御食事処『一条』   作:雨期

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書きたくなったというだけで書いています


開店

 美味いと思う飯はなんだと思う?

 高級料理。それもいい。間違いなく美味い。俗に言う三ツ星レストランの料理なんか舌が蕩けるようなものだろう。いやほんとびっくりする。高級食材ってすげぇわ。

 家の料理。ああ、悪くない。家に帰った時に母親が作ってくれた家庭料理は味が保証されている。美味い。舌が絶対的な信頼を置いているのだから当然だ。

 インスタント。それもまた答えだ。万人受けするように研究されたそれは言うなれば老舗の味と言ってもいい。たまに食いたくなるあれらは魔性の味だ。多量の脂質、塩分、糖分は麻薬なのだ。ズルい。

 

 俺はどう思うかって? そうだな。俺の答えとしては…………俺の飯だ。

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

──ガラガラッ

 

「店長! 焼き魚定食!」

 

「んあ?」

 

「あー! また営業時間中に客席でご飯食べてる! お客さんが居ないからっていけないんだよ!」

 

「うるせぇ! 俺の(いえ)で俺の飯食って何が悪い! てか今はまだ営業時間外だ!! 一時間はえぇんだよ!!」

 

 ここは御食事処『一条』。古民家を改装した和洋折衷な空間に十数程度の席しかない小さな料理屋だ。その店のカウンターでカツ丼を掻き込んでいたのは柄の悪さで有名な店長の一条要(いちじょうかなめ)

 元気よくやってきて早々に定食を要求したのは小柄な少女。三人しかいないバイトの一人、天野川透子(あまのがわとうこ)

 

「だってー、早く来ないとご飯食べられないもん! あ、デザートはプリンがいいな!」

 

「ったく、贅沢なガキだ。少し待ってろ」

 

 残り少なかったカツ丼を口に押し込み、丼を流しに入れると要は料理の準備を始めた。透子は既に着席してスタンバイ完了している。

 焼き魚定食などと言われたが今の店のメニューにそんなものはない。なので要は冷蔵庫にある魚を適当に取り出して焼いていく事にした。手に取ったのはサーモンだが気にしない。何か食わせておけば透子は黙るだろういう考えだった。

 ただ焼くだけでは能がないとでも考えたのかサーモンはムニエルに。付け合わせには自家製ドレッシングのサラダを。ご飯は大盛で。プリンは前日からの作りおきを用意する。

 

「ほらよ。バイト価格で六百円にしておいてやる。額を床に擦り付けて感謝してから食え」

 

「これ焼き魚定食じゃないよー」

 

「うっせぇぞ!! だったら食うんじゃねぇ!!」

 

「おいしー!!!」

 

「食ってんじゃねぇか!!」

 

 自由奔放な透子に怒鳴りながらも美味いと言われた要の顔は笑っていた。何であれ自分の料理が褒められるのは嬉しかったのだ。

 

「おはようございます。あっ、透子さんも来ていたんですね」

 

 静かにやってきたのはバイト最年長の汐見潮(しおみうしお)。バイトでも唯一厨房に入れる娘だ。

 

「おはよー潮ちゃん! これ食べる?」

 

「では一口…………ん! とても美味しい! 店長、これメニューに追加しませんか?」

 

「しねぇよ。頼まれたら作らんでもないがな。それより渋井はどうした? 汐見は隣に住んでるんだろ?」

 

「渋井君は髪のセットが決まらないそうで。開店までには間に合うそうですよ」

 

「乙女じゃあるめぇし引っ張ってこいよ」

 

「髪のセットが決まらなかった日の渋井君のテンションの低さは店長も御存知でしょう?」

 

「……ありゃ確かに駄目だな。使い物にならん」

 

 話題に上がったのは唯一の男性バイトの渋井元気(しぶいげんき)。名前のわりに髪型によっては全く元気がなくなる男で、以前に髪型を決める前に無理矢理連れてきた時にはとても接客にはならなかった過去がある。

 

「すんません! 遅くなりました!」

 

「おう、おせぇよ。ま、三十分前なら許容範囲か。ガキ共、開店準備だ!!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 忙しい。ああ忙しい。何故こうも忙しいのか。星を貰ったわけでもねぇ。接客がいいわけでもねぇ。天野川と汐見が一般的に言う美少女であり、渋井はイケメンと言えなくもない。そして何より超絶ハンサムな俺がいるとはいえあまりも忙しい。そもそも大半男客だから俺は求められていないか。求めるのがいればそいつは出禁だ。

 まあ忙しい理由は分かりきっている。俺の料理が美味すぎるのだ。完璧なのだ。至高にして究極。三ツ星レストランのシェフすら逆立ちしたところで勝てない料理を作れてしまう俺の腕前が悪いのだ。

 

「肉! ステーキくれステーキ!!」

 

「申し訳ありませんがステーキは「すぐに出す」ええっ! いいんですか店長!?」

 

「食いたいんだろう? そいつは金を持っている。ここには材料がある。なら食わせてやれ」

 

「さっすが要ちゃんだぜ!」

 

「ビールビール!」

 

「こっちゃ焼酎!」

 

「天野川、出してこい」

 

「はーい!」

 

「てんちょ! チャーシュー単品っす!」

 

「ツマミか。いいぜ」

 

 俺の店に堅苦しいルールはない。俺が適当な性格のせいか客も適当な奴が多い。具体的にはメニューにないものを頼んできやがる。しかもうちの冷蔵庫を把握しているが如く作れる範囲のものをだ。だがそれでいい。食いたいなら食いたいものを頼む。欲望には忠実に生きるべきだ。何よりこの店にはあれがない、これがないと言われるのが馬鹿にされているようで腹立たしい。

 こんなスタイルをやっているからかバイトも入ってはすぐ辞めていく奴ばかり。天野川、汐見、渋井は厳選された変人だ。客は変人、バイトも変人、常識人は俺だけか。

 

──ガラガラッ

 

「お久しぶりです一条さん。突然ですけれど赤ちゃん用のご飯って作れますか?」

 

「! 久しぶりじゃないか笹原田の嬢ちゃん! 赤ん坊生まれてたのか!? いやそれよりも結婚を!?」

 

「はい。今は沼田です」

 

「赤ん坊の飯だな! すぐに用意してやる! 馬鹿共! 赤ん坊優先だ!! 文句垂れる奴は片っ端から出禁だ!!」

 

「「「「「ウィーーーッス!!!」」」」」

 

 笹原田の嬢ちゃん、今は沼田さんらしいが彼女はまだこの店が開店したばかりの頃の常連客だ。昔は親に連れられて来ていたなぁ。ここ二年ほど顔を見ていなかったが、まさか人妻になっていたとは。旦那さんが羨ましいぜ…………俺の婚期はいつになるのやら。

 

「汐見ちゃんもお久しぶり」

 

「はい! 赤ちゃん可愛いですね。いくつなんですか?」

 

「一歳と二ヶ月よ」

 

 一歳二ヶ月ね。なら柔らかいものになるな。食べられないもの? 俺の飯で不味いとは言わさん。例えそれが赤ん坊であろうともだ。しかしわざわざうちに連れてきたのは自慢する訳でもあるまい。

 

「ほい、完成だ。ほうれん草とチーズのリゾットだ。ママもおんなじもんだぜ」

 

「あらほうれん草。この子すぐ吐き出しちゃうんですよ」

 

「やっぱ親子だな。大方それが目的だろう。あんたもここで克服したもんな」

 

「覚えていたんですね」

 

 当時沼田さんは俺の料理で嫌いだったほうれん草を食えるようになっている。流石は俺、天才。親子揃って俺の料理で苦手克服なんていいじゃねぇの。

 

「んんーっ!」

 

「大丈夫よ。店長さんの料理は美味しいわよ」

 

「ははは! 嫌がる顔は昔のあんたそっくりだ!!! 匂いを嗅がせてやりな」

 

「匂いを?」

 

 沼田さんがそっと口元から鼻へとスプーンを移動させると先程までの嫌がり方が嘘のように赤ん坊はスプーンに食い付いた。そして口元汚していい笑顔。嬉しいじゃねぇか。

 

「凄いわ……」

 

「レシピはこいつだ。手順さえ守りゃ誰でも作れる」

 

「わしらもやれるのかい要ちゃん!」

 

「おう! 俺のレシピは完璧だ!! 酔っ払いの爺だろうと問題ねぇ!!」

 

「「「「「ヒューッ!!! かっこいー!!!」」」」」

 

「ありがとうございます、店長さん」

 

「今度は旦那さんを連れてきな。一回面拝ませてもらうぜ」

 

「はい、是非」

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

「また来るよー!」

 

「閉店までいやがって! もう来んな!!」

 

 最後の客が帰って漸く御食事処『一条』に安息の時間が

 

「ご飯!!」

 

「食いたいっす!!」

 

「黙れや!! これから俺は晩酌だぞ!!」

 

「ハンバーガー!!」

 

「ラーメン!!」

 

「うるせぇ!!」

 

 訪れない。少なくとも透子と元気が帰らない限り要の時間はない。

 

「駄目よ二人とも、店長さんに迷惑掛けたら」

 

「やだー!! ハンバーガー食べたい!!」

 

「てんちょのラーメン食わなきゃ帰れないっす!!」

 

「クソガキ共が。汐見、てめぇは?」

 

「えっ、いえ私は」

 

「そいつら作っててめぇは無しとはいかねぇだろ。言え。遠慮は許さん」

 

「で、では……ひつまぶしで」

 

「思ったより遠慮しねぇのな!?」

 

 御食事処『一条』。誰でもどんな注文でも受け入れております。




料理もので料理描写がほぼないという致命的な問題
作者、料理、作らない
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