「これ……渡しておいてくれ」
京都からの修学旅行から地元に戻ってきた彼は数日が経ってある女性と会っていた。その女性にはあるものを渡すために会いに来ていたのだ。それは前田に修学旅行の前から彼に頼んでいたことだったが、始まってからずっと彼は頭を抱えることになっていたがなんとかこの修学旅行を切り抜けることが出来て彼は内心ホッとしていたのだ。
「これは?」
「アルバムだ、あいつらのな」
「ありがとう、でもどうして急に?」
「誕生日のお返しだ」
女性は上杉からアルバムを受け取ると一ページずつ開き始める。
そこには修学旅行の間に姉妹が写っている写真が収められている。そこには京都での思い出が一つずつ一つずつ示されていたのだ。
「俺金ないからな、五人分も用意できないんだ。武田や前田にも協力してもらって作ってもらったんだ、お前たちの五人の思い出の記録だ」
写真一枚一枚に全ての思い出というものが思い浮かんでいた。
写真一枚に色彩というものが描かれているようにも彼女には見えていたのだ。
「色々あって、五人全員で撮ったときはなかったね。ありがとう、皆に渡しておくね」
この京都の修学旅行……。
色々なことがあってこの修学旅行での間に五人全員揃っての写真を撮れる機会が全くといって機会がなく、見に覚えがない色彩が彼女が自分にとっても少し笑みを浮かべてしまうほどだった。
「この修学旅行……正直警戒するべきはお前だと思っていたんだがな……」
「私なりにやってみてはみたんだけどね……伝わる訳がないよね」
彼女にとって自分なりの方法で試してみたのはいいものの結局空回りで終わってしまったのはいつものことかもしれないと自虐的になりつつも話を続けていた。
「零奈、お前には感謝している」
「私に……?」
「ああ、あの日お前に出会わなければ俺はずっと一人だったかもしれない。お前のおかげで今の俺があるんだ」
あの日の修学旅行、彼女に出会うことがなければ上杉が永久に変わることはなかったかもしれない。自分という人間に変化という彩りを付けることが出来なかったかもしれない。
「六年ぶりの京都、あっという間に終わっちまったが……将来絶対に良い思い出になるからな……それにしても思い出か……」
六年後の修学旅行、この修学旅行もあっという間に終わってしまったものであったが上杉にとっては六年前と同様に記憶に残るものとなったのは間違いなかったのだ。記憶という記録に残せるアルバムというものに残して正解だった、上杉は少し頷いていた。
「ありがとうな……本当に……お前には感謝しても仕切れない」
言葉を聞いていた彼女は……言葉では言い表せないほどの嬉しさが出ていたのを上杉が知ることはなかったが背中からは感じがしていたような気がしていたのは彼女に伝わることがなかったのだ。
「本当に……ずるいなぁ……上杉さんは……」
「あの頃と……一緒だ」
京都でのあのときの思い出はたった一枚の写真のみに残されていたけど私にとってその記録は映像のように蘇ることが出来ていた。
『私はお母さんのために!風太郎君は妹さんのために!一生懸命勉強しよう!!』
あの日彼の前で誓い合ったあの言葉は今も私の記憶の中に残っている。もしかしたら上杉さんは覚えてないかもしれない、寂しく感じていたときもあったけど上杉さんがちゃんと覚えてくれていたことが本当に嬉しかったんだ。
「でも……やっぱり私なんかが上杉さんに相応しくないよね……」
私はお母さんが言ったことを勘違いして姉妹達と袂を別れ迷惑をかけてしまったという事実は変わらない。そのせいで三玖に迷惑をかけたことも変わらない。
「私は最低な人間……だもんね……」
どれだけ過去から逃げようとして過去から逃げることなんて出来ないよね。そうだよね、やっぱり私なんかに上杉さんは……。
「相応しくな「ないなんてことないんじゃない?」」
「え……?」
夜の公園……。
この公園でよく夜を過ごしていることがあったから私は知っている。こんな時間帯のこの公園に人なんているはずがない。きっと気のせい、私の幻聴と自分の耳を疑って首を振ってブランコから降りようとした、そのときだった。
「わぁっ!!」
「うふぇっ!?」
ブランコに乗っていたはずの私は突如背中の方から誰かに大声を出されたような気がして私は思わずブランコから下りてすぐに辺りを見渡すとそこには見覚えのある人が立っていた。
「確か……脇城さんのお姉さん?」
「あっ覚えていてくれたんだ。ありがとうね」
私に声を掛けてくれていたのは脇城さんのお姉さん、脇城楓さんだった。
脇城さんのお姉さんがどうしてこんなところにいるんだろうという疑問を抱きながらも楓さんは私が座っていた隣のブランコに座っていた。
「もしかして……私の独り言聞いてましたか……?」
「ごめんね、ちょこっとだけ聞いちゃった」
「そ、そうだったんですね……」
誰かに自分の独り言を聞いてもらうなんて少し恥ずかしいことだった。
あんなことを誰かに聞かれるなんて恥ずかしくて……。
「あの……さっき言ってましたよね?相応しくなくないなんてことないって……。あれってどういう意味なんですか?」
「ん?そのままの意味だよ?昔のことを引き摺って反省しているのはいいことかもしれないけど、それだけの理由で誰かに相応しくないなんて考えるのは違うと思う。四葉ちゃんに少しでも誰かに相応しいという気持ちがあるならその気持ちを尊重しても私はいいと思うんだよ」
「で、でも……」
それでも私にとって今更上杉さんに私が好きだというのはダメだ。
私は上杉さんの前で決意をした私のような人間にはなれなかった。そんな私が上杉さんに好きだ、と伝えて六年前に会ったのは私なんだよと伝えて納得してくれるかなんて分からない。
「四葉ちゃんはさ……そういう気持ちがあるのに伝えなかったら後悔しないなんてはっきりと言える?」
「え……?」
「あのときこう言っておけば良かったなんて言って後悔するときが来たらきっと辛いだけだよ」
「辛いだけ……?」
楓さんはブランコを揺らしながら真剣な表情で私の方を見る。
きっと楓さんには何かを伝えられなくて後悔したことあるんだろう、だからそんな表情をしているんだと私は自分で納得していた。
「昔ね、空が私に劣等感を抱いてて気づいて上げられてなくて謝れなかったときがあったんだ。私はあのときちゃんと気づいてあげて謝ってあげればよかったといつも後悔しているんだ。そうしていればきっと空が苦しむことはなかったって……。だからね四葉ちゃんはもっと自分を大切にして欲しい」
「許せないっていう気持ちは大事だと思う。その気持ちがあって今反省出来ているのなら尚更さ。でもね、その気持ちに蝕まれてばかりいると自分という人間が億劫になってしまうかもしれない。だからね四葉ちゃんはもうちょっと自分に正直生きてもいいと思うんだ。好きな人がいるなら好きでいいと全然私はいいと思うよ」
「自分に正直に生きてもいい……」
考えたこともなかった。
私はいつも周りのことばかりできっと要らないお節介だと思われていたときもあったのかもしれない。修学旅行だってそうだ、私が余計なお節介を焼いたからきっとああなってしまったんだ。上杉さんも言っていたっけ、人に気を遣い過ぎだって……。それでも私があの姉妹や色んな人達に気を遣っているのはきっとかつての私への償いのためなのかもしれない。そう思うと、少しばかり情けなくなってしまうけど私は誰かを幸せに出来るならこれを続けていきたい。
そう願う気持ちもあったけど……私は上杉さんや一花……そして楓さんからの話を聞いて少しばかりの欲を出してしまってもいいのかもしれない。一花、私言ったよね。あのとき……。
『一花とは本気で戦わせてもらうよ』
私は楓さんの言葉を聞いてようやく自分に正直になれそうな気がしてきた。
私だって上杉さんに対して後悔なんてしたくない。上杉さんに本当の気持ちで話してみたい。そのために今日は五月に頼むことなく自分の力で零奈になったのだから。
「ありがとうございます楓さん」
「うん、それじゃあね四葉ちゃん……。上手く行くといいね」
「はい!!」
お母さん……私ね。
ようやく自分に素直になれそうな気がするの……。