ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。年末年始なんてほぼ休みがありません。
ちなみにFGO爆死しました。くそう、なんでキアラさんなんだ。アビーかメルトリリスが欲しかったのに! 物欲センサーめ!

福袋に賭けて出そうとしていたのに一番難しい奴じゃないか! どう考えても破滅しかない! よし、ここはプリコネのキャルかグラブルから出すべきか……と思いましたが、聖杯少女美遊をしましょう。着物姿でイリヤと出会う前の状態で。


第24話

 気持ち良い温もりと身体を揺すられる感触で目を覚ますと、頭の後ろにある柔らかな小さな膨らみの感触がある。左右に目をやれば両脇に鈴と恵里がそれぞれ詩乃の腕を枕にしながら、裸のまま俺に抱き着いて眠っていた。

 

「んんっ……起きた?」

 

 背後から恥ずかしそうに聞いてきた声に頭を動かして上を向くが見れない。

 

「ちょっと、動かない、で……」

「悪い」

 

 擦れて変な感じがするのだろう。今、俺は詩乃の胸を枕にして眠っていた。とても気持ちが良くてスッキリとしているが、詩乃にとっては羞恥プレイだろう。こうなっているのも皆で話し合って寝心地を追及した結果だ。俺の手足がなくなったので、この中で両手両足がある詩乃が下になり、その上に仰向けで俺が寝て、左右に鈴と恵里が寝る形に収まった。

 詩乃は裸を見られるのは嫌がるので、基本的に俺に見られないようにお風呂の時は目隠しをされる。寝る時も二人がガッチリとホールドしてくるので見る事はできない。下着姿でもいいのだろうが、寝心地が悪いし、痛いから皆で頼み込んだ。

 

「おはよう」

「うん、おはよう。起きたら退いて。こっちを見ないでね」

「ああ、わかってる。ルサルカ」

「はいはい」

 

 俺にルサルカが憑依して、身体がルサルカの物へと変化していく。アストルフォでもいいのだが、女の子である詩乃のためにこちらにしている。それが原因で詩乃は虐められたが。

 

「じゃあ、出るわね」

「うん」

 

 最初の数日はルサルカが詩乃に悪戯をしていたが、本気で泣き出したので止めてくれた。怒るのではなく、泣き出したというのが詩乃の想いが伝わってくる。拒否したいけれど拒否はできないと思っていたのだろう。彼女は俺の片腕と両足、それに欲求を消した事に罪悪感を感じているからだろう。

 そう思っていると、ルサルカが寝袋から外に出てしばらく歩く。といっても、ほぼ真っ黒なので見えない。詩乃が二人を起こして着替えているのだろう。食事の用意を行う為に三人に声をかけてから移動する。

 

「ご飯を取ってくる!」

「わかった」

「いってらっしゃーい」

「ん~」

 

 詩乃が居るから、二人も不安になることはない。なので魚を取りに行く。そう、俺達はまだ拠点から動いていない。流石に詩乃の変化を試さないといけないからだ。

 

「じゃ、変わるわね」

「ルサルカのままでもいいが……」

「嫌よ。だって濡れるじゃない」

「アストルフォ」

「任せて~」

 

 ルサルカからアストルフォに変化し、湖に潜って食料を取ってくる。戻ってくると、三人が着替えて待っていた。

 

「お待たせ」

「おはよ~」

 

 挨拶を交わした後、食事を開始する。その時点でアストルフォ達は宣言通りに俺から抜けて詩乃の世話になる。詩乃の膝枕に頭を乗せて食べさせてもらう。

 

「じゃあ、やるわよ。あ~ん」

「あ~ん」

 

 詩乃が食べさせてくれるのは嬉しいが、味もしないし食欲も無くなったので詩乃の太股の感触と照れながら魚の切り身を差し出してくれる詩乃の表情を楽しむしかない。

 

「美味しい?」

「……やっぱり美味しくない……」

 

 嘘をつきたいけど、つかない。隠し事はなしという決まりになったから、ちゃんと伝える。もし嘘をついたら三人から嫌われるかもしれないし、それは嫌だ。

 

「でも、食べないといけないよ?」

「うん。無理しても食べないと動けなくなるしね」

「わかっているけれど、噛む感触しかないんだよ」

「それなら僕に良い考えがあるよ」

 

 そう言って恵里は魚を口に含んで何度か噛んだ後、俺に口付けをしてきた。そのまま唾液と一緒に噛まれた魚の切り身が口の中に入れられる。当然のように魔力を流し込みながら房中術を発動してくる。すると身体の中に恵里の心地良い魔力が行き渡って気持ち良くなってきた。すると自然と自分から魔力と一緒に飲み込んでいく。

 

「あ、食べた!」

「こんな感じで食べさせればいいのよ。魔力は求めているんだからね」

「えっと、この方法は流石に……」

「え~真名君とのキス、気持ちいいよ?」

「そうそう。詩乃もしたら病み付きになるから。それに……」

「……わかってるわよ。嫌だけど、腕と足の代わりにならないと……」

「嫌なら別にいい。俺は……」

「うるさい」

「んぐっ!?」

 

 詩乃が頭を下げてきて軽くキスされ、すぐに離れていった。彼女の顔を見上げると真っ赤にしながらそっぽを向く。

 

「嫌なんじゃ……?」

「嫌だけど嫌じゃない……」

「なにそれ?」

「うるさい。助けてもらった感謝はしてるから、キスしたの! わかれ!」

「無理だって」

「鈴、判定は?」

「真名君のアウトかな」

「なんで!?」

「女心?」

 

 とりあえず、詩乃とのスキンシップをもっとしていけば仲良くはなれそうだ。

 

「まあ、僕と鈴が食べさせればいいだけだしね」

「そうだね~」

「それでお願い。口移しで食べさせるとか無理」

「まあ、俺としてはお願いしますとしか言えない。魔力さえ貰えれば文句は……いや、ガチャがしたい」

「それは駄目だよ?」

「駄目ね」

「うん、駄目」

「くそぅ、くそぅ……」

 

 三人がやれやれと言った雰囲気を出しながら、俺に食べさせてくれる。魔力もたっぷりと貰って元気になっていくのがわかる。身体の大部分をアストルフォ達に頼っているから、魔力が無くなれば死活問題だしな。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 食事が終わり、アストルフォが憑依してくれる。これでようやく自由に動けるようになった。なので立ち上がって身体を動かして確認する。本当ににアストルフォ達が居ないと俺は何もできない。皆の存在が俺の支えとなっている。互いに助け合う今の環境はある意味では理想だろう。

 

『まったく、マスターはボクが居ないと駄目だね!』

「まったくもってその通りだよ、アストルフォ。何時もありがとう」

『やった、マスターにお礼を言われた~! ひゃっほう!』

『コイツ、ちょろいわね』

「ルサルカもありがとう」

『ふん。お礼を言っても何も出ないから。それよりも魂をもっと寄越しなさい』

「それはもうちょっと待ってくれ」

『はいはい。早く人の苦しみもがく姿が見たいのよ。今の貴女達の姿も結構いいけれどね』

『変態だ~』

『女装男に言われたくないわ』

 

 今、アストルフォの姿をしているのは俺なので、ルサルカの言葉は俺にもダメージがくらってしまう。まさか、自分が女装男の娘になるなど誰が想像しようか。似合っているとはいえ、やはり嫌だ。

 

『でも、似合ってるでしょ?』

『悔しいけれど、似合っているわ』

『いえ~い! ボクの勝ち~』

『はいはい』

 

 落ち込んでいると詩乃が鈴と恵里の二人を連れてくる。これからの予定は決まっているので早速動く。まず詩乃はアストルフォの剣とかと同じように実体化した弓の訓練だ。俺はルサルカに憑依してもらって鈴と一緒に作業。恵里はモンスターの死骸をアンデッド化して使役していく。

 

「じゃあ、やるわよ」

「は~い」

 

 鈴を岩に背中を預けさせてから横に座り、モンスターから剥ぎ取った皮を加工していく。といっても、皮に穴を開けてそこにボロボロになった軍服の布を引き裂いて糸の代わりの紐として結んで縛っていくだけだ。これで簡単な服モドキはできる。それと鞄も作る。詩乃と逸れるとアイテムストレージが使えなくなるから、道具は小分けして持っていなくてはいけない。

 

「しかし、鈴や恵里、詩乃は服を作ったことないのね」

「裁縫の授業くらいだし……」

「子供を作ったら服を手作りするのは普通だったけど、今はそんなことないものね」

「買えばいいからね~」

 

 ルサルカと鈴の会話を聞きながら、詩乃の方を見る。詩乃は弓を構えて矢を放つ。矢は暗闇に消えて見えなくなっていくが、詩乃はしっかりと見えているようだ。

 

「外した。こう、かな?」

 

 次々と綺麗な姿勢で真剣な眼差しをしながら射ていく姿は絵になっている。数を重ねるごとに放たれる矢の速度もどんどん速くなっていき、風切り音まで変化しだす。同時に的の岩が崩れるような音も聞こえてきた。

 

「こんなんじゃシノンになれない。もっと精度をあげないと……」

 

 スマホに入っているアニメや小説を読んだ詩乃は自分が目指す先を理解している。最初は驚いていたが、すぐに自分なりに折り合いをつけたようだ。詩乃としては知られていないはずの過去を全て知られていたのだし、信じるに値する証拠があった。それでも自分が作り物だということには認めていない。誰かが観測して書き上げたのだと思うようにしたようだ。そう思い込むことにしているのだろうとルサルカが言っていた。

 実際、詩乃もわかっているのだと思うが、愛歌が何か細工をして詩乃の記憶を封印でもしたせいで普通に生きて来た記憶だけがある。経験してきた事が自分が作り物だとは認められない。だから、並行世界という事にしている。確かに原作では詩乃が召喚される事やあの襲われる時には詩乃のストーカーが介入して助かった。だがこちらの詩乃は愛歌の介入か何かでストーカーが来ずに、人を追加されてそのまま犯されそうになっていた。ひょっとしたらストーカーともまだ逢っていないのかもしれない。

 どちらにせよ心に大きな穴が空いて負担がかかった詩乃は目の前の問題に対処する事で答えを先送りにし、俺達で空いた心を埋める事にしたのだと思う。

 

「ルサルカ、的を出して」

「はいはい。おいで、食人影(ナハツェーラー)

「ありがとう」

 

 対人戦の訓練にもなるので、食人影(ナハツェーラー)を使うのはあっている。実際、詩乃は食人影(ナハツェーラー)を狙って外している。

 

「……うまくできない……」

「人を撃つ事になるのだから仕方がない。特に詩乃は難しいだろう」

「弓なら平気だと思ったけれど……うまくいかない」

「人を撃つ事にかわりないからな」

「うん……」

「無理して撃つ必要はない。詩乃は俺達が守るからモンスターを倒してくれるだけでもいい。人の相手は俺達に任せてくれ。といっても、俺は身体を貸すぐらいしかできないが……」

「それでも充分だと思うけど……むしろ、自分の身体が勝手に動いて接近戦とかをされるって、想像したら物凄く怖いんだけど……」

「恐怖は感じないから大丈夫だ」

「ああ、なるほど……だから戦えているのね」

 

 詩乃が弓を構えて矢を番えて射る。やはり、食人影(ナハツェーラー)を外れる。詩乃の頬に汗が滴り落ちていく。小刻みに身体も震えているから、矢が命中するはずもない。

 

「ふみゃぁっ!?」

「ふっふっふっ、猫耳~」

「鈴! な、なにをするの!」

 

 鈴が結界を足場にして自らを飛ばして抱き着き、詩乃の猫耳をモフリだす。可愛い悲鳴をあげる詩乃だが、震えは止まったようだ。ルサルカも参戦するようで尻尾を掴んでペロリと舐めた。

 

「ひにゃぁっ!? にゃ、にゃにをっ!」

「そんな震えてても訓練にはならないわ。だから、気を紛らわせてあげる」

「鈴はもふりたいだけ~」

「まっ、んんっ!? やぁっ、そこっ、だめぇっ!」

 

 びくびくと身体を震わせる詩乃はやがてビクンッと身体を痙攣させた。詩乃の顔は涙を薄っすらと浮かべて上気した頬でこちらを見てくる。

 

「二人共、そこまでにしておけ」

「あら、もうちょっとでいかせてあげたのに」

「どこにだよ」

「ふふふ」

「鈴はわかんないよ~」

 

 ルサルカの言葉に真っ赤に顔を赤らめながら答える鈴。しっかりとわかっているようだ。しかし、詩乃の尻尾を触った感触は気持ち良かった。もっと触りたい。

 

「あっ、あぁ……あ、アンタ達……後で……覚えて、なさい……」

「ふふ、いいわよ。覚えててあげる。だから、同じ事をしてみなさい? 相手はマスターだけどね」

「なぁっ!?」

「あ、そういえば召喚獣の責任は召喚者が取るんだっけ?」

「つまり、私が真名に……」

 

 鈴の言葉に顔を赤らめる詩乃だけれど、ある一つの事に気付いた。

 

「それってルサルカと詩乃のやった事の責任が二つもくるんだよな」

「もちろんやられたらやり返すわよ?」

「それはわ、私も……」

「無限ループだね!」

「被害、受けるのは俺と詩乃だけになりそうだから、禁止する」

「それって私のやられ損じゃない!」

「確かにそうだよね」

「なら、これで決着をつければいい」

 

 そう言いながらルサルカの身体に後ろから抱き着いたのは恵里だ。彼女は手足に黒色のガントレットとグリーブが装着されている。髪の毛の色も黒色から銀色に変化し、服装もジャンヌダルク・オルタの物に変化していた。おそらく、夢幻召喚(インストール)を自分なりに再現したのだろう。

 自分の身体を依り代とし、ジャンヌダルク・オルタの魂をその身に宿す。普通ならジャンヌダルク・オルタと人である恵里では魂の力に差がありすぎる。しかし、それは恵里が普通の人の場合だ。この世界に転移し、降霊術師という天職を得た恵里は更に魂を操って神へと至るための魔術、永劫破壊(エイヴィヒカイト)を覚えた。それも自己流で覚えた後、ルサルカに本物を教えてもらって自分なりに改造している。

 さて、ここで問題となるのはジャンヌダルク・オルタの出自だ。彼女はジャンヌダルク本人ではない。狂ったジル・ド・レェが魔力を使ってなんでも願いを叶える聖杯で作り出した復讐者である贋作(竜の魔女)だ。本来なら英霊ですらないが、人々の想いの力によって英霊へと昇華された。皆がさっさと召喚させろやぁ! と願った結果ということだ。

 本来の英霊ではないからか、恵里にとっては扱いやすい存在なのかもしれない。いや、恵里とジャンヌダルク・オルタの性格は似ているかもしれないから、案外協力関係になるかもしれない。なんせ、どっちも猫被りで腹黒だ。

 

「コイツ、燃やしていいかしら?」

「駄目」

「ちっ」

 

 恵里の口から別人のような声が聞こえる。どうやら、ジャンヌダルク・オルタなのだろう。しっかりと契約しているみたいだし、大丈夫だろう。というか、混ぜるな危険じゃないだろうか? 

 

「えりりん、これってトランプ?」

「うん。トランプだよ。色々と賭けようか。王様ゲームみたいな」

「いいね、それ~」

「やろうやろう!」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 詩乃が反対するが、多勢に無勢でやる事になった。ルールとしては勝者が敗者の一人から二人に命令し、その内容を実行する。ただし、本番などはなし。ボディタッチやキスとかは有り。拒否すると服を一枚脱ぐことで免れる。ちなみに敗者側はトランプを引いて勝者が引く前に言ったアップかダウンかで決める。命令を聞いた人が次のゲームを決めて再スタート。

 こういうルールでやったのだが、結果は悲惨な事になった。アストルフォ以外、全員が服を脱いでいて、鈴と恵里、詩乃、俺とルサルカは下の下着以外剥ぎ取られた。

 アストルフォの直感が冴えわたり、ほぼ一人勝ちだ。ちなみに俺はルサルカに憑依している。流石に手足がないと参加はできないしな。なので手ブラの感触が伝わってきたりもする。

 

「いえ~い! ストレートフラッシュでボクの勝ち~!」

「またか!」

「こいつ……」

「駄目だ、勝てない」

「おおっと、魔術による反則は駄目だよ~?」

「ちっ」

 

 見た目は美少女達の脱衣ゲームで見た限りはいいが、油断したらやばい事を色々とさせられる。理性が蒸発しているだけはある。例えば詩乃達の全身を撫でまわしてこちょばすとか、犬の真似をさせられたりとか、乗り物にされたりとか、膝枕を強要されたりとか、褒めちぎるように言われたりとか。たまに勝てても持ち前の運で確実に回避してきやがる。最後には皆で如何にアストルフォを攻略するかという話になっていた。

 まあ、いい暇潰しにはなったので良かった。他にも魔力交換ができて俺にとっては楽しいひと時ではあったし、アストルフォに対する団結で仲良くはなれたと思う。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 数日が経ち、改めて旅立つ準備ができたので皆で旅を始めることにしようと思う。というのも、これ以上ここに留まるとずっと居たくなってしまう。ここには安全になった拠点と水場、食料の供給場所がある。贅沢を言わなければ生活できるし、人を止めた俺達であれば楽に生活できてしまう。また、互いの身体を貪る事で快楽を得られるし、この環境では互いが協力していかないと生きていけないから自然と互いを尊重して仲良くなる。互いの人に見せるべきではない恥部も全て見せているのも大きいだろう。

 だが、やはり鈴と詩乃はそれぞれの日本に帰りたがっている。恵里は俺と鈴が居る所ならどこでもいいらしい。だが、ここで問題なのは俺と恵里だ。鈴と違って永劫破壊(エイヴィヒカイト)の亜種ではなく、本来の永劫破壊(エイヴィヒカイト)は強烈な殺人衝動がある。こんな状態で日本に行けばまともな生活は過ごせないので、殺しまくっても問題がない生物が居るここの方が理想郷といえる。

 それにハジメの事もある。もちろん、すでに手遅れの可能性は大いにある。それでもハジメには悪いが、鈴や恵里、詩乃達を危険にさらす訳にはいかなかった。だから、詩乃が力をちゃんと使え、非常用の食料である干物が出来るまではここで待機していた。

 

「というわけで、オルクス大迷宮を本格的に探索して脱出したいと思う! 帰りたいよな?」

「僕はどうでもいいけど……鈴達に従う」

「鈴は帰りたい。お母さんやお父さんに会いたいし……」

「私もお母さんに会いたい。できるかはわからないけれど」

『ボクはマスターにお任せだよ』

『私も別にどうでもいいわね。でも、地上には出たいわ。だって狩り放題なんだから』

 

 アストルフォは俺に従ってくれるようだし、ルサルカは……アレだ。人を喰いたいのだろう。性的な意味か、文字通りの意味かはわからないが。

 

「それに鈴達の足や手をどうにかできるかもしれないしね」

「目指すは身体全部を取り戻す事だね」

「そうね。三人の世話をするのはしんどい。恥ずかしいし……」

「しののんの負担が大きいからね~ごめんね?」

「別にいいわよ。必要な事だし」

「まあ、脱出に向けて動こう。というわけで、詩乃。荷物を頼む」

「了解。それと少し試したい事があるのだけど、いい?」

「いいけど、なんだ?」

「なんでも言うこときいちゃうよ~」

「鈴じゃなくて恵里なんだけど……」

 

 詩乃の言葉に鈴がしょんぼりしだしたので、鈴を抱きしめて頭を撫でて慰める。前では絶対に出来なかったが、今は基本的に自分の姿ではなく、アストルフォかルサルカの姿で過ごしているから平気でできてしまう。二人共、美少女だからだ。まあ、アストルフォは男の娘な訳だが。

 

「僕?」

「うん。恵里が操ってるアンデッドだけど……」

「ああ、この子達ね」

 

 恵里の周りには沢山のアンデッドが存在している。ここは水場であり、水蛇や兎達がよくポップ、生み出される場所だ。そいつらが生み出された瞬間、鈴の結界に感知されて詩乃に狙撃される。着弾地点を鈴がしっかりと把握しているので、詩乃に教えて微調整を加えさせる着弾観測をする。これによって高確率で仕留められる事ができる。最初は攻撃を命中させる事ができなかった詩乃だが、恵里がモンスターを解体させたり、アンデッドを差し向けたりして強制的に慣れさせた。詩乃も何度も吐きながら頑張った成果だ。ちなみにスポッターがいるスナイパーとなるので命中率はやばい。

 

「こいつらって死体でしょ。だったら仕舞えるんじゃないかなって……」

「アンデッドは確かに物だね」

「試してみる価値はあるわ」

「わかった」

 

 試してみたが、アイテムストレージには入らなかった。原因を調べてみようとしたが、あっさりと判明した。単純な事だ。

 

「恵里の魔力によって操られているアンデッドはあくまでも恵里の所有物だ。だから、詩乃には入れられない。譲渡すれば可能だろう」

「じゃあ、あげる」

「いらない」

「……なんで?」

「臭い。気持ち悪い」

「あ、鈴も嫌かな」

 

 正直、俺も思う。サーヴァント達みたいな感じならいいが、ガチの死体を連れて歩きたくはない。詩乃からしたら、見たくもないからアイテムストレージに入れて隔離しようと思ったのだろう。これなら、受け入れてもいいかもしれないが、恵里の物として受け入れるのはできても自分の物としてはどうしても嫌なのだろう。特に詩乃はケットシーのアバターとなっている事で臭いにも俺達以上に敏感だろうから納得だ。

 

「スケルトンでも確かに臭うからね。うん、僕も嫌だ。でも便利なんだよ」

「便利だから、諦めてるけど……私の物にして荷物にするのは嫌」

 

 ゾンビやスケルトンは偵察に使えるからな。

 

「まあ、ドロップ品と考えれば殺した状態ですぐに収納するのなら大丈夫。解体した状態なら問題なし。でも……」

「スケルトンは囮として使い潰せばいいだろう。常に俺達から離れて行動させる。それなら臭いはましになる」

「その場合、僕の戦力は怨霊と炎ぐらいになるよ。アンデッドは自動操作になるからね」

「大丈夫だ。物理面はアストルフォと詩乃で担当するし、防御は鈴が居る。霊的な存在に対しては俺達は強いから、炎で攻撃してくれればいい」

「それならわかった」

 

 実際に偵察隊を出した方が安全は確保できる。少なくとも偵察に出したアンデッドがやられたら、そこに何かはある訳だし、それがわかるだけでも大きい。

 

「じゃあ、早速出すね」

「頼む」

「うん。任せて」

「さて、それじゃあこっちも準備だ」

「お願いね、真名君」

「頼むよ」

「ああ、任せろ」

 

 鈴と正面から抱き合うようにして首に手を回してもらう。その状態で後ろから恵里に抱き着いてもらい、抱え上げる。俺の顔を挟んで二人の顔が左右にある。二人の温もりと匂いが伝わってくるが、努めて表情を変えないようにする。鈴と恵里の身体をそれぞれ片手で支えるためにお尻に触るが、こればかりは仕方がない。

 

「これ、結構恥ずかしいね……」

「そう? 僕としてはこれぐらい密着できると安心できるけどね」

 

 二人が俺越しに会話するせいで、息が耳にあたってこそばゆい。それでも我慢しないといけない。

 

「準備できたわ」

「ありがとう」

 

 詩乃にお礼を言う。彼女の言う通り、周りにあった荷物は全てなくなっている。

 

「オルクス探検隊、しゅっぱ~つ!」

「「「「お~!」」」」

 

 アストルフォが俺の口を使って元気よく告げると、鈴達も乗ってきた。こんな感じで出発したのだが、色々と順調だ。何せ暗視も可能なケットシーの詩乃が居るのでスケルトン達の偵察から逃れた相手でも、あっさりと矢を放って仕留めていくのだ。

 

「あ、止まって。なんか居る」

「わかった」

 

 先頭を歩いている詩乃が言ったので、止まると同時に詩乃が矢を放つ。すると暗闇の中に生成されて射られた矢が消えていく。

 

「よし、仕留めた」

 

 二人を抱え直してから詩乃が矢を放った方に移動すると、突き刺さった矢によって岩に串刺しにされているカメレオンみたいなモンスターが居た。それも首が撃ちぬかれている。

 

「首か。残念」

「ヘッドショットには届いてないね」

「いや、充分にすごいと鈴は思うよ?」

「俺も思う」

『黒のアーチャーと比べるとまだまだだね!』

『充分だと思うんだけど……』

 

 アストルフォは比べる相手がヤバすぎる。ケイローンとか、神話の存在だ。詩乃も詩乃で残念がっているが、暗闇の中で数十メートル先の相手を射抜くとか、どう考えても人の領域じゃない。後、恵里は詩乃に厳しすぎる。

 

「詩乃の理想はどこなんだ?」

「キロかな」

「無理」

「無理だろ」

「無理ね」

「銃じゃないとな」

「銃、か……」

 

 シノンの事を思いだしているのだろうが、今はとりあえずカメレオンっぽいのを回収する。カメレオンの姿から、姿を消す能力があるのかもしれない。それを手に入れられるとかなり楽になる。

 

「これは鈴も負けてられないね。えりりんも一緒に頑張ろう!」

「そうだね。僕ももっと力を磨かないと……」

「じゃあ、できる限りモンスターを倒して肉を手に入れながら進むか」

「スキルが増えるかもしれないしね」

「詩乃の言う通り、スキルが手に入ったら助かるからな」

「じゃあ、見つけた奴から引き寄せて狩ってくね」

「頼む」

 

 厄介なカメレオンは詩乃に倒してもらって、それ以外は弱まらせながら連携して全員で狩っていく。といっても、俺と鈴達は能力はあっても本格的な戦闘経験は無く、素人だ。なので教師として歴戦の勇士であるアストルフォや戦場を渡り歩いてきたルサルカに教えてもらう。もっとも、アストルフォはほぼ擬音なので参考にはならない。

 ルサルカは前衛を食人影(ナハツェーラー)に任せて戦う後衛タイプなので詩乃や鈴、恵里達とは相性がいい。彼女の指示で立ち回りを実戦で覚えていく。ある程度慣れたら、今度は一対一で鈴に結界を張ってもらいながら接近戦を行っていく。

 鈴の結界は万全の状態だと破壊されるが、傷だらけにして弱まらせてやれば弾き飛ばされるだけなので、訓練に持ってこいだ。ちなみに鈴は扇子で戦い、恵里は本なのだが……流石にアレなのでジャンヌダルク・オルタが使っている剣や槍を使うようになった。剣はアストルフォがしっかりと教えてくれている。

 俺はアレだ。才能が一切ないのでアストルフォとルサルカ任せだ。それと本当にやばい時は俺と詩乃が合体してルサルカとアストルフォを全力モードで解き放つ。魔力は馬鹿みたいに必要だが、生き残る事はできる。

 詩乃は人型はまだ殺せないので、俺が殺すのに詩乃の身体を使うという事もできるのは助かる。こうすれば詩乃の安全は確保できるからな。

 

 

 

 ◇

 

 

 しばらく進んでいるとある物が見つかった。それはハジメが着ていた服の布切れだった。それも血液が付着して食い千切られたような跡がある。

 ハジメはもう──

 事実を認識した俺と鈴は涙が流れてくる。恵里はただ目を瞑り、詩乃は辛そうにしている。アストルフォは平気そうにしていて、ルサルカも同様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




なお、ハジメ君は元気にユエとレヴィと共に元気よく最下層を目指しております。この温度差はしかたないね!

ちなみにクマさんは服の一部を捨てた感じです。布なんて肉食獣が食べても美味しくないしね。

清水君ヒロインアンケート 人になるます

  • 波の鳥 フ
  • 謳の鳥 コ
  • 空の鼠 ク
  • 深海のナニカ レ

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