五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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五女のご機嫌取り

 俺は今日も今日とて五月の勉強を見ていた。

 暗雲立ち込めるなか、どうにか希望の光を探し出そうとしているのが現状だ。父さんにはああ言ったけど正直あの条件かなり厳しいものだ。

 俺の全国模試上位だけならまだしも五月を学年五位以内にすると言うのは中々厳しいものだ。確かにあいつの成績は上がってきているが、それでも現状だけではどうにもならないと言うのが現状だ。

 

「脇城君知っていましたか、三年生の修学旅行は京都に行くらしいんですよ」

 

 勉強期に勉強を重ねて限界状態を極めた五月はおれのご機嫌を取ろうとしていた。俺たちがピリついてるのを察知しているのだろう。因みに、京都に行くと言うことは知っていた。

 だけど、地元に帰るだけと言う気分になるから旅行という気分にならないのが俺の気持ちだ。

 

「わ、脇城君……知っていましたか?最近ではご当地カレーというものが流行っていましてそれぞれの特産物をカレーに入れたりするのが流行ってそれを広めようとするものが流行っているらしいんです……」

 

「ああ……そうか……」

 

 五月はなんとかおれを和ませようとしているが、それは逆効果。思わずそんな塩対応を取ってしまう。ダメだ、いつもなら何か反応してやれるのにあのことがあってどうもイライラしてしまう。

 

「脇城君あまり気負い過ぎないでくださいね……」

 

「あ、ああ……」

 

 上杉に一旦押し付ける、そんな作戦本来であればあり得たのだろう。だが、その上杉は今勉強と添い遂げるぐらいまで熱中しているから頼れるわけがない。

 前に三玖が上杉に勉強を聞こうとしていたときも、若干ピリついてるのを俺は気づいていた。このままだとまた五つ子と俺たちの間で溝が出来てしまう。なんとかしなくては……。

 

「あ、あの……脇城君少し気分転換しに行きませんか?」

 

「勉強もまだ終わってないのにか?」

 

「すいません……」

 

 なんとか鎮めようとしてきている五月を萎縮させてしまうような発言をしてしまう。こんなことをしていてはダメだ、五月の言う通り少し休憩しよう。

 

「悪かった、何処に行くんだ?」

 

 気分転換という理由で俺は外に連れ出されていた。

 お互いに何も言わず互いに隣同士に歩いているというのに妙な空間ができていた。恐らく俺が早くなんとかしなくては、という負のオーラを漂わせているからであろう。

 

「五月、いつの間に塾なんて通ってたのか?」

 

「あっいえ……。この塾に知っている人が居るのですが……」

 

 辿り着いた先は塾であった。

 俺は少し疲れたように塾前にあった自販機でコーラを買いながら飲んでいた。あー、なんでこういうときのコーラって沁みるんだろうか。

 

「げっ!?明彦先生!?いやでも……明彦先生にしては背が小さいな……」

 

 後ろからそんな声が聞こえてきて振り返ると、そこには丸眼鏡をしている塾講師らしき女性が立っていた。誰だろうと、俺は首を傾げていると五月が「下田さん!」と呼んでいた。

 

「五月ちゃんってことは……あーなるほど明彦先生の息子さんか!」

 

 俺は軽く「どうも」と頭を下げる。

 隣にいる五月を見てその隣にいる俺が誰なのかを理解したのか納得している様子であった。脇城先生と言っていたけど、父さんのことを知っている人なのだろうか。

 

 入って来た場所は下田さんがやっている塾。全国模試も近々やることもあり、中に入っていいものかと思ったが、下田さんは快く中に入れてくれた。

 

「いやぁ、この近くで和食屋をやっているって話は聞いてたけど……。まさか明彦先生の子供に会えるなんて思わなかったよ……もしかしたらまた明彦先生が来たのかと一瞬身構えちまったよ……」

 

 下田さんは首の裏に手を置きながら高笑いしていた。

 「そういえば明彦先生のことをクソ教師と呼んでたこともあったっけ……」と言っている声が聞こえて、俺は反射的に反応してしまう。

 

「クソ教師……!?」

 

 思いも寄らない発言に俺は驚きを隠さないでいた。

 えっ、父さんは下田さん達になにをしていたの……。

 

 

 

 

 

「あ、あの……俺の父さんのことを知っているんですか?」

 

「知ってるも何も担任の教師だったこともあるからな」

 

「教えてもらってもいいですか?」

 

 教師だった頃の父さんのことはほとんど知らない。

 巷で熱血教師なんて言われてるのを聞いたことがある。本当にそれだけだ。

 

「聞きてぇってんなら幾らでも聞かせてあげるよ……明彦先生はな」

 

 

 

 

「めっちゃ熱血教師だった」

 

 下田さんは目をキラキラと輝かせながら、まるで高校生時代に戻ったように語り始めていた。

 

 

「先生の言うことを素直に応じる生徒も好きだったみたいだけど、それより歯向かって来る生徒が人一倍好きだったみたいでな。いつも試練って言う課題をそういう生徒に出しては反発されては提出されたり達成したり一緒に喜んだりしていた先生だったんだよ。それもあってか、私も結構目付けられること多くてな。このクソ教師!!って呼ぶと先生も「なんだと!」と言いながら喜んでるだろ。すっげえだろ、今じゃありえないぐらいの熱血教師でな……」

 

「あの……人気あったんですか?それ」

 

「ああ、あったよ……。不良なんかは先生を慕ってる生徒まで居たレベルだったからなぁ……」

 

 なんか想像していたいよりヤバい人だったんな父さんって……。

 もっと生徒の前で笑顔で明るく指導している人だと思っていた……。

 

「想像してた自分の父親と違ったかい?」

 

「……まあ、そうですね。もっと生徒の前じゃ笑顔で明るくみたいな人だと思ってたんでそんなに熱血教師だったとは……」

 

 ということは試練を与えていたというのもより反発を誘発させる為だったんだろうか……。

 だとしたら、すっげえ熱血教師だけど変人だという印象が根強いてしまう。

 

「そうかい、まあ想像と実際ってのは違うだろうしねぇ……。それに家での父親しか知らなかったのなら尚更だ。それで五月ちゃんの話はあるのかい?」

 

「そうでした……。それが実は学年五位以内に入らないといけない事情ができまして……」

 

「目つきを見る限り嘘をついてるって訳じゃなさそうだね……。学年五位以内か……五月ちゃん、前に成績を見せてもらったことがあるけど正直その話……」

 

 

 

 

「無理だと思うよ。正直言って現実的じゃないとは言いたくなる。……それでもやるのかい?」

 

 確かに下田さんの言う通りだ、はっきりとした物の言い方だけどそれは間違いなく無謀であるということは俺も分かっていたからだ。だけど、決めてしまった以上俺は逃げる訳にもいかない。

 

「……はい、俺は成し遂げて見せます」

 

 父さんの昔の話を聞いて俺は思った。

 父さんは昔と何も変わってない。根っからの熱血教師であるということは……。だから、俺がその与えられた試練を乗り越えてこのクソジジイと言ってやれば、きっと喜ぶこと間違いないだろう。

 

「なるほどね、良い威勢だ。だけど、簡単に実現できるような望みじゃない。それでも……やるって言うのかい?」

 

「はい、俺は実現して見せます。そして、父さんの試練を乗り越えて……このクソジジイって言ってやります」

 

「ギャハハハッ!それはいいね、気に入ったよ。兄ちゃん、アンタのこと気に入ったよ。なによりその諦めない根性、流石先生の息子だって言うだけあるね……。名前聞いてもいいかい?」

 

「脇城空……です」

 

 どうやら俺は下田さんに気に入られたようだ。

 父さんの教師自体がまさかあんなにも変人で熱血的な人だとは思わなかったけど下田さんからいい話を聞けた。

 

「脇城空か、覚えておくよ」

 

 下田さんに握手を求められ俺はその手を握る。

 微笑みながらもその手を握られ俺も頰を緩ませていた。

 

「それで嬢ちゃん前に手伝いをしたいとって言ってたっけな……あれどうする?出来るなら今日からでも構わないよ」

 

「はい、私は是非下田さんの下で手伝いをさせて欲しいんです」

 

「そうかい、それで空君は此処でゆっくりしているかい?」

 

「いや俺も手伝わせてください」

 

 俺達がやっていた仕事は主に下田さんの手伝いであった。

 下田さんが塾生徒に教えているのを見守りながら、俺達も生徒達の方を見て回って実際に教えたりしていた。人に教えると言う行為は五つ子達以外したことがなかった為、俺は少し戸惑っていたが五月の方を見ると難なく教えていた。

 

「五月ちゃん……あの子はきっといい教師になるだろうね」

 

 五月の様子を見ながら、下田さんが小声で俺に話しかけていた。

 五月と生徒の姿は真剣であり、教師としての第一歩を着々と進んでいるようだ。俺はその姿を少し嬉しく思いながらも見ていた。

 

「……俺もそう思います」

 

 五月みたいな奴が教師になってくればきっとこの世にはもっといい教師が増えてくれるだろう。

 あの夢の中で出て来ていた教師は少なくとも俺にとっていい教師ではなかったのを覚えているからだ。

 

「空君さ、もしかしてさっきまでピリピリしていたかい?」

 

 休憩時間となり、下田さんと俺はゆっくりとしていた。

 下田さんはお茶を飲みながら俺の心を読み取ったのか、そんな言葉を投げかけてきた。

 

「……どうしてそれを?」

 

「此処に来るまで早くしないと早くしないとって感じで焦ってた感じがしたからさ、どうなんだい?」

 

 それは図星だった。

 塾に向かう途中も俺はこの先どうするかと、ひたすら考えていた。

 

「……はい、そうですね……。五月のことを学年五位にそして……俺は全国模試上位に……。その滅茶苦茶な条件に俺は頭を抱えているところでした」

 

「全国模試上位かぁ、そりゃあ中々な条件だね……だけどキミなら出来ると思うよ」

 

 下田さんは柔和な笑顔で俺のことを見ていた。

 

「俺なら……?」

 

 自分には何故出来るのか……。それが疑問に思えた。

 俺はただ無謀な条件に突っ走ろうとしているだけだというのに……。

 

「まあ、それは五月ちゃんの方が知ってるんじゃないのかい?私はちょっと忙しいからこれで失礼するよ」

 

 五月ならその答えを知っている。

 何故、そんなふうに言い切れるのだろうか俺は自分の頭の中でひたすらに考えていた。

 

 

 

 

「下田さん、今日はありがとうございました!」

 

「ああ、またいつまでも手伝いに来てくれ五月ちゃん。空君も五月ちゃんの前であまりピリピリしてあげるなよ」

 

「分かってます……」

 

 下田さんの手伝いを終えた俺達。

 得る物が多い手伝いとなり、学力向上にも繋がりそうな気が俺にもしていた。だけど、最後まで下田さんが言っていた俺なら出来るという言葉の意味は分からなかった。

 

 

 

 

「五月……この後暇ならスイーツでも食べに行かないか?」

 

 帰宅途中、俺達は会話することなく歩いていた為流石に何か喋らなくてはいけないと勇気を振り絞り頭を掻きながらも隣にいる五月に話しかけていた。俺は五月に謝ろうとも決めていた。だけど、どうしてこうも謝るときってのは人は謝りづらいのか……。俺は自分のことを鼻で笑いながらも言葉を発していた。

 

「いいのですか?」

 

 五月は俺のことを顔を覗き込むようにしながらも見つめていた。

 

「ああ……。ピリピリしてたお詫びって言うか……まあそういう気分だ。だから奢ってやるよ」

 

 俺は若干イライラしているところを見せてしまったし、申し訳なさからお詫びに俺は五月に奢ろうと考えていた。

 五月もいっぱい食べれて嬉しいだろうしな……。

 

「ありがとうございます……!ではちょうど行きたかったお店があるのでそちらの方に行きましょう……!」

 

 

 

 

「これが食べたかったんですよ……!」

 

 五月の前に置かれているのは特大パフェ。

 これでもかとフルーツや生クリームが盛られておりこれを一人で食べるのかと俺は少し驚きを隠せないでいた。

 

「今日は悪かったな、一日ずっとピリピリしてて……」

 

「気にしないでください……そういうときもありますよ」

 

 五月は口の中にパフェを入れて呑み込んだ後に、言葉を続けていた。

 

「脇城君も色々と考えてくれてたんですよね、私のことや自分のこと……。だから私は何も言いません」

 

「五月……」

 

「さあ、今は食べることに集中しましょう……。それに私は……」

 

 

 

 

 

 

「優秀な教師の一人、脇城君なら出来ると信じていますから……」

 

「そうか、ありがとうな。俺も五月ならきっといい先生になれると思うぞ」

 

 ああ、そういうことか……。確かに五月達しか分からないことだ。

 夢の中で誰か分からない教師に言われた言葉なんかよりずっとその言葉はずっと響いていた。

 

 何故なら、それは俺が今まで教えてきた五つ子の一人だからだ……。

 やってやるよ、全国模試だろうがなんだろうが……。

 

 今まで色んなことを乗り越えてきたんだからな……!!

 

 

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