五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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第9章 過去への決別
追想


 あれは今から二年前の出来事だった。

 高校一年生の頃、俺はある京都の高校に入学していた。この時期の俺は家族とのわだかまりが解けてはいたもののまだ少し反抗期に近いようなものが抜けずに居た。それもあってか、髪は今より派手なブルーアッシュと呼ばれている大体青色の髪型にしていた。

 

 そんな俺の京都の高校生時代だが、周りは誰も近寄って来ず一人で居るときの方が多かった。いや、一人の時間が多かったと言うのは訂正しよう。あの頃の俺は正義感に満ち溢れていた。虐められている子を見かければいじめっ子をボコボコにするまで殴ったりなど余裕でしていた。殴ると言っても向こうが殴ろうとしてきたのを返り討ちにしていただけであったが、それでもやり過ぎと言われることが多かったがそれを俺は全く気にしていなかった。

 

「あ、ありがとう……」

 

 助けたいじめっ子に懐かれて一緒に飯を食べたりするなんてこともよくあったっけな。それでその日昼飯を一緒に過ごすなんてこともよくあった。それに俺はお礼を言われることも多く、そしてもう一つ言われる言葉があった。

 

「空君って見た目怖いけどいい人やね」

 

 そういえば、あのハゲの教師にも似たようなことを言われたっけ……。

 

「その見た目に反して流石は脇城先生の息子!あっぱれ!!」

 

 俺はあの先生がどうしても好きではなかった。

 愉快な人ではあるのだがあまり信用できるような先生ではないと俺は思っていた。おっちょこちょいで何処か天然な感じがしていたがそれだけではないような気がしていたのだ。

 「最後にはやり過ぎには注意だけどね」と俺は軽く注意された。

 

 

 

 

「懲りねえなこの学校の生徒も……治安どうなってんだ」

 

 自分より下の人間を見て心の中で安心だけしていればいいものを何故平気で人に手を出すのか俺には全く分からないし、分かるつもりもなかった。

 

「おい、またやってんのか……!」

 

「チッ、テメエが弱い奴を助けまくってるって噂の脇城空か!」

 

「女子一人に寄ってたかって三人って情けねえな」

 

 塞ぎ込んで今にも泣きそうになっているピンク髪の女子生徒を一瞬見ながら俺は今にも殴りかかってきそうな男子生徒達を見ていた。全く女子一人に男子三人って恥ずかしくないのかね。

 

「っとあぶねえ!!」

 

 男子生徒の一人が俺のことを殴りかかってきた。

 俺が拳を避けると、残りの二人が俺のことを拘束しようと体を掴んできたのである。

 

「終わりだ……!」

 

「終わりなのはそっちだろ」

 

 そのまま俺の顔面を殴ろうとする男子生徒を見て、誰もがこれで一発入るだろうと思っているだろう。

 しかし、その拳は入らなかった。俺は拘束していた二人の顔面を殴り、そのまま突っ込んできたもう一人の男子生徒の腹に思いっきり拳を入れて気絶させたのであった。

 

「先生たちが来る前に帰るか」

 

 いじめっ子も気絶したことだし、後はいじめられっ子がなんとかすることだろう。

 あんまり干渉し過ぎるとこっちに依存されても困るしな……。それじゃ自立できなくなる。俺は自分の鞄を持って校門の方へと向かおうとしたときであった。

 

「ま、待って脇城君だよね!?」

 

 俺を呼ぶ声が聞こえていた為、振り返るとそこには先ほどのピンク色の三つ編み眼鏡少女が立っていた。

 ひそひそ声で周りが「空の奴また誰か助けてるよ」という声が聞こえていたが、俺は無視していた。

 

「さっきは助けてくれてありがとうね、見た目に反して優しいんだね」

 

「別になにもしてねえよ、視界に入ってウザかったから殴り返しただけだ。後……よく言われる」

 

 全くなんでこうも見た目が見た目がって言われるんだろうな。

 そんなに怖いか、青髪。美容室の人とか割と……あんま見かけねえな。

 

「あ、あのさ……助けてくれたお礼がしたいからこの後喫茶店とかどうかな?」

 

「……まあいいけど」

 

 それぐらいならいいかと思いながら、俺はピンク髪の少女と帰ることになった。

 

「ねえ脇城君ってどうして虐められてる子を助けるの?」

 

「別に……理由なんかねえよ。ただ黙って見ているって言うのも嫌な話だろ。自分の目の前で誰かが虐められてるのに助けねえ訳にもいかねえだろ。ただそれだけだ」

 

「じゃあほんとに偶々助けてるだけなの?」

 

「そうだよ、本当に偶々だ……。ったくこの学校の先生は何してるんだよ、俺は自警団なんかになるつもりねえんだぞ」

 

 俺は少し笑いながら言うと、隣で俺の話を聞いていた彼女も少し微笑んでいた。

 なんだちょっと地味そうな子だと思っていたけど、笑ったら結構可愛いじゃん。

 

「脇城君が自警団作るなら私入ろうかな」

 

「冗談じゃねえよ……誰が自警団なんてやるかよ……。というか虐められたのに自警団なんか入っても何もできないだろ」

 

「そんなことないよ、脇城君のサポートぐらい私にも出来るよ」

 

「どうだがね……あっそういやお前の名前まだ聞いてなかったわ」

 

「七条優莉、よろしくね脇城君」

 

 これが俺と優莉の出会いであった。

 虐められていた優莉を助けた俺はこの後喫茶店で少しゆっくりしてから家に帰ったのであった。不思議と俺は優莉と居るのが嫌いではなかった。優莉は見た目に反して割とグイグイ来るタイプであった。それでもどうせ今日が最後の縁だろうと思いながら俺は喫茶店に行ったのだが……。

 

 

 

 

「脇城君……勉強教えてよ」

 

「そこはこうだって前にも教えたろ?」

 

 一日だけの関係かと思っていたが、そうではなかった。

 次の教室に行くと優莉が俺の隣の席だったことが判明して、「こんなことってあるのかよ……」と心の中で思っていた。というか俺はなんで自分の隣の席の奴のことを全く知らなかったんだ。

 

「じゃあ此処は……」

 

「あーそれはだな……ってほぼ全部聞く気じゃねえか」

 

 優莉はあまり頭がいい方ではなかった。

 その為、俺に勉強を聞いて来るなんてことはよくあった。これが日常的になったのは虐められていたあいつを助けた次の日、先生にさされて少し困っている様子だった為、俺が答えを教えてあげると次の日から俺に勉強を聞いて来るようになったのだ。

 

「えへへ、こうして二人で勉強していると仲良いって思われちゃうのかな?」

 

「俺はまあ……友達みたいなもんだと思ってるが……」

 

 まだ出会って二ヶ月ぐらいしか経ってないがそれでも俺達の関係は友達と言えるものにはなったと考えていた。勉強以外にも俺はこいつと一緒に居ることが多かった。こいつがよく行っている行きつけのカフェであったり、見に行く人が居ないから一緒に映画を見たりしたこともあった。

 

「え!?本当に私のこと友達だと思ってくれてたの!?ありがとう!!っていったぁ……!」

 

 椅子から立ち上がり、喜んだあまりに足を机の角にぶつけて痛がっている優莉を見て俺は可笑しくて笑っていた。

 

「もう笑わないでよ!私が変みたいじゃん!!」

 

「悪い悪い、別に変と思ってねえよ」

 

 俺は優莉と居る日常が悪いものではなかった。

 最初のうちはどうせ俺のことなんて怖がってすぐに近寄るのをやめるだろうと考えていた。だけど、優莉は違った。優莉は俺のことを怖がらずに一緒に居て楽しそうにしていた。なにより、俺は優莉の笑顔を見るのが好きになっていた。

 

 これが多分人を好きになるという感覚がだったのだろう。

 

 

 

 

「見て脇城君……綺麗だね」

 

 俺達は水族館に来ていた。

 水族館でチケットを買う際、「カップル割引をしておりますが」と言われて少し恥ずかしくなりながらも俺が頷くと、優莉も頷いていた。

 

 

 大きなエリアに来ると、そこには一面マグロが多いエリアとなっていた。

 こんなにも多くのマグロが揃って泳いでるのを見るのは絶景だな……。

 

「知ってる?マグロって動いてないと死んじゃうらしいよ」

 

「泳ぎを止めると酸欠状態で窒息死しちまうらしいからな」

 

「えっ!?マグロ可哀想!?」

 

 マグロは口を開けて泳ぐことによって酸素を取り込もうとする。それをやめてしまえば、酸素が無くなり最悪の場合窒息死してしまうこともあるらしい。そのことを優莉に説明すると……。

 

「物知りだね……!あっじゃあこれは知ってるかな?マグロの名前の由来には二つあるんだって……眼が黒いから「眼黒(マグロ)」って言うんだって……!もう一つが泳いでいる姿が黒いから「真黒(マグロ)」って呼ぶんだって」

 

「それは流石に知らなかったな……」

 

 泳いでる姿が黒く見えるというのはマグロが泳ぐのが早いからだろう。

 もしくは海面から見ると黒く見えるかのどちらかだろう。多分後者だと思うが……。

 

 それにしてもよく知っているな。

 もしかして俺と来るのをかなり楽しみにしていたのだろうか。だとしたら、今日は楽しませてやらないと駄目だな。

 

「見て見て!ペンギンが居るよ!可愛いね!!」

 

 次にやって来たのはペンギンだった。

 よちよち歩きで歩く姿はとても可愛らしく見ていて癒されるというものだ。

 

「知ってる?ペンギンって口の中結構エグイらしいよ」

 

「それは知ってるな、一度咥えたら離さないように出来てて水中でキャッチしやすくするためにってな」

 

 実際ペンギンを検索してみると、偶に口の中がヒットしてきて怖いというイメージを植え付けられる人も居るらしい。まあ本当に極まれの例の話だが……。

 

「ほら次は……あっち行こ!!」

 

「お、おい……人多いんだからあんま一人で先行くなよ!迷子になるだろ!」

 

 子供じゃあるまいし、一人で何処にでも行くんじゃねえよ。

 俺は優莉が何処かへ行ってしまうんじゃないかと少し不安になりつつも、彼女の後を追いかけようとしたのであったが……。

 

「あの馬鹿、一人で先走りやがって……」

 

 優莉を見失った俺は周りをひたすらに探し続けた。

 暗い館内とはいえ、多少の明かりはついている。ピンク髪の少女を探していると、走っている彼女の姿を見かける。

 

 

「ったく……本当に世話のかかる奴だ……」

 

 俺は走り続けようとする彼女の手を握り、走るのを止めさせようとした。

 

「あっごめん脇城君……私先ばしちゃって……」

 

「気にすんな……こうしてお前のことを見つけられただけ良かったよ。手繋いで……ごめん」

 

 自分が何をしていたいのか理解できたのか俺はすぐに手を離そうとすると、優莉が手を繋ぎ直してくる。

 優莉の思いがけない行動に俺は少し動揺していた。割と行動力があるというのは知っていたし、理解もしていた。だけど、こういうことをしてくるのは初めてだった。

 

「いいでしょ?私が繋ぎたくて繋ぐの……脇城君が……空が嫌って言っても離してあげないから」

 

 少し照れながら俺に言ってくる優莉の姿はとても可愛かった。

 本当に心臓に悪い……。こんなことを堂々としてくるのだから。しかも、本人は気づいてないのかもしれないが俺のことを名前で呼んでいた。

 

「もっと近づいてもいい?」

 

「え?あ、ああ……」

 

 この時間が終わって欲しくない。そう願ってしまうほど俺は優莉の傍に居た。

 それでも時間というものは残酷で俺達は水族館を二週したぐらいで中を出るのであった。それから、互いに上の空になりながら全く実りにならない会話をしながら帰った。

 

 

「じゃあね、空……!今日は楽しかったよ……!!」

 

 彼女の満開の笑みを見て俺は心が激しく動揺したような感じがしていた。

 自分の中で芽生え始めていたある感情の一つが俺を突き動かそうとしていた。

 

 

 この感情の正体を俺は知っていた。

 それは間違いなく恋という感情であった。この胸の高鳴りを抑えるにはきっとこの気持ちを伝える他ないだろう。

 

「伝えるか……」

 

 自分の部屋のベッドに戻って来た俺はあることを決意した。

 

 

 

 

「よし、これで出来た……」

 

 そこに居たのは今の自分であった。

 ショートの茶髪に両耳にはピアス……。彼女に告白するならこの自分で行こうと決めたのだ。俺はそう決意したその日の朝、優莉は俺の様子に驚きながらもこう告げて来た。

 

「放課後、終わったら教室残ってて」

 

 昨日のこともあってか、俺は優莉を見るだけで鼓動が早くなっていた。

 いつも以上に綺麗に見えて仕方ない優莉の姿に俺は何も言えず、ただ頷いていた。

 

 

 

 

「ごめん、待ったかな?」

 

「そんなには待ってねえよ」

 

 夕暮れの教室に俺が残っている。

 その教室に扉を閉めながらも優莉が教室の中に入って来た。

 

「茶髪に染めたんだね、どうして?」

 

「お前の隣をちゃんと歩けるようにしたいから……。あの髪色だと周りに近寄りがたい人間だと結構思われがちだからさ……そんで髪を染めた」

 

 本当は決意を胸に秘めているからとかカッコいいことを言いたかったんだけど、俺にはそんなことを言える勇気はなかった。今だって心臓が波打っているような気がしてならなかった。

 

「そっか……ありがとう!ピアスもしたんだね、カッコいいよ」

 

「あ、ありがとうな……」

 

 駄目だ、優莉を直視することが出来ない。

 俺にはやっぱりこの思いを伝えることなんて……。

 

 

 

 

「ねぇ、空私のこと好き……?」

 

 一瞬、頭の中が真っ白になったような気がしていた。

 自分が今言われたことを理解できていなかったのだ。脳の処理が追いつかないというのはこういうことを言うのかもしれない。俺は自分を落ち着かせてた。何度も何度もひたすらに深呼吸をした。

 

 そして……。

 

「多分、そうだと思う……」

 

 自分でも情けないと笑えてしまうぐらい間抜けな返事な仕方だった。

 それに気づいたのか、俺は頭の中で自分のことを嘲笑しながら優莉の言葉を待っていた。

 

 

「じゃあさ、証明してみせて……私が本当に好きかどうかを……ね?」

 

 証明しろ、か……。

 なんだ、そんな簡単なことで良かったのか。何も口で伝えるだけではないのが告白。それを俺は実行すれば良かっただけということだ。

 なら、話は早いじゃないか……。

 

 

 

 一瞬、俺の視界が暗転する。

 映画館やライブ会場であるような一瞬、暗くなるようなあんな感じだった。気づいたときには俺の視界は彼女の顔と至近距離にあったのだ。気づけば俺達は唇を交わらせていた。

 

「これで信じてもらえるか?俺は七条 優莉のことが好きだ。何があっても絶対にお前のことを守る……だから約束しろ」

 

 

 

 

「俺の傍にいろ」

 

 彼女は泣きながらも「うん」と何度も言っていた。

 そして、涙を拭き終わった後俺にこう告げていた。

 

「私も空の傍にずっといる……!」

 

 再び唇を絡める。

 俺と優莉は互いに満足するまで唇を重ねていた。

 

 俺にとってその言葉が何よりも幸せだった。

 最初こそはどうせ暇だからいいかと続けていた関係。どうせすぐに終わるだろうと思っていたし、自立してくれるだろうと思っていた。しかし、気づけば俺と優莉は友達関係になっていた。友達が居なかった俺は少し嬉しく思い、二人で一緒に色んなところに行ったりした。電車を使って大阪に出かけたりしてみたり、二人で一緒に買い食いをしながら歩いていたのは今でも覚えている。

 友達関係が続いていく中で、俺は優莉に対して恋愛感情が芽生え始めていた。それが芽生えたと気づいていたのは彼女と遊んでいるうちにだった。特に水族館での出来事は強烈だったのだ。そして、俺達二人は恋人関係となり二人の愛をこれからも育んでいくのかと思っていたが……。

 

 

 

 

 それからは地獄の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 




まず謝罪させてください。
自分改定前であるキャラは登場させないと公言していましたが今回登場させております。描写だけなので分かりにくいかもしれませんが……。
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