「……」
プールの帰り道、俺と二乃はお互いに沈黙が続いていた。
それもそのはずだ、子供を助けたいという一心だったとはいえ俺は無茶を犯してしまった。二乃は俺のことを許してくれているんだろうけど、あのときのこともあって今でも心配でしょうがないんだろう。また俺があんなふうなことをするんじゃないのか、と……。
俺は彼女にカッコ良かったと言われたとき、本当に嬉しかったけどそれは今思う感情ではなかったのかもしれない。あのとき思うべき気持ちは反省という気持ちだったんだろう。やらかしてしまった、と思っていたがあのときやった行動を俺の中では間違っていたと否定できず俺は二乃に話しかけることが出来なかった。
「二乃……今日のこと本当に悪かった……」
沈黙に耐えきれなかったのは俺の方だった。
薄暗い夜の中、風情を感じるものがあるのかもしれないが俺にとって今はその沈黙と夜の景色が二乃が寂しそうにしているのが伝わっていたんだ。
「ソラ……ソラは絶対に居なくなったりしないで……」
「二乃……?」
「お母さんが死んだとき、ずっと泣いた。これから先私達五つ子なんて面倒な存在誰も引き取ってくれないなんてことは分かりきってた。だから、私はあのとき私がしっかりしなくちゃいけないと思った。あの子達の誰よりも強くなってって……思ってた。それが偶々お父さんが拾ってくれたのは良かったけど、それでも今は不安でしょうがない。こんなことは未来のことだからアンタは鼻で笑うかも知れない……。それでも、聞いて欲しい」
「これから先何があっても……私より先に死んだりしないで……」
「一人にしないで」
ああ、そういうことだったのか……。
俺はどうして二乃が寂しそうにしているのかよく分かっていなかったがようやく分かった。それはもうすぐ母親の命日だからだ。前に五月から聞いたことがある、零奈さんの命日についてを……。父さんが最近、窓の方を見ながらも物静かになったりしていたのはそういうことだったんだ。
なによりも二乃にとって誰かの死……。いや、誰かが自分から離れるということが恐怖なんだ。それは俺だけじゃない、五つ子のことだってそうだが五つ子は何れは自分達の未来へ向かって進み始めるけど、そうなったとき二乃は俺しか残らなくなってしまう。そんな俺が今日のようにもし子供を助ける為に向こう見ずの行動を取ったりしてもし死んだりしてしまうのが二乃にとっては恐れている事態だったんだろう。
『もし……もしアンタに何かあったら……!!』
あのとき二乃の体は震えていた。
それは俺はあのとき、俺の目が全く開かなくて不安になっていただけだと感じていたがそれは全く違ったんだ。
「ったく……なにが二乃のことを幸せにしてやるだよ」
「ソラ……?」
これじゃあ、幸せにさせるどころか不安にさせてしまうだけだ。
俺は自分がやってしまった行動を間違っていたと言うつもりはない。それでも二乃のことを不安にさせてしまったことは間違いない。だったら、やり方を変えればいいだけだ。あの場合なら、誰か周りの大人を頼っていればよかっただけなんだ……。
「悪かった、二乃……。心配かけてごめんな、でも……」
「これ以上心配かけるようなことは絶対もうしねえから……。お前より先に死ぬつもりはない、健康に気を遣って生きて行こうと思っているからさ……。お前も……」
「俺より先に死んだりすんなよ、二乃……!!」
どっちかが先に死ぬことなんて定められたことでしかない。
なのにそんなことを言うなんて矛盾もいいところなのかもしれない。それでも俺はもうあんなふうに泣いている二乃を見たくなかった。震えている二乃を見たくなかったからこそ俺は……こう言った。
彼女を幸せにするために……。
そして、二乃から返って来た言葉はこれだった。
「ええ、アンタが早死にしないようにもしっかりとした健康的な料理を作ってあげるわよソラ!!だから……」
「私より先に死んだりしないで……」
◆◆◆◆◆◆
今日はお母さんの命日、私たちは姉妹揃って墓参りにしに来ていた。
私たちの前にソラのお父さんとソラが来ていたようで墓参りをしていたようだ。ソラのお父さんは私達に軽く挨拶をした後、私の方を向いて「いつも息子が世話になっているね」とにこやかに笑いながらも言っているのを聞いて、私は軽くいい気分になりながらも頷いていた。
二人が去って行くのを見送りながらも、お母さんの墓へと辿り着くと既に墓石の掃除は誰かが済ませていたようだった。見た限りではソラ達がやってくれた訳ではないのはなんとなく感じ取っていた。掃除の具合からして朝早く誰かが来てやっていったような感じがあったから。そして、他の違いに気づいたのが四葉だった。
「……花多くないですか?」
四葉が確認するようにして花を見ている。
確かに言われてみれば、花の数が若干多いような気がする。ソラ達が来ていたからその分もあるはずだけど、それでも妙に数が多い。私達や上杉の分も含めてもそれでも多い。
「もしかしてお父さん?」
「そんな訳ないでしょ、あの人は私たちのことなんて考えてないわよ」
お父さんが此処に来ることなんてありえない。
お母さんはあの人のことをファンだと言っていたけど、お父さんがお母さんの話をしていたところなんて今まで一度たりとも見たことも聞いたこともなかったから……。あの人が本当にお母さんのことや私達のことを愛しているのかなんて疑いたくなる。
いや、今はそんなことよりも姉妹のことでどうしても気になっていることがあった。此処で確かめるのはお母さんに申し訳なくなるけど、聞く場所は此処しかない。もう聞くことが出来なくなるかもしれないから……。
「一花、……家を出るって本当?」
聞くまでに少し間が空いたのは聞くのが怖かったから。
もし此処で一花が本当に家を出ると言いだしたりしたら、私は自分の中で何れ姉妹は離れ離れになるということは分かっていても自分にはそれを受け入れるだけのものがなかった。きっとソラに「私より先に死なないで」と重たいことを言った時点でそれは分かりきっていたことだったのはずだった……。
「家を出る……?」
「ほら、やっぱりあんたの勘違いじゃない五月!!」
「私は確かにそう聞いたのですが……」
五月が二日前ぐらいに一花が家を出るという話をしていたのを聞いていた私。
少しばかり安心して肩の力を抜いてしまっていた。やっぱり、五月の早とちりだったようね。そうね、私たちにとってこれは最後の学校生活。これ以上、一緒に卒業できる機会なんてものはないもの……。私はそう安心しきっていると、一花が「勘違い……?」と言いながらも何かを理解したような表情をしていた。
「あーそれね……」
「私、二学期から学校通わなくなるんだ……」
私はやっぱり受け入れるだけのものが出来上がっていなかった。
これまで私達、姉妹は傷つくことはあっても離れ離れになることは絶対にないと信じていた。私のせいもあったあの修学旅行すら乗り越えて私達、五姉妹の中はより強硬なものになったんだと信じたかった。
なのに……一花から出た言葉は私達家族が離れ離れになる言葉だったあまり、私はこう言ってしまった。
「ふざけないで一花……!!私達にとっては最後のチャンスよ!!最後の学校よ!!それなのに、アンタは何も相談に乗らずに自分だけ居なくなろうとしているわけ!?そんなの認めないわよ!?」
「ごめん二乃……もう決めたことだから……」