五等分の花嫁 心の傷を持つ少年   作:瀧野瀬

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第12章 五つ子と進路相談
四女の悩み


 今は下田さんの塾の中……。

 俺は今日、この日は五月と一緒に此処の手伝いをすることになっていた。塾の手伝いというのは案外難しいもんでもなかった。俺が家庭教師という生活に慣れたということもあったのかもしれないが、それ以上に今俺はある問題を抱えていた。

 

「どうしたのですか?難しい顔をして」

 

 塾のある一室……。

 今は休憩中ということもあり、俺と五月とその他の講師たちはその一室で休憩をしていた。五月は俺の目の前で特上カルビ弁当を食べていたが俺は特に気にすることはなかった。いつも……こんなだしな……。

 

「風太郎の奴から言われたことがあってな……」

 

「彼からですか?」

 

「ああ、何でもお前らの進路相談をしてやって欲しいとな……」

 

 進路相談についての電話があったのは昨日のことだった。

 風太郎は電話口でこう言っていた。これからはあいつらの家庭教師としてその先を見据えてやりたいと……。それについては俺も全面同意だったし悪い提案ではないとなっていたが、問題はその進路についてのことだった。

 

「進路はお前や一花は決まっているが、他の三人については正直よく分からないというのが現状だからな」

 

「その為の進路相談では?」

 

「それは分かってる。ただあいつらの進路相談をすると言っても、進路ってのはこれから先のことを見極めるということにも繋がる。一歩間違えれば、この道じゃなかったとなってもおかしくはないってことだ」

 

「確かに私も此処で下田さんのお手伝いをしていますが、そういう人も居ますね……」

 

「だろ?だからこういうのは難しい問題なんだよ……」

 

 他人の人生の進路の相談をするということは他人の道を決める順路を作り上げるということになる。それは爆弾処理をするかのように難しい工程だ。結局、決めるのは本人だということも承知の上だがそれでも他人の道を舗装するというのは慎重にならざるを負えない。

 

 たださっき俺は一花や五月の名前を出していたが、もう一人だけ進路が決まっていそうな奴のことを把握している。それは三玖のことだ。三玖は俺や二乃、そして俺の父さんに最近料理のことについて熱心に聞くようになってきている。恐らく、あいつは料理に関する何かに就きたいんだろうというのは伝わっていた。

 

「難しい問題……。確かにそうですね脇城君、人の道に寄り添うというのはそうなのかもしれません。ですが……いえ私の言いたい事は分かりますよね脇城君?」

 

「ああ……今更こんなことでビビるんじゃねえって言いたいんだろ?」

 

「その通りです、脇城君や上杉君ならきっと乗り越えられますよ」

 

「まあ……やれるだけやってやるよ……」

 

 今回の進路相談というものがどれだけ険しい道のりになるのかは知らないが、それでも俺はやり遂げたい。風太郎と同じく、俺もこいつらのその先を一緒に掴んで行きたいからな……。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「相変わらずフータロー君は手厳しいね」

 

「そう言いたくなるなら真面目に授業を受けることだな」

 

 こいつが学校を休学する前、授業をうとうとしながらも聞いていた。

 そして、そのせいもあってか此処のところの勉強が女優業もあって疎かになっているというのははっきり言って絶望的な状況としか言いようがない。頭痛が痛くなるというおかしい用語の使い方すらしたくなるほど俺は頭を抱えていたが、それでも一花に勉強を教えている。

 

「それで……女優の方はどうなんだ一花?」

 

「おかげさまで演技の仕事とか、CMの仕事とか貰えたりしているってところかなー。この前は有名な俳優さんと一緒に仕事したりして結構大変だったんだよ?名前言ってもフータロー君分からないんだろうけど」

 

「俺は俳優だとかそういうのに全く興味がないからな!まあ、上手くやれているなら良かったんじゃないのか?」

 

「ふーん?ちゃんと褒めてくれるんだ?興味ないはちょっとどうかと思うけど」

 

 と言われても実際俺は俳優だとかモデルだとか興味がない。

 周りの奴らがあの俳優カッコいいよねとかそういう愚かな話をしていても俺はそんなことより勉強することの方が大事だからな。

 

「それじゃあ、フータロー君。そろそろ続きやる?」

 

「ああ、ビシバシ勉強を教えてやるから覚悟しろ」

 

「お、お手柔らかに頼むね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず一花は大丈夫そうだったな、勉強の方は相変わらずだったが……」

 

 あいつも自分の階段を一歩ずつ上り詰めようとしていてる。

 勉強の方は全然ダメダメが、女優として成長を遂げようとしている一花に一安心しながらも俺は駅の改札を出て自分が住んでいるこの場所に戻って来ていた。最近のスマホというものは便利なようで改札に通すだけで出るというのは本当に画期的だと思うし、最初のときはかなり驚かされた。

 

「それにしても……進路相談か」

 

 あいつらのもう一押しをしてやりたいという気持ちはあるが、そこに辿り着くまでにはどうしたらいいものか。こういうものは本来、じっくりと考えるべきなのかもしれないが近々、学園祭があることだ。早めに進路相談に乗ってやった方が賢明なはずだ。俺が駅を出て駅前を歩き出そうとしたとき、声が聞こえて来ていた。

 

「上杉さーん!!おかえりなさいです!!」

 

「四葉……お前、待っていたのか」

 

「はい!!そろそろ上杉さん、帰って来る頃じゃないかと思いまして!」

 

 俺に大きく手を振っている四葉。

 それからして歩き出した四葉は俺の下へと駆けつけてきた後に、俺と四葉は同じ方面に一緒に帰り始めていた。

 

「上杉さん、一花はどうでしたか?」

 

「ああ、勉強は全然ダメだが女優の方は上手くやれているみたいだぞ」

 

「そうなんですね!この前、一花が出る映画のCMがやってて一花!!?ってなったんですよ!!」

 

 なるほど、俺の知らないところで大女優、一花は活躍しているということだけはよく分かった。そもそも俺の家はテレビがないからあいつがどんな活躍をしているのかも分からんが……っていつまでも一花の話に引っ張られている場合じゃないな。今重要なのはこいつらの進路のことだ。

 

「四葉は進路とかもう決めてるのか?」

 

「進路ですか?あーいえ、その実は全然決まってないんです。よく話をする子達とかはみんなもう自分の夢とか決まってるんですけどね……偉いですよね」

 

「確かに本当だったら、夏休みとかの段階で進路が決まっていないと遅いところもいいところだからな」

 

 四葉は痛いところを突かれたような声を出しながらも渇いた笑みで「あはは」と笑っていた。

 

「その……上杉さんは当然決まってるんですよね?」

 

「ああ、俺はらいはや親父に楽をさせてやりたいからな……。まずは大学に行って、そして就職をしてあの二人に裕福にさせてやりたい。かなり大雑把だがこんなところだな」

 

「そうなんですね、上杉さんはちゃんと決まっているんですね……」

 

 ちゃんと目標があるということに自分が遅れているとでも言いたそうにしているのか、四葉は少し暗い表情をしている。そんな、俺は四葉に提案するようにしてこう言う。

 

「なにかやりたいこととかはないのか?お前は運動が出来るんだし、スポーツインストラクターとかはどうだ?」

 

「スポーツインストラクターですか……。なるほど、確かにそれもありですね。でも、私誰かに教えるとかはあんまり得意じゃないんですよね……」

 

「なら……そうだな。例えば……っておい!!四葉、何処に行くんだ!!?」

 

「す、すいません上杉さん!!私、ちょっと急いでいるんで帰りますね!!」

 

 駆け足で俺から逃げるようにして走り出していた四葉。

 俺もすぐにあいつのことを追いかけようとしていたが、あいつの足の速さに全く追いつくこととが出来ずに途中で見失ってしまっていた。

 

 

 

 

「あいつ……俺のことを待っていたんじゃなかったのか……」

 

 息を荒らしながらも、途中まで追いついていた河川敷のど真ん中で俺は膝を押さえながらも呼吸を整えるに必死になっていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『なにかやりたいこととかはないのか?』

 

 やりたいこと、私のやりたいことってなんだろう……。

 今まで考えた事もなかった。いつも周りに気を配らせて明るく生きて来てようやく自分のままに生きていいと脇城さんのお姉さんが教えてくれた。自分に素直になりたい。自分の目標を築き上げたい、その気持ちはあるけど……どうすればいいんだろう。

 

 

 私は上杉さんを振り切った後、図書館に来ていた。

 此処に来れば自分が知りたいことを知れるかもしれないから……。早速、図書館の本棚を見ていると見覚えのあるヘッドホンを付けている女性が目に入る。

 

「あれ?三玖……図書館で調べもの?」

 

「うん、四葉も調べもの?」

 

「実はそうなんだー、でも中々自分の調べたいものが見つからなくて困ってたんだ」

 

 図書館で進路について纏めてある本があるのかなんて想像できなかったけど、もしかしたら参考になるかもしれない本があるのかもしれないとなっていた私はこうして図書館に足を踏み入れていた。でも、あんまり図書館って言う場所を勉強以外で活用したことがなかったから何から手に取っていけばいいなんて全然分からなかった。

 

「どんな本探してたの?」

 

「あーえっと、それは三玖にも言えないかなー」

 

 自分がまさか進路について迷っていてそれで調べているなんてちょっと言えなかった私は誤魔化すようにして笑いながらも三玖が持っていた本が目に入る。

 

「それって料理の本?」

 

「え?う、うん……今後の為に調べてたんだ」

 

 なんとか話題を逸らす為に三玖が持っている本について気になった私は尋ねるようにして三玖に聞いていた。

 

「今後の為?」

 

「まだこれはソラにしか話してないんだけどね……将来、お料理に関する仕事に就きたいんだ」

 

「え!?そうなの!?凄いよ三玖!!?」

 

 三玖の料理の腕前には敢えて触れようとはしなかったけど、こうして自分の夢を持っている三玖のことを本気で凄いと思っていたし、妹として姉のことを誇らしいという気持ちにすらなっていた。

 

「そうかな?料理の腕前、二乃やソラに比べたらまだまだ全然だけど……。それでも自分が学んできたことを活かしたいと思えたんだ。ソラのお父さんのところでバイトをしていて自分も料理に興味が湧いたから」

 

「学んで活かしたいこと……」

 

 自分が思っていたより、三玖は姉として凄い人になっていると認識していた。

 それに三玖がこうして自分の夢について語っているとき、凄く楽しそうに笑いながら話している姿が本当にこれからのことをちゃんと考えているんだなとなっている私がいた。

 

「そっか……!!本当に凄いよ三玖……!!自分の経験を活かしてそうやって次の目標に向かって頑張ろうとしているなんて……!!」

 

「ありがとう四葉……」

 

「三玖の目標叶うといいね!!」

 

 とだけ私は言い残して三玖の前から一旦離れることにした。

 妹として姉の成長が喜ばしいという感情はあったし、今すぐこの気持ちを五月達とも分かち合いたいという感情はあったけど、自分の中でぽつりと何か穴が開いたような気がしていた。その穴はきっと焦りだった……。

 

 三玖から離れた私は図書室の本棚に置かれている本を手に取ろうとしながらもこう独りで言っていた。

 

 

 

 

 

「三玖も上杉さんも凄いなぁ、やりたいことがちゃんと纏まってて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私にもあるのかな?やりたいこと……」

 

 

 

 

 

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