煉獄槇寿郎は炎の呼吸を終わらせる   作:偏イエ

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pixivで既に投稿されている内容です。
私はあとがきも読んでもらえると嬉しいので読んでください是非。
先に行っておきますけど、名もなき人々がかなり死んでいます。


煉獄槇寿郎が決めた事
1話


 槇寿郎は激怒した。何も成せずただ妻を死なせ息子を死なせるだろう自分の未来に。

 槇寿郎には前世の記憶がある。

 かつて令和を生き人の身ではどうしようもない災害に怯えながらも何事も起こらず助かるような、ただの弱い人間だった。見も知らぬ人が死ねば少しの日々心を痛め、けれど数日後にはまた新しい悲劇に怯え、か弱い者が虐げられるた事に憤り、怒りに満ちた人の声に心臓がギュッと痛むような心地になるようなとても弱い人間だった。

 きっとその姿は大正の人々に比べれば明日をも知れぬ人に食われる為に育てられる家畜のような能天気さすらあっただろう。でもそれが人に許された自由の筈だった。人が勝ち取ってきた権利の筈だった。

 

 

 令和より前。槇寿郎が学生であった平成の世、鬼滅史という新しい科目が時間割に加わった。

 道徳やら日本文化やらの週に一度か二度あれば楽である時間の一コマだった。始めは軽い心持で授業を受けた。平安時代に生まれた鬼舞辻無惨なる元人間の鬼が人を食って大正時代まで生き延びていたらしい。マア恐ろしい。けれど結局他人事。人が食われてもきっと獣が出たのだろうと人々は受け入れた。人が死ぬのは当たり前であまりに凄惨な死を見ても災害やらのどうしようもないものとして受け入れた方が人間には楽だったのだ。

 鬼は人を食う。元は人であったのに偶々近くにいた家族を食らい人であった頃の記憶を失っていく。

 なんて哀れ。なんて悲劇。けれどそんな事、人がやっても同じだろうと歴史の授業と分ける意味が分からなかった。

 まだ鬼狩りという名で動いていた鬼殺隊が日輪刀というアイテムを生み出した。画期的だ。人が火を得たのに近いだろう。

 人より幾分も強く大きく再生能力もある化け物に対しただ刃物やら鈍器やらで立ち向かうのは愚かだろう。石器時代か何かなのか。日輪刀が発明され、戦国時代に呼吸法というものが生まれた。

 色変わりの刀は今もどこかの家が所有しているし日本の各地にある神社や寺に鬼の伝説と共に祀られていたりする。神社はともかく寺もかと思うだろうがかつて織田信長が寺の焼き討ちをしていたのと全く同じ理由である。

 酒と女を好む生臭坊主に混じり人食い鬼がいたのだ。坊主の中に夜間しか外に出ぬ者があってもマア、誰も何も思わなかったのだろう。人もそこらで野垂れ死にするのが常であった。家もなく親もない子供が消えても誰も何も言わぬし老いを理由に子から疎まれてやって来た老人を食っても姥捨て山なんて便利な言葉があったのだ。山姥切った刀も実は日輪刀だったんじゃあるめえかとどこぞの美術館に鑑定士が殺到した時期もあった。まる。と鑑定士が頭上に腕で鑑定結果示したのも一時ニュースになっていた。

 呼吸法を伝えた剣士は双生児だったらしい。しかも武家の生まれであり忌子として蔑まれ育てられたとか。飛んでもねえ時代である。子供の虐待死のニュースを見て言葉に出来ぬ怯えと親が子を愛さぬというただ愛されて生きていた槇寿郎には理解しがたい結果に頭を悩ませてもいたのだ。胸糞悪い以外どう言えばよいのだ。今だって既婚女性用の掲示板では子を産まねば罵られ、一度に何人も産めば畜生のようだと嘲られるらしい。

 理解出来ぬ。言葉の意味は分かってもそれを言葉に出す意味が分からなかった。

 槇寿郎はお上品な生まれと育ちをしていたので。

 忌子の剣士は母に命を守られ、兄に心と優しさを与えられた。育ちに差を付けられながらも兄を愛し兄を尊敬した何とも優しい子である。既に槇寿郎の心は限界だった。家に帰って犬猫の動画でも見なければやっていられない。そしてそこから酷い悲劇。なんで跡取りの教育してた方を捨てようとするのだ。そしてずっと陰ながら守ってきた兄が地位も名誉も妻子も捨て人を守る鬼狩りになり人ではないのではと囁かれた弟と同じ痣を発現し人に落としてくれたのだ。

 なんだその完璧な兄。なんて人間が出来ているのだろう。自分がその兄の立場だったらどうしてやれただろうか。槇寿郎は考えた。けれど答えは出ないし授業は進む。初回なので歴史アニメを見せられている。ダイジェストなのだろう。もっとちゃんと見せて欲しい。大河ドラマになったら必ず見ます。継国家を舞台にしてくれ。兄上の視点で始まりの剣士を語ってくれ、と思った所で鬼舞辻無惨が兄を鬼にしやがった。くそったれ!お前みたいなやつがいるから、こんな悲劇が生まれるのだ。

 ちょっと待って兄に貰った笛ずっと持って、むり。槇寿郎は泣いた。授業中とか関係なしにさめざめと泣いた。隣の席の友人がそっと背を擦ってくれた。いい奴なのだ。

 そして来週は江戸後期から大正の鬼狩りの話をします。と先生が締めくくった。教室の何割かがこんなの聞いてないと俯いていた。女子の数人は瞳を輝かせていた。分かるよ。槇寿郎は涙で腫れた瞼をそのままに家の近くの本屋で鬼殺史の本を数冊買いこんだ。泣いた。煉獄家が悲しくて泣いた。泣いて泣いて、そして気付いたら槇寿郎は見合いの席に着いていた。




令和こそこそ噂話

 前世は鬼殺隊が鬼舞辻無惨を倒した先の未来で実は日輪刀でした、という刀がいくつかあります。山姥切とかそうです。正しい手順で日輪刀として作られていないのでいくらか日光に当ててからじゃないと鬼の頸は斬れません。燃費の悪いソーラーパネルみたいな日輪刀の素材を使った刀です。日輪刀が出来てからは産屋敷がその材料が取れる山を手に入れ一般に出回らないように手を回していたので新刀からは実は日輪刀でしたなんてものはありません。新選組なんかはそんなものなくても朝まで鬼を殺せそうなので政府非公認組織なのにお上に従っていた新選組とはそこまでいざこざはありませんでした。もしこの世界で刀剣乱舞の世界が未来にあればバンバン折れてもまた溶かされ他の刀に生まれ変わる同胞を、決して一振りの刀として付喪神になれず主を死なせ続けた刀をどう思っているんでしょう。
 成り代わり主が思い出さなかっただけで継国家は大河ドラマになって兄上の心なんて誰も知らずに美談とされています。お労しや、兄上。
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