ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

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第28話

 ユーリがニコニコと笑いながら、鈴と恵里以外の子について自己紹介を求めてきたので、詩乃とルサルカ、アストルフォについて説明する。ただ、詩乃と鈴、恵里はユーリから放たれる重圧(プレッシャー)にガタガタと震えていた。いや、震えるどころじゃない。更にやばい事も起きている。色々な液体を流してしまっているのだ。

 

「お兄ちゃんの敵ではないんですね?」

 

 ユーリが詩乃達を一瞥した後、俺に聞いてくるので素直に答える。三人は信頼できるし、信用できる俺の、俺達の味方だ。だから、嘘を許さないと言った感じの重圧(プレッシャー)にどもりながらもしっかりと答える。

 

「あっ、ああ……味方だ」

「わかりました。貴女達はお兄ちゃんの味方ですか? 敵ですか?」

 

 ユーリは鈴、恵里、詩乃をみる。三人は涙を流しながらコクコクと頷いている。いくら力をつけて実戦を経験したとしても、相手が悪すぎる。ユーリからしたら、三人は羽虫みたいな物だろう。

 三人が頷いたら、次は俺に憑依しているアストルフォを見た後、虚空を見詰める。そこにはルサルカが居た。サーヴァントはサーヴァントを気配で感じられるが、ユーリの場合はそんなレベルじゃなさそうだ。

 

「ボクはもちろん、マスターの味方だよ!」

「もちろん、私もね」

 

 アストルフォが手を上げて元気よく答える。同時にルサルカが俺に、アストルフォに後ろから抱き着いて答える。それを見たユーリがすこし頬を膨らませる。しかし、修羅場を潜った数が違うのか、二人は平気そうだ。いや、あくまでも気丈に振る舞っているだけなのかもしれないな。

 

「そうですか。それならよかったです。それで……何時までユニゾンしているのですか?」

「ここじゃできないな」

「お兄ちゃん?」

「あ~それはね~こういうことだよ!」

 

 アストルフォが憑依を解除した。そのせいで手足がなくなり、地面に向かって落ちていく。その瞬間、ルサルカが俺を抱きしめて受けとめてくれる。

 

「な、なんですかそれ……」

「おい、どういうことだ?」

 

 ユーリだけでなく、ハジメも俺を見て驚愕している。まあ、無理はないだろう。そう思っていると、ユーリがふらふらと寄ってきて、俺の身体に触れてから泣きながら抱きしめてきた。

 

「うぅ……ごめんなさい。私がちゃんとあの時、守れなかったから……」

「ユーリのせいじゃないさ。誰のせいでもない」

「ううん、僕のせいだよ」

「鈴のせいだよ……」

「どういう、ことですか……?」

「詳しく話せ」

「ねえねえ、お話はあっちでしようよ! お腹空いた!」

「ハジメ、そっちの方がいい」

 

 双子みたいなそっくりの二人が告げてくる。確かにここで話す事でもない。

 

「それもそうだな。この先にオスカー・オルクスの拠点がある。そこでならゆっくりと話ができるだろう」

「じゃあ、行きましょうか」

 

 そう言うと、ルサルカが俺の身体に憑依する。手足や身体が元に戻り、もう慣れた女の子の身体へと変化した。

 

「あっ」

「ユーリ、こうして身体を借りたら大丈夫だから」

「……むぅ……」

 

 抱き着いているユーリの頭を撫でてから、何時もの通りに鈴と恵里を抱き上げる。

 

「普段、そうやって移動していたのか?」

「鈴や恵里は足がないからな。詩乃は索敵と牽制を頼んでいる」

「なるほど。俺が持つわけにもいかないし、ユエ」

「ん、わかった。手伝う」

「ここなら私も手伝えるかな」

「ボク達も持つ~」

「わわっ!」

「おー」

 

 恵里と鈴はレヴィ達に持って運ばれていく。手が開いた俺はこちらに手を伸ばそうとして引っ込めては伸ばすということを繰り返しているユーリに気付いた。

 

『怖い感じがなくなったね~』

『この子、可愛いわね』

「ユーリ、連れていってくれ」

「はい!」

 

 ユーリと手を繋いでハジメの後を追っていく。大きな扉を抜けた先には楽園が広がっていた。上は天井のはずが、空がある。更には鳥まで飛んでいる。周りを確認すると、木々まであって大きな噴水まで置かれていた。

 

「ここは……」

「凄い……」

「反逆者の隠れ家だ。オルクス大迷宮を作っただけあって、ここには全てが揃っている。完全な自給自足が可能な施設といえる」

「確かにオルクス大迷宮を作り上げた存在なら可能か」

 

 自給自足が可能なら、ここに住んでもいいかもしれないが、鈴達を元の世界に帰さないといけない。それが終わったらここに住むのもいいか。

 

「まずは休憩するか?」

「そうだな。鈴や恵里達は休憩が必要だ。ここは安全なんだよな?」

「ああ。俺が確認した限りだがな。それにユーリに聞いた方がいいだろう」

「そうなのか?」

「はい。オルクス大迷宮の操作権は手に入れました。現在、この迷宮の全ては私とディアーチェの管理下にあります。ですから、お兄ちゃんを強制的に最下層まで転移させることができたんです」

「そんなことができたんだな」

「この子のお陰です」

 

 そう言ってユーリが差し出してきたのは角の生えた小さな白い毛皮の動物だ。その子が、よ、久しぶりとでも言いたげに片手をあげる。その姿を見てすぐにわかった。

 

「マテリアル娘のナハトか」

「です。ナハトヴァールの力もあるので、それでオルクス大迷宮を浸食して支配下に収めました」

「お前の為に頑張ったらしいぞ」

「そうか……ユーリ、ありがとう」

「えへへ~」

 

 頭を撫でてやると本当に嬉しそうにした後、すぐにハッとして離れる。

 

「と、とりあえずここは安全です。私もエグザミアで力を取り戻していますから、今度こそちゃんと守ってみせます!」

 

 握り拳を作って宣言するユーリだが、小さな身体ではとても可愛らしくて頼りになるような感じはしない。むしろ、こちらが守ってあげたくなる感じだ。

 

「じゃあ、とりあえず相談か」

「その前にお兄ちゃんを休ませて治療しないといけません」

「それは話が終わった後の方がいい。今までの事が何もわかっていないしな。ハジメとそっちの女の子の関係とか」

「それは……お前にいえるのか? こっちが一人で苦労していた時にお前は最初から三人だったんだろ?」

 

 睨み合う俺達。前のハジメならすぐに目を逸らしたが、やさぐれ……ワイルドになったハジメはこちらをしっかりと睨み返してくる。

 

「そちらも色々とあったんだな。血塗れのお前が着ていた服をみつけて死んだと思っていた」

「本当だよ! いっぱい泣いたんだからね!」

「すまんな。俺も腕を喰われたんだが、三人の方がもっとひどい。俺の方も大概だったが、そっちはもっとやばかったようだ」

「うん……鈴達、真名君が居なかったら死んでたよ」

 

 鈴が嬉しそうに俺を見詰めてくるので、思わずユーリにするように頭を撫でると嬉しそうにこちらも目を細めて受けいれる。だが、ユーリが頬を膨らませて頭を差し出してくるので、ユーリの方も撫でる。

 

「ハジメ、ん」

「撫でろと?」

「ん!」

「はぁ……とりあえず、移動して話し合うぞ。ユエは谷口と中村、そっちの朝田だったか。彼女を連れて風呂に入ってこい。レヴィ、手伝ってやってくれ」

「え~ボクはお兄ちゃんの方がいいな~」

「一人置いておけばいいだろう」

「むしろ要らんな。風呂へ行け」

「まったくです」

 

 俺達以外の声が聞こえ、振り向くとそこにはハジメがユエと呼ぶ女の子、二人が居た。その子達の身体は脈打っていろいろやばいグロな光景が見えてくる。

 

「モザイクの光!」

 

 ユーリの言葉と同時に二人の身体が光りに包まれ、少しするとユーリよりは身長が高い幼い女の子が二人いた。肩ぐらいまである茶髪と銀髪の二人の可愛らしい女の子。どちらも原作通り、高町なのはと八神はやてのデータを基礎として生み出されているせいか、非常に似ている。

 

「シュテルとディアーチェか」

「はい。合流したとのことでしたので、こちらへとやってきました。地上の方は引き続き別個体で監視をしております」

「我の方も修復は終わったのでな」

「レヴィ、私の姿から変えられるの?」

「う~ボクは躯体を持ってないからなあ~」

「それでしたら、レヴィのデータを送りますね。どうぞ」

「ありがとうシュテるん! へんし~ん!」

 

 レヴィも金髪幼女の姿から水色の髪の毛をした女の子に変化する。どちらも可愛らしいが、やはりこっちの方がいいな。

 

「紫天一家が勢揃いか……」

「やばい戦力だな」

「まったくだ」

『ねえ、マスター。一つ思うのだけど、召喚用の触媒や召喚キャパシティーのオーバーってこの子達じゃないの?』

「……ユーリさん、ユーリさん」

「な、なんですか?」

 

 嫌な予感がしたのか、目を逸らしたユーリ。

 

「俺のスマホから溜めていた()がどんどん消えていった現象があるんだが……それに召喚キャパシティーがオーバーしているのも……」

「ご、ごめんなさい。私がやりました。ユーリ・エーベルヴァインとしての力とディアーチェ達の力を取り戻すために石を使いました。それと召喚キャパシティーはディアーチェ達の分が合わさっているのだと思います」

 

 改めてスマホを確認すると、見えなかった召喚メンバーの部分にロード・ディアーチェ、シュテル・ザ・デストラクター、レヴィ・ザ・スラッシャーという名前が書かれていた。ランクは皆、SR。URやSSRにはまだなっていない。ただし、紫天一家という召喚ボーナスが発生していて、彼女達は強化されていた。魔力の回復速度が上がったり、攻撃力や防御力などステータスが追加されているのだ。

 

「すまない。必要な事だったのだ。ユーリを責めないでやってくれ」

「代わりに私達を好きなようになさってください」

「なんでもするよ!」

「ん、なんでも?」

「だ、駄目ですよ。私が責任を取りますから。一緒に謝ってくれるだけで十分です」

『ねえ、ねえ、これってチャンスじゃない?』

『そうね。マスター、このお願い、私達の、私のご褒美に使ってくれないかしら?』

 

 確かにアストルフォとルサルカには頑張ってもらったし、ご褒美をあげないといけないだろう。ルサルカはユーリに突きつける要求はわかっている。ただ、アストルフォがわからん。流石に俺はアストルフォの外見が美少女でも、男なんだからそういう相手にするつもりはない。いや、アストルフォの身体に憑依して色々とするのなら……それもなしだな。ユーリ達に失礼すぎるし。

 

「そういう話は他所でやれ。とりあえず移動するぞ」

「わかった」

「はい」

 

 それから庭園にある屋根があり、柱がある八角形の建物、ガゼボに移動する。他の皆は風呂へと向かった。庭園に入る。設置されている椅子に座り、周りの庭園を見る。色々な花が咲き、先の方には湖まであって景色はいい。景色を見ていると、ユーリが俺の膝の上に座ってきた。

 

「ユーリ?」

「だめ、ですか?」

「いやいいよ」

「良かったです」

 

 機嫌が良さそうなユーリを見た。どうやら、俺から離れるつもりはないようだ。

 

「さて、現状を確認して摺り合わせを行う。一番被害が多い沙条の事は後回しにして、まずは俺から話す。相談はそれからの方が効率がいいからな」

「頼む」

「では、私は紅茶を入れますね」

「我は茶菓子でも用意しよう」

「お願いします、シュテル、ディアーチェ」

「うむ」

「お任せください」

 

 すぐにシュテルとディアーチェによって紅茶と茶菓子が運ばれてきた。それを飲んで食べながらハジメの話を聞いていく。ハジメはここに落ちてから、ハジメも同じ熊の魔物(モンスター)に襲われて片腕を失いながら、錬成で穴を作ってどうにか逃げ延びたようだ。その穴の中で神結晶をみつけ、それから生まれる神水を飲んで生き残ってきたとのこと。

 

「もしかして、そこに落とし穴とスタングレネードを仕込んだのはお前か」

「ああ、そうだ。もしかして落ちたのか?」

「もう少しで死ぬところだったぞ」

「アレはやばかったわね」

「本当だよ」

「一人の口で三人が喋るな。ややこしい」

 

 ルサルカとアストルフォも喋ったので、仕方がない。二人には少し黙っていてもらおう。

 

「それから他にも人が落ちているなんて思わなかったから、そのまま下層に進んでいった。だが、どうしてわからなかったんだろうか? しっかりと探索したんだがな……」

「それは鈴の結界のせいね。私達は鈴の結界と私の魔術による隠蔽を徹底的に施して隠れながら生活をしていたから」

「なるほど。それで魔物(モンスター)だけでなく、俺からも姿を隠したのか」

「メリットとデメリットがあったようだな」

 

 奈落で他の人間と合流できる可能性なんて限りなく低い。それにあの時は鈴と恵里は力がなく、必死に隠れて耐え忍ぶしかなかった。だから、後悔はしていない。

 

「まあ、それはいいだろう。で、神水を飲みながらなんとか魔物(モンスター)を喰らえた。それで力をつけて生き残れたんだ。50階層まで降りた時にユエ、あの金髪の女の子を見つけてなんやかんやあって一緒に降りていった。そこでレヴィと会って、沙条達がここに落ちていて、生きている事を知った。レヴィ曰く、しっかりと探索していたので上の階層に居る可能性は限りなく低いということで最下層まできてヒュドラを倒し、ここにやってきたんだが……」

「俺達は上層に居たと」

「そういうことだ」

 

 まあ、レヴィからしたらしらみつぶしに人海戦術ならぬ魔物(モンスター)戦術でローラー作戦をしたというのに、それでみつからない。だから探索をどんどん下にやっていくのは当然の事だろう。

 

「我等の予想以上に谷口という者の結界が厄介だったという事だ。レヴィを責められまい」

「だろうな。そんなわけで俺達は手段を変えた。各階層に転移トラップを仕掛け、レヴィ達のマスターである沙条との繋がりを通して判断し、強制召喚する事にしたわけだ」

「わかった」

「それで、ユエって子との関係は?」

「ユエは300年前に滅んだ吸血鬼のお姫様だ。裏切られて封印されていた。それ以外はノーコメントだ」

「まあ、白崎の事をちゃんと考えるのならいい」

「そうですね。彼女は今もなお、貴方の事を想って必死に強くなろうと頑張っています」

「それは……だが、俺にはユエが……」

「何言ってるの。二人纏めて幸せにしたらいいのよ」

「おい」

 

 ルサルカの言葉に思わず突っ込むハジメ。

 

「受け入れるかは二人次第だろうけど、この世界は別に重婚を禁じていないわ。王侯貴族だって奥さんが何人もいるでしょう?」

「その通りですね。逆に男性を沢山囲っている人もいます。ですので、法的には問題ないでしょう」

「待て。俺は元の世界に帰るつもりだぞ」

「それはそれでいいだろう。二人と相談して決めるといい。それにそのユエって子はあちらの世界に連れていくとすると戸籍とかの問題もある。まさか、置いていくなんて言わないよな?」

「いや、連れていく」

「まあ、お兄ちゃんの世界なら、私の技術で戸籍ぐらいは軽く作れますが……」

「だよな。頼むわ」

「任せてください」

 

 ユーリなら、確かに余裕で戸籍を作れるだろう。とりあえず、色々と聞いてみたが、全てはユエと白崎が相談して決めることだ。ハジメは二人の事をちゃんと想っているようなので後押しさえ忘れなければ不幸にはならないだろう。

 

「というか、白崎の事をどうこう言うが、お前の方はどうなんだ? 滅茶苦茶女を侍らせているが……」

「一人はアストルフォだから、男なんだが」

「「「「え」」」」

「そう、ボクは男だったんだよ!」

「「なんだって~!」」

 

 アストルフォの言葉に俺とハジメが乗る。だが、他の子達は呆然としていた。

 

「これで男、だと?」

「ありえません」

「す、すごいです……」

「えっへん!」

「まあ、そんなわけでアストルフォは候補から外してある。友達だな」

「うん! ボクもマスターとは友達だよ! まあ、マスターが望むなら、その限りではないかもしれないけどね~」

「望まん。断じて望まん。見ろ、お前のせいでユーリ達からの視線が無茶苦茶冷たい」

 

 コイツ、マジか。というような感じでこちらを見詰めてくるディアーチェとシュテル。それに涙目なユーリ。ルサルカはルサルカでケラケラと笑っている。

 

「あははは!」

「本当に理性が蒸発してやがる。まあ、俺からはこんなところだ。それでは次、ユーリ達だな」

「私は……」

 

 ユーリは至って簡単だった。表の65層で永遠結晶エグザミアの状態でオルクス大迷宮からエネルギーを回収。それを持ってエグザミアの封印を解いてディアーチェ、シュテル、レヴィを自らのデータとベヒモス召喚用の魔法陣を利用して召喚。そこにナハトヴァールを混ぜてそれぞれ上層、中層、下層と別けて派遣したらしい。それと俺の安全を考慮して色々と仕掛けをしてくれていたようだ。

 

「私が施した仕掛けはお兄ちゃんの心臓が一定時間停止したら、私が体内に仕込んでおいたエグザミアの欠片を使って、私をお兄ちゃんとユニゾンさせて復活する予定でした」

「エグザミアの欠片か」

「何時の間に……って、色々とタイミングはあったか」

「はい。デバイスにもちゃんと仕込んでおきました。チビットが壊された時にしっかりとお兄ちゃんの身体に入り込んでいます。それにちゃんと魔力も送っていましたよ? 気づきませんでしたか?」

「ああ、そういうことね」

「ルサルカ?」

「いや~どう考えてもマスターの魔力量がおかしいのよね。私とアストルフォが戦闘して、宝具や創造までしていたのに普通に運用できてたじゃない?」

「それの何がおかしいんだ?」

「沙条。Fateでは聖杯のバックアップを受けて召喚や戦闘ができるんだ。それを一人で補えるか?」

「無理だな。なるほど。俺が普通に戦えたり、二人を維持できていたのは聖杯の代わりをユーリがしていてくれたからか」

 

 こくこくと頷くユーリ。しかし、これって考えようによってはかなりやばいな。

 

「で、ユーリからしたら仕送りしていた魔力で女を増やされたわけだな」

「浮気や不倫だ」

「不潔です」

「ぐ……すまない。しかし、仕方がなかったんだ」

「いえ、大丈夫です。お兄ちゃんの安全が最優先でしたから。それに懸念事項が一つありましたからね」

「懸念事項だと?」

「ハジメ、俺は沙条愛歌も召喚している」

「沙条愛歌というと……ガチでやばい奴じゃねえか」

「そういう事だ。実際に詩乃を枷として、試練と称してキャスターのジル・ド・レェを召喚してぶつけてきている。ジル・ド・レェはジャンヌダルク・オルタまで召喚してきやがったが」

「とりあえず、沙条愛歌に対する対処は後だ。まだ報告があるだろ?」

「はい。シュテル、お願いします」

「かしこまりました。では……」

 

 そこでシュテルから地上であった事を全て聞いた。沸々と怒りが湧き上がってくる。何で俺のタブレットを利用しようとしてるんだ? あと教会の奴等、そんなに裏切って欲しいのなら裏切ってやろうか。どうせ魂は集めるんだ。一度蒐集したら用無しだ。永劫破壊(エイヴィヒカイト)で回収して代価を支払わせるのもありか。だが、そうなると園部や清水達、愛ちゃん先生とも敵対する事になるだろうな。

 

「つまり、俺は地上に出ない方がいいか」

「ああ。最低でも身体を治療してからがいいだろう」

「マスターのご命令があれば何時でも滅ぼして参りますが、どうなさいますか?」

「うむ。命じてくれればオルクス大迷宮に存在する全ての魔物を使って襲撃する事も可能だ。制御はできんだろうがな」

「だ、駄目ですよ! 無関係な人に被害がでちゃいます!」

「ユーリの言う通り、その報復は禁止だ。しかし、俺達の命や自由を狙ってくるのなら容赦しなくていい。できれば蒐集してから殺す方が良いが、怪我をしないと無理ならさっさと殺してくれていい」

「それは賛成だが、どうなるかしっかりとわかっているのか? 教会と王国が敵に回るだけじゃない。信者の連中も敵になるぞ」

「それがどうしたんだ? 有象無象がいくらかかってこようと、問題ないじゃないか」

「お、お兄ちゃん……?」

「おい、本当にどうした……?」

「あ~少しいいかしら。マスターは何も身体だけを犠牲にしたんじゃないの。鈴や恵里、詩乃を守るために感情や記憶も犠牲にしているのよ」

「「「「っ!?」」」」

「恐怖や痛みを感じないから、もう他者がどう思うかなんて考えられないわよ」

「まずは沙条の話を聞く。全てはそれからだ」

「はい。全部、包み隠さず教えてください」

 

 俺は今まであった事を包み隠さずに話した。それは秘すべき事も全てだ。恵里の事も今までどのようにして生活していたかも全部話した。ユーリに隠し事はできない。鈴達と交わした約束にはユーリ達も入っているし、そもそもユーリに隠し事なんてする気はない。

 

「中村の奴め」

「……お兄ちゃん」

「ユーリ、シュテル、ディアーチェ、それにレヴィにも恵里に手を出すのは禁止と言っておく。レヴィには伝えておいてくれ」

「はい……」

「ちっ、わかった」

「仕方ありませんね」

「とりあえず、谷口も沙条も許しているのなら、そっちの事に関して俺は関与しない。直接のかかわりはないからな」

「全員で話し合おう。恵里は反省して俺達の味方になってくれている」

「……味方というより、ある意味では敵だろうがな」

「ですね」

「ねえねえ、それよりもマスターの身体の事について話そうよ。大事だよ?」

「それもそうだな。というわけで、ユーリ。ハジメと協力して頼めるか?」

「任せてください。もう設計しましたので、レヴィの分体達にお願いして素材を集めています」

 

 どうやら、あまり喋らなかったのは設計も同時にしながら指示を出していたからのようだ。本当にユーリは凄い。

 

「治療はできるのか?」

「感情と記憶を元に戻すのは難しいですが、それ以外は簡単です。ここに研究所を作ればいいだけですからね。とりあえず、プロジェクト・フェイトなどを利用して身体を作成します。感情に関しては私がどうにかしますが、応急処置として感覚共有のスキルを使ってお兄ちゃんと私達の感覚を繋げます」

「ユーリ、それって……」

「は、はい……その、あ、あれです……」

「いいのか?」

「わ、私がちゃんと守れなかったせいですし、お、おれいの気持ちもあります……」

「それなら駄目だな。ユーリが俺を愛していないのなら──」

「愛しているので問題ありません!」

「そう?」

「世界を幾つも滅ぼしてきた私を受け入れてくれて、優しく愛してくれました。いっぱい助けてもらいましたし、力が無くて非力な時でも変わらず助けてくれました。ですから、私は……」

 

 顔を真っ赤にして告げてくるユーリ。思わず抱きしめてしまった。

 

「ちなみにマスター」

「なんだ?」

「今ならペットが三匹ついてきますので、よろしくお願いします」

「ペット?」

「む、我等はペットか?」

「ペットですね。だって、元は猫ですので」

「それもそうか。よろしく頼むぞ主人」

「いや、それは待て」

 

 確かにシュテルとディアーチェは元が猫だが、ペットというわけにはいかない。

 

「駄目ですか? 私はディアーチェ達と一緒に愛して欲しいです」

「いや、ディアーチェ達がそれでいいのなら大歓迎だが……いいのか? もちろん、ペット扱いなんかはしないが……」

「うむ。問題ないな」

「はい。なんの問題もありませんね」

「異議あり!」

 

 ルサルカがバンっと机を叩く。視線が俺に集まるが、どうしようもない。身体の制御権は完全に奪われている。

 

「ほう、異議申し立てか。いいだろう。言ってみろ」

「そのユーリって子は認めるけれど、貴女達は別よ。確かに貴女達は対策をしていたかもしれないけれど、私達は身体を張ってマスターを守っていたの。だから、そう簡単に貴女達を認める訳にはいかないな~」

「そうだそうだ~」

「む」

 

 ルサルカがディアーチェとシュテルを睨み、そこにアストルフォが同意する。ユーリを見れば俺の膝の上でおろおろとしていた。

 

「というわけで、その二人か、三人がマスターの女になるのなら、私はもちろん、恵里や鈴、詩乃も入れてもらうわよ」

「では、諦めましょう」

「うむ。ユーリの幸せが優先だな」

「シュテル、ディアーチェ……」

「二人はこう言っているけど、あなたはどうしたいの? それと……」

「待て。そういう話は俺の居ないところでしろ。今は沙条や谷口達の身体を治療する方が優先だ。感情は無理かもしれないが、感覚に関しては感覚共有でどうにかする。それでいいな?」

 

 確かにハジメにはまったく関係ない話だ。というわけで、俺も乗っかる。正直、俺としてはどちらに転んでもいい。普通に家族として愛する事はできるが、どちらかといえばハーレムには憧れるし、ルサルカの事も好きだからだ。

 

「それでいい。治療の実験を俺でして、その後に鈴達を治してやってくれ」

「わかりました。ただ、実験は他の生物で行いますので大丈夫です。南雲さん、こちらをどうぞ」

「培養槽の設計図か。わからないところも多いが……」

「でしたら、私がつきます」

「我はユーリにつく」

「お兄ちゃんは……」

「私も協力するわ。魔術の知識や人体構造の知識は負けないしね」

「わかりました。ですが、お兄ちゃんの身体は私が使います」

「いいわよ」

 

 ルサルカが同意した事で、俺から彼女が出て代わりにユーリが入ってくる。ユーリの姿に代わり、ウェーブのかかったゆるふわの金髪へと変化した。

 

「……思った以上に酷いです。このままだと近いうちにお兄ちゃんは死にます。身体の中がボロボロです……」

「すぐに作業に入るぞ」

「はい。絶対に死なせません」

「最悪、時間を停止させて進行を遅らせるわ」

「お願いします」

 

 うむ。皆が動き出した。俺はやる事がないので大人しく応援するしかない。しかし、それほど身体はボロボロなのだろうか? 

 

『痛みを感じていないからわからないかもしれませんが、ユニゾンして英霊さん達の力を無理矢理引き出していたんですよ? 筋肉繊維の断裂はもちろん、骨や残っている臓器の損傷も大きいです。それに病気もいくつかあります。免疫機能もかなり下がっていますが……ルサルカさんが魔術で治療していなければ死んでいましたよ?』

『そこまでやばかったか。お世話になります』

『任せてください!』

 

 そう言ったユーリはオルクス大迷宮を操作し、この最下層に研究所を作り出す。確かに広さはかなりあるし、そこに動力炉が作成される。動力炉はエグザミアの力を使っているようで、莫大な魔力がユーリから供給されていた。その魔力を使い、ハジメとユーリ、シュテル、ディアーチェ達でどんどんレヴィ達が運んできた鉱石を錬成していく。

 

「生成魔法で治癒効果と再生効果をつけて……」

「神結晶の解析、終わりました。天然ではなく人工でしたので増産できます」

「シュテル、量産をお願いします。一区画を使ってください」

「はい。すぐに」

「ディアーチェ。配線やパイプの開発は……」

「出来た。次は電子部品の製造に入る。ユーリ、柴天の書を貸せ」

「わかりました」

 

 どんどん景色が変わっていき、すぐに巨大な研究所が機械でいっぱいになっていく。SFチックな施設が幾つも作られていく。俺は大人しく見守るしかできなかった。

 

 

 一週間。たったのそれだけで莫大な数の人手と技術を投入したおかげか、未来的な研究所が完成した。劇場版ユーリの世界で使われていた複数の量子コンピュータがズラリと並列され、巨大な一つのスーパーコンピュータとなる。莫大な演算能力によって様々な物がユーリや柴天の書にある知識からこの世界でも使えるように設計しなおされ、ハジメ達の手によって作られていく。

 途中からなのはの世界で使われているエグザミアの一部を使った魔導炉を作り出し、そこにシュテルがハジメの持っていた神結晶を複製して設置する。神結晶は魔導炉からふんだんに魔力を受け、すぐに神水を溢れ出させる。それを冷却液や培養液として使用するというとんでもない状態になりだした。

 ルサルカの魔術も取り入れられ、効率的になっているらしい。鈴と恵里も結界や人手などで協力してくれている。詩乃は食事の準備などだ。

 ちなみにほとんど寝ていないなんて事はない。ちゃんと計画的に休憩や食事などの息抜きもしているのでデスマーチではない。そう、完璧なまでにユーリとシュテルによってスケジュールが管理されているのだ。地上での時と違い、人手の能力と使える魔法、工具が違うせいでとっても捗るのだ。

 さて、研究所が完成したら次に作られるのは俺の新しい身体だ。これによってようやく自由になれる。

 

「お兄ちゃん、身体の希望はありますか?」

「そうだな……カッコイイのがいいな。まあ、ユーリの好みでいいさ」

 

 どうせ俺の容姿は下の下だ。ただ、やはり一部だけは残して欲しいけどな。

 

「男である事と、俺のDNAとかは残して欲しい。俺だという証明になるから。後はちゃんと戦えるようにしてくれ」

「わかりました。戦えるようにもしておきます。それと痩せた状態をメインに考えますね」

「頼む。顔は弄ってくれても全然いいから」

「あまり違和感はないように調整しますね」

「ああ」

 

 培養槽に入る。様々な効果が付与されるように改造された神水が満たされ、意識が闇に閉ざされていく。最後の視界はユーリや心配そうにしている皆だけだ。ハジメ、ユエの二人や、ユーリ、シュテル、ディアーチェ、レヴィ、ルサルカ、アストルフォ、詩乃、恵里、鈴も来てくれている。これだけの人に見送られるのなら悪くない。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「さて、では改造するか」

「うむ。マスター……真名の改造計画をここに始める」

「あまりやりすぎはだめだと鈴は思うよ?」

「大丈夫。強くなれるから許してくれる」

 

 皆が色々と言いながら、隣の培養槽を見ます。そちらには布で隠されていました。中身は私の肉体データを基礎とし、作られたクローンの肉体が入っています。もちろん、劣化コピーですが、永遠結晶エグザミアもあります。

 

「弱っている心臓に永遠結晶エグザミアの劣化コピーの魔導炉をペースメーカーとして設置。生み出される魔力はユーリのクローン体が持つリンカ―コアを通して使える。手足には神結晶を削って作り上げた骨を使う」

「手足は完全にユーリの物だが、やはり身長が足りん。急速に成長させたせいで劣化が激しいが……」

「神結晶の骨でそれを補います。また脳の方にも一部欠損が見られますので小型化してチップに改造した量子コンピュータ、ブレインコンピュータも取り付けます」

「魔術回路は問題ないし、肺とかも色々と施さないといけないけど、全体的に強化しましょう」

 

 皆が持てる技術と知識、想像の全てを使ってお兄ちゃんの身体を作り上げます。特に私達、紫天一家とルサルカさん、アストルフォさんは乗り気です。お兄ちゃんが殺されたら全てが終わりですから、この中で一番頑丈な私の身体をメインにすることになりました。ですから、映画版の私のデータを使っています。そのせいで私の力のほとんどをお兄ちゃんに使ってしまいましたが、問題ありません。ディアーチェやシュテル、レヴィがいればお兄ちゃんは安全だからです。

 

「では、始めましょう」

 

 一週間かけて作り上げた身体と施した術式は無事に成功し、お兄ちゃんは新しい身体を手に入れる事ができました。ですが、()()だったはずが気付いたら私と同じ金色の髪の毛になっていました。調べたらあの人の介入があったようです。急いで武器を用意しないといけません。このままお兄ちゃんを思い通りにされては大変です。

 

 

 

 

 




アンケートの結果。容姿は大人版ユーリを男性にした感じになりました。劇場版ユーリを少し大きくした感じですね。
後でスペックデータおこさないと。
戦闘は膨大な魔力と演算能力によるデバイスの複数操作。プログラムで動くビットですね。しかし、どう考えてもアストルフォとかを憑依させた方が強い。一番強いのはユーリが憑依すること。これによってパーフェクト・ユーリになります。ユーリが身体を使った方があきらかに強いという……ユーリの身体が半分以上だから仕方ないね!

清水君ヒロインアンケート 人になるます

  • 波の鳥 フ
  • 謳の鳥 コ
  • 空の鼠 ク
  • 深海のナニカ レ

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