそうだ。

 

「そりゃあどういう意味だ?」

 

「親友のキミの目線だから分かることもあるんじゃないのかい」

 

「腑抜けたって言うより、変わったって言う意味なら俺もそうは思うぞ」

 

 これは五月があの旅館で言っていたことだ。

 五つ子との出会いで、上杉は色々変わった。今の上杉は五つ子の為なら心身になれるそんな感じだ。

 

「なるほどね……。親友のキミが言うのなら間違いないだろう、ね?それと……脇城君」

 

「キミにあの子達の家庭教師は些か分不相応なのではないのかい?」

 

 先ほどまでトイレの開いている窓から入って来ていた風の音が鳴りやんでいた。

 

「何故、そのことを知っている……?」

 

 俺には疑問だった。

 目の前に居る武田が何故俺が家庭教師をしているということを知っているのか……。

 

「僕の父はこの学校の理事長でね、中野マルオ先生とは面識があるんだ」

 

 なるほど、大体読めてきたぞ。これもまた試練というわけだ。

 この後何を言うのか理解している。つまり分不相応の俺に代わって目の前にいる武田が家庭教師の代わりになろうとしているわけだ。

 

「中野父……マルオさんからの頼みか?」

 

「察しがいいね……。でも、違うさ」

 

 

 

 

「キミの父、脇城明彦から頼みだよ」

 

 

 

 

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