「全くいい話を聞かせてくれるじゃない……」
どうしても聞かせて欲しいと頼まれて俺は二乃に昔の話をしていた。
二乃はハンカチで涙を拭いていた。
「後はお前も知っての通りだ……。誰かにこの話を聞かせることになるとは思ってもなかったんだけどな……」
昔の俺だったらこの話をするだけでも思い出すだけでも嫌だっただろう。
これも一つの変化という奴なのだろうか。間違った変化ではなく正しい変化という意味での……。
「それであんたはどうしたいのよ?」
「どうしたいってのはどういう意味だよ」
「その優莉って子に本当のことを聞かなくていいの?」
「本当のことか……考えたこともなかったな」
俺は確かに何度か優莉にも何か理由があったんじゃないのかと考えたときはあった。
それでも本人から直接聞くことはできなかった。知ろうとしたくなかったから?違う、そんなんじゃない。俺はきっと怖かったからだ。自分を変えるのが……。
「まあ今更付き合ってた元カノの話を聞くってのも変な話だったわね。私だったらむしゃくしゃして忘れるだろうし」
「お前は割と引き摺りそうなタイプに見えるけどな」
「何か言った?」
「いや……」
もし優莉に連絡を取ることが出来れば、俺は大きく変わることが出来るんじゃないのか。
一回目の変化は上杉達と出会ったこと、二回目は五つ子達と出会ったこと、三回目は父さんと仲直り出来たこと……。そして、四回目は……。
俺は連絡先にある七条 優莉と書かれている項目を見つけた。
消していなかった優莉の連絡先は残されている。何かの為に残していたのかもしれない。それがこんな形で役に立ちそうになるとは思いも寄らなかったし今からする自分の行動を見たらきっと昔の俺はビックリして俺のことを殴ってでも止めて来るだろう。
俺自身の拳か、痛そうだな……。高校一年生時代、喧嘩はめっちゃ強かったしな……。何の価値もないものだったが……。誰かを守るための拳に使っていたとはいえ結局はその拳を血で染めていただけだから。
俺は優莉の連絡先の電話番号に掛ける。
何度かコールがかかるが、出る様子がない。やはり駄目かと思っていると、案の定電話に出る様子がない。
『おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません』
着信拒否でもしているのだろうか。
よくよく考えてみれば、もう一年半も連絡を取っていなかったのだから電話に出ないのは当たり前か。
俺は心の内でざわついているものを深呼吸で落ち着かせながら立ち上がる。
「繋がったの?」
「いや、駄目みたいだ……一旦諦めるわ」
「ねえその子って京都に居るのよね?」
「え?あ、ああ……多分な」
二乃が何故俺にそんなことを聞いて来たのか分からず首を傾げそうになりながらも俺は玄関から外に出ようとする。
「ソラ、明日少し荷物持って出かけるわよ」
「何処に……?」
「いいから準備だけしといて」
二乃の有無を言わせない雰囲気に負けて渋々了承してしまうのだった。
せめて何処に行くかぐらい伝えろよ。全く……。
次の日……。
「起きるの遅いわよ」
「悪い、少し準備に手間取ってな……」
約束通り、二乃が俺の家に来ていた。
二乃が担いでいるものを見ると、バッグに少し多めの荷物を入れているようだ。
「それでまさかだとは思うが……京都に行くなんて言わないよな?」
「そのまさかよ、あんたと一緒に京都行くわ」
「あのな……優莉がまだ京都に居るとは限らないんだぞ?」
「あんたは優莉と会うのが怖いだけなんじゃないの?」
図星を突かれて何も言えなくなってしまう。
俺は優莉が電話に出なくて少しホッとしていたところもあった。そうやって言われると反論の余地が全くないのだ。
「悪いかよ……怖くて」
「別に悪いとは言ってないわよ。でも、まあ私があんたの立場だったらムカつくなら速攻で乗り込んで問いただしてやるわ」
「別にムカついてる訳じゃないんだけどな……」
昨日むしゃくしゃしたら忘れるって言ってなかったかというツッコミを入れたくなる気持ちは抑えていた。危ない、また圧をかけられるところだった。
「それで行くの?行かないの?どうするのよ」
「分かった、行くよ……。居なくても近くの人に聞いてみればいいだけだしな……」
この選択がどう転ぶのか分からない。
俺と言う人間を大きく成長させるいい機会になるか、もしくは知らなくてもいいことを知り悪い方向へと進むことになるのか……。いや、俺は今一人じゃない。
俺の背中をたった今押してくれた二乃がいる。
俺達が歩き出して駅へ向かおうとしたときであった。
携帯から着信音が鳴る。二乃の携帯だろうかと思って俺の携帯を確認するとそこには……。
そこには優莉の名前が書かれていた。
「出てみなさいよ」
「ああ、分かってるよ……」
俺は携帯を耳元に近づける。
二乃が俺達の会話が聞こえる距離ぐらいの範囲までに近づいて来る。
「もしもし脇城空なんだが……七条優莉だよな?」
「空だよね……?」
聞き覚えのあるこの声、電話に出ていたのは間違いなく優莉であった。