「さて空……全国模試の結果が発表されたね」
結果は既に知っていた。
父さんをぎゃふんっと言わせるべく早めに知ろう、知ろうとして早い段階からスタンバイして待っていた。こんなにも自信満々ということはどういう結果だったかは分かるだろう。
「ふむ、結果は7位……見事提出した順位に到達できたね」
上杉に敵うことは出来なかったが、武田を打ち負かすことは出来た。
もう一つの目標としていた凡人が天才を喰らいつくという目標は見事達成出来たのだ。
「そして、五月ちゃんを見事学年五位以内に……見事だね」
「息子の成長が素直に嬉しい?」
「そうだね……此処までやるとは思ってなかったよ。おめでとう」
父さんを驚かすことも出来たようで俺は満足気にしていた。
俺もまさか自分が此処まで出来るとは思ってもいなかったが、これも努力の結晶のおかげだろう。
ようやくだ、ようやくあの言葉が言える。
言ってやるんだ。あの言葉を……。
「父さん、俺は見事父さんの試練を乗り越えた。だから言わせてもらうよ……」
俺はすーっと息を吸う。
「このクソジジイ!!」
魂を込めた言葉の一撃。
それが父さんに響いたのかは分からない。分からなかったのだが、すぐにそれは証明されることになる。何故ならば父さんはよろめきながら今にも倒れそうになっていた。
「ま、まさか自分の息子にそんな言葉を言われるようになるなんてね……」
倒れそうになっていた父さんを後ろから支えた。
まさか父さんが倒れるなんて……。教師時代こういうことを言われるのは慣れていたから大丈夫だろうと思っていたのだが……。もしかして、実の息子に言われたということがかなりダメージになってしまったのか……?だとしたら、父さんには悪いことをしてしまった。
「実の息子に教師時代に言われたようなことを言われるのは……かなり来るものがあるね……」
「父さん、ごめん……」
父さんが俺の言った言葉にダメージを受けてしまったのはどうやら本当だったみたいだ。
父さんに悪いけど、あの言葉を投げかけたときちょっとスカッとした気分になっていた。下田さん貴方達が父さんに罵詈雑言の嵐を投げかけていた理由分かった気がするかもしれません。
絶対に違うと言い切れる感情を抱きながらも俺は父さんを立ち上がらせて椅子に座らせた。
「空、マルオ君がキミを呼んでいたはずだ……。言ってあげなさい」
「と、父さんは大丈夫?」
流石にこんな状況の父さんを置いて行けるはずもなかった。
元はと言えば、俺のせいではあるんだが……。
「おかえりー!!あ、あれ!?お父さん大丈夫!?」
「楓姉……!」
いいタイミングで帰って来たのは楓姉だった。今日は普通に大学に行ったようで私服で帰って来ていた。
俺は楓姉に事情を話すと、「あはは」と笑いながらこう言ってきた。
「お父さんのこと見てるから空は行ってきな」
俺は楓姉にお礼を言ってからお店の外へ出るのであった。
父さんのことも心配だけど楓姉に任せて此処はマルオさんのところへ向かおう。
「どうやら来たようだね」
公園に着くとそこに居たのは上杉、武田、マルオさんであった。
場を見る限り何か起こるような訳でもなくただ上杉と武田が会話していたようだ。
「脇城君」
マルオさんの視線が俺に変わる。
その視線は威圧的ではなく何処か期待していたその眼差しで俺のことを見ていたような気がする。俺の気のせいか……?
「今回キミは見事高順位な成績を残した、お父様もきっと喜んでいられることだろうね」
「目玉が飛び出そうなほど喜んでいましたよ」
まさか倒れるとは思ってもいなかったけど……。
「そうかい、それだけではなく僕の娘の五月を学年五位以内にするという仕事見事こなしてくれたようだね……キミの此処までの頑張り在りし日の脇城先生を見ているかのようだったよ」
「買い被り過ぎですよ、俺はあいつに何もしてやれてません。俺があいつに諦めないことの大切さ、努力を学ばせてもらいました。家庭教師をしている側の人間がまさか教えられる側の人間に回るなんて思ってもいませんでしたけど……俺は父さんのような人間にはなれません」
五月は俺に特にその姿勢を見せてくれた。
3年生になっていきなり無理難題の壁にぶち当たることになった。やっぱりダメかもしれない、そう思ったときにあいつにはかなり励まされた。あいつの努力を見て俺も頑張ろうと思えた。
「ふむ、それでもキミは僕の娘を立派にしてくれた。どうかな?キミさえ良ければ是非家庭教師を改めてお願いしたい」
「その話謹んでお受けいたします」
「これからもよろしくお願いするよ」
こうして俺はまた家庭教師に戻れるようになった。
あいつらとの短くも長い家庭教師生活はこれからも続きそうなことを予感させていた。
俺はそれから上杉に今後の方針について書かされた。家庭教師だけではなくあいつらの夢を後押してやりたい。そんな話を聞いて俺も五つ子が夢を追いかけたいなら後押ししてやりたい。その上での支援もしてやりたい。
俺もそう思っていた。
「脇城君、今回は本当にありがとうございました」
五つ子のアパートに来ていた俺は五月にお礼を言われる。
五月の全国模試の結果を見たとき俺は嬉しかった。今までの努力が報われたんだと思い、俺はそれが嬉しくなっていた。
「俺は何もしてねえよ……五月が「その言葉は聞き飽きました、三玖にも似たようなことをよく言っていたのを聞いたことがあります。謙遜するのは構いませんが、お礼ぐらいちゃんと聞いたほうがいいと思いますよ」
「悪かったよ……」
言いかけた言葉は五月によって遮られてしまう。
確かに言われてみれば俺はこの言葉をよく三玖に言っていたことが多かった気がする。
悪い癖が出ちまいそうになったな……。
「ソラ、私が買ったアロマ使ってくれた!?」
家に入って来て早々俺に声を掛けて来たのは二乃であった。
俺は二乃に日頃の感謝を込めてアロマを貰ったのである。
「ああ、自然の香りって言うのかな。そういう香りがしてよかったぞ、ありがとうな」
「つ、使ってくれたのね……あ、ありがとう」
相変わらず二乃は俺に対して態度がコロコロ変わったりするからよく分からないときがある。
俺のことが……。いや、そういう邪な気持ちは一旦捨てよう。実際違っていたら恥ずかしいだけだし……。
家族旅行の悩み、もう一つ何かあると思っていたんだがな……。
「空、五月が何やら俺達に隠し事をしているらしいぞ!一緒に聞くか!?」
「隠し事って……そういうのは知られたくないから隠してるんじゃないのか?」
「あいつの弱みを握るチャンスだ……!お前も行くぞ」
「ったく……分かったよ」
面倒だなとちょっと思いながらも俺は立ち上がった。
五月の隠し事ねぇ……。実は大食い選手権に出て優勝してテレビに出ましたとかか?いや、そんなもんじゃなそうだな……。
「ソラ、鞄から何か落としたわよ」
「ん?ああ、悪い……」
落とすようなものを鞄に入れたっけ……。
俺は二乃から写真のようなものを受け取る。
「なになに?何の写真よ?」
「別に大したもんじゃねえと思うけどな……なんの写真だったか……」
興味を持ったのか待っていた。
別に見せてもいいかと思いながらも俺は表に開くとそこには知っている人物の姿と俺の姿が映し出されていた。
「これって前にあんたが話していた彼女よね?」
「ああ、そうだ……」
隣に映し出されているのは俺の隣でピースをしている三つ編みのピンク髪に丸眼鏡の少女……。
その彼女は俺のかつての……元カノだった……。
「優莉……」