五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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次女とのプール

「遅いわよ」

 

「悪いな……ちゃんと埋め合わせはするから」

 

 プールの前で待ち合わせになっていた俺は少し遅れてやってきていた。

 待ち合わせ時間に遅れてきてしまった為、少し申し訳ない気持ちになっていた。二乃のことを出来れば不機嫌にしたくない俺としては急ぐようにして此処まで辿り着いていた。

 

「まあ……それならいいけど……行くわよ」

 

 埋め合わせをすると言ったら二乃は機嫌を直してくれたようで歩き始めていた。

 俺は二乃の隣に立ちながらも歩き始めていた。俺たちは受付をする為に並んでいたが今は夏休みということもあって学生や家族連れと言った人たちが多かった。俺達もその一組っていう訳だが……。

 

「入場料金、俺が払っておくよ」

 

「悪いわね」

 

「まあ、遅れたんだからこれぐらいはな……」

 

 周囲の子供達が今か今かとプールに入りたいと言っている声を聞きながらも俺は入場料金の支払いを済ませて受付を通過すると、そこからはあまり混雑していなかった。どうやら受付で少し時間が掛かっているようだった。俺と二乃は一旦分かれて、それぞれの更衣室へと向かった。

 

 俺は更衣室の中へと入り、自分の服を脱ぎながらもあることを考えていた。

 とはいえ、これは少しばかり煩悩に呑まれていると言われても仕方ないような内容ではあるが、と言うのも俺はこれから先プールから出て目撃することになるのは二乃の水着だ。あいつ、肌はちゃんとケアしてるしスタイルはいいし……出るところは出てるし地味と言われたのを今でも気にしている訳じゃないけど、不釣り合いに見えるんじゃないのかと思えてしょうがない。俺も前は陸上をやっていたから肉体にはそれなりに自信はあるんだけどな……。なんかキモいな、これ以上考えるのやめよう。

 

 着替え終えた俺は更衣室から出てプールへ出ると、広大なプールの光景と、夏の賑わいを感じさせることが出来ていた。周りを一望するだけでプールに来たということを理解できる。ビーチサンダルを履かずにはしゃぐようにして歩いている子供達、屋台で焼きそばやたこ焼きを買っている人達。滑り台で大きな声を出しながらも下りて来る人達……。そんな人達の光景が目に見えていると、二乃がやって来て俺にかなり近寄って来た。

 

「どう?」

 

 二乃は水着を見せびらかすようにして俺に近寄って来て、俺の中では接近注意報が発令されていたがそんなことはお構いなしに二乃は寄ってきている。二乃の水着は黒を基調としたものとなっていて、微かに紫の花が模様されている水着だった。

 

「ああ、二乃らしくていいと思うし似合ってるぞ」

 

「ま、まあ……!私ぐらいになればどんな水着も着こなせるわよ」

 

 二乃が顔を赤くして恥ずかしくなっていると、俺も同時に少し恥ずかしくなっていた。

 

「ねぇソラ……!日焼け止め塗ってくれるわよね!?」

 

 

 

 

 

 

 

「は……!?な、なんで俺が……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「は!?ってなによ、まさかだと思うけど塗らないなんて言わないわよね?まあ、アンタも時々ヘタレになるときあるし、仕方な「貸せ」」

 

 二乃から日焼け止めを奪い取って俺は日焼け止めのキャップを開ける。白いクリームを自分の手に出しながらもぎこなく言った。

 

「……じゃあ、塗ってやるから背中向けよ」

 

「へ、へぇ……や、やればできるじゃない」

 

 二乃は肩をすくめながらくるちと背を向ける。その仕草が俺を妙にざわつかせる。

 自分が煽りに負けたということを頭で実感しながらも、男としては「ヘタレ」なんて言われたら逃げたみたいになるから俺は「負けたくなかった」のだ。自分がある意味敗北していることを痛感しながらも、俺は手のひらのクリームを塗る準備を進める俺の表情には、わずかなら悔しさと照れくささが混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……まさか本当に塗らされることになるなんてな……」

 

 逃げた扱いされるのが絶対に嫌だった俺は二乃の体には日焼け止めを塗った。

 全身に塗るのは流石に気が引けたので、腕と足だけ塗ったが顔を真っ赤にさせながらも二乃に抗議の目を向けられていた。抗議の目を向けたいのはこっちだっていうの……。

 

「ほら、いつまでも怒ってないで行くぞ二乃……。元はと言えば喧嘩売って来たお前が悪いんだからな」

 

「う、うるさいわよ……!!」

 

 二乃は俺に文句を言いたそうにしながらも人目につかないところから出てくる。

 こんなことを人目につくところでやっていたら他の客の視線が集中砲火させられることになる。それだけは絶対に避けたかった。

 

「でどうする?最初は滑り台でも行くか?」

 

「そうね、最初に一番の楽しみを味わうのも悪くなさそうだわ」

 

 二乃の許しも頂いたところで俺たちは滑り台の方へと向かっていた。

 幸いまだプールが開いてすぐだった為、激混みという訳ではなくそれなりに混んでいるような状態だった。これなら早いところ乗ることが出来るはずだ。

 

 

 

 

「俺達こうして付き合うようになってデートをするっていうのは二回目だな」

 

 流れる滑り台の順番待ちをしているとき、俺は二乃に話をしていた。

 

「そうね、引っ越しのこともあったからこうしてアンタとデートって言う形で出掛けるのは二回目ね」

 

 一回目は公園でゆっくりしながらピクニック……。

 二乃が豪勢なお弁当を作ってくれてそれを食べながらも公園の風勢を楽しむというのは夏の暑さらすら忘れてしまいそうで全く悪いものではなく、それどころ凄い良いものだった。こんなことを二乃に言ったら照れながらも「あ、当たり前でしょ!?」と言ってきそうだが……。こういうのはちゃんと伝えた方がいいことだ。

 

「あのときの弁当は本当に美味かった……また食べたいって感じるほどだった」

 

「……なら、また作ってあげるわよ」

 

「いいのか?」

 

 二乃が自分の髪を掻き上げながらも言う。

 その仕草は何処か照れ隠しが含まれているような気がしていた。

 

「ええ、いいわよ……。アンタもあのお弁当を気に入ってくれたようだし、流石にあれぐらいのを作るとなると大変だけど……アンタの分のお弁当ぐらい作ってあげるわよ。だから、学食なんて行かなくて私のを食べなさいよ……」

 

「ありがとうな……でも二乃ばっかりに負担は掛けたくないから俺も作るよ。だから当番制にしないか?そっちの方が負担かからないだろ?」

 

「まあ、それならいいわよ……」

 

 二乃は恐らくあの言い方的に毎日お弁当を作ってくれると言った感じだったんだろう。

 それは流石に悪いし、当番制にしようと俺は提案した。二乃は俺の手料理が食べられるということもあって、悪い提案ではないと思ったのか了承してくれていた。それにしても、お互いの手料理の弁当を一緒に食べたりしていたら本当に今度こそ「付き合ってるんだ!?」と言われそうだな、もう今更だから気にする必要もないだろうが……。

 

「滑り台、俺が前に座……やっぱ俺が後ろでいいか?」

 

 前のカップルの状況を見てこれは俺が前に座ったりするのはとても危険行為だと把握していた。

 あまりこういうことは変態みたいで言いたくないが、俺が前に座ったりしたらどうみても二乃のある部分に当たってしまう。そうなったら、色々と終わる。男としての尊厳を木端微塵にされてしまうことが確定する。だったら、俺は後ろに座った方がいいに決まっている。

 

「前に座るわよね?」

 

「……いや」

 

「不満があれば治していきたいって言ったのはアンタの方よ?」

 

「……分かったよ」

 

 突然、過去の自分の発言に背中から刺された俺はまたしても逃げることが出来なくなり、自分の呼吸を落ち着かせながらも「大丈夫、大丈夫だ」と言い聞かせていた。流れ滑り台だ、すぐに終わるに決まっていると俺は言い聞かせて前に座ると、恐れていた事態はやはり起きてしまっていた。思わず、目を瞑りたくなってしまっていたが此処で目を瞑ったりしたら余計、二乃に煽られそうだと思った俺は天命に身を任せることにしていると、俺達は勢いよく水流に呑まれて、滑り出されていた。水飛沫を感じるなか、俺の手を二乃が一瞬触れたような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

「色々と終わった気がする……」

 

「なにこの世に絶望したような顔してるのよ?ほら、今度はプールの方行くわよ」

 

 あの後だって言うのにどうしてこうも二乃は意識せずにいられるんだろうか。

 いや、きっとあの滑り台に乗っている間に必死に堪えていたんだろうな。二乃的に絶対にそうだろうしな……。

 

「だな……」

 

 滑り台を勢いよく滑り終え、水飛沫の中で俺と二乃はお互いに笑い合う。勢いに押されて流れるプールのエリアにやってきた俺達。プールサイドでは親たちが子供たちを見守っているのを見かけていると、一人の親が周りをオロオロとしながらも眺めていた。

 

「どうかしましたか?」

 

「息子が見当たらないんです。さっきまで一緒にいたはずなんですが……」

 

 父親から話を聞くと、どうやら子供と一緒にこのプールを泳いでたはずが、いつの間にか子供を見失ってしまったらしい。彼は必死に子供のことを探していたが見つからず、困っているようだった。

 

「分かりました、俺も探します」

 

「いいんですか!?ほ、本当にありがとうございます!!」

 

 父親は俺に頭を下げて自分の子供を最後に何処で見たのかを教えてくれた。

 駆け寄って来た二乃にも俺から事情を説明すると二乃が溜め息をつきながらも「仕方ないわね、分かったわよ」と言っていた。

 

 

 

 

 俺達は子供を探していた。

 小学四年生ぐらいの子で身長はそれぐらいの歳の子なら平均的な身長だということも聞いていた。髪色も特徴といったものは特に黒とも語っていた。そんな子供を此処で探すのは至難の業かもしれないが、それでも俺は諦めなかった。それに誰かが困っているというのに放置するのはあまりにも良くないことだ。俺があの父親を助ける理由を頭の中で言い聞かせていると、人気が全くない50mプールの方で子供が「助けて!!」と言う声が微かに聞こえて来て、俺はその聴覚を頼りにその方向へ行くと、たった一人の子供がそこで溺れていたのだ。

 

「待ってろ、今行く!!」

 

 俺は50mプールの中へと飛び込む。

 正直子供が入るようなプールじゃ全くない。水深が深すぎて小学生の子供がこんなプールに入ったらそりゃあ溺れるに決まっている。子供は丁度真ん中辺りにいて俺は泳ぎながらも子供の方へと向かっていた。

 

「手を掴め……!!」

 

 藻掻いている子供の手をしっかりと掴む。

 子供は恐怖のあまり泣きそうになりながらも、必死に俺にしがみついていた。そのしがみつく力の強さに俺の体が沈みかけそうになるが、なんとか浮力を保ちながらも子供をしっかりと引っ張っていたが、問題が発生する。

 

 50mプ―ルの真ん中という位置は思った以上にプールサイドまで遠く、しかも子供の体重が水中で想像以上に負担となっている。腕や脚が疲労で悲鳴を上げながらも重くなり始めていたが、諦めたくなかった俺は体を一生懸命に動かしていた。此処で諦めたりしたら、子供まで溺れ死んでしまう。そんなことになったら、あの父親は自分の子供を失ってしまうことになってしまう。そうなったら、あまりにもあんまりだ。俺は自分を奮い立たせながらも、水をかいていた。

 

 

「届いた……!!」

 

 ようやくプールサイドが手の届く範囲になった俺は、手をプールサイドへと掴もうとしたが届くことがなくプールの水に手が当たりそうになったときだった。何人かの手が俺の手を掴んで俺と子供のことを引き上げてくれたのだ。

 

「ありがとう、本当にありがとう!!」

 

 先ほどの父親も含めて俺のことを引き上げくれた大人達が感謝の声を上げるなか、俺は息を荒くしながらも子供にこう言う。

 

「あそこでよく声を出せたな、偉かったぞ」

 

「う、うん……!!お兄ちゃん本当にありがとう!!」

 

 意識を朦朧としていくなか、俺はそのまま倒れてしまう。

 子供やその周りの大人達が俺の名前を呼ぶ声が何度も聞こえていたが、俺にはっきりとした声が耳に入っていなかった……。でも、良かった。子供が本当に無事で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソラ……!ソラ……!!」

 

 誰かの声が聞こえる。

 その声が聞き覚えのある声なのは間違いないんだが俺には分からない。でも、気が強そうだけど凄く暖かくて聞いていて安心する声だ。僅かに開きそうになっている瞳が誰かの綺麗なピンク色の髪を捉える。俺はどうしたんだろう、確か子供を助けて……。それでそのあと誰かが俺のことを引っ張ってくれて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?子供は!!?」

 

 俺は勢いよく立ち上がる。

 周りを見ると、医務室ような場所に運ばれていたようだった。周りを見ていると、医務室のスタッフさんがこちらの様子に気づいて「起きたようですね」と声を掛けてくれていた。俺はそれに対して「すいません、ご迷惑をおかけして……」と返していた。

 

「二乃、あの子供は……?」

 

「あの子なら無事よ。アンタが一生懸命助けてくれたって本当にありがとうって言ってたわよ。親御さんの方も何度もお礼を言ってたわよ。アンタがいなかったらどうなってたかって……」

 

「そうか、それなら良かった」

 

 俺は力のない笑顔を返しながらも一息つくようにして息を吐いていた。

 良かった、子供はちゃんと無事だったんだな……。

 

 

「全く、アンタは無茶し過ぎよ!!子供を助けるとはいえ、あんな深そうなプールに一人で飛び込んで……!!もし……もしアンタに何かあったら……!!」

 

「……ごめん、悪かった二乃」

 

 涙を流している二乃を見て、俺は自分の考えを改めようとしていた。

 今回、俺はあの子を助けることが出来た。それはあくまで結果論でしかないが、もしかしたら俺が死んでいた可能性もあったはずだ。時間がなくて周りに頼ることが出来なかったのも事実だけど、ちゃんと反省した方がいいだろうな……。心配してくれていて泣いてくれている二乃の様子を見ながらも俺はそう決意していると、二乃は涙を腕で拭きながらもこう言ってきていた。

 

 

 

 

「でも……今日のアンタ凄いカッコよかったわよ!!」

 

 カッコ良かったか……。

 地味だとか勉強だとか家庭教師について色々文句つけてきていたあいつがこんなふうなことを言ってくれるようになる日がやって来るなんて……本当に意外だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも悪い気分じゃないな全然、彼女が自分のことを褒めてくれるっていうのは……。

 

 

 

 

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