ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

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第12話

 

 失敗した。思ったよりも恥ずかしい。自然に顔が赤くなり、熱を持っているのが自分でもわかる。キスはまだどうにかなった。でもそれ以上はどうしようもなかった。もう止めることはできない。それに鈴を巻き込んで一度見られてしまったのだし後戻りはできない。

 ちらりと真名に正面から抱きしめられて真名の頭を挟んで反対側の肩、僕の手の上に頭を乗せている鈴の顔も真っ赤で恥ずかしさから涙目になっている。それでも必死に後ろを見ながら警戒をしてくれている。真名の方も顔が赤くて思いだす事を避けるためにか集中して進んでいる。

 

「あ、モンスターだ。隠れるよ」

「わ、わかったよ」

「りょ、了解」

 

 互いに照れながらも、生き残るために必死に行動する。こんなおかしな関係だけれど、僕にとっては心地良く感じてしまう。光煇君は僕と触れ合ってなんてくれなかったし。

 真名が地面の窪みに入って私達を降ろし、その上から布をかけて砂などを置く。それから真名も入って私達の上に覆い被さってくるから、変則的な川の字みたいになる。少し重いけれど、自分でちゃんと身体を支えてくれているし、これは僕達を守るためだと分かっているので我慢できる。

 鈴の結界も合わさってじっとしていたらばれない。モンスターが通り過ぎるまでゆっくりと待つだけ。気付かれたら逃げて、それでも無理なら戦って時間を稼ぎ、倒せたら倒す。最悪、ルサルカの魔術で停止させて倒すか逃げる。これが僕達の基本戦術とすることにしている。

 こうしてもう何度も隠れていると、二人の体温と臭いはずの匂いが心地よく感じる。もっとも、アレばかりは少し前にしたけれど、慣れないし死ぬほど恥ずかしい。鈴も同じでこちらに視線を合わせようともしない。

 そう、トイレだけは本当に恥辱を味わうことになった。岩肌とかで傷ついて黴菌が入り、感染症などにならないよう、幼い子供のように真名に持ち上げられて足を開かれて排泄する。

 安全が確保されて時間がある時は僕と鈴が互いに拭けばいいけれど、無い時は真名にしてもらう。その過程で目を瞑ってやってもらっても時間が無駄になるので大事な所を見られるし拭われる。それにお尻を直接触られる。本当に恥ずかしくてやばい。鈴は死にたくなるとかいっていた。

 そこで僕と鈴は僕達だけだと不公平だと言って逆襲したけれど、こっちはこっちで問題があった。うん。自分達に魅力がある事をちゃんと認識できたけれど、なんともいえない空気になった。

 そこで出来る限り思い出さないように協定を結んだけれど、強烈に異性を意識することになってしまった。そんな状態で密着しないといけないから本当に大変。まあ、本当に僕達の事を守ろうとして、大切にしてくれているから別にいいけれど、うん。

 

「むぅ」

「どんな感じ?」

 

 唸り声が聞こえて、真名に問いかけるとすぐに答えてくれた。

 

「可愛い兎さんが七体いるんだよね~」

 

 その喋り方から、真名じゃなくて過去の英雄、英霊のアストルフォだとわかる。

 

「それって……」

「このままだとまずいかな。ちょっとマスターと相談するから待っててね」

「うん。お願い」

 

 少し待っている間に鈴を見る。鈴は腕で顔を隠してう~とかあう~とか漏らしている。まだ折り合いはつけられないみたい。無理もないけれど僕としてはこれからの事を考えると鈴と真名をくっつければ鈴は安泰だ。ただ、僕の居場所が無くなるのはいただけない。本当に悩ましい。まあ、今は考えていても仕方がないし、生き残る事を優先しなくてはいけない。

 だから、今は鈴の事を置いておいて真名の方を見る。真名のうさ耳が動いていてとても不思議に思う。もしかして、本物の効果があるのかもしれない。

 

「このまま待機してあいつらが移動したら移動する」

 

 今度は真名みたい。しかし、鈴の結界がすぐに壊されるとそうするしかない。相手が一匹だけなら或いは……と思うけれど、ここで活動しているのなら普通に強い。今もコッソリと覗くと、狼の集団を兎達が首を狩りとって身体を貪り喰らっている。

 周りに血の匂いが充満してかなり大変だけど、今動くと終わる。あいつらは餌を食べて隙を曝していると思えるけれど、それは違う。連中はしっかりと食べているように見せかけて一部が食べずに警戒して襲撃に備えている。

 

「ね、ねえ、大丈夫だよね?」

「大丈夫だ」

「う、うん……」

 

 ようやく折り合いをつけた鈴が心配そうに小声で聞いてくると、真名が僕達を引き寄せて抱きしめて伝えてくる。三人分の温もりと心臓の音で安心できる。必死に息を殺して隠れているけれど、兎達は移動しない。どうやら僕達に気付いたのかもしれない。

 

「仕方ないか……」

「なにそれ?」

「人形だよね?」

「そうだ。使える」

 

 確かガチャで出たまるごしシンジ君だったかな? それを投擲する真名。そのまるごしシンジ君は地面に降り立つと移動していく。それに気付いた兎達が襲い掛かって食べていくけれど、ぺっと吐き出してその場を軽く見た後、去っていく。

 

「これで大丈夫?」

「まだ駄目らしい」

「もしかして、罠?」

「そういうこと」

 

 しばらく待っていると、兎達が戻ってきて狼の死体を解体して持っていく。残ったのは肉片ぐらい。あのまま移動したら僕達は捕捉されて餌になっていたのだろう。

 

「じゃあ、もう少し待つの?」

「そうだな。確実に離れるまで待とう」

「確かにその方が確実ね」

 

 死体が残ってくれていれば僕の力で操りたいけれど、ここに出てくるモンスター達は骨までしっかりと食べていくのでろくにスケルトンモンスターを生み出せない。

 

「う~ドキドキするよ~」

「頑張ってくれ鈴。鈴が失敗してもリカバリーは頑張るからさ」

「それって誰かは死ぬ可能性が高いよね?」

「むしろ運が悪いと全員だよ」

「責任重大だよぉ……」

 

 現状、僕達は運命共同体。僕以外は死んだらやばい。いいや、違うか。鈴さえ生きていれば……ううん、僕以外が死んでもリカバリーできる。死体と死霊さえあれば二人を蘇らせる事ができるし、なんとかなるかもしれない。ベストは全員で生き抜くことだけど。

 

「よし、もう大丈夫だろう。行くよ」

「うん。恵里?」

「ああ、お願い」

「任せて」

 

 僕達を抱き上げて真名が移動する。行く先はわからないので全部真名にお任せ状態。でも、それでいい。迷いのない進み方は希望が持てる。例えそれが偽りでも。

 

「あ、駄目だ。こっちにも敵がいる」

「迂回するしかないわね」

「うん」

 

 それから何度も移動し、進んで戻る。下がる方か上がる方かはわからないけれど、どちらのルートも兎や狼達が邪魔してくるので迂回するしかない。

 

「どうするの?」

「倒すしかないんだろうが、きついな」

「なら、別の道を探すしかないわ。少しずつなら狩れるんじゃない?」

「それなら可能だと思う」

「なら、鈴も倒す方がいいと思う」

「少しずつ削っていくなら拠点が必要だけど、ここは長期的に行動するしかないか。じゃあ、こっち。水の気配がするらしい」

 

 水を確保できるのなら、拠点としては十分。でも、水場という事はモンスター達も水を飲みにやってくる可能性が高い。どうなるかわからないけれど、このままここに居るのもまずい。それに水場なら罠を仕掛けることもできそうだしね。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 水の音がする場所に移動すると、小さな川があった。ただ、予想通りそこにはモンスターが沢山いたので上流の方へと移動していく。上流には綺麗な地底湖が存在していた。周りにモンスターはいないし、植物も存在しない澄んだ綺麗な湖で水場としては十分。

 

「あ、これ駄目だね」

「どうして? 綺麗だよ?」

「綺麗すぎるのよ。それに見た限り生物がいない」

「植物もないし、明らかに異常なんだよな。これは仕方がない」

 

 地底湖に近付く前に真名は僕達を降ろして少し離れる。

 

「ルサルカ、護衛を頼む。二人を守ってくれ」

「仕方ないわね」

 

 いつの間にか、隣に軍服の女の子が立っている。僕達の魔力を使われているはずだし、召喚できたのかな? 

 

 

「大丈夫かな?」

「鈴はここから援護すればいいわよ」

「それもそっか。行ってらっしゃい。ほら、えりえりも」

「……いってらっしゃい……」

「いってきます。アストルフォ」

「はいは~い!」

 

 真名が地底湖に近づき、弁当箱に水を溜める。その瞬間、地底湖の方から水の濁流が襲い掛かってきた。それを予想していた真名、アストルフォは瞬時に下がりながらスネークソードで水を攻撃する。

 

「ほいっと」

 

 水の濁流を切り裂く前に剣が弾かれ、アストルフォの手元に戻る。弾かれた部分を見る限りでは鱗を持つ生物が濁流に擬態しているみたい。そいつはアストルフォが離れたことで地底湖の中へと戻っていく。

 

「だ、大丈夫!」

「大丈夫だ。それよりも生物みたいだけど……見えた?」

「鈴はよくわからなかったよ」

「僕は鱗を確認できたくらい」

「あいつは水の蛇よ。おそらく擬態能力で地底湖と一体化しているのね。それで近付いてきた獲物を襲って食べる。おそらく水中での戦いでは勝てないでしょうね」

 

 周りには簡単に岩を切断する兎の群れに地底湖には水の蛇。本当にここは魔境ね。

 

「どうするの?」

「あの、ルサルカさん、何か方法はありませんか?」

「そうね……まずは観察ね。あの蛇が呼吸が必要かどうかでも話しが変わってくるわ」

「結界で酸素を抜いて地底湖の水中を無酸素状態にする。それでも死なない可能性が高いよな?」

「そうね。だから釣りましょう」

 

 ルサルカから提案された内容は馬鹿馬鹿しい程の力尽くだった。それでも有効な事には代わりない。

 

「襲われない範囲で拠点を作って用意する。二人共、手伝ってくれ」

「手伝うのはいいけれど、明らかに僕達の力じゃ釣りあげられないけど?」

「うん。鈴や多分、ルサルカさんが協力してくれても無理だと思う」

「まあ、可能か不可能かでいえば私だけでもできるんだけど、この程度の事で力を使いたくないわ。だから自分達でどうにかしなさい」

 

 そう言って彼女は見えなくなった。自分達でどうにかするように言われても、釣りあげるのは真名一人だけだ。足の無い僕達の力じゃ手伝えないし。

 

「一人の力じゃ、いくらアストルフォの怪力があっても無理だ。だから、ここは道具を作ろうと思う」

「道具?」

「ま、またデスマーチ?」

「鈴は地底湖に結界を張るだけでいいから大丈夫だよ」

「そ、それならまだいけるかな?」

「僕は?」

「この計画には恵里の力が一番必要だ」

「わかった。なんでも言って」

「うん」

 

 作るように言われたのは土魔法でその辺にある岩を加工し、溝が掘られた円形の道具。滑車を作る事により、引き上げる労力をすくなくするのが目的みたい。

 そんなわけで作ってみたのを真名と修正し、削ったりして加工していく。そこで鈴が体験したデスマーチの片鱗を体験させられてしまった。

 

「あ、ここは数センチずれてる。力の伝わり方がかわるし、もっと滑らかにしてほしい」

「細かい」

「うんうん。細かいよね。でも、数センチじゃ合格もらえないんだよ? ミリ単位じゃないといけないんだ。恵里も頑張って!」

「……うわあ、めんどう」

「まあ、大まかな部分まででいい。俺が調整するから」

「ずるいよ~鈴にはそんな優しくしてくれなかったのに!」

「まあ、今は緊急事態だからな。出来る限り精度が高い物を速く欲しい」

 

 これって僕がまともな物を作れないって言われてるってことだよね? そんなの僕のプライドが許さない。ふふふ、いいよ。やってやろうじゃないか! このまま引き下がれるか! 

 

 

 数日間かけて土属性の魔法で岩を削り複数の滑車を作成。文句を言われないようにミリ単位で同一の物を作ってやる。ついでに計算して滑車を設置する台も作成。片足と両足がない僕達の力でも引き寄せられるようにしよう。準備しようとしたら、肝心な物が用意できていない。

 餌と糸だ。相手の蛇が食いつくような餌じゃないといけないし、そもそも巨体を支える糸が必要だ。それが用意されていない。

 

「餌はまるごしシンジ君を使う。糸は僥倖の拘引網(ヴルカーノ・カリゴランテ)を使えばいい。というわけで釣りをしようか!」

「途中で身体に乗ったよね!」

「きにしな~いきにしな~い。僕はきにしな~い」

 

 そういいながら僕が作った滑車を設置して地底湖の近くへと移動したアストルフォが、剣の先に取り付けた人形を投げ込む。少しすると水面に変化があり、大きな水の蛇が食らいついてくる。水面に飲み込まれていくワイヤーがついた剣。それを適当に動かしていくアストルフォ。

 

「──■■■■■■■■■!!」

 

 口内をズタズタにされた水の蛇は痛みのせいか、擬態を解除して姿をみせた。相手はその状態でアストルフォを殺そうと襲い掛かってくる。

 

「うさぎさんは捕らえられないよ!」

 

 アストルフォが走り、滑車の装置へと移動する。そこでアストルフォが飛び上がり、横から滑車にワイヤーの部分を伸ばして絡みつかせる。本当に不思議装備よね。そもそも本来は網のはずなんだけど。

 

「だ、大丈夫かな?」

「大丈夫そうよ」

 

 全力で走って離れると、滑車の力を利用したのか、純粋に怪力だからかはわからない。でも、鈴の結界によって地底湖の酸素が抜かれて弱っていた水の蛇は水中から引きずり出されてくる。

 

「鈴!」

「任せて! 聖壁」

 

 壁のような複数の結界が展開されて地底湖へ逃がす道を閉ざす。地上に出されて暴れる水の蛇に何を思ったのか、アストルフォが目に微かにしか捉えられないような馬鹿みたいな速度で口の中へと突撃する。そしてそのまま突き抜けた。当然、絶叫をあげる水の蛇と真名。当たり前だ。口から食道、胃、腸を通って中をズタズタに切り裂かれながら貫かれたんだ。

 

「た、倒せたの?」

「倒せたようだけど……アレにキスするのとか嫌なんだけど」

「う、うん……鈴もやだ」

「とりあえず、洗ってからね」

「……汚れを弾いて拒絶する結界って作れないかな?」

「努力次第じゃない?」

「大勝利! さあ、楽しいご褒美タイムだよ、マスター」

 

 血や汚物で汚れたまま水の蛇の上に立ち、剣を掲げるアストルフォ。純粋な目でこちらを見詰めてくるけれど、当然拒否する。

 

「いやよ」

「うん。嫌だよ?」

「なんで!」

「当たり前だろう馬鹿野郎」

「ヒドイ! ボク頑張って倒したのに! 宝具まで使ったのに!」

「やり方だ。あとはこっちでやるからアストルフォは休んでいてくれ。それとありがとう。ご苦労様」

「えへへ~まっかせて! ボクがマスターたちを守るからね!」

 

 嬉しそうな声が聞こえると、すぐに真名が倒れた。どうやら魔力の使いすぎと肉体を馬鹿みたいに行使したからみたい。

 

「えっとどうする?」

「まずは掃除ね。汚い状態でくっつきたくもないし」

「うん。鈴がやろうか?」

「ううん。僕がやるよ。鈴は結界を維持しておいて。一度解除して酸素を供給させないと駄目だからね」

「わかってるよ。真名の事、お願いね」

「任せて」

 

 結界を鈴に任せ、水の魔法を遠距離でぶつけて強制的に覚醒させる。綺麗にするために徹底的に水で洗う。魔力の無駄なんだろうけど、大腸菌を僕達が摂取しないためという大義名分がある。それにやっぱり恨みもあるからきつめに洗浄してやる。真名が起きたら僕達の服を脱がせてもらって、身体と服を洗おう。恥ずかしいけれど洗わないと匂いがまずい。

 ああ、後この蛇を僕の下僕と変えよう。それで兎に対抗できるかもしれない。すくなくとも護衛と移動には使えるはず。体内を刳り貫いて住居みたいにするのもありかもしれない。でも、そうすると逃げ場がないから駄目かな。まあ、気兼ねなく使い潰せる戦力はありがたい。

 

 

 

 

 

 

 

真名君の身体について。普通にクローンとかで再構成しないと駄目なレベルなので容姿については変更されるかもしれません。

  • 元の姿
  • 成長させたストレートユーリ(獣殿っぽい)
  • 黒髪男の子愛歌様
  • 痩せた元の姿(僕アカ。ファットガム)
  • アストルフォの容姿(憑依解除しても)

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