三玖……私のしたことは到底許されることじゃないのは分かっているつもり。こんなことで償いが出来るなんて思ってもいない。一花に協力を持ちかけたのだって私からだ。
その償いを今此処でさせて欲しいの……!!
「三玖……こんなことで許されるなんて思ってないわ。でも……!!」
私は三玖に出来る限りの償いをしてみせたい。
それが私の今の望みよ……。
「「戦国武将の着付けいかがですか!!」」
償う為に私はある場所を見つけた。
あれなら三玖の興味を惹ける。私にはあまり理解できなかったけど三玖はああいうのが好きなはずだ。あれなら、と思って大きな声を出すと近くから一花のような声を聞こえてきた気がしていた。
「あんたまさかまたあの子の邪魔を……!」
まさか此処で一花と鉢合わせするとは思わなかった。
罪滅ぼしの為に来ていた私であったが三玖達のことより一花のことが気になってしまっていた。それほどまでに一花がこの場に居ることに驚いていたのだ。
「それはこっちの台詞だよ、二乃こそどうして此処に……」
「私は……あの二人の為に償いをしようと……!!」
決して許されないことをしたのは分かっているつもりだった。
修学旅行前のあの日、私はあの子に勝負を持ちかけた。この修学旅行内でソラにどちらが好きなのかを決めてもらう。ただソラに告白されるのを指を咥えて待っているつもりはなかったからこそ私はあの選択をした。
『全部私が悪いわ』
優莉から恋は押してこそと学び、一花からは蹴落としてでも手に入れるということを学んだ。この二つはとても大事なことだったけと私はあることを見落としていた。
『一花、私家族旅行のとき確かに一花だけ我慢しないでって言ったよ』
四葉は混乱していたはず。
一花が好きなのはソラではなく風太郎なのにどうして三玖の邪魔をするのか分からなかったのだろう。
『それなのに……我慢しないでしたいことって本当にそれなの……?どうして……』
四葉の悲痛な声を聞いて私は思い出させられた。
昔四葉がお母さんから『大切なのは何処にいるかではなく、五人でいることです』と言われていたことを思い出した。私はあのときまだ子供だったからただ四葉が怒られているだけだと認識していたけどそれは違った。更に言えば、私は大人になるつれてその言葉を曲解している節もあったのかもしれない。
自分に言い聞かせる為にも……。
今なら分かる。
私達、全員に言われている言葉だったと今なら認識できる。
「私は結局はクズもいいところだったという訳ね……」
「え?」
「なんでもないわ、あんたは……あんたはどうして此処にいるのよ?」
一旦冷静になってみて考えてみると、一花は確かに此処に来る理由はある。
全部私のせいだったというのに、自分が悪いと思い込んで三玖への罪滅ぼしの為に此処に来たのだろうけど私はどうしても確認したかった。
此処に来た理由を……。
「私もせめて二人の為に償いをしようと思って此処に来た。信じられないとは思うけれど、最終日のこの日しかもう残されていない以上此処しか三玖に罪滅ぼしが出来る機会はもうない。此処を逃せばきっと私は自分がしたことの責任と後悔で押し潰されるに決まっているから」
一花の瞳や表情を見て確信したことがたった一つある。
ああ、そうね。あんたは強かったものね……。
『私とあんたが組めば、強力な武器になるわ』
家族旅行のあの日、私は一花に協力をもちかけた。
三玖がソラのことを好きだと分かっていた以上、この修学旅行が終わるまでには彼に猛アタックしないと先を越されてしまうかもしれないという心配があったからだ。ソラへした告白だって待つとは言ったけど、いつまでも待つとは言っていなかったからこそ私は早まった行動に出てしまった。
本当は私は自分勝手ね……。
茂みの奥の方を一瞬見ると、気配のようなものを感じ取る。あの子達も来ていたのね……。そうよね、一花が此処にいるということはあの子達だって此処に来ていてもおかしくはないわよね。
「あんた達も……来たのね」
茂みの中から出てきたのは四葉達。隣にいる五月は渇いた笑みを浮かべながらも茂みの奥から出て来ていた。
「全く……結局誰もルールを守らなかったわね……」
私は溜め息を吐きながらも二人のことを見る。
分かっていたつもりだった、結局私達姉妹は此処まで来てあの二人の結末を見届けない訳がないと……。私が二人のことを見ていると五月が私たちの方へと来てソラ達の様子を見ていた。
「あっ、三玖達が移動するみたいですよ!!」
周りに人は居ないけど誰かに声を聞かれない程度の大きさで五月が三玖達を指を指していた。向けられた方向を見ると、三玖は脇城から何か声を掛けられている様子だったが悩んでいるようにも見えている。
大体内容は分かっていた。きっと三玖は自分にこういうものが自分が似合わないから「大丈夫」と遠慮しようとしているに違いないわ。言ったわよね、三玖……。私が凄いならあんたも凄い。ああいうのが似合わない訳がない。
「最初は地味だとか思ってたはずなのに……ね」
着付け体験の中へと入って行く二人の姿を見ながら、ソラの和服姿を想像していた。
最初の頃の私は節穴だとしか言いようがなかった。五つ子の中で偶々料理が出来るのが私だけだったとはいえ料理が出来るソラに親近感が湧き、私は彼のことを知ろうとした。単純過ぎるかもしれないこのきっかけは次第に大きなものへと変貌していったのだから。
なにより私は……あいつの誰かのために真剣になれるところが……。
「それにしても三玖達二人だけで良かったわね」
「そうですね、他の方々が居たら少々二人の空間の場違いになっていたかもしれません」
場違い、ね……。
ただ後ろから観察しているとはいえ私達も二人の空間の邪魔をしているのかもしれないわ。モヤっとした感情を抱きながらも二人の様子を観察していた。
「三玖……」
「ちょ、ちょっと二乃……!!」
モヤモヤとした感情が完全に晴れてないのは分かっていた、二人だけの空間を邪魔するべきではないのも分かっていたけれども……。私は今だけは二人の永遠を願いたいと思ったからこそ私は茂みの中から飛び出した。
「ソラ、あれ撮って!!」
三玖達が居る、近くまで来ていた。
今だけは二人の永遠を願いたいからこそ私がすべきことは決まっている。
「三玖……ソラ……ごめんなさい。だけど……私は譲った気はないから……」
ソラのことを後ろから抱きついた。
バイクで彼のことを後ろから抱擁としたあの日、もう一度だけでいいから私は彼の温もりを感じてみたいと重症なことを考えているときもあった。その願いはこんな形で叶ってしまったのはあまり嬉しくないけど私にとって……大事なことであるのは間違いなかった。
少し強めに更に抱きつき彼に寄りかかろうとすると……次の瞬間、何かが池に落ちたような音が聞こえて来た。
「えっ……あっ……」
……まずいわ、あまりにも力を込めて寄りかかったせいで二人が池に落ちてしまった。
予定で考えてもいない事態が起きてしまったけど……。私が此処にいたと気づかれるのはまずいわね。
悪かったわね……三玖、ソラ……。
私は謝罪をしながら二人に気づかれないようにその場を立ち去って行く……。でもこれも思い出になるのよね、きっと……。
「ごめん私のせいで予定が大きく変わったわ」
「いいよ全然、過程はどうであれ。良い方向に向かっているみたい」
「良い方向に……?」
二人だけの楽しい空間を作ってあげるはずだったのに少し悲しい思いをさせてしまったのかもしれない、そう思って頭を冷やしに行っていた私は一花に合流をする。良い方向、そう。私がさっき思っていたように思い出になったのね。
それも良い方向に……。
「あんた、その手に持っているのは……そういうことね」
手に持っている子包二つに視線を一瞬向けるが、何が入っているのかはすぐに理解できた。
「四葉、これを三玖に渡せばいいんだね」
四葉が「どうしよう」と騒いでいるのを聞いて一花は「大丈夫」と言いながらも足音を立てずにそっと三玖の横に小包二つを置いて私達の方へ戻ってくる。あのパン、三玖が作ったものみたいだけど大丈夫……なのよね?
いや……。
『二乃、頼みがあるの……。私に思わず食べたくなるようなチョコレートの作り方を教えてください。お願いします』
私は信じてるわ。
あんたならきっとソラのことを黙らせるほどの美味しいものを作っているはずよ。あんたの努力は私も知っているもの……。あんたは私にあ弾を下げてまでチョコレート作りを教えて欲しいと言ってきた。
結果はあのソラに美味しかったと言わせるほどのものであったのだから。
「あのパンって三玖が作ったんでしょ?」
「そうだね、修学旅行初日に脇城さんの為に私や五月もずっと味見役をやってて……あんなことがなければ……ってごめん!一花を責めてるんじゃないんだよ……?」
五月が「あれは暫く食欲が無くなりそうでした」と言っているのを聞いて、あの五月の食欲すらも擦り減らしてしまうようなものを作っていたのを考えると少し不安になってきていた。
「美味しいぞ、頑張ったな三玖……」
……良かったわね、三玖。
◆◆◆◆◆◆
私がこの場にいるのは三玖や四葉の償いの為にもある。
この選択コースに他の姉妹が来ていたのは予想外だったけど姉妹として協力し合いながらもこうやって姉妹を助け合う。これも一つの形なのかもしれない。
三玖、私のしたことは決して許されることじゃないと思う。
二乃は自分が全部悪いと言っていたけど、私はそう思ってない。今回の件は私が独断でやってソラ君や三玖のことを困らせた。
これは紛れもない事実……。
だからこそ私は私の罪滅ぼしをしたかった。
「とにかくごめん……私が全員に幸せになって欲しくていつも引っ込み思案になってる子を応援したかったんだと思う。こうなるって少し考えれば分かるはずなのに……」
私謝られてばっかりだ……。
一番謝るべきなのは私の方なのに……。私はなにをしているんだろう、ちゃんと四葉達に謝らなくちゃいけないのに全部私のせいだって……。
……みんな、ごめんね。
特に四葉……。私は子供の頃から四葉に迷惑を掛けてガキ大将気取りをしていたんだと思う。家族旅行のとき私は自分が子供の頃どういう子供なのか思い出せなかったけどそんなことは言い訳にはならない。きっと私はあの頃も今までのように迷惑を掛けて来たんだと思う。
許して欲しいなんて思わないけれど私はあのときああ言われて嬉しかった。
『一花とは本気で戦わせてもらうよ』
◆◆◆◆◆◆
ありがとう、この気持ちを伝える為にどれだけの熱を込めて来ただろうか。
きっと今まで以上の想いが此処には詰められている。私は今までソラに色んなものを貰った。勉強の大切さとか自分の好きなものを誇れるようになることとか、友情とか……。
きっと私はソラに出会わなければこういった感情に出会うこともなかっただろう。
私はソラに感謝しても感謝しきれないものを貰ってきたのだと考えると、これからどうやって返して行こうかなと思ってしまうけれど……。
きっとこれから言うことにソラに否定されるかもしれない。
もう自分に自信がない、姉妹の方が凄いとかも思わない。ただ二乃に勝てる要素があるのかは私には分からない。それでも私は勝てる確率が少しでもあるのならこの勝負……最後まで全力で挑みたい。
──だから私は。
「好きだよ……」
今此処で全ての感情をぶつける。
これが私の最後の……全力なのだから。
「ソラ……」
貰ったものを返して行くのは無理なのかもしれない。
でも友情を愛に変えることぐらい此処でならいいよね、と私は思っていた。親友としてではなく一人の女性として片思いかもしれない男の子に告白をしたかった。
「ありがとう三玖……俺は今までお前の気持ちに気づいてやれることが出来なかった。いや……きっと気づいていたのかもしれない。気づいていたけど先延ばししていたのかもしれないな……。俺は三玖と一緒にいる間に友情以上のものを感じ取っていたとは思う。俺がこうして心を開けるようになったのもきっと三玖のおかげでもある。だから本当にありがとう……」
「でも……」
「俺は二乃のことが好きだ……」
分かっていた。
分かっているつもりだった。きっとソラにとって私より二乃の方が好きだと言うことを……。分かっていても辛かった。辛いのは私だけじゃないのは分かっている。きっと私のことを振ろうとしているソラだって辛いに決まっているのは分かっている。今までの関係があったからこそ辛いのもの分かっている。
けれども現実を見せられて私は打ちのめされそうになっていた。
「ごめんで済まされないのは分かってる。俺のことを恨んでくれたって構わない、三玖の好きという気持ちを踏みにじらせたのは俺だから」
「……違うの」
私は今必死に自分の中から出そうになっている色々な感情を押し殺して自分が言おうとしている言葉を発しようとしていた。
「私は後悔なんてしてない……よ。最後は自分の力でソラに告白出来たから……!」
どれだけ現実に打ちのめされそうになろうとも告白は私の力ですることが出来た。
さっきまで不可思議なことがたくさん起きていてきっと姉妹の皆が手助けてしてくれたんだと思う。過程こそみんなの力は借りたけど最後は自分の力でなんとか告白することが出来た。
私はもう悔いはない。
「三玖……お前……」
ソラはきっと私に対して物凄く罪悪感を感じていると思う。
私としてはもう出来るだけのことをしたつもり。さっきも言ったけど悔いはないけどソラからしたら今まで好きでいてくれた子の気持ちを裏切らせてしまったという気持ちが強かったのだろう。
さっきの言葉で少しでも和らいでくれるといいな……。
私はソラのこれからを祈りながらも見つめていると……私たちの前を誰かが通過する。頭巾をしていて見えなかったけどあれは間違いなく……。
「二乃……!?」
ソラも二乃だと気づいたのか、頭巾をかぶった二乃の方を見ていたが私の方も気になるのかどうするか迷っている様子だった。
「ソラ……私が言いたいこと分かるよね?」
「……行けって言いたいのか?」
「うん、今までのソラだったらどれだけ心の傷を負っていても迷わず助けに行ったはず」
「私の知っている脇城空なら……そうしたはずだから」
これまで心の闇を抱えながらもソラは今まで私や五つ子に立ち向かっていった。私達は決して優秀な生徒じゃなかったかもしれない。時には苛立たせることもあったと思う。それでもソラやフータローはめげずに私達に勉強を……大切なものを教えてくれたのだから。
こんな感情にさせてくれたのは二人が今まで頑張ってくれた証明になっているに違いない。出会わなければきっとこんなにも大切なもので溢れなかっただろう。
だからソラ……!
「行って来て、ソラ……!!」
「ああ……!!」