「五月……?」
ホテルのフロントでウェルカムドリンクを飲んでいると走りながら来たのは赤色の髪型の女子生徒、五月であった。慌ててどうしたのだろうかと思って「どうした?」と声を掛ける。
「た、大変です……!脇城君、このホテルどうやらストーカーが出るみたいなんです!!」
息を切らしながらもストーカーが出るホテル?
此処に来る前泊まるホテルの評価を見てみたがかなりの高評価でそのようなことを書かれている様子はなかったがいったいどういうことなのだろうか。
「落ち着け五月、何か見間違えの可能性だってあるだろ?」
此処は五月を一旦落ち着かせるために宥める。
しかし、あながち嘘ではないのかもしれないと俺は考えていた。と言うのも最近京都では修学旅行生を狙った盗撮が横行しているようなのだ。それを知ったのは父さんの心配性からであったがまさかその犯人がホテルに居るというのだろうか。
「それが撮られるような音をしたんですよ、本当なんです!!」
五月の表情を見る限り、嘘だと言う訳では無さそうだ。
本当に盗撮犯に狙われてしまったということだろう。
「分かった、俺が五月達の傍にいる。それならそのストーカーもお前らに手は出せないだろ?」
五月はそれならと言わんばかりに了承していた。
盗撮犯、父さんからそういう人物がうろついているという情報は前から聞いていたがまさかこのホテルに忍び込んでいるとは……。
「俺だ三玖、開けてくれ」
五月から盗撮犯の話を聞かされた後、三玖がいる部屋の前に立ってノックをしていた。
元々此処は五つ子達が使っている部屋の為五月達も部屋の中に入れず困っているような状態。俺としても三玖と話をしたいから部屋から出て来て欲しかったのだが一向に出る気配がないのだ。
「三玖、一花がお前に謝りたいって言ってたんだ。出て来てくれないか?」
電灯が俺を照らしているようだったが、俺の心は灯りなど照らされておらず心は真っ暗なままであった。
このままにしておくのは絶対にダメだ。このままにしておけばきっと三玖は一生閉じこもったままでいるに違いない。それは絶対にダメだ。
「三玖、腹減ってないか?此処の夕食は美味いって五月が言っていたぞ。一緒どうだ?」
なんとか外に出てもらおうと考えるが、空白のような沈黙は続くばかりであった。
いっそのこと扉をピッキングで開けて見せようかとも考えたがそんな強引なことは出来ないし、俺にはそんな技術は持ち合わせてないことを思い出してやめるのであった。
そもそも此処カードキー式だしな……。
「三玖、お前は俺のことが……」
此処で言葉が止まってしまう。
俺のなかでこの言葉を球を投げるかの如く投げてしまっていいのだろうかと疑問に思っていたのだ。もし、このまま掴まれることなく終わってしまえば今までの俺達の関係は崩壊してしまうのではないのか?と……。
「我ながら情けない話だな……」
一花とバスで話をしているときお、三玖は俺に告白の機会を待っていたなんて言っていたけどいざ自分でそれを口にしようとしたら怖くなって言えなくなってしまう。
「あーそういうことか……」
それは最初から分かっていたのかもしれない。
何故三玖がその機会を待っていたのかと……。
その答えは三玖自身が握っているはずだ。
「三玖、今からお前に言うことを聞いて欲しい」
「気づいてやれなくてごめん」
三玖が此処から出てくるには自分の力が大事になってくるのは間違いない。
だけど、何かきっかけが大事になってくるのは間違いない。そのために俺はそのきっかけを与えようと考えたのだがその作戦は失敗に終わってしまった。
沈黙は降り積もる雨のように続いていたのだから。
三玖の部屋の前から離れようと歩き出そうとしたとき、奥の方から歩き出した音が聞こえた。
誰かがエレベーターでこの階まで来たのだろうと思っていると、やって来たのは四葉と五月であった。
「脇城君、置いて行かないでくださいよ」
「悪い悪い、どうしても三玖と二人っきりで話がしたかったからな」
五月は汗をかいている様子だった。
どうやらかなり俺のことを探していたようだ。申し訳ないことをしてしまったかもしれないと少し反省していた。
「それで脇城さん、三玖は出てきましたか?」
俺が無言で首を振ると、四葉は「そうですか……」と残念そうにしていた。
あいつが此処から出てくるのを期待するには自分の力が大事になるだろうけどキッカケも大事になってくるのは間違いないだろう。
これからどうしたものかと、悩んでいるとこの階の廊下の奥の方から何かが見えているような気がしていた。一瞬だった為、俺は気のせいだろうかと考えもしたがやはり怪しい予感がしたため、近づくことにしたのだ。後ろから五月が「また置いて行くつもりですか、脇城君」と言う声がしていたが一旦無視していた。
一歩一歩ずつ近づいていくと、誰かが隠れていることに気づいて俺は片手を掴んでそのまま折り曲げたのだ。
「痛い痛い!放せよ、脇城!」
少し荒々しいこの声、俺には聞き覚えがあった。
なによりこの特徴的な髪色にも見覚えがあったのだ。
「前田……?お前こんなところでコソコソなにしてんだ?」
五つ子のなかで前田が好きだったのは一花だけだったはず。
なのに何故こんなところにいるのだろうか。疑問に思っていながらも一旦腕を放してやると、前田は事情を話し始めた。
「なるほどな、そういうことか……」
ストーカーしていた訳にいったいどんな訳があるのだろうかと思っていたが、上杉からの頼みだったということか。だとしても、もう少しやり方というものがあると思うけど自然な表情か、まあそういう風に言われたら否定するわけにもいかない気はするな。
「事情は分かった、だけど出来る限り分からないように撮影しろよ?」
「悪かった、脇城……」
自分も盗撮に加担しているような不思議な気分になってくるがこうも言ってられないだろう。
とにかく五月達が怯えないように撮ってもらえればそれでいいからな。
前田の下から離れて俺は五月達のところに戻ろうとしたときであった。
再び前田に話しかけられる。
「脇城、この後予定あるか?」
「いやないな……。どうした?」
後ろを振り返り、前田の表情を見ると先ほどまで俺に腕を掴まれて痛がっていた姿はなかった。
俺の瞳に映っているのは真剣そのものな前田の表情であった。
「どうしても話がある」
「そうか、なら一階で待っててくれ。ちょっと五月達に言っておかなくちゃいけないことがあるからな」
何かあった、そんな感じの目をしている。
俺は五月達に「盗撮犯のことはもうこっちで対処しておくから安心しておけ」と伝えておいた。それから一階のロビーでコーラを飲みながら待っていると前田がやって来て前に座るのであった。
「それで話ってのはなんだ?」
「ああ、その話なんだがよ……」
前田はどうにもこの話を切り出していいのか困っている様子だ。
いつもの前田なら此処で一気に話題を切り出すと思っていたんだが、どうも話題にしにくいことなのだろうか。
「俺、どうしても上杉に物申したいことがあるんだよ」
「どうして一花さんの告白をそのままにしてるのかって!!」
思わぬ発言に俺は手に持っていたグラスを落としそうになる。
何故前田がその話題を知っている。そのことを知っているのは恐らく二乃、五月と俺だけのはず。
なのに何故……?
「ちょっと待って、話が突拍子が過ぎないか?一花が上杉に告白したって証拠何処にあるんだ?」
「それはねえけどよ……。だけど、最近のあいつおかしいんだよ。一花さんの目を見てちゃんと話せてないって言うかそれなのにいっちょ前に勉強は教えてるみたいで距離感も前よりなんか近いし、見ていてじれったいんだよ」
「それだけじゃねえ、この前なんか多分事務所の車だろうけどその車からあいつと一花さんが出てくるところを見かけたし普通の関係じゃありえないだろ!?」
俺達の関係は元々普通のような関係ではない。そういう話をしてやる必要もないだろう。
というよりこの場合それ以上の段階だから余計に頭を悩ませることになるのだが……。
「はぁ……まあ分かった。だけど俺はあんまりオススメしないぞ」
「なんでだよ?」
「それは一花自身が上杉に催促していないからだ。あいつが催促していない以上、上杉にその答えを催促するのは検討違いもいいところだろ。お前が一花のことが好きだから待たせてるのを見ていられないのは分かるが此処は待て、あいつが答えを出すまでは……」
前田が俺の言葉を読み取ってくれるかは少々不安だった。
前田は一花のことが好きだ。それもあって上杉が何故答えを出さないのか不思議でしょうがなかったのだろう。
答えを出していないか、それは俺も同じことか……。
「分かったよ、待てばいいんだろ。待てば……」
前田はそれ以上何も言わず、ロビーの方を後にしていた。
「余計なことにならなきゃいいが……」
前田は自分を無理矢理納得させているような感じに見て取れてしまった為、大丈夫なのか心配になっていたのだ。だがこれ以上言えることもないのも事実。今此処で催促してしまえば一花の方にも上杉の方にも迷惑を掛かってしまうだろうからだ。
前田が上の階へと目指して行った後、その後を入れ違うようにしてエレベーターから一花が降りてくる。
「一花……?」
俺はあまり人目につかない位置に移動しながらも一花の様子を見ていると、どうやら四葉もこのロビーに来ていたようで座っていたようだった。四葉は前田と俺が話しているとき気づいている様子はなかった。
何か考え事をしていたのだろうか。
◆◆◆◆◆◆
「急に呼び出してごめんね、今日のこと謝っておこうと思ったんだ」
急いでロビーにやって来た一花は私の前に座った。
此処に一花が来るまで何を話そうか悩んでいた。きっと私に謝罪をしてくるのだというは分かっていた。
「ち、違うよ一花……。一花のせいじゃなくて私が誰に対しても愛想を振りまいたりするからこうなっただけで……一花は悪くないよ」
上杉さんも私が今言っていたようなことを言っていた。
そうだ、私が悪い。私が余計なことまで首を突っ込んだりするから余計な事態が増えてしまうんだ。
「……家族旅行のとき言ってたよね、昔の私はガキ大将だったって……。あのとき四葉は私のことをしっかりした長女になったって言ってくれたけど、結局私は昔のまんまだったね。五年前だって私は四葉からフータロー君を引き裂いたようなもんだったんだから……」
椅子から立ち上がり、表情が見えないように下を見て俯いてしまう。
「だからその……」
窓の方に近づき、外の景色を見ると見える景色というのは殆どなかった。
その景色が私の曇って行く心を表しているようだった。
「私はやっぱり相応しくないよ、だから四葉に……」
「ちょっと待ってください!!」