五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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第10章 五つ子とシスターズウォー
次女の宣言


 優莉と会ってあれから一日が経っていた。

 父さんの店を手伝っていると、こんなことを言われるのであった。

 

「空、何処か変わったかい?」

 

「そう……かな。いや……多分変わったと思うよ」

 

 あのとき優莉から話を聞いていなければ俺はきっと優莉のこと、本当のことを知らぬまま一生過ごしていただろう。だからきっと俺が変われたとすればそれは……。

 心の中で全ての物事に決着がついたということだろう。

 

 

 

 

 最も……。

 また一つ悩みが増えてしまったというのも事実ではあるが…‥。

 

 揚げ物を担当している二乃の方をチラッと見ると一瞬目線があったような気がしていたが、すぐに逸らされていた。

 

 諦めが悪いか……。

 確かに二乃は告白を断れても諦めないような気がする。あのときの答え早めに返した方がいいと言うのは分かっている。けれど、どうすればいいのだろうかと悩んでいる自分もいるのだ。

 

 さてどうするべきなのか……。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

「三玖……えっとこれはパンですよね?」

 

「うん……」

 

 目の前に見えているのは黒く焦げているパンであった。

 恐らく五月はこれがパンだとは思えず、石か何かだろうと思っているはず……。

 

「まあ……中野さんはまだ始めたばかりだから」

 

 バイト先の先輩が私を慰めるような言葉を投げかけてくれるが、私はその言葉を聞いて少し落ち込んでいた。もっとちゃんとしたパンを作らなければこれじゃあソラに食べてもらおうなんて無理に決まっている。

 

「大丈夫ですよ、三玖ならきっとおいしいパンを作れますよ!」

 

「そうだね、五月。私頑張るよ」

 

 次こそは、と意気込んでパンを作り始めていた。

 

 

 

 

「お、おかしい……手順通りに作ったのに何か得体の知れない力が働いていて別のものに……」

 

 お皿に上に乗っているのはべちゃついているパンであった。

 手順を教えてもらいながら、作ったというのにこの有り様……。やっぱり私にはパン作りなんてまだ早過ぎたのだろうか。最近は向かいのパン屋さんの方が景気いいと聞くし……。

 

「前より食べ物には近づいています、三玖ならきっとできますよ!!」

 

 五月の言葉を聞いて、少しずつ自分ができるようになっていることに気づいて私はパン作りを続けようとしていた。

 

 

 

 

 どうして私が此処までパンを作ろうとしているのか、それは簡単な話。

 私はこのパンを修学旅行で食べて欲しいと言う気持ちが強いからだ。それで美味しいと言ってもらえると私はきっと嬉しい気持ちでいっぱいになる。だから、うんと美味いパンを作ってあげたい。

 

 

 

 

「凄いじゃないですか、これを三玖が作ったのですか!?」

 

「三玖ちゃん、どうしても修学旅行までにって言ってたもんね」

 

「はい、一日目のお昼が自由昼食のはずです……」

 

 でも、一つだけ問題がある。このパンを渡すには一つだけ問題がある。

 それは……。

 

 

 

 

 

 

「皆さん、明日までに班を決めておいてください」

 

 そう、問題というのはこういうこと……。

 この班決めは明日までに決めなくてはなくちゃならない。定員は五名。難しくはないけど、私には最大の敵大将がいる。既にその敵大将は動いている。ならその首を持って……って駄目だ。私は何を考えているんだ。

 だけど、それぐらいの気迫を見せなくちゃきっとすぐに負ける。

 

「私に任せてください、三玖が脇城君と班を組めるようにしますので!」

 

 五月はああ言っててくれたけど、もう一人の相手は押しが強いから勝てるかどうか。

 

 

「あ、あの……ですから脇城君は三玖と私で……」

 

 やっぱりこうなっていた……。

 学校の階段付近で話していたのは五月と二乃。

 

「あんた話聞いてなかったの、もう私と回ると言ってるでしょ?」

 

 こうなるなら先にソラに根回ししておけばよかったのかもしれない。でも私にはそんなこと……。

 決まってしまった以上、私の口から何かを言うことなんて出来るわけがない。こういうとき他の姉妹ならきっとちゃんと言えたかもしれない。だけど、私はいつも言い返すことなんて出来ないから。

 私には……。

 

 

 

 

「ま、待ってください三玖!」

 

 私はその場から離れてしまう。

 何故その場から逃げてしまったのか、それを自分ですら理解できなかった。私では二乃には勝てない。そんな気持ちがあったのかもしれない。実際そうに決まっている。私は二乃みたいに大胆な行動なんて取ることなんて出来ない。二乃みたいになれていたなら、きっと家族旅行のとき私は告白することが出来たのだろう。

 

 でも……。

 

『やっぱり二乃に絶対譲る気にはなれないな』

 

 独り言で言ったあの言葉を言った以上、私は逃げたくはなかった。

 勝てる見込みのない戦でも私は戦うことをやめたなくない。例え、負けることになったとしても……。

 

 

 

 

「三玖、本当にいいのですか?貴方はあんなにも丹誠込めてパンを作っていたではありませんか?それを何故……」

 

「私だって負けたくない、好きな人と一緒の班になってパンを渡して美味しいって言われたいよ!でも、私は二乃みたいに勇気がないから……だから……!!」

 

 口から次々と本音が口に出ていた。

 抑えきれないでいた本音たちが口から出ていたのだ。

 

 

「なによ、あんたのことをライバルだと思っていたのに案外情けないのね」

 

「二乃!?」

 

 校舎裏にやって来たのは二乃だった。

 どうして二乃が……。もしかして私のことを追いかけて来ていたのだろうか。だとしたらさっきの言葉を聞かれてしてしまったのかもしれない。

 あんな言葉を聞かれてては私の負けは確定。もうこの勝負決まったも同然……。

 

「退きなさいよ五月、私はそこで不貞腐れてる奴に用があるのよ」

 

 五月が必死に誰もいないように見せかけていたが、それも意味を無さず私が此処にいることは気づかれていた。

 

「もう一度言うわ、随分と情けないのね三玖」

 

 五月を押し退けて私の服を掴み持ち上げようとしてくる二乃の顔を見れず校舎の方をただ見つめていた。

 

「二乃、何もそこまで言わなくても……!」

 

「あんたは黙ってなさいよ!!」

 

 止めようとする五月を大声で近づけさせないようにされる。

 

「私はあんたのことをライバルだと思っていたわ、けどこんなにも情けないならもうライバルとは思わない。一生泣きながら修学旅行でも指を咥えていなさいよ」

 

 そんなの嫌に決まっている。

 好きな人に一生懸命作ったパンをどうしても食べて欲しい。その気持ちは今だって変わらない。そして、美味しいって言われて二人で京都回ったり出来たら最高に決まっている。

 

「なによ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

 

 

『三玖ちゃん気持ちを伝えるならちゃんと伝えないとダメだよ。じゃないときっと後悔することになるよ?』

 

 バイト先の先輩に言われたあの言葉……。

 私はあの言葉を言われたときその通りだと思っていた。だけど実際に二乃と対決するかもしれないと思ったときに私は……。

 

『三玖ならきっと出来ますよ、私は信じてますから』

 

 私がパン作りを諦めようとしたとき、五月はいつだって私の味方でいてくれた。それなのに、私は今逃げようとしている。それでいいのだろうか、いや言いわけがない。此処で逃げたら一生後悔する。

 だったら、私の選択肢は一つ……。

 

「言いたいことなら……ある」

 

 此処で言わなきゃダメだ。

 言わなかったら絶対後悔する。バイト先の先輩だって私に手伝ってくれた。五月だって私のことを応援してくれた。私の背中にはいろんな人の助けがあって今があるんだ。

 だったら、それを今はチャンスに変えるとき……。

 

「二乃はソラと二人で修学旅行を楽しもうとしているんだろうけど、そうはさせない。私だってソラのことは……好き」

 

「だから、私とソラが一緒に修学旅行を回る。それで文句ないよね?」

 

「ないわけないでしょ、あんたさっきの話聞いてなかったの。もう既にソラと回るって決めているのよ!!」

 

「それでも諦めない、私は二乃に負けたくないから……!」

 

 私は二乃に思っていること全部を伝えた。

 これでよかったんだ。作戦なんてなに一つなかったけど言いたいことは言えた。勝ったというわけではないけど、私は勝ち誇ったような表情をしていた気がする。

 

「はぁ……分かったわ。ならこうするわ」

 

 

 

 

「私とあんた、どっちが上かこの修学旅行で決着つけようじゃないの」

 

「それって……」

 

「ええ……!あんたと私……そしてソラと一緒に行動するのよ。修学旅行は三人で歩いてそこでソラに決めてもらう。どっちが好きなのかを……」

 

 

 

 

「それで文句ないわよね!!」

 

 私はその言葉に無言で頷きながらも了承した。

 この戦い絶対に負けられない。負け戦は絶対に許されない。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「四葉、話があるんだけどさ」

 

 二乃と三玖が争うなか、別の場所で一花は四葉のことを呼び出していた。

 

 

 その表情には何処か暗さを感じさせており、最早迷いなどなかった。

 ただ何かを追い求めているだけであった……。

 

 

 

 

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