五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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戦国武将

 偶に思うことがある。空ってなんでこんなにも青いんだろうかと……。

 昔、なんかの図鑑で読んだことがあるけど、レイリー散乱とか言うのが関係しているんだっけ。俺は眩しい太陽に照らされながら、届くはずもない太陽に手を伸ばす。……暇だからって何馬鹿なことしてんだ俺。

 

「それにしても三玖遅いな」

 

 屋上にあるベンチに横たわり、ゴロゴロとしている俺。そして、チラチラと屋上から階段へと繋がる扉を見る。しかし、誰かが来る気配はない。

 

「あの手紙どういうつもりなんだろうな」

 

 四葉が言っていた通りの言葉を読み取るなら、好きな人は俺と言うことになる。……止めよう、この話題。後で勘違いで自分が恥ずかしくなるかもしれないからだ。それに、好きな人がいてそれの相談に乗って欲しいとかかもしれないし。だとしたら、なんで俺なんだって言う話だけど。普通に姉妹とかでいいだろ。

 

 好きな人か……。

 

 

 

 

『ねぇ、空私のこと好き……?』

 

 夕暮れの教室に俺とアイツが残っていたときのことを思い出す。あれから俺達は付き合うようになったんだっけ。それから始まる絶望すら俺は知らずに……。

 

 

 

 

 

 

「恋愛か……」

 

 今更女に好かれたいと言う気持ちはない。二乃と話しているとき俺はかなりキツかった。自分でもなんでか分からないが、かなりの体力を使ったような気がする。上杉には、家庭教師を引き受けると言ったが正直今すぐにでも投げ出したい気分だ。

 

「分かってるよ、そんなこと……」

 

 分かっているつもりだ、親友の頼みを引き受けた以上俺はやり遂げなくちゃいけない。それに、折角楓姉に勉強を教えてもらったんだ。これを使わないでどうする。

 

 

 

 

「俺滅茶苦茶独り言多くねえか」

 

 横たわっていた状態から、一旦立ち上がりベンチの前に立ち深くベンチに座り込み、コーラの缶の中身を飲み始める。すると、扉が開いたような音が聞こえてくる。三玖か……

 

 

 

 

「呼び出してどういうつもりだ?」

 

 コーラの缶を片手で持ちながら、口の中に入れて片手はズボンのポケットに入れながら俺は三玖から若干視線を逸らして話しかける。

 

「良かった、その様子だと手紙見てくれたんだ」

 

 偶々目線が合ったとき、眉1つすら動かさず表情は別段普通であった。

 

「あのね、えっと……」

 

 この流れ少しマズくねえか……。嫌な予感がする。思わず俺は嘔吐しそうなぐらい気持ち悪くなり、頭が痛くなってきていた。やっぱり、そういう流れなのか。

 

「す……す……」

 

 

 

 

 

 

「陶晴賢」

 

 思いっきりベンチに頭をぶつけて、邪気を払う。三玖が「え?」と言いながら、困惑した様子でこちらを若干引いた様子で見ている。

 

「なにしてるの?」

 

「邪気を払っただけだ。気にするな」

 

 頭痛がかなり酷いが、眠気覚ましには丁度いいぐらいだ。血が出なかっただけ良しとしよう。それにしても、やはりそういうことではなかったか。先ほどまで聞きたくなかった言葉が出るんじゃないかと思って、焦っていた自分が馬鹿らしくなる。そんなことを思っていると、自分の頬が若干熱くなっているような気がしていた。

 

「……スッキリした」

 

 小さく拳を上げながら言う三玖。

 陶晴賢か。なんで陶晴賢だけ言いに来たのか、分からない。

 

「不思議そうな顔をしているから、言うね。今朝の問題」

 

 ああ、そういうことか。今朝の問題のことだったか。確かに俺は、五月達に問題を出したけど。あのことか、でもなんで今更。

 

 

 

 

「それと一つ聞きたかったの」

 

 陶晴賢のことを気にしていると、三玖から俺に質問を投げられそうになっていることに気づき俺は三玖の方を見る。

 

「なんだ?」

 

 俺に何の質問だろうか。

 

「ソラって歴史得意なの?」

 

 歴史……。確かに、五教科の中でも社会の中で歴史が得意だ。因みに、全く関係ないが公民はかなり苦手なほうだ。何故、同じ社会なのにこうも差が出るかは分からない。だけど、公民は全く俺の頭を寄せ付けない。

 

「ああ、得意だけど。それがどうした?てか、なんで俺が歴史得意って知ってるんだ?」

 

「テストの結果見たときにソラが歴史だけのところだけ見たら満点だったから。それで、ソラが歴史得意なのかなって思って」

 

 なるほど、だから俺に歴史が得意なのかと聞いて来たわけか。

 

「満点なら上杉だってそうだろ?」

 

「フータローは意地悪だから嫌い」

 

 ……意地悪だから嫌いって上杉、お前どんだけ五つ子に嫌われてるんだよ。

 

「そうか。でも、なんでそんなことを聞くんだ?」

 

 すると、三玖は辺りをキョロキョロし始める。周りに誰かいないか確認しているようだ。そして、扉がちゃんと閉まっているか確認していた。

 

「誰にも言わないって約束できる?」

 

 無言のまま頷くと、三玖は話を続ける。

 

 

 

 

「私、歴史が好きなの。それも、戦国武将が……」

 

 俺はこの時若干疑問に思っていた。今の時代、戦国武将が好きという女子は珍しくもない。と言うのも、昔戦国武将を美少年化させるゲームが流行っていたからだ。でも、なんとなくだが三玖は違う気がする。

 

 

「変だよね、私が好きなのは髭のおじさんだもん」

 

 やっぱりか。三玖の場合は、本当に戦国武将が好きなんだろう。様々な思いがぶつかり合う戦国の時代。弱肉強食と言う言葉が最も合う時代だ。変な奴と言ってしまえば、それで終わりだ。だが、俺としては別に好きなものぐいらい堂々としていればいいと思う。

 

「別に変じゃないだろ。好きなんだろ、戦国武将」

 

 三玖が変じゃないだろと言われて、手で隠していた顔を見せ、俺のことを見てくる。そして、無言のままこくんと頷く……。

 

「だったら、堂々としてればいいだろ」

 

「堂々と……?」

 

 三玖が首を傾けながら、俺のことを見る。

 

「ああ、好きなんだろ武将。だったら、堂々としてればいいんだよ。好きなもん好きって言って何が悪いんだって」

 

「そっか……ありがとう。ソラ」

 

 何処か嬉しそうな表情をしながら、三玖はスマホを持っていた。こいつのこと今までよく分からない奴と思っていたけど、もしかしたらこいつと一番気が合うかもしれないな。俺も歴史は好きだ。特にこれと言って好きな時代とかは無いが、それぞれの思いがぶつけ合っていた戦国時代と言うのは好きだ。

 

「それでね、ソラ……。私ね、戦国武将の逸話が大好きなの」

 

 戦国武将の逸話か。俺の中で真っ先に出てきたのはやはり、毛利元就の三本の矢だ。あれかなり現実な話だと勘違いされていることが多いが、三本の矢と言う話自体は逸話だ。因みに、逸話と言われている理由が三本の矢を話を聞いた、3人の息子。毛利隆元が元就の死の間際に既に居なかったから。と言うのも毛利隆元は、元就より先に死んでいるからだ。

 

「森長可が武蔵守になった逸話があるんだけど……」

 

 ああ、あの逸話か。確か、関所を通ろうとして止められて逆に関所の人間を殺して信長に今後は武蔵守と名乗れと言われた奴か。あの人、かなりヤバい人だったと言う話があるからなぁ……。

 

「竹中半兵衛は、容貌が婦人だったって言われることも多いんだって……」

 

 確か、『その容貌、婦人の如し』から来ている逸話か。竹中半兵衛は色々な謎が多い人物だからなぁ……。

 

「石田三成の言葉に、燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんやって言う言葉があるんだけど……」

 

 三玖が今にも泣きそうな言葉で言ってくる。三玖、三成好きなのか……。確か、この逸話って三成が自分の健康を案じた奴だっけ。三玖が言っている逸話は、分かる奴が多いが……。これ以上話していると、マイナーな逸話が来そうで怖い。

 

「凄い詳しいな、三玖……。それにしても、喉乾いたな」

 

 と言い、俺は屋上から降りて自販機を見つける。

 これ以上マイナーな逸話がやって来ない為にも、此処らで話を区切るのが一番だろう。

 

「ソラ、抹茶ソーダ飲んでみる?」

 

 抹茶ソーダ……?三玖が飲んでいた奴か……。

 俺は三玖から受け取り、左右から見て美味しいのか?と心の中で思っていると、

 

「美味しいよ」

 

 ふーん、そうなのか……。「ありがとう」と言いつつ俺は鞄からあるものを取り出した。

 

「飲むか、コーラ」

 

「これ温いよ?」

 

 三玖が少しだけ笑みを見せながら言った。

 

「コーラは、温いのが一番なんだよ」

 

「そうなの?じゃあ、頂くね。ありがとう」

 

 俺たちは同時に缶を開け飲むと三玖が笑っていた。

 

 

 

 

「これ意外にいけるな」

 

 仄かに感じる抹茶の味……。マズいのかと思って飲んでみたが、抹茶と炭酸の味がかなり合っていたのだ。こんな美味いソーダもあったのか。

 

「ソラ、これ美味しくないよ」

 

 どうやら、温めのコーラは三玖には合わなかったようだ。三玖にはまだ早すぎたかな。と思っていると、三玖はこっちに来て俺の方を振り向いた。

 

 

 

 

「ねぇ、ソラ。もし、良ければでいいけど私の家庭教師してくれたりする?」

 

 三玖の家庭教師か。俺の心が持たないかもしれないが、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。上杉の為にもな。

 

「いいぜ、その提案乗ってやる」

 

 それに、三玖の家庭教師をやれば俺の歴史の知識が更に増す可能性が高いし、三玖も歴史の知識が付く。これは一石二鳥だ。それに、やっぱり俺はこいつらと関わることで何かが変わりそうなことを期待していたからだ。

 

 

 

 

「そっか、ありがとう」

 

 そして、その期待はやはり大きなものとなることは後日知ることになる。


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