教室の閉め切った窓から、グラウンドを見る……。
そこには、雨が降り注ぎ雨は何度も何度も強く打ちつけられている。
雨の日ってのはどうも気分が憂鬱になる。人間的な反応と言ってしまえば、それまでかも知れないがこういう時こそ気を引き締めていないと駄目だよなと思いながら、俺は授業中にペンを回しながら昨日あったことを思い出していた。
正直言うと、俺は昨日のことは関わり過ぎたかもしれないと思っている。勉強を教えるまでは良かった。その後の行動が俺の心が「何やってんだお前」と蔑んでいるように聞こえる。聞こえないフリすればいいが、多分関われば関わるほどこの声は野次のようにデカくなることが間違いないだろう。
「人付き合いってめんどくせぇな……」
思わずそんな感想が出てしまう。俺も上杉みたいな感性を持っていれば、こんなめんどくせえ心を持っていなかったかもしれない。
「キンコンカンコーン」
ペンを置くと同時に、授業終了のチャイムが鳴る。それからして、クラスの人間が立ち上がり俺は遅れて立ち上がる。そして、礼をし授業が終了し昼休みの時間となる。二乃は、どうやらクラスの女子と食べに行ったようだ。俺はどうっすかなぁと思いながら、廊下に出る。
「やぁ、今ちょっといいかな……」
その声が誰かはすぐには分かった。あいつまた勧誘に来たのか。
「江場か……。どうせ言いたいことは分かってる」
黒髪のポニーテールの女子。
陸上部の部長らしいのだが、前に少しだけ陸上部の奴から聞いたが結構ハードな部活だというのは聞いていた。
「おっ、話が早いね」
まるで断られると言うのを理解していないような言い方だな。
ともあれ、別にハードな部活なのはどうでもいい。体育系の部活だ。大会とか目指すならその方がいいのは間違いないんだからな。
「前にも言ったろ、俺は駅伝に向いてないって。元々、俺は短距離特化の人間だ」
中学の頃、陸上で短距離を選んでいた。一時期だけ長距離を選んでいたが、スタミナの問題で俺は自ら短距離に選び直したのだ。
「そうかな?キミの走りよく朝とか土日見るけど、中距離ぐらいはいけると思うよ」
こいつとの出会いは分かりやすいものだった。俺が土日、河川敷で走り込んでいるところを声を掛けられ、陸上に入らないか?と言われたのだ。俺はそのときも断ったのだが、度々こいつはこうして勧誘してくる。
「お世辞どうも。それじゃあ、俺はこれで……」
そう言い俺は江場から逃げるようにして、学食へと向かう。
走りか……。走るのは嫌いじゃない。だが、もしかしたら俺の中で駅伝をやりたくない理由はかつての自分より足が遅くなっていると気づくのが怖いのかもしれないのもあるのか、それとも駅伝に出て周りに追い抜かれるが怖いのかもしれないな。
「カツ丼、一つ」
「あら、脇城ちゃん。今日はコーラ頼まないのかい?」
カツ丼を食べるとき、俺は絶対にコーラを飲む。その為、おばちゃんが俺に聞いて来たのだろう。
「昨日糖分取り過ぎましてね。ちょっと控えてるんです」
ぶっちゃけ、糖分とかどうでもいいと思ってるからコーラ禁止そんなに続くかねえと思う。それに、カツ丼も割と糖分あるし。
「あら、そうなの。気をつけてね」
「はいよ」とカツ丼を受け取りながら言い、俺はセルフの水から水をコップに注ぎ、空いている席に座ろうとしたときであった。
「貴方は確か……脇城空君でしたっけ」
赤髪の女子が俺の隣に座りながら言う。……ああ、中野五月か。
てか、こんな光景俺じゃなかったが何処かで見た事があるぞ。デジャブって言う奴ではないが……。
「俺の名前知ってるのか」
こいつに名前を名乗ったことなかったんだがな。一花にだって、昨日初めて名乗ったし。
「ええ、よく三玖や四葉が貴方の名前を出していますよ」
あの二人がね……。
「そうかい……!?」
俺は五月の食事を見て驚いてしまう。
なんだこれは……!?
「どうしましたか?」
五月は何食わぬ顔して食事を続けている。しかも、美味しそうに食べえている。
こいつの胃袋化け物か……?それとも、ブラックホールなのか……?
「いや、それ全部一人で食えるのか?」
五月が食べているのは、大盛カレーの上にこれでもかとヤケクソ気味にロースカツが乗せられている。それだけならまだいい。そして、その隣には味噌汁。最後にはケーキと言う見ているだけでも胃もたれする量なのである。
恐らくだが、値段は大盛カツカレー1200円だったはずだ。そして、180円のプリンがある。上杉が発狂してしまうレベルの値段である。
「え?食べられますよ」
見ているこっちは胃もたれしそうなのに、女子の五月が食える量とはな。どうなってんだ、この女の胃袋は……。
「そうか、別に食べられるって言うのなら構いはしないが……」
「一口要りますか?」
カレーは糖質の他に脂質が多い。
それにこの量だ。一口でも食べれば致命的だろう。
「いや、遠慮しておくよ。今ちょっと食事制限してるからな」
「へぇ、随分と食事に気を遣ってるんですね。部活とかしてるんですか?」
五月の奴、随分俺のことを聞いてくるな……。
上杉同様、警戒されていると思っていたが……。
「いや、してねえよ……。ただ、運動はしてるからあんまり食べたくないだけだ」
「そういうお前は、部活とか興味ねえのかよ。前の学校とか部活入ってなかったのか?」
「そうですね、あんまり運動とかも得意ではないので……。あんまり興味は無いですかね」
あの五つ子の中で運動できそうなのは四葉だけだろうしな。一花と二乃は割とできそうではあるが……。
「ですが、その最近運動をしないといけなくちゃとは思ってるんですが……」
五月は自分の体を見ながら言う。
デリカシーないと思われるだろうが、要は太っていると自分で気づいているんだろう。自分で気づいてるだけまだマシだろと俺は思うがな……。
「別に気にしなくてもいいんじゃねえのか?五月って割と可愛いと思うし……」
言い切った後に自分で何を言っているのかに気づいてしまうのであった。
しまった、心の中で思っていたことを普通に言ってしまった。
「なっ!?か、可愛いですか……!?そ、そんなほぼ初対面で言われても……!」
案の定、五月は顔を真っ赤にさせている。
「い、今の忘れろ!」
俺はカツ丼を一気に食べ終え、コップを取り乱しながらも持ち水を飲む。
「いいな、絶対だからな!忘れなかったら、上杉に小テスト20点だったこと言うからな!」
と三玖から昨日聞いた情報を言い、俺は頭を掻きながら食器を戻す。
「クッソ、人付き合いってやっぱめんどくせぇな……」
食器を戻した後「御馳走様でしたー」と言いながら、俺は学食を後にしようと思ったときであった。
なにやら、学食前で騒いでいる声が聞こえる。こういうのは無視だ、無視だ。
無視しようと思ったのだが……。
「あんた、四葉になんで構うのよ!」
首の裏を触りながら、深い溜め息を吐く俺。口論している相手は、二乃と上杉だったようだ……。あの二人、何してんだ……。
「何言われたんだ上杉」
あの様子だとなんとなく予想はつくが……。
「空か、明日土曜日だから四葉を勉強会に誘おうと思ったのだが、見事に二乃に邪魔されてな……」
二乃が上杉のことを嫌っているのは分かっている。
昨日の様子を見る限り、姉妹のことが心配なのだろう。しかし、何故此処まで嫌うのだろうか。そればかりは本人に聞かねえと分からねえか。
「そうか、なら俺が三玖に伝えておくか?」
「そうしてくれると助かる。俺も四葉達に出来る限り来てもらうように頼んでみる」
それから、俺は三玖を探しに行くのであった。学食に行ったとき、三玖の姿はなかった為学食には居ないはずだ。教室の方を見ると、三玖はいなかった。三玖のクラスの奴を呼んで聞いたが、何処に居るかは知らないようだった。となると、屋上か?いや、今雨降ってるしあり得ないか。
後は、図書室ぐらいか……。今丁度昼休みだし、やってるかもな……。
「やっぱり、此処にいたか……」
図書室のドアをゆっくりと開ける。
図書室の中は、灯りが若干ついているがカーテンが閉め切りの為滅茶苦茶暗く感じた。そして、テーブルの方を見ると、椅子に座っている三玖がいた。
「ソラ……」
こちらの存在に気づいたのか、ペンを置いてこちらを見る三玖。
どうやら、三玖は図書室で勉強中だったようだ。その証拠に、半分ぐらい書かれているノートと開いてある教材と本がある。
「勉強熱心なのは家庭教師としては有り難いことだが、貴重な昼休みだ。無駄にはするなよ」
一缶だけ持ってきたコーラを三玖に差し出しながら言う。
「抹茶ソーダが良かった」
「贅沢言うな」
俺と三玖が笑い合いながら言う。
三玖はコーラを受け取り、「温い」と言いながらも飲んでいる様子。
「それで何処まで勉強したんだ?」
ノートを何ページかペラペラと捲る。三玖はノートを見られて少し恥ずかしそうにしている。ちゃんと纏められているのか気にしていたのかもしれないな。だが、三玖のノートを見る限り、おかしな点は一つもない。寧ろ、綺麗に纏められているのだ。
「結構、勉強しているじゃないか……凄いな」
三玖の頭に手をやり頭を撫でると、三久は若干嬉しそうにしている。
「少しでも多く勉強しようと思ったの……。ソラを驚かせたかったから」
「驚いてるよ。こんだけ勉強したんだ、頑張ったな」
再び頭を撫でられ、三玖は顔を真っ赤にさせている。図書室は俺と三玖だけしかいなく、外は雨が降っており室内は暗かったが俺達が居るところだけ何となくだが明るくなっているような気がしていた。
「ありがとう……ソラ」
三玖も明るい笑顔で笑っている。この様子を見ると、凄い頑張ったんだろうな。
「そろそろ勉強も終わりにしとくか……昼休みも終わるしな」
図書室の中にある時計を見ると、昼休みは後10分ぐらいで終わろうとしている。
「うん、分かった」
三玖は本を元の場所に戻し教材とノートと筆箱を持って立ち上がる。
「あっ、そうだ。明日、三玖の家で勉強したいと上杉が言っていたが大丈夫か」
上杉から頼まれたことを思い出した俺は三玖に聞く。
「全然構わないよ。四葉にも伝えておいた方がいい?」
俺と三玖は使った机を掃除し、図書室の廊下に出る。
「ああ、頼む。それとできれば五つ子全員揃えてもらえるか」
俺と三玖は廊下を歩き始め、教室を目指す。
「いいけど……。四葉以外はちゃんと揃わないと思うよ」
……だろうな。と言うのが正直な感想だ。
元々、五月は上杉が最初に余計なことを言ってしまったのが原因な可能性が高いだろうな。それに関しては、もう上杉に責任を取らせた方がいいだろう。自分でやってしまったことなんだからな。二乃と一花は、あの二人はなんでだろうな……。二乃は、何となくだが分かりつつあるが……。一花に関しては、何にも分からん。
「それでも別にいいさ。でもあの三人なんで上杉と俺が嫌なんだ?」
「多分、そう思っているのは二乃だけだと思う。ソラは、二乃がどういう人なのか少しは理解しているでしょ?」
昨日や今日の行動を見る限り、どんな人間かは薄々理解しつつあるのは事実だ。だから、あいつのことが理解できれば少しでも俺達に心を開いてくれるかもしれないな。だが、そうするにはかなりの時間が必要だろう。
「少なからずはな……。はっきりとわかっている訳じゃねえが……」
「それだけでも充分だと思う。ソラならきっと二乃の心開けると思うよ」
三玖はそう言いながら、教室へと入って行く……。
俺ならか……。キッカケさえあれば確かにどうにでもなるんだろう……。しかし、そんなキッカケが全くやって来ないからなぁ……。
だが、しかし次の日……。
そのキッカケとやらは思わぬ形でやって来るのであった……。