「外出なくて正解だったかな……」
二乃も居なくなったことにより部屋の中でただ一人……。
私は部屋の外から聞こえている雷の音、雨の音、自然音をBGMにしながらベッドの中で塞ぎ込んでいた。二乃にあんなふうに言われたことはとっても嬉しかった。
私にも秀でたものがあるのかもしれないと思うと少しは気が楽に慣れた。だけど、部屋の外に出ることはできなかった。ソラはさっき清水寺を見に行った時点でホテルに戻ってきていることを聞いていたからだ。なんでも雨が降り出しそうな気配を先生たちが察知して解散することになったそうだ。
折角の旅行二日目が雨の中で終わるのは悲しいけど仕方ないよね。
最も私はこうして部屋の中で閉じこもってソラに会わないようにしているつもりだった。
「……?」
私は一旦ベッドの上から起き上がろうとしたときであった。
誰かが扉に触れたような音が聞こえていた。二乃がさっき戻って来るから開けときなさいよと言っていたから戻って来たんだろうか。ジッとしているとき、背の高めの男子生徒っぽい人が入って来た。
「フータロー……?」
フータローが心配してきて見に来たのだろうかと思っていたが、私はすぐにフータローではないということに気づいた。それは髪型が茶髪だったからだ。髪型茶髪の男子生徒で私の部屋のことを知っている生徒は多分……。
「ソラ……」
部屋の中に入って来ていたのはソラだった。
さっき二乃が部屋の扉を開けて置いて欲しいと言っていたのはソラを部屋の中に入れる為だったんじゃないのかと変な勘繰りをしてしまうけど私はあまり考えないようにしていた。
「悪い、本当はあんまり強引な形で部屋に入るつもりはなかったんだけど……三玖と話がしたかったからな」
正直今すぐにでもこの部屋から抜け出したかった。
今ソラにどんな顔をして会えばいいのか分からなかったから。気持ちの整理がついていない状態でソラと会うことが怖かったからだ。でもソラに帰ってと言っても帰ってくれるわけがない。そんなことはよく分かっていた。ソラの表情を一瞬見て分かったが、意地でも帰らないという表情をしていたから。
二乃には勇気を貰えたけど結局やっぱり私にはどうすることもできない。
だけど私だってやれることはしたい。
「三玖、おいどうした?」
「明日の自由選択。私はEコースを選ぶ……だからソラも選んでくれる?」
私は逃げようとせず、言いたいことを言えた。
呼吸一つ乱さず言うことが出来た。きっと二乃から貰えた勇気のおかげだと私は認識していた。ありがとう二乃、私は心の中でお礼を言いながらソラの言葉を無言で待っているとソラは無言で頷いてくれた。
次の日……。
「珍しいな三玖、こういうのはてっきり一花が選ぶと思っていたぞ」
私がソラと一緒に見たいと言ったのは映画村コースだった。
ソラが言うようにこういう場所は一花が選びそうな場所だと思う。だけど私もこういうのに興味がない訳ではない。戦国時代や江戸時代を舞台とした映画ではこういう舞台を使われることが多いから。そういうのもあって興味自体はあるのだ。
江戸時代、前まで戦国時代のおまけ程度に思っていたけどこうして興味が出てくるようになったのはソラのおかげだと思う。
「でもやっぱり……ソラと話すのは難しい……」
一日ぶりに昨日ソラの声を聴いたこともあってか、正直ソラと話すこと自体そわそわしていた。彼のことが好きだからというのもあるけど、一昨日のこともあって何を話せばいいのか分からないというのが正直。
きっと彼が私のことを好きだと認識しているからだろう。
今にも逃げ出そうとしているときであった。
近くの方から女性の元気で明るい声が聞こえていた。
「戦国武将の着付け体験だってよ……三玖興味あるだろ?」
「え?……まあ、あるけど」
このコースにそう言ったものがあるなんて初めて聞いた気はするけど、行ってみようと思い二人で着付け体験をすることになった。でもさっきの声何処かで聞いたことがあるような気がしたけど気のせいだろうか。とても身近で感じたことがあるような……。
「変……じゃないかな」
鏡で映し出されている自分の姿を見て何処かおかしなところはないか探していた。
自分にしてはちょっと背伸びし過ぎじゃないのかな?とかそういうふうに自分のことを低く見てしまうような言葉ばかり考えてしまっていた。
「駄目だよね……こういうことばっかり考えちゃ」
折角くれた二乃のチャンスを踏みにじるような真似だけは絶対にしちゃ駄目だ。
私は自分の決意を無駄にしないように頬を両手で叩き、お店の外に出ると着付けが終わっているソラの姿があった。
「似合ってるぞ三玖」
「ほ、本当……?へ、変じゃない……?」
「当たり前だろ、ちゃんと似合ってるよ」
出てきてすぐに言われた言葉が私を褒めてくれる言葉だった為、私は嬉しくなってしまっていた。きっと自分でもすぐに気づいてしまうぐらいだったかもしれない。
「少し歩くか?」
「うん……折角だし歩いてみたい」
これを折角着れたんだ。
どうせなら私はこの恰好でソラと一緒に歩いてみたい。ソラもその気で私の隣に立ってそういう恰好をしてくれたのだから。
それからは一昨日のことなんて忘れてしまいそうになるぐらい楽しくなっていた。鎧を着た男性と一緒に写真を撮って貰ったり、お団子を一緒に食べたり一緒に歩くだけ凄く楽しかった。
なによりも嬉しかったのは……。
手を繋いでくれていることだった。
私が歩きづらい下駄を履いてくれているからなのか気を遣ってくれたのかは分からない。だけど、それが本当に私にとって嬉しかった。一昨日の私はもうどうしようもできない。これ以上は何も出来ない状態だと思っていた。
だけど二乃から勇気を貰って、こうしてソラと話して分かったことがある。
私は逃げずに今こうして立ち向かえていることを嬉しく思っている。じゃなきゃこんな体験を出来なかっただろう。こんなにも自分が幸せだと認識出来なかっただろう。
「ソラ、あれ撮って!!」
私が珍しく大きな声を出していたのは川の方から謎の生物が出て来てていたからだ。
昔、あんな生物が出現したって騒がれたような気がするけど今はそんなことどうでもいいかと考えていると後ろから誰かが私達のことを押して来ていたような気がしていた。それが誰なのかは気づくことが出来なかったけど忽ち私達は川の中へと放りだされてしまう。
「ソラちゃんと後ろ観ててよ」
「わ、悪い……でも誰かに押された気がしていたんだけどな」
「係の人には俺から謝っておくから」
「う、うん……ごめん、ありがとう」
此処に辿り着くまで色々と言い合いをしていた。
と言うより川に突き落とされたような感覚があったのにお互いがお互いに「注意してよ」ということを言い合いしていたのであった。それはもちろん、喧嘩とかではなく笑顔でお互いに言い合っていたのだ。
気づいたときには普通に話せるようになっていたのだ。
最初こそソラは遠慮しているようなところがあったけど、気づけばあまり遠慮しているようなところはなくなっていた。それにしてもどうしようか、下着までずぶ濡れだしこのまま出るとソラの前で羞恥心を晒すことになる。
「……?これお店の人からかな……」
気前のいいお店の人に心の中で「ありがとうございます」とお礼を言いながらも袋を開けるとそこに入っていたのは思いもよらない下着であった。思わず私は固まってしまうが覚悟を決めるのであった。
「は、恥ずかしい……」
さっきお店の人にお礼を言ったけど、何のことだろうかと顔をされてしまった。
ならこの下着はいったい誰が……?と考えていたがそんなことを悠長に考えている暇はない。今まさに私はソラに羞恥心を晒す事になっているのだから。いや、具体的に言えばソラには気づかれてないんだけど。
「ソラ、ちょっ……ちょっと休憩しよ?」
スカートが吹き荒れる風で捲れそうになってしまうのを見て私は座る決断をした。これ以上こんな下着を履いた状態で歩くことなんてできない。
「三玖、そういやどうしてこのコースを選んだんだ?お前はどっちかと言うとDコースだと思っていたんだが……」
「うん、私も最初はそうしようかなと思っていたんだ。でも一花が好きなお芝居というものがどういうものなのか興味があったのもそうだし……ソラのおかげで戦国時代以外にも興味が出たから一度見てみたかったんだ」
「好きになれたのは三玖のおがけだろ」
やっぱりソラならそういうことを言ってくるよね。
ソラは謙遜しやすい性格だからそういうとは思っていた。だけど本当にソラのおかげ。
「ううん、そんなことないよ。こうしてこういう時代が何があってとか、どんな時代だったとか知りたくなれるようになったのはソラのおかげ……。なんでもそうだよ、料理が好きになれたのだって私達の家でソラが手料理を見せてくれた。そのおかげ」
もしあの出来事がなければきっと私は料理に興味なんて持てなかっただろう。きっとこれからも二乃にご飯を作ってもらうだけの人生なっていただろう。
なにより、今は手元にないけれどあのパンだって……。作る機会はなかっ……。
「え?なんで私のパンがこんなところに……」
「それ三玖が作ったのか?」
私は無言のままで頷いていた。
このパンは初日で無くしていたはずなのにどうして此処に……。
「天ぷら……」
それ以上に驚いたのはもう一つの袋に入っているもの。
私はこの日のために美味しい天ぷらを作ってきていたのだ。何度も何度も失敗をした。ソラのお父さんに心配されたこともあったけど、自分の力で成し遂げたかったから手伝ってもらうのは断り、一生懸命作ったのだ。
「天ぷらとパン、一つ貰ってもいいか?」
どうして此処にこの二つがあるのかは分からなかった。
だけどソラに食べてもらう絶好の機会。その機会を逃すわけには行かなかった。私は不安ながらも再び頷くと、ソラは口の中にパンを入れて口の中で食べた後、てんぷらを口の中に入れていた。
きっと不味いのかもしれない。
努力を幾らしても私には足りないのかもしれない。実らないのかもしれない。それでもソラに食べて欲しかった。
「美味しいぞ」
祈るようにして答えを待っているとその答えは嬉しいものだった。心の底から喜びというものが湧き上がるような感じだった。私はその答えを待っていたんだ、と実感させられていた。
「頑張ったな、三玖……」
「うん、私頑張ったんだよ……。私ね、お料理の学校に行くんだ。それもあるから料理が得意なソラに美味しいって言ってもらえるようなものを絶対作りたかったんだ……」
「だから、ありがとう……」
二乃、ありがとう。
二乃がくれた一欠片の勇気。これを大事にしなかったら私はきっと後悔していたと思う。
なにより……私にもちゃんと褒めてもらえるような"凄い所"があったよ。