「本当にありがとうね空……私のことを許してくれて」
「気にするな優莉、痛みは引いたか?」
俺の許しを得て優莉は嬉しそうにしながらも何処か複雑そうにしていた。優莉の顔を見れば先ほど二乃から受けた平手打ちにより赤くなっていた顔は元通りになっていた。
結局二乃は踏み止まることは出来なかったけど、平手打ちをして気が済んだようで近くで待っているとだけ伝えていたから、これだけで済んでくれて良かったと言うべきなのかもしれない。
「うん、まだ少し痛いけど私は空にそれだけのことをしたから平手打ちされて当然だよ。さっきの子よっぽど空のことを気に入ってるんだね」
混浴で会ったとき、そんな素振りは見せていなかったが気がするけど、背中を流そうとしてきたのはかなり大胆な行為だったのは間違いないし、もしかして二乃は……。
いや、まさかな……。
「そうなのかもしれないが……」
ここ最近は五月と話す機会の方が圧倒的に多かったから俺があいつと会う度に色んなことがあった気がする。例えば、父さんの店で仕事してるときなんて調理に使うものを用意してくれと言っても少し不服そうにしていながら俺に渡していたし、事あるごとに俺に話しかけてきては「なんでもないわよ!」と言ってきていた気がする。
「もしかして空のことが好きだったり……なんて」
実際俺に対して距離感を詰めてきたりかと思えば離れてきたりしている。もしかして本当に……。あーいや今はこんなこと考えてる場合じゃない。二乃を喫茶店で待たせている。
早く向かわなければ……。
優莉の言葉に対してはぐらかすとそれに気づいたのか笑っているようにも見えた。
「やっぱり……優莉は笑顔が一番だな」
不意に心の中で思った言葉が出てしまう。
しかし、俺は後悔することなくその言葉を途中で止めることもなかった。事実だしな、優莉の笑顔が可愛らしいのは……。
すると、優莉は顔を背ける。
「相変わらず空は女の子に優しいんだね」
「人を女誑しみたいに言うのはやめてくれ」
「そうかな……私と付き合う前は助けた女の子に好かれてたりしてたよね?」
「あーまあそれもそうだったんだが……」
俺はできる限り助けても依存はされたくないため助けた後は干渉しないことが圧倒的に多かった。しかし、それでも言い寄ってくる子は少なからずいたので俺は対応に困っていることもあった。そういうときは申し訳ないけどとちゃんと断りを入れていた。
それに少し思うところもある。
俺は結局三玖に勘違い男と言われたけど、あの流れ的にどう見ても俺のことが好きだったのでは?と勘繰ってしまう。少し自分のことをキモいと思ってしまうが……。二乃の件もあるし、女誑しと思われても仕方ないか。
「お、俺のことはいいだろ?それより優莉のことを聞かせてくれよ。今は何をしているんだ?」
「私?私は今……違う学校に通ってるんだ。色々あったから前の学校に通うのは大変になっちゃったからさ……。あの学校から逃げるのは空から逃げてるような感じもあったから少し嫌だったけどさ……」
「そんなことないだろ、俺もお前とは話し合わず逃げるようにして学校を離れたんだしさ」
「それこそそんなことないよ、あのとき私がもっとしっかりしていれば……」
「……悪い、こんな話しないほうが良かったな……」
俺は会話を中断させようとしていた。これ以上続けてもお互い譲り合いになるからだ。こうなるとは少し分かっていたのに俺は話をしてしまった。少し後悔しながらも俺は優莉の手を取り、二乃が待っているカフェと向かうのであった。
「ほら行くぞ、二乃のところ……。あいつがご立腹中じゃないのを祈りたいけどな……」
「大丈夫だよ、私は何があっても受け入れるから」
と言われても目の前で喧嘩でもされたら溜まったものではない。
しかし、此処で待っていても埒が明かない。俺は扉を開けてカフェの中に入る。
「来たわね……あんたには聞きたいことが山ほどあるけど……そうね」
内装が少しお洒落な雰囲気が漂っているカフェに来ると、二乃がこちらに気付き優莉の方を見ていた。俺は優莉の前に立ち、彼女を庇うような素振りを見せると二乃が少しムッとしたような表情になっていた。
「あんた、空との初デートには何処行ったのよ!?教えなさいよ!!」
いつの間にか二乃が優莉の後ろを回り込み手を握っていたのを見て俺は困惑していた。先ほどまで二乃は優莉のことを嫌っていたのに全く状況が変わっていたからだ。
「えっと……初デートは私から誘ったんだ。それで二人でショッピングに行って手繋いだりして歩いてこの服いいよね?とかこの服どう?とか二人で話していたんだ」
「それで空がどんな服でも優莉ならきっと似合うよって言ってくれて私は嬉しかった……かな」
「……いい話じゃない、もっと聞かせなさいよ!そういう話!!」
優莉から二乃は初デート、ショッピングの話を聞いていて興奮している様子だった。
「ねぇ中野さん」
「二乃でいいわよ、私も優莉と呼ぶからいいわよね」
「えっ、う、うん……そのなんで私と仲良くしてくれるのかな?私は……」
「別に許したわけじゃないわよ、でも優莉には聞きたいことがあったのよ。それだけよ」
俺は優莉と二乃が仲良さそうにしているのを見て少し嬉しくなっていた。二人揃って居心地悪そうにしていたらそれはそれで俺も見ている側として困るからな……。
「優莉一つ聞きたいんだけど、あんたが空と付き合ってるときなにかこれは譲れないって決めてたものはあるの?」
「恋は押してこそ……かな」
恋は押してこそ……。
その言葉通り、優莉は見た目とは裏腹に恋愛に関してはかなり積極的だった。デートに行った回数こそ少ないかもしれないけど、いつも彼女がエスコートしてくれた気がする。
我ながら自分で何もしていないと思えそうで情けなく感じてくる。
「あんた見た目とは違って意外にもグイグイ行くタイプなのね」
「あんまり意識したことないけど……そうなのかも?でもまあ、後悔はしたくないから。誰かを好きになるということに後悔だけは絶対したくないから。だから、私は全力で恋愛したかったんだ」
「そうね……私もそうわ、ありがとう優莉。参考になったわ」
俺たちはカフェでのんびりとしながらも話を続けていた。
話を続けていると、優莉からこんなことを言われた。
「二乃、いい子だね」
「……そうだな」
優莉の言葉に俺は同意を得ていた。
今まで色んなことがあったとはいえ、二乃がいい奴なのは間違いないだろう。姉妹思いの次女で、なんだかんだ文句言いながらも俺たちの生徒として今は熱心に勉強をしてくれているしな……。
「悪い、二人共……俺お手洗い行ってくる……」
二人にもっと話す機会があってもいいだろうと思って俺は席を離れる。あの二人、性格こそは正反対だけど結構仲良くなってるみたいで安心した。
俺は少し頰を緩ませながらも用を済ませてから帰ってくると二乃の姿があった。俺は言葉を発することなく二乃の横を横切ろうとしたときであった。
俺は目の前が見えなくなった気がした。
いや、見えなくなったと言うより視界が変わっていたのだ。何故そんなことが起きていたのかと言うと、それには俺にも理解できなかった。
ただ分かっていたのは柔らかい何かが俺の唇に触れていたことであった。
「二乃……お前なにして……」
何が起きたのか分かったのは、数分が経った後だった。
「優莉が言ってたでしょ、恋は押してこそってね……。私もそう思うから……行動したまでよ」
二乃の唇が俺の唇と重ね合っていたからだ。