これは私たちの長女、一花が女優という道を目指す為に旅立ちを迎える少し前の出来事……。
「ソラ、そこのお皿取ってくれる?」
「あ、ああ……」
ソラは私に対してぎこちない手でお皿を渡して来る。
その手を確認しながらも私は「ありがとう」と言っていたが、最近ソラに関することであることに気づいていた。それは……ソラが明らかに私に気を遣っているということ。
『私は後悔なんてしてない……よ。最後は自分の力でソラに告白出来たから……!』
修学旅行の最終日、私は周りのおかげもあったけど最後には一人の力でソラに告白することが出来た。結果は、ダメだったけど私は後悔という二文字はなかった。悲しかったし、辛かったけどそれでも私は自分がしたことに対する後悔はなかったけど、ソラの方は明らかに違った。
後悔がないということも分かっていても尚、私のことを振ってしまっていたという罪悪感があるからこそソラは私に対して何処かぎこちなく話しかけたり、物を頼んだりすることがある。酷いときには……。
「三玖、ソラの奴に頼まれたんだが揚げ加減はこんな感じでいいのか?」
「う、うん……大丈夫だよ」
フータローの短期バイト先として紹介したのはソラのお父さんのお店だった。
偶々、短期アルバイトを募集しているという張り紙を見た私はフータローを此処に誘った。ソラのお父さんはその相手がフータローだと知ってその日のうちにすぐに採用されていた。
そして、フータローはこうしてソラにおつかいを頼まれたかの如く、私への連絡係をしてくることが多い。ソラが揚げたと思われる、天ぷらを味見をしながらも私は確認すると味はかなり美味しかったけど、何か物足りないような気がしていた。
多分、ソラの中で私に対する迷いがあってそれが天ぷらにも現れてしまっている。
迷いがあるなかじゃ、料理なんてものはちゃんと作るなんてことは出来ない。私は手に持っていた箸を置いてフータローにこう切り出す。
「ソラ、何処?」
「え?ああ、今は確かゴミ出しをしに行ったと思うぞ」
「ありがとうフータロー」
私はフータローにお礼を言ってから、一旦裏口から出てお店の外へ出る。
そこにはゴミを出そうとするソラの姿があって、私ははっきりとこう言う。
「ソラ、いい加減にして……。今日の天ぷら、いつもと全然違う。いや、今日だけじゃない。最近のソラが揚げる天ぷらは全然ダメ……!!迷いがあるから天ぷらの味にも滲み出ているんだよね?」
「何を言って……」
あくまでもソラはしらばくれるつもりだったらしい。
私が言っていることがよく分からないと言いたそうにしているが、それでも言葉を続ける。
「最近のソラおかしいよ、私といつも目を合わせてくれないし話すときだってぎこちないよ!!」
「だから何を言って……」
それでも何の話をしているのかを分かって居なさそうなソラ。
私は深呼吸をした後に、はっきりとソラの目と自分の目を合わせながらもはっきりと告げた。
「振ったことをずっと後ろめたく思ってるのはやめて……!!!」
「私は言ったよ?ソラに振られたとき、私は後悔なんてしてない。ソラに勇気を振り絞って自分の気持ちを伝えることが出来た。それなのにソラはずっと私の顔色ばかり窺っている!!そういうのはやめて!!!」
心からの自分の悲痛の叫びとも言える言葉が此処まで出るなんて正直思いもよらなかった。
私は自分が主張が弱い方だと思っていた方だから此処までソラに対する不満が出るのも本当に予想外だった……。でも、苦しいとか辛いとか悲しいとかそういう感情は湧くことはなかった。
寧ろ、清々しいという気持ちすら湧いていた。
自分が言いたいことを言えるというのはこんなにも楽になれるんだという気持ちが強かったんだ。言いたいことを言い切った私は息を荒くしながらも自分の呼吸を整えていると、ソラが手に持とうとしていたゴミを持つのをやめてしっかりと立って頭を下げていた。
「三玖、ごめん……。お前の言う通りだよ、俺はお前のことを振ったことをずっと後ろめたく思っていた。そのことでフータローや二乃からもそういうのはやめた方がいいと指摘されていたの事実だったけど、俺はそれをやめることが出来なかった。分かっていたのにな、三玖は後悔なんてしてないっていうことを……」
頭を下げてしっかりと私の目を見ながらも私に言葉を返してくれているソラ。
いつものソラに戻ってきていることを実感しながらも彼の言葉を聞き続けていた。
「だから、本当にごめんな三玖……。お前がそういうのを嫌がるっていうのを分かっていたのに……」
「ううん、ちゃんと分かってくれたならいい……よ」
はっきりと言ってよかった。
もし、此処ではっきりと言わなかったりしたら一生私とソラはこのままだったのかもしれないから……。少しばかり一安心をしてそっと息を吐いていると、こうソラは言い出していた。
「……成長したな三玖」
「成長……?」
自分が斜めに首を傾げていることを自分で気づきながらも私はソラの言葉に反応をしていた。
「ああ、俺が最初お前と出会った頃は本当に自分の主張を言うなんてことは滅多に出来なかったのに今はこうして俺にそういうのをやめて欲しいってちゃんと言えるようになって……。本当に強くなったんだなって俺は思う」
そっか、さっきの行動自分の中では凄く違和感を感じさせるものがあったけどそういうことだったんだ。自分らしくないことをしたと思っていたけど、あのときと同じぐらい頑張ったんだ。
告白のときと同じぐらい……。
「それは……みんなのおかげだから。特にソラが私のことを此処までしてくれた……。弱かった私を此処まで引っ張ってくれたのはソラだよ?」
姉妹の誰よりも劣っていて何も出来ないと感じていた自分を此処まで強くさせてくれたのは紛れもなくソラのおかげ。ソラが一緒に居てくれたから、家庭教師で居てくれたから私は自分という人間を確立することが出来た。髭の生えた戦国時代の武将たちを好きであり続けていいと思えたのも、料理が下手なら下手なりに頑張って見せればいいと教えてくれたのもソラだった。私は、本当にソラに感謝してもしきれない。
今まで色んな前途多難なことはあったけど、それもいい思い出。花火大会で少し違う自分を見せたり、頑張ってキャンプファイヤーを一緒に踊ろうと誘ってみたり、ソラを振り向かせる為にチョコレートを作ったり、家族旅行でソラにはちょっと難しかったりする問題を出してみたりもしていた。全部が全部上手くいった訳じゃないけど、それでも本当にソラとの思い出はこれからも生涯残り続けるものだと私は思っている。
だからこれからはソラとは……。
「これからは親友で居よう?ソラ……」
「親友か……ありがとうな三玖」
「うん、親友でいいよソラ」
こうして私とソラの一件は終わりを迎えることが出来た。
お店に戻った私達は、その後に私達二人が普通に会話をしているのを見て二乃が少し微笑みながらもその様子を見ていたことを私は知っていた。
「良かったわね、三玖……」
「うん……」
耳元で私に二乃は笑顔を向けながらもそう言ってくれていた。
そして、ソラの方へと近づいて二乃は彼の服の袖を掴みながらも何か言いたげに不服そうにしていた。きっと私のことに対して抗議をしてくれていたのかもしれないと思いながらも、拭き終わった皿には微笑んでいる自分の顔が映っていた。
「本当に良かった……」