「それにしてもまさか本当に三玖の奴が空のことを好きだったとはな……」
「し、知っていたのですか?三玖が脇城さんのことが好きなことを……?」
「ああ、なんとなくだが……。あいつの行動を見ているうちにもしかして?とは思っていたがな……」
あの鈍感でそういうことに気づきそうにもない上杉さんが気づいてしまうなんて……。
いえ、自分のことじゃないからこそ気づいていたのかもしれません。
「あ、あの……上杉さん。私はきっととんでもない不用意な発言をしてしまったようです……」
話を切り出すのに、少し躊躇いもありながらも私はその話をし始めた。
三玖が一生懸命をパン作っていることを知っていた私。そして、一花にも家族旅行のせいであんなことを言ってしまったせいで……。
「何があったのかは知らないが俺の見えないところでお前が余計な愛想を振りまいていたのはなんとなくだが分かった」
そうですよね、上杉さん……。
私が姉妹たちにあんなにも勇気づける為に言葉を投げかけていなかったらきっとこういう事態になっていなかったのかもしれません。後悔ばかりの人生、そんな言葉私にはピッタリなのかもしれません。
この修学旅行もきっと後悔だらけの修学旅行で終わってしまう。そんな気がしていたのだ。
「また余計なことを気にしているじゃないだろうな」
「そ、そんなこと……ないですよ」
徐々に声が掠れているのに気づいていた私であったが、自分で止められるはずもなかった。
私のせいで姉妹を分断させてしまったことは変わりないのだから。
「全く……お前は人に気を遣い過ぎだ。いつもそうだ、周りが損するのが見たくなそうにして色んな奴に愛想を振りまいてもっと欲みたいなものはないのか」
「そんな私みたいのが欲を出したって……。それに私は姉妹の皆が幸福でいてくれたらそれでいいんです」
私は言葉を続けるようにして上杉さんにあることを聞こうとしていた。
「上杉さん、みんなが幸せになる方法ってあるんでしょうか?」
「人と比較なんてせす、個人ごとに幸せと感じられる。そんなことが出来たらお前の望む世界だ」
ないと思っていたはずの方法がある。
そう思えた途端、私は嬉しくなり今にも嬉しそうになっていたが上杉さんはバスの外の方を見ながら現実を見せる。
「だがそんなことは無理に決まってる。誰かの幸せによって別の誰かの不幸が生まれるなんて、珍しくもない。競い合い、奪い合い。そうやって勝ち取る未来もあるだろう」
「そ、それじゃあ私に出来ることなんて……」
上杉さんの話を聞いて私に出来ることなんて何一つないということを理解した。
そうだったんだ、やっぱり私に出来ることなんて……。
「ああ、ないに決まってるだろ。阿保なんだよ、全てを得ようなんて……」
「だけど、いつかは決着をつけないといけない日が来る。いつかはな……」
決着……。
私のこの気持ちにもいつかは決着が付くときが来るのだろうか。
この気持ちにも……。
◆◆◆◆◆◆
「全く余計なことをしてくれたな一花」
一花とバスに乗ることになったまでは良かった。
しかし、一花は口を固く閉ざして居心地の悪いバスになっていた。他の乗客もいないので観光に来たんですか?とも聞くことが出来ず、少し時間が経った後俺はようやく話を切り出すことが出来始めた。
「お前がなんで三玖の告白を止めようとしたのは二乃に協力していたからということでいいんだな?」
「……違うよ、ソラ君。あれは私が本当に三玖のことを止めようと思って……」
「嘘つくなよ一花、あのときだって本当は二乃と協力する為にお前がやったことなんだろ?」
一花はあくまで二乃のことを庇おうとしていたが俺にはこのとき分かっていた。
あのとき五年前の彼女に偽装していたのは二乃ではなかったということだ。二乃だと当ててしまったのは俺だがそれでもあのとき思っていた違和感はこのことだったんだろうと認識できたのだ。もっとも遅かったのかもしれないが……。
「そう……なんだ、やっぱりソラ君には気づかれたんだね」
「まああのときは流石に気づけなかったがな……。香水まで一緒にされちゃ流石に分からないな……」
「でも香水が二乃ちゃんのだって気づくなんて流石ソラ君だね」
「ああまあそうだな……。二乃の香水を把握してたなんて言ったら絶対気持ち悪がられるだろうな……」
俺は最後の方の言葉を一花には聞こえないようにしていた。その発言に俺はなんて口にすればいいのか、困っていた。二乃の香水の匂いを的確に言っても気持ち悪がられるだけだろうと思って何も言わないようにしていたのだ。
「……だからまあお前は気にすんな、お前は自分のせいで考えてるんだろうけどちゃんと三玖と四葉に謝ってそれで終わりでいいんだ」
自分のせいで三久と俺の関係に亀裂が入ったと一花は勘違いしているのだろう。
思えば三玖が家族旅行で俺に「勘違い変態男」と言ったのも自分が言おうとしていた告白から逃れる為だったのかもしれない。確信はないけど、あいつは二回もそういう機会を窺って結局自分で諦めている節があった。
俺に気づいて欲しかった。
そういう気持ちもあったのかもしれない。二乃が家族旅行で混浴でやって来たように……。
「……その個人的な興味なんだけど、ソラ君にとって五年前の子ってどういう子だったの?」
暫く口を閉ざしていた一花が再び喋り始める。
「あんまり長い時間いた訳ではないから俺から言えることは少ないが、俺を変えることになった一人でもあるな」
「そうなの?」と言いたそうにしているような表情をしているのに気づいていた。
一花が本当にただ個人的な興味で聞いているのだろうと認識した俺は五年前のことを話し始めた。
「あいつが言っていたんだ。大きくなったら姉妹のことを守れる人になりたいんだって……。俺はそれを聞いて姉妹のことを守ろうなんて言い切れるなんて凄いなって俺は思ったんだ。それにあいつは言ってたんだ、姉妹のことは嫌いなところもあるけどそれでも守りたいって……。俺は家族のことをあのとき嫌いだったからその発言を聞いて俺にもそんなふうになれるかなって思えたんだ」
「そっか、そういうことがあったんだね。でもその話を聞く限り、五年前の子はまるで二乃ちゃんのような気がするけどそこはどうなのかな?」
「俺もそれを考えることは合ったんだがな……。どうも今と昔じゃ性格が違い過ぎるというか……」
「アハハ、まあ二乃ちゃんも色々あったからね……」
二乃も色々あったからか……。
そういえば、俺は一花達五つ子が昔どういう人間だったのかも知らないということに気づいていた。聞く機会もなかったし、今までは昔のことなんて触れようとも思わなかったからだろう。地雷でしかないのだから。
「バス着いたね」
後で一花に聞いてみるかと思いながらもバスを降りるのであった。
「一花、ちょっと話があるんだがいいか?」
ホテルに辿り着くと、一花は部屋に戻るのかと思っていたが戻る様子はなくその辺をウロウロとしていた。俺はそんな一花を見つけて声をかけていた。
「さっきの五年前の話なんだが……昔の姉妹ってどんな感じだったんだ?」
それから一花は昔の自分達のことを話し始めてくれた。
母親である零奈に花をプレゼントする為に買おうと思っていたのだが、お金を失くしてしまい野原の花を摘むことでそれを母親に渡したこと。修学旅行のときに皆離れ離れになってしまったこと……。五月が母親の代わりになろうとしていたこと……。
色々なことを話してくれた。
「なかでも私は最悪かな……。昔の私って姉妹の友達とすぐ仲良くなっていい感じになってたみたいだから……」
俺は何か慰めの言葉を投げかけようともしていたが、近くにあいつがいることに気づいてその場を去ろうとする。
「慰めの言葉かけてやろうと思ったけど、それは俺からじゃないな……。俺はちょっと用事出来たからじゃあな、一花」
一花は不思議そうにしていたが何故俺がその場から去ったのかはすぐに理解できたようだった。
「ソ、ソラ君……!今彼と話なんて出来ないよ……!」
「大丈夫だ、お前なら出来る。自分を信じろ一花……じゃあまた後でな」
◆◆◆◆◆◆
こんな状態でフータロー君と話なんて出来る訳がない。
でも此処で逃げるなんて私には出来ない。どうすればいいのか分からないままずっと立っているとソラ君の言葉を思い出す。
「フータロー君、ごめん……!!」
ソラ君は四葉や三玖に謝るべきだと言っていたが、私にはもう一人謝るべき人がいた。
だからこそ私は彼に頭を下げたのだ。
「一花……」
三玖の件のことを言っていることなんてのはすぐに理解できた。
彼は徐々に近づいて来ていて私は後退りながらも待っていると、おでこに何かが当たったような感触がしてたのだ。
「少しは反省しろ」
彼がしていたのは私のおでこに指を弾いてデコピンであった。
「お前がなんで二乃に協力したのかはなんとなく分かってるつもりだ」
フータロー君にもバレていたんだ……。
そうだよね、ソラ君と三玖は割と分かりやすい関係だったから三玖がソラ君のことが好きだったなんてすぐに分かるよね。
更に言えば普通に今までのことを考えれば私が三玖の告白を邪魔する必要なんてないのは彼が一番よく分かっているはずだ。あの場で二乃が言っていたのもあるだろうけど、誰かに協力しているというのがすぐに分かることだろう。
「そっか……そうだよね、流石のフータロー君でもお見通しか」
傲慢と思われても仕方ないけど流石に今回の件で嫌われてしまっても仕方ないよね。
私は二乃と協力して三玖のことを陥れようとしたのは事実。そして四葉も悲しませてしまったのは事実……。
「ああだが、一花勘違いしないで欲しいんだが……。俺はあの出来事でお前のことを嫌ったりしない」
「え……?」
私は彼に嫌われると思っていた。それなのにフータロー君は怒ることもせず、かと言って嫌味を言う訳でもなく、私のことを嫌う素振りを見せなかったのだ。
それが私にとって意味が分からなかった。
「俺はお前が三玖や四葉に謝る必要なんてないと思っている」
「な、なに言って……。私は三玖の邪魔をしたんだよ」
「どうせ最初からこの恋愛の戦いに勝者と敗者は付き物だったんだ。だから空も二乃か三玖かを選ばなくちゃいけないときが絶対に来る。自分でも言っていておかしいと思うが、もしかしたら俺が空の立場に……」
フータロー君の話を聞いていて私は拳を強く握り締めていた。
もしソラ君の立場がフータロー君になっていたらきっと私はなりふり構わずにフータロー君に仕掛けていたかもしれない。特に二乃が彼のことを好きになったりしたら大変なことになるだろう。あの子は恋をすればきっと止まることはないのだから。
ああ、こう考えるともっと余計に嫌になってくるな。
私ってこんなにも嫉妬深かったんだ。本当に嫌になってくる。これじゃあ昔とあんまり変わってないんだな私って……。
自分が惨めになりながらも私はある言葉が引っ掛かっていた。
「昔……?」
そういえば昔と言えば私……。
五年前のあの日……誰かと会っていたような気がする。それが思い出せない。でもとても大事なことだったのは間違いないはずなのにそれが思い出せない。
「一花、どうしたんだ?」
「え?いや……!!?」
思い出した……。
五年前の修学旅行、私はフータロー君と間違いなく会っている……。