ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

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第22話

 

 代価を支払っただけあり、魔法陣が光り輝いて確定召喚が成功した。魔法陣から溢れ出した黄色の光(フラグメント)が詩乃へと注がれていく。

 しばらくして霊基再臨が成功したのか、詩乃の身体が光りに包まれて組み替えられていく。まず変身シーンのお約束として服が消滅し、次に髪の毛の色など身体が変わって彼女の服装がお腹の出た黄緑色の物になりブレスプレートが現れた。下は短い股までしかないような黒いズボン。ニーソックス。絶対領域が確保されており、最後に猫耳と尻尾が生える。その姿はアルヴヘイム・オンラインの姿とまったく一緒だ。いや、若干幼いかもしれないが姿自体は一緒だ。

 

「……ん……」

 

 魔法陣が光を失い詩乃が目を開けると、可愛らしい猫耳と尻尾がピクピクと動く。その姿に凄く触りたくなるけれど我慢する。

 

「詩乃、大丈夫なのか?」

「大丈夫。どちらもちゃんと私だから」

「良かった。一時はどうなるかと思った。もう一人で勝手に居なくならないでくれ」

「うん、ごめんなさい。そして、ありがとう。貴方の、真名のおかげで私は助かった」

 

 ほっと胸を撫でおろしてから、シノンに手を差し出す。

 

「帰ろう。鈴や恵里達が待っている」

「……だ、大丈夫かな? 恵里と喧嘩しちゃったけど……」

 

 握ろうとしてから、戸惑って胸に腕を引き寄せる。不安そうに聞いてくる。

 

「大丈夫。恵里が俺に追えっていって詩乃……シノンが行った方向を教えてくれたんだ。だから最悪な事が起こる前にたどり着けた。流石にあれ以上遅かったら助ける事は無理だったろうからな」

「そっか。でも、やっぱり不安」

「それなら恵里を一緒に説得してやるし、説得できなくても俺が守ってやるよ」

「本当? 私、人殺しだよ?」

「残念ながら、俺の中には人殺しが大好きな奴も居るし、騎士として人を殺してきたのも居る。自分の望みの為に街一つを生贄にしかけたのも居る。俺や鈴、恵里も永劫破壊(エイヴィヒカイト)という殺人衝動が起こる魔術を収めている。だから、何れ人は殺す。もちろん、一般人を殺す気はない。俺達の命や尊厳を脅かす連中だけだ」

「なにそれ……私の為に人殺しになるって事?」

「違うさ。遅かれ早かれ人殺しになる。俺達は戦争させられるためにこの世界へと呼ばれてきたんだ。それに詩乃はわからないだろうが、この世界はファンタジー世界だ。命がとても軽い世界で強盗とかも普通に居る。そうだな……アルヴヘイム・オンラインのような殺し合いをしている世界だと思えばいい」

「シノンの世界……」

「どちらにしろ、詩乃が殺したくないならそれでいい。援護してくれるだけでも助かるしな。恵里と鈴の事なら任せてくれ。代わりに二人の世話を頼む」

「それは任せて。それと……せっかく貰った服を台無しにしてごめんなさい」

 

 差し出した手を握り返してくれたので、一応納得はしてくれたのかもしれない。この世界は弱肉強食だから、殺す覚悟は絶対に必要だ。そうじゃないと大切な人が奪われる。それだけは嫌だ。

 

「いいよ。でも、服は気を付けないといけないか」

『それなら拾い集めておくといいわよ。縫い合わせればいいんだから』

 

 確かにルサルカが教えてくれた通り、縫い合わせれば使えるだろう。

 

「頼む。集めてくれ」

「うん」

 

 二人で協力して布を回収する。それからモンスターの死体についても回収しないといけないが、多すぎて大変だ。

 

「全部は持っていけないから、一部だけ持っていこうか」

「全部持っていけないの?」

「量が多すぎて持っていけないだろう?」

「え? あ……私、持ってけるよ」

「マジで?」

「マジだよ。見てて」

 

 詩乃が手を軽く振ると、空間に穴が出来た。もしかしてと思うと、詩乃がモンスターの死体を持ち上げてそこに居れていく。すると綺麗にモンスターの死体が光に分解されて消えた。

 

「やっぱりアイテムストレージ、なのか?」

「うん。インベントリとか、アイテムボックスとかも言われる奴だよ。シノンの力の一つだよ。使える、よね?」

「ああ、とても助かるよ」

「よし」

 

 拳を握って嬉しそうにする詩乃。俺が見ている事に気付いて恥ずかしそうにしながらこちらを見てきた。

 

「ごめんなさい。すぐに収納するね」

「頼む」

 

 気を良くした詩乃が次々と収納していくので、俺はアストルフォに警戒を頼んで警戒してもらおう。

 

「アストルフォ、頼む」

「ん~わかった~」

 

 アストルフォが何かを考えているようで、生返事だ。まあ、敵が来たとしてもルサルカも居るし、大丈夫だろう。しばらく警戒しながら、詩乃の手伝いをして死体を全て回収した。その後、拠点へと不安そうな詩乃を連れて帰る。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 拠点に到着すると、すぐに鈴と恵里が迎え入れてくれた。恵里は詩乃の変わった姿を見てホッとしたような表情になった。鈴は嬉しそうだ。肝心の詩乃と言えば、俺に後ろから抱き着いて顔だけだして隠れてこっそりと見ている。少し可愛い。

 

「可愛くなってる!」

「生き残ったのね」

「ただいま。ほら、詩乃」

「その、ただいま……」

「しののん、色々と変わってるけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫」

「そっか。それじゃあ……何があったか教えてね? 鈴、とっても気になるな。ねえ、えりえり、しののん」

「えっと……」

「真名君、いいよね? 二人の事を解決しないと駄目だから」

「確かにそうだな。話し合おうか」

 

 これからの事を考えると二人には話し合ってもらわないといけない。そんなわけで四人で近くに座り

 

「じゃあ、えりえりからでいいよね?」

「ああ、頼む」

「どうせなら恵里の過去を話してあげるといいと鈴は思うよ。えりえりだけ知っているから、こんな事が起こったんだから」

「わかった。確かに僕だけが知っているのは不公平ね。僕は……」

 

 そこから語られる内容は詩乃の過去と似ていた。いや、ある意味では詩乃より重い。何せ恵里は事故とはいえ大切な家族を自分のせいで失っているのだ。この点は詩乃と違う。詩乃は自分の手だが、殺したのはあくまでも他人だ。その後、それぞれ母親が壊れるのは同じで恵里はより一層ひどくなる。逆に詩乃は虐められてはいたが、親族の助けがあった。だからその後も壊れずに助かった。でも恵里は違う。頼る親族もなく、味方は居なかった。だから壊れた。

 

「ごめん、なさい……私、恵里に言ってはいけない事を言っちゃった……」

「僕も同じだよ。言っちゃいけない事だった。ごめんね。それと怖い思いをさせちゃった。それに人も止めさせちゃった。本当は脅すだけで何もするつもりはなかったんだけど……」

「うっ」

「アレは仕方ないよ。襲われかけたしののんにやることじゃないね」

「うっ……確かに頭に血が上ってた」

 

 改めて話し合う二人は今度こそ、喧嘩する事はなく話し合いが進んでいく。二人は互いに微妙に違えど共通する事があるから、互いの気持ちが理解できるのだろう。

 

「さて、これからは互いに仲良くできそうか?」

「うん、できそう」

「僕も大丈夫。友達……ううん、妹になるしね」

「え? 妹?」

「だって詩乃は真名の物だからね。僕も真名の物だから、姉妹だよ?」

「いや、それは待って」

「待たない」

「う~ん、とりあえず家族って事でいいんじゃないかな?」

「そうだな。鈴の案に賛成だ」

 

 二人が言い争いになりそうなので、鈴の提案に俺も乗る。

 

「まあ、僕としては一緒に寝る事とキスする事を受け入れたら、文句はないよ。それ以降は二人次第で」

「あ~真名と……」

「まあ、それは強制しないから、詩乃が悩んでくれ。恵里もいいな?」

「む~」

「ん~鈴から提案があるの」

「なに?」

「なんだ?」

「えっとね……奈落を生き残る為に隠し事はなしにしようよ。もう赤裸々に話し合おう! どうせ恥ずかしい事も全部みられてるしね!」

「賛成! ボク、大賛成!」

 

 今まで沈黙していたアストルフォが俺の口を奪って宣言する。

 

「ボクね、ボクね、凄く言いたい事があるの!」

「アストルフォか。何? とりあえず隠し事なしは僕も賛成」

「えっと、私も賛成。もう行き違いで怖い思いしたくないし」

「まあ、俺も賛成だ。で、アストルフォが言いたい事はなんだ?」

「それはね、マスターの身体についてだよ! とりあえず見た方が早いから()()()()()するね!」

「ちょっ!?」

 

 アストルフォの言葉と同時に俺の中から力が抜けていく。両手両足が消滅し、地面に転がる。それに片目もなくて視界が半分になる。呼吸も苦しくなってくるし、脂肪がほぼ消えたガリガリの身体は体温を急激に奪っていく。

 

「「「なにこれ!」」」

「何って、マスターの現状に決まってるじゃない」

「そうそう。ボク達が居なければこんな感じになっちゃうんだよ?」

 

 ルサルカとアストルフォが実体化し、両サイドから俺を支えてくれることでなんとか倒れずにすんだ。痛みも恐怖も感じないが、倒れて視界が塞がれるのは困る。三人の姿が見えないしな。

 三人の顔を見ると驚愕や怯えが見て取れる。確かにこの姿は他人から見たら怖いのかもしれない。

 

「これだけじゃないんだよ!」

「味覚、痛覚、恐怖、食欲、睡眠欲の感覚がないわ」

「後臓器も色々とないね!」

「なっ、なんでそんなことになってるの!」

「マスターが恵里と鈴を助けるのに片腕と臓器、感情などいくつかを代償として捧げてたね。詩乃を助けるために支払ったのは5、6歳くらいまでの記憶と両足になるかな」

「も、もしかして……わ、私を助けるために……?」

 

 詩乃が震えながら聞いてくるので、そっぽを向く。

 

「別に詩乃のせいじゃない。俺が助けたいから助けただけだ。だから気にする必要は──」

「無いと思ってんのこの馬鹿!」

 

 詩乃に怒鳴られて滅茶苦茶言われていく。

 

「これどうすんのよ! どうやって生活するの!」

「あ、アストルフォかルサルカが憑依してくれたら……」

「あ、ボクぱ~す」

「なっ!?」

「私も嫌よ」

「ルサルカまで!」

「これから移動と戦闘以外の時以外はボイコットしま~す」

「私達が憑依したら戻るからって、ちょっとサクリファイスを気軽に使い過ぎよ」

「いや、俺の身体程度で鈴達や詩乃が助かるのなら安く──」

「「「「「安くない!」」」」」

 

 全員に怒られた。本当に身体の現状が全て三人に教えられ、これからについての話し合いが決まった。

 

「とりあえず、危機感を覚えてもらうために私達はできるだけ力を貸さないから。夜だって鈴が結界を張って寝ればいいしね」

「え。責任重大なんだけど……うん。真名君の為に頑張るよ。寝てる間も結界を張り続けるのか……」

「私は全員の世話をするから。普段の生活は任せて。お母さんの事で介護はちょっと慣れてるし」

「それなら、死霊達を警備として放っておけば安全かな。今まで真名に頼りすぎていたし、僕も頑張るから」

「あの別に……」

「「「黙ってろ」」」

「はいはい、お口をチャックしましょうね~」

 

 そう言ってルサルカにキスされた。鈴達三人には黙ってろとか言われるし、大人しくされるがままになるしかない。まあ、詩乃を助ける為にサクリファイスを使った事に後悔はない。

 

「えっと、とりあえずは睡眠と食事よね?」

「僕達と一緒に無理矢理取らせるしかないよ」

「夜の警備はあすきゅんとるさるさにお願いすればいいかな。スケルトン達が突破されるまでに気付いてくれればいいと思うし」

「そのぐらいならしてあげるよ~」

「そうね。でも、だんだんと厳しくしていくからね」

「「「はい」」」

 

 俺を除いて五人で色々と決められていく。これって完全に管理されるという事か。おかしい。恐怖は感じないのに嫌な予感はする。

 

「まず真名君のサクリファイスは使用禁止だね」

「うん。大人しく世話されるように」

「せめてガチャは引かせてくれ」

「そのガチャだけど、それも使用禁止よ」

「え”!?」

「いや、また私のような子を召喚されても困るし、聞いた話じゃ凶悪なモンスターも召喚されるんだよね?」

「は、はい……その可能性はあります」

「うん、禁止。で、いいよね?」

「賛成~」

「僕としてもそうかな」

「待て待て、ガチャが引けないなんて地獄じゃないか!」

「ここが地獄でしょ」

「地獄だね」

「うんうん」

 

 ルサルカとアストルフォはケラケラと笑っているが、これは非常に不味い。

 

「お菓子とか食料の供給とかあるんだけど!」

「人が増える方が困るから。戦えない人だって出るんだから、安全確保ができないと駄目だね」

「うん。真名君、ちょっと頭を冷やして考えてね?」

「それでもガチャを引く!」

「……鈴、スマホを取り上げるね」

「待って!」

「待たないよ~」

 

 スマホを取り上げられた。睨み付けるけれど俺に味方は居なかった。

 

「俺の娯楽がぁぁぁっ、命がぁぁぁっ」

「僕達が娯楽になってあげるからいらないよね」

「うん。そうだよ。それにガチャに引けを取らない娯楽ならあるよ」

「あるの?」

「しののんが協力してくれたらね」

「私なら言ってくれたらなんでも協力するけど……私のせいだし……」

「よし、言質を取ったからね。拒否はさせないよ」

「えっと、その、エッチな事以外なら?」

「大丈夫。というわけで、しののんをモフろう!」

「え?」

「ふむ。なるほど……娯楽として詩乃の耳と尻尾が提供されるのか。それならばガチャは一時、我慢できるかも」

「待って。この耳と尻尾、凄く敏感なんだけど……」

「頑張ってね!」

「頑張りなさい。自分でエッチ以外って言ったでしょ」

「うっ……わかったわよ。好きにすればいいじゃない」

「「やった~!」」

 

 思わず鈴と二人で喜んだ。詩乃からはジト目をもらったけれど仕方がない。それほど魅力的なのだから。

 

「よし、隠し事なしで仲良くいこ~」

「あ、隠し事と言えば思いだしたけれど、詩乃にアレを伝えないといけなくないか?」

「アレ?」

「ああ、アレね」

「なんの事?」

「実はね……」

「スマホを見た方が早いわよ。はい、これ」

「動画? いや、アニメか……え”」

 

 動画を見た詩乃は茫然自失となってしまった。だから、アストルフォにお願いして手足を戻してもらい、詩乃を後ろから抱きしめて猫耳をモフモフしてなだめる。本当に好き勝手に弄っても怒られない。それほど自分の正体に驚いたのだろう。ただ、鈴が尻尾を触ると身体が跳ね上がったので流石に気付いた。ただ、茫然自失は継続していて、恵里の言う事に従って服を脱いで一緒に眠る事にはなった。寝袋に一緒に入った詩乃布団は気持ち良かった。眠くはないけれど、横になっていたら何時の間にか眠っていた。

 

 次の日は詩乃の悲鳴で目が覚め、俺の頬には紅葉が刻まれる。

 

 

 




さて、迷宮でやりたいことはだいたい終わったので進めていきます。
ボスはヒュドラか、それともなんか用意するか。いや、ヒュドラでいいか……と思ったけれどルサルカに止められたら終わりなんですよね。

清水君ヒロインアンケート 人になるます

  • 波の鳥 フ
  • 謳の鳥 コ
  • 空の鼠 ク
  • 深海のナニカ レ

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